金色の瞳

バナナ🍌

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侯爵令嬢側仕え

見てはいけないモノ

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王族や貴族が治める王国が殆どのこの世界では、世界共通の知識はそれほど多くない。
そんな知識の中の1つにこんな物があった。
金色の瞳ゴールデンアイを持つ者は生まれながらの“天才„だと。



それは、アリシア様がジェル王子へ会いに行かれる付き添いで、王宮に来ていた時だった。
アリシア様はジェル王子と王宮の庭園で話しており、仕事を済ませたわたしは庭園に不自然な気配を感じ取りそこへ向かったのだ。そこでは、黒い布を被ったこの国の第3王子であるヒュバート王子が白い花の花弁をむしっては捨てて、むしっては捨ててを繰り返していた。
ヤバい、見ちゃいけない霊的なアレを見た気分。
どうりでいつもは衛兵やメイド、執事が当たり前に通っているのに今日は少ない訳だ。
「嫌い、嫌い、嫌い、嫌い……」
この王子、さっきから嫌いとしか言っていないんだけど。
好きは無いのかと思いながら、思わず唖然としてそれをガン見していたわたしは、ふと顔を上げたヒュバート王子とバッチリ目を合わせてしまった。ベール越しでも言い逃れ出来ない程に。
人間って何でみんな同じ位置に目があるんだろ。
そんな馬鹿な事を心の中で呟きながら、わたしはベールの下でひきつった笑みを浮かべた。うん、今わたし、目が死んでるよ。
ベール越しでも言い逃れ出来ない程バッチリ目を合わせてしまったのだ。わたしはカテーシーをするとさっさと立ち去ろうと背を向けたが、気配を感じて後ろを振り返ると、ヒュバート王子が手を伸ばしてきていた。
何でや。
わたしはその手に掴まれまいと自然に避けた。我ながらうまく出来たと思う。
勝ち誇った気分で歩を進め、
「待って」
「ふぐっ」
ごく普通にに呼び止められた。
まるで腹でも刺されたかのような声を出してしまった。不可抗力だ。許してくれわざじゃない。
わたしはくるりと振り返り、先程まで頭まで被っていた黒い布を肩に乗せたヒュバート王子を目に映した。まだ彼は片膝を付き立ち上がりきれていない状態な為、わたしは素早く跪く。
王族様を上から見下ろした状態でヤンのかゴラと喧嘩を売る程わたしは偉くない。
「どうなさいましたか、第3王子殿下」
「顔上げて」
「………はい」
わたしは質問に答えてくれないのかと思いながら渋々顔を上げる。
わたしの瞳に、腹黒デヴィン王子や憎きジェル王子と似た整った顔が映った。レノムスティア王国王族特有の金色の髪に緑色の瞳、睫毛の長い女顔な少年だ。彼はその事に不満を抱いているから口には出さない。
出したら、殺られる……。
ヒュバート王子は立ち上がり、わたしを見下ろす状態となった。彼の社交界での評価は、無口無表情の読書家地味男だ。
そう、地味地味男ジミジミオだ。
完璧で紳士な腹黒、デヴィン王子。
明るく元気な馬鹿、ジェル王子。
どちらも社交界はともかく、コミュニケーションとしては有利な性格だ。デヴィン王子は中身がアレだけど。
対してヒュバート王子。
コミュニケーションがかなり苦手なようで、この前のパーティーも、壁に張り付き令嬢に囲まれた状態で自分の顔に本を押し付けていた。
窓から落ちてる時に見た。
まぁつまり、この人は普通じゃない。
「………って事。…聞いてる?」
「え?あぁ、ヒュバート王子殿下は陰キャという話ですよね?」
「違うよ、やめて……。もういい。座って」
そう言って、ヒュバート王子はわたしの隣に座った。
その時、1人のメイドがこちらに顔を覗かせ流れるようにUターンし立ち去っていった。あぁ、なんて優秀な。置いてかないで。
紛れもない現実逃避である。
「あの、第3王子殿下」
「違う、ヒュバート・クラーム・レノムスティア……。君の名前、教えて。確か、ギャレット家御令嬢の側仕えだったよね…?」
「良く御存知で」
ヒュバート王子は頭脳明晰だ。
例え陰キャでも、いや陰キャだからこそ頭脳明晰だ。
運動神経も抜群とは言わないが平均上はあるし、成績で言えば、10割中10割の確率で赤点を採るジェル王子とは比べ物にならない。 
陰キャという面を除いては。
けれど彼は努力家だ。慣れようとしていた時期はあったし今もそうだ。
例え自身の顔に本を押し付けて挨拶をしていていたとしても、
庭の角で黒い布を被り花弁を剥いでいたとしていたとしても、
彼は努力している。………………彼なりに。
わたしはヒュバート王子に向かい合って跪き直す。
「失礼しました、アリーヤ・ディオンと申します」
「それは……偽名、だよね?本名は?」
「えっ??」
わたしは思わず目を見開いてヒュバート王子を凝視してしまった。きょとんとするヒュバート王子に、その言葉に深い意味は無さそうだった。ただただ、事実を伝えただけ。釜をかけたようにもとても見えない。
あぁ、能力かぁ……。
わたしはげっそりした。
この世界には、1人1つ、能力という科学では説明出来ない物がある。
ヒュバート王子の能力は、嘘を見破る能力と言った所か。けど王子がそんなホイホイ能力言っていいのかどうか。
けれど、その嘘というのは、本人に嘘という自覚が無ければ嘘にはならない。
つまり、わたしの中にはまだ、リリアイラー王国第1王女、レクシー・フェレーラ・リリアイラーの名が残っているという事か……。
「訳あって偽名を使っておりますが、こちらが本名のような物なので、あだ名とでも思ってアリーヤと御呼びくださいませ」
「………」
少し不服そうにこくりと頷いたヒュバート王子に、ベールの下でわたしは安堵する。
「ヒュバート王子殿下の寛大な御心に、感謝を」
「………アリーヤは、私が社交界が兄上達と比べて劣っているっていう噂……知ってる?」
「え、あ、はい」
「どう、思う…?」
「は?どうでもいいです」
「………えっ?」
「すみませんつい癖でいえ、素が出てしいえ、………。申し訳ありません、最近本音ばかり出していた物でろくに言葉が思い付きません」
主にデヴィン王子とジェル王子に対してだが。自制をしなくては、ついこの間ジェル王子の姿絵を壊したばかりなのだから。ちなみに今日はその報告にも来た。
うん、茂みの向こうから視線を感じる。これは速く切り上げねば。
そう思い、わたしはヒュバート王子と向かい合った。しゃがんだ状態で。
「ヒュバート王子、陰キャあなたは努力しておいでです。ですから自信を持ってください」
「アリーヤっ………!」
「例え陰キャでも、貴方はこの国の大切な王子なのですからっ!」
「アリーヤっ………!」
「あと本を顔に押し付けないでください根倉臭くなります」
「アリーヤっ………!ていうかさっきから酷くないかな?!陰キャを貴方って読まないでよ!ていうか私は陰キャ固定なのっ?!根倉って酷くない?!!デリカシー持ってよオブラートに包んでよ!君は私が傷つかない人間とでも思ってるの?!」
ギャーーーッ!!と騒ぐヒュバート王子に、わたしは両耳を塞ぐ事さえ許されず彼の愚痴を聞き続ける羽目となった。
理由は簡単。
わたし達の騒がしさによりデヴィン王子の執務に支障が来し報復として縛られたからである。
腹黒と馬鹿と陰キャ、何て個性的な兄弟だろう。
わたしを巻き込まずに、仲良くやってて欲しかった…。
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