金色の瞳

バナナ🍌

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隣国の王女殿下

病人の夜襲ーデヴィン視点ー

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金色の瞳ゴールデンアイを持つ者は、生まれながらの“天才„。
 この世界の常識であるそれは、都合の良い部分を切り取った、ただの綺麗事でしか無い。
実際は、金色の瞳ゴールデンアイを持つ者は、神の子として人間離れした能力を持つ。そして、神が全ての生き物を愛すように、その愛が金色の瞳ゴールデンアイを持つ者に受け継がれ、ある1つの物に集まる。
つまりは、代償として執着心が与えられたのだった。



アリーヤが消えてから3日が経った。
アリシア嬢は死んでは居ないが未だ目を覚まさない。ジェルもヒュバートも何処か暗い雰囲気を纏っており、捜索隊を出したり他の貴族や他国の王族に捜索の協力を願ったり。
対して私は何もしなかった。薄情と言われてもいい、現状これが最善だ。大国の王族の後継者が揃って侯爵令嬢の筆頭側仕えを求めているなんて噂を流されたら王家の名誉は確実に落ちるだろう。だから、せめて次期国王だけでも王族として振る舞わねばならない。
私は夜、寮の自室にジェルとヒュバートを呼び出した。
「ジェル、ヒュバート。アリーヤの捜索も、程々で切り上げるようにね。王家の名誉に傷が付く事は我が王国の名誉に傷が付く事と同様。婚約者がアリシア嬢のジェルはともかく、ヒュバートは婚約がまだなのだから、悪評なんて付けないで」
「ですがっ……」
「異論があるならシエンナ嬢と婚約したらどうだい?ヒュバート。そうしたら表立って行動できるよ、国王となった暁には王家と公爵家の権力を存分に使えばいい」 
私はそう言って青ざめたヒュバートに微笑みかけた。まだ婚約していない私より早くジェルが婚約したのは、次期王としての器が既に無いと判断されているからだ。そのくせ人を見る目は無駄にあると言われ、操りにくいと社交界では有名でもある。
対してヒュバートは最近まで伯爵家以下の令嬢以外には見抜きもされていなかった。そんなヒュバートが実力を出し始め、担ぎ上げようと暗躍する貴族も出てきている。そのような貴族は主に、私が嫌いか、漬け込めれるうちに漬け込み王となったヒュバートを操ろうと目論む者達だろう。そんなヒュバートが王になろうとする等、私と王位争いをする事に直結する。
「…私にそのような考え等はございません。神に誓って」
「そう、良かったよ」
もし王位を狙う等愚かな真似をヒュバートがするとしたら、弟とて容赦せず潰しに行く。争いの火種は投下される前に消すべきだ。
私は2人に退出の許可を出し、彼等が出ていくと、疲れた顔をしたビェイミーを目に映した。
「この前キーランと会った時、彼、アリーヤの居場所に心当たりがあるって言って自国に帰って行ったんだよね」
「はあ、それは、つまり、………えっ?!」
アリーヤは普段からベールを身に付け顔を見せない。金色の瞳ゴールデンアイは有名ではあるが、存在する事が珍しく当たり前過ぎて誰もアリーヤが金色の瞳ゴールデンアイである事等考えない。
けれど彼女がベールを付けている事は疑問になる訳で、まあ自分の顔が嫌いなんだろうな等と適当な予想を付け、後は馴れだ。
そんな今までの、既に常識となっていた事が崩れ落ちビェイミーは混乱しているのだろう。
キーランが心当たりがあると言って自国に帰ったと言う事は、自国にアリーヤが居ると予想を付けたのか、もしくは自国に居る人間が犯人と思ったのか。けれど最初に候補に上がるのが、アリーヤの正体がリリアイラー王国の消えた第1王女、レクシー・フェレーラ・リリアイラーという事だ。
随分と大国が必死に探しているなと思っていた人物が身近に居たのだ。驚くのは当然だろう。当然だけど人の部屋の壁に頭を打ち付けるのはやめようかビェイミー。
「……それで、どうなさるおつもりで?」
「別に、どうもしないよ」
「え?ですが、デヴィン様はアリーヤの事が…」
「あぁ、好きだよ」
私の言葉に、ビェイミーははっきり言うと思っていなかったのか、とても驚いた顔をしている。自分の気持ちに気付けない程、自分の気持ちに名前を付けられない程、私は鈍くない。むしろ自己評価でも鋭い方だと思う。
けれど、私は王族だ、次期国王だ。
それは一生変わる事が無い。
それは枷でも無い、呪いでも無い、私の一部だ。腕であり足であり胴体である、無ければ生活が大きく変わる物。やましいと思った事は無い。邪魔だと思った事も無い。
…本当だ。
「けれどそれがどうしたんだい?私には関係ないよ」
「………。左様ですか、私はデヴィン様の仰せのままに。では私は王家の名誉を下げるような噂を消す事に尽力致します」
「あぁ、それとアリシア嬢の容態の報告も頼むよ」
「承知しました、失礼致します」
そう言ってビェイミーは私に頭を下げ能力で姿を消した。護衛のみが残った部屋で私はため息をつく。構わず勉学に励もうと机に向き合い、私はペンを手に取った。しばらく問題を解いていると、外が妙に騒いでいる事に気付いた。
「……どうしたのかな、外の様子を見てきてくれる?」
「御意」
私の命令に頭を下げた1人の護衛が扉を開いた時、桃色の髪が視界に映った。
「?!ア、アリシア嬢っ?!め、目が、覚めたんだね……。…容態は大丈夫かのかい?」
「失礼致します、1殿に御話があり参りました。御約束を取り付けず来てしまった事、深く謝罪致します。して、人払いを」
「………」
思わず笑顔を固めて無言になってしまった私は、扉の前に立つビェイミーを睨む。彼は青ざめた顔をしてぶんぶんと首を振った。
まあ男子の自室に押し入ろうとする第2王子の婚約者の止め方等習わないだろう。
アリシア嬢へ苛立ちながら、私は笑みを崩さず視線を戻し彼女に話し掛けた。
「女性である貴女が男子寮に侵入した事には目を瞑りましょう。けれどアリシア嬢、貴女は病人だ。安静にしておいた方がいいよ。ビェイミー、女子寮前まで送って行ってあげて」
「御ぃ…」
「デヴィン王子、人払いを」
ビェイミーの言葉を遮り、彼女は扉から1歩踏み出した。彼女の行動を警戒していた護衛は、当然剣を半分出し身構える。
「アリシア嬢、男性の自室に入るのは人聞きがよろしくありません。また場所を変えて…」
「デヴィン王子はアリーヤが好き!」
「………。アリシア嬢、1度帰国しギャレット侯爵と共に、別の様々な教育を受けてきたらどうだろう?」
ビェイミーの制止を無視してアリシア嬢が発した言葉に、私は本気で苛立った。その私の感情を受け取ったのか、その場の空気はピりつく。
けれどアリシア嬢はそれに気付かないのか、それとも気付いた上でこの行動なのか、話を続けた。
「デヴィン王子、貴女は人です!次期王であり第1王子である以前に、人なのです!!その事実から目を背けてはなりませんっ!!!」
「黙れッッ!!!!」
私は椅子から立ち上がり、アリシア嬢を睨み付けた。部屋のガラスが割れ、部屋に入って来る。感情により能力が暴走したようだ。私は肩で呼吸し、顔を強張らせても尚こちらを見るアリシア嬢を睨み続ける。
「……失せろ」
「失せます、これを言ったら。デヴィン王子、逃げないでください」
「ッ……!!!」
息を飲んだ私に、アリシア嬢はおって処分を受けますと頭を下げを退出していった。
この立場をやましいと思った事は無い。邪魔だと思った事も無い。
…本当、か?
私は呆然と閉じられた扉を見つめたのだった。
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