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49 ビタースイート
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早足のアロイスさんを「逃げないでください!」と追いかけると、回廊の途中で急にアロイスさんが立ち止まって、私は彼の背中で鼻を打った。
「痛っ…どうしたんですか?」
アロイスさんの視線を追って回廊に囲まれた庭に目をやると、クリスタちゃんと赤い顔のレオくんが向かい合ってる。この雰囲気は、もしかするともしかして…
「レオがクリスタに愛を告白…っ!?」
アロイスさん、狼狽えるのはわかるけど今は黙って。
私はアロイスさんの口をぱっと塞いで、彼の頭を押さえつけてしゃがむ。侍従さんとマグダレーナ先生にもしゃがむように指示し、大人たちは揃って息を潜めた。バラの花壇に隠れて、私たちの姿は二人から見えないはずだ。
しゃがんでいる全員が固唾を飲んで、花壇の陰から可愛い子ども二人を見守る。
頑張れレオくん。私は顔の前で手を組んで祈る。
「クリスタ、僕はクリスタのことが世界で一番大好きだよ」
なんてストレートでロマンチック。私もそんなこと言われたい。
「うん、クリスタもレオのことが好きだよ」
よしよし。いい雰囲気だぞ。
「じゃあさ、あの…その…えっと…大人になったら、僕と結婚してくれない?」
言った!レオくん頑張った!あとはクリスタちゃんの返事を待つだけ。どうか…
「うーん、それはできないかな」
へ?なんで?なんでなの?花壇の陰に隠れている大人四人は、全員が身体を固くする。
「ど、どうして?」
「だって、ユリウスと結婚するって約束してるから」
ああああ、すでに先を越されていた…!
「ユリウスじゃなくて僕と結婚してくれたら、クリスタが好きなものをなんでもあげる。ドレスも宝石も花もお菓子も…」
「うーん…でもユリウスのほうがかっこいいし、約束破りしたらサティに怒られるから。ごめんね」
至近距離にあるアロイスさんの顔をほんの少しだけこっちに向いて、彼の鋭い視線が私に向くのがわかる。心の中で「レオを傷つけて…」と言われているのを感じる。
いや、確かに私はそう教えてきたけども、それは人として当然のスタンスじゃんか。今私の名前が出ただけであって、私のせいではないでしょ?
「お腹空いたから、食堂に行こうよ」とクリスタちゃんはあっけらかんとレオくんをお昼ご飯に促す。温度差すごくて、さらに傷つくやつ。レオくんはクリスタちゃんのあとから、トボトボと歩き出す。足取りに力がない。
「まずい、こっちに来る。全員姿勢を低くしたまま、全速で後退せよ」とアロイスさんが指示して、アロイスさんと侍従さん、マグダレーナ先生はしゃがんだまますごい速さで下がり、私だけがその場に取り残された。
「ええっ、ちょっと…!置いてかないで…!」
慌てて足を動かすとドレスを踏んづけてしまい、私は背中からごろんと転んだ。
「あれ、サティだ」
クリスタちゃんのピンクパープルの目が、盗み聞きの現行犯を発見されて絶望する私を覗き込む。
「あ、ええと…」
「もう起きないと、お昼ご飯だよ?」
「あ、そうだねぇ…はは…」
私はドレスについた砂と草をはたいて立ち上がる。クリスタちゃんが当たり前のように私の右手をとってくれるけど、左手は空いたままだ。いつも左手をとってくれる小さな手が、遠い。
「レオくん…」
レオくんはふっと目を伏せる。私は罪悪感で崩れ落ちそうになるのを何とかこらえて、クリスタちゃんに「先にメイドさんと一緒に食堂へ行ってて」とお願いして、レオくんに向き直った。
「レオくん…あの…ごめんね。ちょうど通りかかって、告白を聞いちゃったの」
「うん…」
「勇気を出してクリスタちゃんに気持ちを伝えたレオくんは、かっこよかったよ」
レオくんの目にもりもりと涙が溢れてくる。
「クリスタにもかっこいいって思ってもらいたかった…」
私は彼を抱きしめた。そうだよね。心が痛いよね。
「僕、諦めないといけない…?」
「ううん」
いつか自然に、納得して、クリスタちゃんを好きな気持ちとさよならできる日が来るかもしれない。
「好きな気持ちを無理に捨ててしまう必要はないよ。自分の心に嘘はつけないものだから」
「いいの?」
「うん」
今の自分の気持ちを、大切にしてほしい。それが「自分を大切にする」ってことだと思うから。
レオくんはひとしきり泣いて、落ち着いた。
「もうここでしばらく座ってる?」
「ううん、食堂に行く。泣いたからかな、お腹空いちゃった」
「そか」
レオくんはすっと涙を拭いて前を見た。なんだか顔つきが変わったようにも見える。
赤い目のレオくんとジト目の私を見て、食堂に先回りしていたアロイスさんは気まずそうに目を逸らす。私一人残して撤退しやがって。あとでこってりしぼってやる。
今日の昼食もヨハンさんが腕によりをかけて作ってくれたので、当然美味しい。午後からのえいやに備えてもりもり食べながら、ちょっと気分が晴れる。レオくんもテオくんと笑顔で話せるくらい回復した。「美味しい料理って、心の栄養にもなる」ってヨハンさんにお礼を伝えたいレベル。
さらにパティシエのパウロスさんが「メニューにはなかったのですが、サティ様直伝の”ガトーショコラ”というお菓子を作ってみたので、ぜひお試しを」と持ってきてくれる。
レオくんが生クリームの乗ったガトーショコラを上品に口へ運ぶ。腫れぼったい目が、ぱっと輝いた。
「すごく美味しいよ、パウロス」
「光栄でございます、殿下」
パウロスさんの笑顔から、「王太子殿下、どうか元気をお出しになってください」という気持ちが伝わってくる。口の中でほどけるほろ苦い甘さが、優しかった。
「サティ様、失礼いたします。そろそろえいやの会場にご移動をお願いいたします」
「あ、そうでしたね」
「痛っ…どうしたんですか?」
アロイスさんの視線を追って回廊に囲まれた庭に目をやると、クリスタちゃんと赤い顔のレオくんが向かい合ってる。この雰囲気は、もしかするともしかして…
「レオがクリスタに愛を告白…っ!?」
アロイスさん、狼狽えるのはわかるけど今は黙って。
私はアロイスさんの口をぱっと塞いで、彼の頭を押さえつけてしゃがむ。侍従さんとマグダレーナ先生にもしゃがむように指示し、大人たちは揃って息を潜めた。バラの花壇に隠れて、私たちの姿は二人から見えないはずだ。
しゃがんでいる全員が固唾を飲んで、花壇の陰から可愛い子ども二人を見守る。
頑張れレオくん。私は顔の前で手を組んで祈る。
「クリスタ、僕はクリスタのことが世界で一番大好きだよ」
なんてストレートでロマンチック。私もそんなこと言われたい。
「うん、クリスタもレオのことが好きだよ」
よしよし。いい雰囲気だぞ。
「じゃあさ、あの…その…えっと…大人になったら、僕と結婚してくれない?」
言った!レオくん頑張った!あとはクリスタちゃんの返事を待つだけ。どうか…
「うーん、それはできないかな」
へ?なんで?なんでなの?花壇の陰に隠れている大人四人は、全員が身体を固くする。
「ど、どうして?」
「だって、ユリウスと結婚するって約束してるから」
ああああ、すでに先を越されていた…!
「ユリウスじゃなくて僕と結婚してくれたら、クリスタが好きなものをなんでもあげる。ドレスも宝石も花もお菓子も…」
「うーん…でもユリウスのほうがかっこいいし、約束破りしたらサティに怒られるから。ごめんね」
至近距離にあるアロイスさんの顔をほんの少しだけこっちに向いて、彼の鋭い視線が私に向くのがわかる。心の中で「レオを傷つけて…」と言われているのを感じる。
いや、確かに私はそう教えてきたけども、それは人として当然のスタンスじゃんか。今私の名前が出ただけであって、私のせいではないでしょ?
「お腹空いたから、食堂に行こうよ」とクリスタちゃんはあっけらかんとレオくんをお昼ご飯に促す。温度差すごくて、さらに傷つくやつ。レオくんはクリスタちゃんのあとから、トボトボと歩き出す。足取りに力がない。
「まずい、こっちに来る。全員姿勢を低くしたまま、全速で後退せよ」とアロイスさんが指示して、アロイスさんと侍従さん、マグダレーナ先生はしゃがんだまますごい速さで下がり、私だけがその場に取り残された。
「ええっ、ちょっと…!置いてかないで…!」
慌てて足を動かすとドレスを踏んづけてしまい、私は背中からごろんと転んだ。
「あれ、サティだ」
クリスタちゃんのピンクパープルの目が、盗み聞きの現行犯を発見されて絶望する私を覗き込む。
「あ、ええと…」
「もう起きないと、お昼ご飯だよ?」
「あ、そうだねぇ…はは…」
私はドレスについた砂と草をはたいて立ち上がる。クリスタちゃんが当たり前のように私の右手をとってくれるけど、左手は空いたままだ。いつも左手をとってくれる小さな手が、遠い。
「レオくん…」
レオくんはふっと目を伏せる。私は罪悪感で崩れ落ちそうになるのを何とかこらえて、クリスタちゃんに「先にメイドさんと一緒に食堂へ行ってて」とお願いして、レオくんに向き直った。
「レオくん…あの…ごめんね。ちょうど通りかかって、告白を聞いちゃったの」
「うん…」
「勇気を出してクリスタちゃんに気持ちを伝えたレオくんは、かっこよかったよ」
レオくんの目にもりもりと涙が溢れてくる。
「クリスタにもかっこいいって思ってもらいたかった…」
私は彼を抱きしめた。そうだよね。心が痛いよね。
「僕、諦めないといけない…?」
「ううん」
いつか自然に、納得して、クリスタちゃんを好きな気持ちとさよならできる日が来るかもしれない。
「好きな気持ちを無理に捨ててしまう必要はないよ。自分の心に嘘はつけないものだから」
「いいの?」
「うん」
今の自分の気持ちを、大切にしてほしい。それが「自分を大切にする」ってことだと思うから。
レオくんはひとしきり泣いて、落ち着いた。
「もうここでしばらく座ってる?」
「ううん、食堂に行く。泣いたからかな、お腹空いちゃった」
「そか」
レオくんはすっと涙を拭いて前を見た。なんだか顔つきが変わったようにも見える。
赤い目のレオくんとジト目の私を見て、食堂に先回りしていたアロイスさんは気まずそうに目を逸らす。私一人残して撤退しやがって。あとでこってりしぼってやる。
今日の昼食もヨハンさんが腕によりをかけて作ってくれたので、当然美味しい。午後からのえいやに備えてもりもり食べながら、ちょっと気分が晴れる。レオくんもテオくんと笑顔で話せるくらい回復した。「美味しい料理って、心の栄養にもなる」ってヨハンさんにお礼を伝えたいレベル。
さらにパティシエのパウロスさんが「メニューにはなかったのですが、サティ様直伝の”ガトーショコラ”というお菓子を作ってみたので、ぜひお試しを」と持ってきてくれる。
レオくんが生クリームの乗ったガトーショコラを上品に口へ運ぶ。腫れぼったい目が、ぱっと輝いた。
「すごく美味しいよ、パウロス」
「光栄でございます、殿下」
パウロスさんの笑顔から、「王太子殿下、どうか元気をお出しになってください」という気持ちが伝わってくる。口の中でほどけるほろ苦い甘さが、優しかった。
「サティ様、失礼いたします。そろそろえいやの会場にご移動をお願いいたします」
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