異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

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66 生誕祭

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プロポーズを保留にして以来、アロイスさんには会えないままだ。何度話をしに行っても、「忙しい」の一点張り。レオくんの生誕祭に合わせて王城には各国の王侯貴族がやってきているから、忙しいのはわかる。だけど「三分話をするだけでも」と頼んでも断られるんだから、避けられているとしか思えない。カップ麺ができるのを待つ時間もないとは。

何も進展しないままに八月三十一日、レオくんの誕生日がやって来てしまった。

七歳。

楽しくて嬉しいだけの誕生日であってほしかったけれど、「王太子殿下の生誕祭」はそうもいかないらしい。他国からもお客さんがたくさん来て、レオくんはいろんな角度から品定めされる。形式は「肩ひじ張らないガーデンパーティー」だけど、公式行事で肩ひじ張らないわけもない。

庭に出る前、レオくんの肩は小さく震えていた。そっと彼の肩に手を乗せる。

「失敗しちゃうかも…もし国際問題になったら…?」
「七歳になったばかりの子が失敗したくらいで国際問題にする国なんて、ろくなもんじゃありません。気にする必要なし!」

それに悪気のない一度のミスで人生終了の世界なんて、厳しすぎる。誰にとっても生きにくいじゃん。

私は彼の目線まで屈んだ。

「もし失敗しても、レオくんがもってる”相手を大切にする気持ち”があれば大丈夫。もし失敗や失礼なことをして悪いなって思ったら、心から謝って許してもらうの」

テオくんがパン屋さんに、そしてアーデルハイドさんが私に謝ったみたいに。舞台は王城でも、結局は人と人。きっと気持ちは伝わる。そして真摯に謝ったのに許してもらえないのなら、それはもうどうしようもない。「保護者対応ではね、”これ以上どうしろってんだ””根本的に価値観が違うんだな”って割り切らないと、長くやっていけないのよ」という園長先生の声が蘇る。

「質問に答えられなくて、レイデンバーンの王太子は馬鹿だって言われたら?」
「相手が筋道立ててちゃんと話してくれたら、レオくんならたいていのことはわかります。最初に聞いたときによくわからなくても慌てないで、もう一度聞いてみて。無理にわかったふりをする必要もないよ」
「…ルカスと話すときみたいに?」
「まさに」
「そっか」

そう、いつも通りのレオくんで大丈夫。だって君は、頑張り屋で優しくて賢い。どこに出しても恥ずかしくない男の子だから。

「行ける?」
「うん」

レオくんが私と一緒に庭に出ると、すぐに挨拶の長い列ができた。レオくんは天使のような笑顔で招待客からのお祝いに応えている。外国からのお客様には外国語で応対。順調。

と。

「王太子殿下とりんご農家様、ご機嫌麗しゅう。ロインツ公国の公世子、モーリッツです」

馬鹿にしたような高い声が響いて、会場が静まり返った。

私の出自をとやかく言う人が出てくるとは思っていたけど、まさかレオくんと同い年くらいの男の子から正面切って馬鹿にされるとは。小学校低学年男子ににやにやふんぞり返りながら馬鹿にされても、可愛いもんだけどね。

モーリッツくんのうしろから、にやにやしながらこっちを見てくる人もいる。子どもに便乗して私を馬鹿にしたい大人だ。「国王の信頼厚い養育係」を正面切って馬鹿にする勇気もないくせに。

ちりっとした雰囲気の中、レオくんと私は顔を見合わせて笑った。

「はじめまして、モーリッツ様」

見よ、大人の対応。「私のことを馬鹿にする人がいたら、笑顔でやり過ごそう」とあらかじめ決めていたのだ。レオくんが泣きそうになったり私が怒ったりすることを期待していたはずのモーリッツくんは、虚をつかれた格好だ。

「りっ…りんご農家が養育係だなんて、王太子として恥ずかしくないのですか?」
「恥ずかしくありませんよ。どうして王太子の養育係が平民だと恥ずかしいのでしょうか」
「だって王太子殿下の養育係には、どう考えてもふさわしくありません」
「そうでしょうか。サティは僕の家庭教師の先生方と互角に話ができるくらい、知識が豊富です。サティが王城に来てから、僕は勉強もはかどるようになりましたし身体も大きくなりました」

ブルーノ先生がうんうんと頷く。味方第一号、ありがとう。

「それにレイデンバーンを代表する貴婦人たちとも仲がいいんですよ。子どもと遊ぶのがうまくて、僕たちのことを大切にしてくれて、彼女ほど養育係にふさわしい人はいないと思います」

今度はママ友さんたちが、うんうんと頷く。友よ。

「でもあくまで平民です!泥臭くて品のない…っ」

モーリッツくんの視線が私に向いたので、私は満を持して今日まで何千回と繰り返した動作を披露した。つまり、優雅に頭を下げたのだ。上品だけど華やかすぎないブルーグレーのドレスの裾が、控えめに揺れる。

「ほう。あれほど馬鹿にされても動揺もせず…」「立ち居振る舞いは立派なレディじゃないか?」という聞きなれた声。ブルーノ先生たち家庭教師ズが、応援してくれているのだ。「どっちに味方したらいいかわからない」と戸惑っている人は、彼らの声に引っ張られる。

モーリッツくんは「おもてたんと違う」と、戸惑ったような表情を浮かべた。ジャンプしたもののどこに着地していいのかわからなくなっている、みたいな。困るよねぇ。

いじめるつもりは毛頭ない。私が手を差し伸べようとしたとき、モーリッツくんは手を振り払って私を睨んだ。

「…平民が貴族の真似をして取り繕っているだけです。今のままではレイデンバーン王室の権威に傷がつきますよ」
「それは僕の今後にかかっているのではないでしょうか。僕を大切にしてくれるサティのためにも、立派な王になるつもりで勉強しています」

レオくんが男前すぎて辛い。立派な王になるだろうレオくんのために、むしろ私が立派な大人でいなくては。

モーリッツくんの顔が赤くなり、手がブルブルと震える。さあ、ここからモーリッツくんはどう出るか。口をつぐんで逃げだすかと思ったけど、彼はどんと足を踏んばった。それはそれで、なかなかに骨がある。

「勉強されているのですね。では問題を出します」
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