47 / 84
47 彼女だけいればいい
しおりを挟む
「それって、絶対やらなきゃだめ?」
「…やりたくないの?」
私はきょとんとしてレオくんを見る。レオくんは何も答えずもじもじする。
「んと…アロイス叔父さんは、レオくんには男の子とだけじゃなくて女の子とも仲良くしてほしいんだって。それで、仲良くなれそうな女の子がいるかどうか、探してほしいんだってさ。もう日程は決まっちゃってるし、レオくんが参加するってみんなに言ってしまってるから、ちょっと顔を出すだけでもどう?」
なぜ私は六歳児に対して「イケメンの同僚を何とか合コンに来させたい幹事」みたいなムーブをしているのか。
でもレオくんはまだ何も答えない。やっぱりやりたくないのだろう。
たいていは素直に言うことを聞いてくれるレオくんが、こんな風に抵抗するのは珍しい。
「どうしてやりたくないの?」と聞くと、レオくんはちらっとクリスタちゃんを見た。彼女は土を掘り返している。おそらくミミズを探しているのだろう。
「…僕、女の子はクリスタだけいればいいんだ」
「はうっ…っ!!!」
六歳児にきゅん死させられそうになり、私は思わず胸を押さえる。小屋にいたときからレオくんはクリスタちゃんを好きだって思ってたけど、今もまだ好きだったなんて。一途かよ。可愛いがすぎる。
「これからもずっと、クリスタだけ好きだから」
そのダメ押しはもう無理しんどい。尊さのあまりテーブルに頭を叩きつけそうになる。
私は何とか息を整え、真剣な表情をつくってレオくんに向き直る。でも恋する六歳児が可愛すぎて、どうしても口が緩んでしまう。
「クリスタが参加しないなら、ママ友会はやりたくない」
「わかった。ママ友会にクリスタちゃんも参加させてもらえるように、一緒にアロイス叔父さんにお願いしに行こう」
「…ありがと、サティ」
レオくんは私の頬にちゅっと可愛いキスをくれた。レオくんの可愛いけれど熱い恋に、私はそのあとずっとにまにましていたと思う。
両手に顎を乗せたアロイスさんに「難しいことを言う」と、渋い顔をされるまでは。
「レオは王太子だ。感情だけで伴侶を選ぶなど、許されない」
レオくんは目から輝きを消して、表情を硬くした。
「ベルント伯爵の養女になったとはいえクリスタの後ろ盾は弱いし、もし婚約すれば二人揃って貴族たちの攻撃にさらされるのは目に見えている。レオとクリスタの間に子どもができたとして、その子どもの正統性についてとやかくいう人間も出てくるだろう」
今から婚約だとか子どもの正統性だとか、大袈裟すぎる。
これは、六歳さんの可愛い初恋なんだってば。
「ただ子どもたちが同じ場所にいて、みんなで仲良くするだけです。クリスタちゃんにも同世代の同性のお友達がたくさんいたほうがいいのは当たり前ですし」
アロイスさんはため息をつく。
「幼いからこそ危険でもあるのだ。婚約者候補の集まりに平民出身のクリスタを混ぜるのは、明らかに不自然だ。クリスタがレオの想い人だとわかってしまえば、クリスタを利用して甘い汁を吸おうとする者も、逆に彼女に危害を加えようとする者も、どちらも湧いて出てくるだろう」
ここはそういう世界の、そういう王城。だけど私にだって反論はできるんだから。「そんな言葉で脅しても無駄ですからね。馬鹿にしてもらっちゃ困ります」と、私は両手を腰にやった。
「ブルーノ先生の授業で習ったんです。平民出身でも、聖女は王妃になった例があるって。しかもその治世は”レイデンバーンの春”と呼ばれるくらい繁栄してたそうじゃないですか。クリスタちゃんの魔法は人を助けられるんだから、聖女と言っても差し支えないでしょ?王太子と同年代かつ素晴らしい能力をもつ聖女が婚約者候補に名を連ねるのは、不自然だとは思いません」
「それは、確かにそうだが…」
アロイスさんは「クリスタが危険に晒されてもいいのか」というもうひとつの柱にすがって盛り返す。けどそれだって論破できるのだ。
「私とベルント伯爵夫人は、クリスタちゃんに変な大人が近づけないための盾になれます。それでも危険なら護衛をつけてもらえばいいし、そもそもクリスタちゃんの闇魔法は最強です。下手に攻撃したら触手に襲われて全員死亡ですよ」
どうだ。いくらアロイスさんが国王でも、この正論には手も足も出ないでしょ。
「クリスタちゃんを即レオくんの婚約者候補にするって話じゃありません。他の子たちを婚約者候補から排除してほしいわけでもありません。ただレオくんの気持ちに配慮して、可能性を残してほしいんです」
「可能性を残す…」
まだまだ先の、どうなるかもわからない未来の話。レオくんが抱える恋の種を守っても、花を咲かせるかどうかはわからない。だけど確かに今ここにあるものを、最初から枯らしてしまうことはしたくない。
そして二人が大人になったとき、二人の気持ちが同じなのだとしたら、「身分が違うから」と諦めるんじゃなくて、「どうしたらできるようになるか」を考えられるようにしてあげたい。
「アロイスさんがレオくんの立場にいるとしたら、頑固でちょっと怖い叔父さんを説得するための方法を、必死で考えるでしょう?方法はあるはずです」
アロイスさんは「ふむ」と視線を上にやった。
「…クリスタの能力を活かして手柄を立てさせたうえで世論を誘導し、”王太子と優秀な聖女の一途な愛”として打ち出す方法があるな」
レオくんの顔に希望が戻ってくる。
「叔父上、それって…!」
アロイスさんはふっと優しく笑った。
「ああ。厳しい道だが、前例も方法もある。もしも二人が心を合わせてその道に進むなら、できる限りの応援はしよう」
レオくんと私はぱちんとハイタッチした。
「…やりたくないの?」
私はきょとんとしてレオくんを見る。レオくんは何も答えずもじもじする。
「んと…アロイス叔父さんは、レオくんには男の子とだけじゃなくて女の子とも仲良くしてほしいんだって。それで、仲良くなれそうな女の子がいるかどうか、探してほしいんだってさ。もう日程は決まっちゃってるし、レオくんが参加するってみんなに言ってしまってるから、ちょっと顔を出すだけでもどう?」
なぜ私は六歳児に対して「イケメンの同僚を何とか合コンに来させたい幹事」みたいなムーブをしているのか。
でもレオくんはまだ何も答えない。やっぱりやりたくないのだろう。
たいていは素直に言うことを聞いてくれるレオくんが、こんな風に抵抗するのは珍しい。
「どうしてやりたくないの?」と聞くと、レオくんはちらっとクリスタちゃんを見た。彼女は土を掘り返している。おそらくミミズを探しているのだろう。
「…僕、女の子はクリスタだけいればいいんだ」
「はうっ…っ!!!」
六歳児にきゅん死させられそうになり、私は思わず胸を押さえる。小屋にいたときからレオくんはクリスタちゃんを好きだって思ってたけど、今もまだ好きだったなんて。一途かよ。可愛いがすぎる。
「これからもずっと、クリスタだけ好きだから」
そのダメ押しはもう無理しんどい。尊さのあまりテーブルに頭を叩きつけそうになる。
私は何とか息を整え、真剣な表情をつくってレオくんに向き直る。でも恋する六歳児が可愛すぎて、どうしても口が緩んでしまう。
「クリスタが参加しないなら、ママ友会はやりたくない」
「わかった。ママ友会にクリスタちゃんも参加させてもらえるように、一緒にアロイス叔父さんにお願いしに行こう」
「…ありがと、サティ」
レオくんは私の頬にちゅっと可愛いキスをくれた。レオくんの可愛いけれど熱い恋に、私はそのあとずっとにまにましていたと思う。
両手に顎を乗せたアロイスさんに「難しいことを言う」と、渋い顔をされるまでは。
「レオは王太子だ。感情だけで伴侶を選ぶなど、許されない」
レオくんは目から輝きを消して、表情を硬くした。
「ベルント伯爵の養女になったとはいえクリスタの後ろ盾は弱いし、もし婚約すれば二人揃って貴族たちの攻撃にさらされるのは目に見えている。レオとクリスタの間に子どもができたとして、その子どもの正統性についてとやかくいう人間も出てくるだろう」
今から婚約だとか子どもの正統性だとか、大袈裟すぎる。
これは、六歳さんの可愛い初恋なんだってば。
「ただ子どもたちが同じ場所にいて、みんなで仲良くするだけです。クリスタちゃんにも同世代の同性のお友達がたくさんいたほうがいいのは当たり前ですし」
アロイスさんはため息をつく。
「幼いからこそ危険でもあるのだ。婚約者候補の集まりに平民出身のクリスタを混ぜるのは、明らかに不自然だ。クリスタがレオの想い人だとわかってしまえば、クリスタを利用して甘い汁を吸おうとする者も、逆に彼女に危害を加えようとする者も、どちらも湧いて出てくるだろう」
ここはそういう世界の、そういう王城。だけど私にだって反論はできるんだから。「そんな言葉で脅しても無駄ですからね。馬鹿にしてもらっちゃ困ります」と、私は両手を腰にやった。
「ブルーノ先生の授業で習ったんです。平民出身でも、聖女は王妃になった例があるって。しかもその治世は”レイデンバーンの春”と呼ばれるくらい繁栄してたそうじゃないですか。クリスタちゃんの魔法は人を助けられるんだから、聖女と言っても差し支えないでしょ?王太子と同年代かつ素晴らしい能力をもつ聖女が婚約者候補に名を連ねるのは、不自然だとは思いません」
「それは、確かにそうだが…」
アロイスさんは「クリスタが危険に晒されてもいいのか」というもうひとつの柱にすがって盛り返す。けどそれだって論破できるのだ。
「私とベルント伯爵夫人は、クリスタちゃんに変な大人が近づけないための盾になれます。それでも危険なら護衛をつけてもらえばいいし、そもそもクリスタちゃんの闇魔法は最強です。下手に攻撃したら触手に襲われて全員死亡ですよ」
どうだ。いくらアロイスさんが国王でも、この正論には手も足も出ないでしょ。
「クリスタちゃんを即レオくんの婚約者候補にするって話じゃありません。他の子たちを婚約者候補から排除してほしいわけでもありません。ただレオくんの気持ちに配慮して、可能性を残してほしいんです」
「可能性を残す…」
まだまだ先の、どうなるかもわからない未来の話。レオくんが抱える恋の種を守っても、花を咲かせるかどうかはわからない。だけど確かに今ここにあるものを、最初から枯らしてしまうことはしたくない。
そして二人が大人になったとき、二人の気持ちが同じなのだとしたら、「身分が違うから」と諦めるんじゃなくて、「どうしたらできるようになるか」を考えられるようにしてあげたい。
「アロイスさんがレオくんの立場にいるとしたら、頑固でちょっと怖い叔父さんを説得するための方法を、必死で考えるでしょう?方法はあるはずです」
アロイスさんは「ふむ」と視線を上にやった。
「…クリスタの能力を活かして手柄を立てさせたうえで世論を誘導し、”王太子と優秀な聖女の一途な愛”として打ち出す方法があるな」
レオくんの顔に希望が戻ってくる。
「叔父上、それって…!」
アロイスさんはふっと優しく笑った。
「ああ。厳しい道だが、前例も方法もある。もしも二人が心を合わせてその道に進むなら、できる限りの応援はしよう」
レオくんと私はぱちんとハイタッチした。
81
あなたにおすすめの小説
追放された地味探索者、実は隠された伝説級スキルの持ち主でした~気付いたら無自覚に最強ハーレムを築いていた件~
fuwamofu
ファンタジー
地味で目立たない探索者アレンは、仲間に「足手まとい」と罵られパーティを追放された。だが実は彼のスキル【探索眼】は、古代英雄の力を見抜く唯一の能力だった!
鉱山の奥で偶然出会った少女を救ったことから、運命が動き出す。
魔王軍、古代遺跡、神々の争い——すべての鍵を握るのは「ただの探索者」だった男。彼は気付かぬうちに、世界を救い、そして多くの少女たちの心をつかんでいく。
地味だけど最強、無自覚だけどモテまくり。これは世界を変えた謙虚な英雄の物語である。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~
八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか)
平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。
明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。
その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。
しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!
966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」
最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。
この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。
錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる