異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

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59 序列萌え

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ユリウスくんとリオネルくんの友情により無事昇天したあと、お手洗いに行って庭に戻ろうとすると、庭に近い外廊下に、男性の後姿が見えた。

後姿で、かつマントを羽織っているにも関わらず、ガタイがいいのがわかる。だってお相撲さんかレスラーみたいに首が太い。

「誰だろ、見かけない人だな…」

王城の警備はしっかりしているはずだし、不審者にしてはあまりに堂々としているから、危険ではないはず。だけど何となく体を硬くしたときに、「うんなっ」と可愛い声がした。

乳児…!?乳児さんがいる…っ!!

ガタイのいい男性が、乳児さんを抱っこしていたのだ。

「退屈したのか?もうすぐ母上に会えるから、辛抱だ。男は黙って辛抱だぞ」

もちろん「辛抱」が通じる相手ではない。乳児さんの声はどんどん大きくなり切実さを増す。するとガタイのいい男性は「高い高い」と、真っ白いマシュマロみたいな乳児さんを、太い腕で高く放り投げた。

いや、普通に危ない。乳児さんは激しく泣き出した。

「どうした!?」

どうしたもこうしたも、一歳にも満たないであろう乳児さんには刺激が強すぎる。私は思わず「もっと優しく!」と割り込んだ。

「優しさなど必要ありません。男は強く生きねば」
「いや、赤子」

目を血走らせながらも優しい言葉で「じゃあ赤子に剣を持たせて振らせんのかてめえは。限度と適度ってものがあるんだよ」と説明し、腕をゆりかごの形にして「ゆ~らゆら」とお手本を見せてみる。

いかにも「これからの歴戦の軍人になります」って感じの強面な若い男性は、内から漏れ出す私の殺気に恐れをなしたのか、言われた通り素直に、ぎこちなく「ゆ~らゆら」と身体を揺すってみた。

乳児さんはきゃっきゃと笑い、マイナスイオンを振りまく。

崩れ落ちてもいいでしょうか。

これは萌え。ただひたすらの萌えである。強面のいかつい男性が優しく乳児さんをあやしているのは、萌えでしかない。

前世でもジャージ&金髪メッシュ&金ネックレス&サングラスのやんちゃ系強面お父さんが、目のくりくりした小さな赤ちゃんをカートに乗せてあやしながらスーパーで買い物をしている姿を見た日にゃ、仕事の疲れが吹き飛んだもんさ。

乳児さんが強面男性より序列上位な世界、万歳。

「う」と、乳児さんが握りこぶしをこっちに向ける。

「あら、お手々を見せてくれるの?」

私がそっと赤ちゃんの手を自分の手で包むと、乳児さんはさらに元気を出す。

「あうっく!あうあうあう…!うっあっき」
「うんうん、おしゃべり上手だねぇ」

可愛すぎる。我慢ならない。

「あの…初対面でこんなことをお願いするのはあれですが、もしよろしければ少しだけ抱っこさせていただいても…?」

男性は明らかに戸惑っていたが、「王太子殿下の養育係のサティといいます」と名乗ると、「光栄です」と抱っこさせてくれた。ビバ王家の威光。

「至福…!!」

私が口を「んーぱっ」と開いては閉じるのに合わせて、乳児さんはきゃっきゃと笑ってくれる。この笑い声を録音して世界中にばらまいたら、世界平和が実現するはずだ。

突如現れた乳児さんに夢中で、強面お兄さんがぽやっと私を見つめていることになんて、私はまるで気づかない。そのまま調子に乗って乳児さんのお腹に鼻と口を近づけたとき、気づいた。

「リヒターフェルト侯爵家の匂い…?」

説明しよう。

保育士は洗剤や柔軟剤の匂いにより、布製品が「どこの家のものか」を判別できるのだ。園で「お名前が書かれていないお着換え」を発見した際に重宝される特殊能力である。

赤ちゃんの着ている服からは、砂場に落ちがちなユリウスくんのハンカチと同じ匂いがする。

強面お兄さんははっと姿勢を正した。

「名乗るのが遅れて申し訳ございません。私はリヒターフェルト侯爵家の長男、エルベ伯爵ラウロ・ハインリヒ・フォン・リヒターフェルトです。そしてこの子は我が家の末っ子のヘルマンです」
「やっぱりユリウスくんのお家の方でしたか。ヘルマンくんがお母様に会いたいなら、どうぞ庭へ」
「お邪魔するわけには…」

「邪魔だなんて!大歓迎ですよ」と私はウインクする。

果たして、よく笑うヘルマンくんはあっという間に子どもたちのアイドルとなった。乳児さんはいつでもどこでも神。そしていつもは甘えん坊の子どもたちが、いきなりお兄ちゃんお姉ちゃんモードに変身するのも、ありがたき萌えである。

「絶対またヘルマンくんを連れてきてください」と侯爵夫人とラウロさんにお願いすると、侯爵夫人はにこやかに微笑み、ラウロさんはちょっと顔を赤くして会釈をした。

何だか変な雰囲気を感じる。

まさか、ね?

彼が帰りの馬車でリヒターフェルト侯爵夫人に「サティ様は素晴らしい。私のようないかつい男を恐れない強い女性でありながら、軍用犬の機能も持ち合わせているなんて。ぜひリヒターフェルト軍に加わってほしいものです」と熱弁してこっぴどく叱られたことなんて、私は知る由もなかった。
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