異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

文字の大きさ
58 / 84

58 返したくない理由

しおりを挟む
「こっちに巣がいっぱいあるよ!」
「本当ですね、殿下!」

男子五人でしゃがみこんでいる後姿が、小動物みたい。

女子ズが宝石交換に夢中になっている横で、男子ズは最近「地蜘蛛とり」に勤しんでいる。

皆様は、地蜘蛛をご存じかしら…?

私は保育園で働き出してから知ったんだけど、木の枝とかの高い場所に巣を張るんじゃなくて、木の根っことか建物と地面が触れるところの近くに、細長い袋みたいな巣をつくる蜘蛛がいるのだ。それが地蜘蛛。

繊細な地蜘蛛の巣を、切れないように絶妙な力加減で引っ張って取るっていうのがなかなか難しく、指先の器用さを刺激するいい遊びになる。巣で休んでいる地蜘蛛の皆様には申し訳ないけども。

「蜘蛛を手下にするんだ!レイデンバーンの至るところに散らばらせて、監視活動を行うっ!」と勢い込んでユリウスくんが挑戦するけど、上手くいかない。蜘蛛を手下にしたい気持ちがはやって、力任せに引っ張っちゃうから、途中で切れるんだよね。

「全然できない…」

いつも前向きで、気持ちの切り替えが早すぎて大人の感情がついていけないこともあるくらいのユリウスくんだけど、何度やっても失敗して、さすがにモチベが下がってきてる。

その横でリオネルくんが慎重に巣を木の根っこから剥がして引きあげ、中をそっと覗いた。

「いた!ユリウスにあげようか?」
「いい。自分で手に入れないと、自分の手下にはできないから」
「そっか…」

「ユリウス、せっかくリオネル様が申し出てくださったのに…!」とリヒターフェルト侯爵夫人が立ち上がろうとするのを、私はそっと止めて、首を振る。

「サティ様…」
「大丈夫です。見守りましょう」

喧嘩になりそうな気配はない。暴力に発展する危険がないときには、子どもたちの世界に大人が介入することはできるだけ避けたい。だって「気持ちのすれ違い」を経験することも大切だから。

リオネルくんが捕まえた地蜘蛛は、ルカスくんが「新種かもしれない」とか何とか言いながらもらい受け、ガラスの瓶に入れて図鑑と比較している。その横でレオくんは蜘蛛をスケッチし、アドリアンくんが「殿下、素晴らしいです」と褒め称える。

「ユリウス、少しずつ引っ張ればきっとできるよ」
「わかった」

ユリウスくんが巣を引っ張り始めると、リオネルくんは横で「ゆっくり、優しく」と、おっとり声をかける。リオネルくんの声に合わせて引っ張ったおかげで、ユリウスくんはようやく一匹の蜘蛛を捕まえることに成功した。

私は思わず「ふふっ」と笑ってしまう。だってユリウスくんよりも、隣にいるリオネルくんのほうが喜んでるんだもん。

元気なユリウスくんと大人しいリオネルくん。性格は正反対だけど、意外にいいコンビなのかもしれない。そういうのも、一緒に遊んでみないとわからないよね。

ユリウスくんは蜘蛛を手に乗せて、そっとリオネルくんに差し出した。

「俺の手下だけど、リオネルにあげる」
「ありがとう」

おい、よくわかんないけど、ちょっと泣けるんだが。

…と思っていたのに、泣けたのは一瞬だけだった。

しばらくしたらユリウスくんが「やっぱり俺の部下だから、さっきの地蜘蛛は返してくれ」と言い出したのだ。

どうなるかと思ってはらはらしながら見ていたら、リオネルくんは小さな声で「やだ」と抵抗した。彼にしては珍しい。リオネルくんに自己主張を求めていたローゼンタール伯爵夫人が「やった」と小さく手を握る。

しかし相手は自己主張の鬼、ユリウスくんである。

「リオネルのケチ!俺のものなんだから返してよ!リオネルの蜘蛛をルカスから返してもらったらいいじゃないか」

リオネルくんは唇を噛みしめる。目にうるうるっと涙が溜まっていく。ユリウスくんの顔が赤くなって会話の熱が溜まってきたから、私はいつでも止めに入れるように腰を浮かす。

「僕はこの蜘蛛がいいの」
「なんで…っ」

ユリウスくんがリオネルくんの肩を掴んだところで、私は「お友達に手を出すのはだめ」と素早く二人を引き離した。

「ユリウスくん、リオネルくんの話を聞いてみよ?どうして自分で捕まえた地蜘蛛じゃなくて、ユリウスくんからもらった地蜘蛛がいいのか」

ユリウスくんが「俺の蜘蛛のほうが大きくてかっこいいからだろ」と代わりに答えるけど、聞きたいのはリオネルくんの話。

「…ものだから」と小さな声。

「ごめん、ちょっと聞こえなかった。もう一回教えてくれる?」
「ユリウスがくれたものだから!」

うわ、大きなお声。

「ユリウスくんからもらった蜘蛛だから、手放したくないのね?」

リオネルくんがこくんと頷き、私な心の中で胸をかきむしる。可愛すぎんか。大切なお友達からもらったものは、石ころでも手紙でも虫でも宝物になるもんねぇ。

「ユリウスは運動ができて、大きな声でお話しできるからかっこいい。ユリウスからもらった蜘蛛をもってたら、僕もユリウスみたいになれるかもしれないから」

「リオネルくんは、そういう気持ちなんだって」とユリウスくんを見ると、ぷんすか怒っていた彼は、にっこにこの笑顔になっていた。

「じゃあ、もっといっぱい捕まえて、全部リオネルにあげるっ!」

特大の尊さを浴びました。昇天してもよろしいでしょうか。

リヒターフェルト侯爵夫人とローゼンタール伯爵夫人は、「うちの子と仲良くしてくださってありがとうございます。どうかこれからも末永く」と扇子の奥から目を見合わせている。

こういうことがあるから、私は子どもたちのそばにいたい。「うんうん」と頷く私に、マグダレーナ先生がそっと近づいた。

「代々仲の悪い脳筋リヒターフェルトと陰謀大好きローゼンタールの仲をとりもつとは、さすがサティ様です」
「なんじゃそら…っていうか、別にそういう意図はなくて…」
「意図せずとも、王太子殿下の治世の安定につながることは間違いありません。大きな功績です」
「…じゃあご褒美でマナーレッスンを一回お休みしてもいいですか?」
「それはだめです」
「ちぇ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

追放された地味探索者、実は隠された伝説級スキルの持ち主でした~気付いたら無自覚に最強ハーレムを築いていた件~

fuwamofu
ファンタジー
地味で目立たない探索者アレンは、仲間に「足手まとい」と罵られパーティを追放された。だが実は彼のスキル【探索眼】は、古代英雄の力を見抜く唯一の能力だった! 鉱山の奥で偶然出会った少女を救ったことから、運命が動き出す。 魔王軍、古代遺跡、神々の争い——すべての鍵を握るのは「ただの探索者」だった男。彼は気付かぬうちに、世界を救い、そして多くの少女たちの心をつかんでいく。 地味だけど最強、無自覚だけどモテまくり。これは世界を変えた謙虚な英雄の物語である。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~

八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか) 平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。 明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。 その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。 しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

処理中です...