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16 今なら言えるかもしれない
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パリス様は熱心に、時折質問を挟みながら、私が感じたことを聞いてくださる。
今なら、言えるかもしれない。
こんなことを言って、怒らせるかもしれない。けれど、今言わなければ。伝えなければ。
「パリス様」
「なんだ」
「この国には、この王都だけでも、貧困や病気で困っている国民がたくさんいます。そして…彼らのこんな状況を作り出したのは私や陛下ご自身ですわ」
パリス様は目を見開いた。
カトラリーの音が止まり、窓の外の風の音だけが耳に届く。
つい今まで和やかだった食事の席で、こんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。
「私たちが国王・王妃としての仕事をしていれば、あんなにひどくならなかったのではないかと思えて、仕方ないのです」
「だから何だ」
「私は罪滅ぼしのために変わりたいのです。パリス様も一緒に変わりましょう?」
私は立ち上がって、パリス様に近づいた。
わかってほしい。
変わってほしい。
兄妹のように育ってきて、ずっと大好きで、支えたいと思ってきた夫。
今は政治にも国にも興味をもたない愚王になってしまったけれど、きっと彼も変われるはず。
一緒に断罪を回避したい。
いくら浮気されてないがしろにされても、長年一緒に過ごしてきたパリス様に向ける情は、まだ私の中に残っている。
私はパリス様の手を握った。
「貧民街の上下水道と病院の整備について、レオナルドからアドバイスをもらっていろいろ考えてみたのです。ぜひ王宮からも予算を出していただけないでしょうか」
幼いころ、兄妹のように遊んだあの日々を思い出す。あの頃の陛下の優しさは今も変わらないはず。
けれどパリス様はため息をついた。
「レオナルド…」
「ええ、レオナルドです。彼は豊富なアイデアをもっていて、平民たちの暮らしにも心を寄せていて、素晴らしい人材ですわ」
パリス様の顔がわずかに紅くなり、指先に力が入るのを感じる。
「聞きたくない」
「えっ?」
パリス様は立ち上がる。
「貧民街の視察から帰ってきたときも、随分レオナルドと話し込んでいたじゃないか」
「ええ、だからそれは彼のアイデアを実現するための方策を考えていて…」
「それだけではない雰囲気だった!」
何を言っているのかしら。
余計なことを考える余裕なんて、私にはないのに。
「パリス様!誓って、それ以外に何もありませんわ」
「いや、レオナルドが君のことを話す口調も、いつものあいつの口調とは違ったんだ」
「そ、それは私のあずかり知らぬところですけれど…でもレオナルドは…」
「聞きたくないと言っただろ!そもそもレオナルドを親し気に名前で呼ぶのも気に入らない」
なんて幼稚なの。
レオナルドはパリス様の幼馴染で、私とも幼いころから一緒にいたもの。
ずっとレオナルドと呼んでいたし、「エステルベルグ卿と呼べ」なんて言われたこともなかったのに。
私はパリス様の手をパッと離した。
彼はわかってくれない。
私と彼は同じ場所にいても、違うものを見ている。
「もう結構です、国王陛下」
パリス様がパッと私を見た。
「国王陛下、だと?」
「間違いではございませんでしょう」
私は踵を返した。これ以上彼と話していたら、ひどい言葉を投げつけてしまいそう。
「これ以上お話することはございません」
「待て!」
背後から響いた声が心に刺さるようで、私の足が一瞬止まる。穏やかに話を聞いてくれていたときの声音とはまるで違う。
振り返る勇気はなかった。
今なら、言えるかもしれない。
こんなことを言って、怒らせるかもしれない。けれど、今言わなければ。伝えなければ。
「パリス様」
「なんだ」
「この国には、この王都だけでも、貧困や病気で困っている国民がたくさんいます。そして…彼らのこんな状況を作り出したのは私や陛下ご自身ですわ」
パリス様は目を見開いた。
カトラリーの音が止まり、窓の外の風の音だけが耳に届く。
つい今まで和やかだった食事の席で、こんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。
「私たちが国王・王妃としての仕事をしていれば、あんなにひどくならなかったのではないかと思えて、仕方ないのです」
「だから何だ」
「私は罪滅ぼしのために変わりたいのです。パリス様も一緒に変わりましょう?」
私は立ち上がって、パリス様に近づいた。
わかってほしい。
変わってほしい。
兄妹のように育ってきて、ずっと大好きで、支えたいと思ってきた夫。
今は政治にも国にも興味をもたない愚王になってしまったけれど、きっと彼も変われるはず。
一緒に断罪を回避したい。
いくら浮気されてないがしろにされても、長年一緒に過ごしてきたパリス様に向ける情は、まだ私の中に残っている。
私はパリス様の手を握った。
「貧民街の上下水道と病院の整備について、レオナルドからアドバイスをもらっていろいろ考えてみたのです。ぜひ王宮からも予算を出していただけないでしょうか」
幼いころ、兄妹のように遊んだあの日々を思い出す。あの頃の陛下の優しさは今も変わらないはず。
けれどパリス様はため息をついた。
「レオナルド…」
「ええ、レオナルドです。彼は豊富なアイデアをもっていて、平民たちの暮らしにも心を寄せていて、素晴らしい人材ですわ」
パリス様の顔がわずかに紅くなり、指先に力が入るのを感じる。
「聞きたくない」
「えっ?」
パリス様は立ち上がる。
「貧民街の視察から帰ってきたときも、随分レオナルドと話し込んでいたじゃないか」
「ええ、だからそれは彼のアイデアを実現するための方策を考えていて…」
「それだけではない雰囲気だった!」
何を言っているのかしら。
余計なことを考える余裕なんて、私にはないのに。
「パリス様!誓って、それ以外に何もありませんわ」
「いや、レオナルドが君のことを話す口調も、いつものあいつの口調とは違ったんだ」
「そ、それは私のあずかり知らぬところですけれど…でもレオナルドは…」
「聞きたくないと言っただろ!そもそもレオナルドを親し気に名前で呼ぶのも気に入らない」
なんて幼稚なの。
レオナルドはパリス様の幼馴染で、私とも幼いころから一緒にいたもの。
ずっとレオナルドと呼んでいたし、「エステルベルグ卿と呼べ」なんて言われたこともなかったのに。
私はパリス様の手をパッと離した。
彼はわかってくれない。
私と彼は同じ場所にいても、違うものを見ている。
「もう結構です、国王陛下」
パリス様がパッと私を見た。
「国王陛下、だと?」
「間違いではございませんでしょう」
私は踵を返した。これ以上彼と話していたら、ひどい言葉を投げつけてしまいそう。
「これ以上お話することはございません」
「待て!」
背後から響いた声が心に刺さるようで、私の足が一瞬止まる。穏やかに話を聞いてくれていたときの声音とはまるで違う。
振り返る勇気はなかった。
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