婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第二章 お師匠様がやってきた

お師匠様の一族こわい1

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 話好きのルシウスは、アルコールが入ったことで更にその口が滑らかになった。

「我が一族は皆、こんな感じの顔でなあ。髪も青みがかった銀髪、瞳は湖面の水色。受け継いだダイヤモンドの魔法剣の数が多いと、瞳の虹彩に銀色の花が咲いたような模様が浮かぶ」

 ちなみにルシウスは一本しか魔法剣を持っていないので、虹彩に銀の花は咲いていない。湖面の水色のみだ。
 一本だけとかショボいにもほどがある! と本人は憤慨しているが、その一本が聖剣なのだから、持っていないトオンなどからしたら堪らない話だ。

(この人、人間的には好い人だけど、人を苛つかせるとこもある。そういうとこ、人間関係で揉めたんだろうなあ)

 口に出すことはしなかったが、トオンにも少しずつこの人物の実態が掴めてきた。

「ちなみにうちの甥っ子は百本以上持っている!」
「「鮭の人すごい!」」

 自分のことのように胸を張るルシウスに、そこはアイシャもトオンも素直に感嘆した。
 いつか、カズンの幼馴染みという鮭の人にも会ってみたいものだった。

 いや、国王と王妃としては半年前ごく短時間だけ顔を合わせているのだが、出オチのように本人がすぐ帰ってしまったから個人的な話をする余裕がまったくなかった。
 黒縁眼鏡をかけた、とにかく美しい青年だったという記憶だけが残っている。



「何というか、盛りだくさんな人ねえ、ルシウスさん」

 しみじみ、アイシャが呟いた。
 かつて婚約者だったクーツ元王太子を見たときも美形だと感動したものだったし、よく似た恋人トオンも、控えめながら美しい顔立ちの青年だった。
 しかしルシウスの容貌はまた格別の麗しさである。

「ルシウスさん、女の人にモテたでしょ?」

 とトオンが揶揄うも、実はそうでもない、と真顔で返された。

「うちの一族は、麗しの美貌で知られていて、自分たちでも悪くない顔だと思っている。だけど正直なところ、オレたちは顔以外にも良いところがもっとあるからそっちも見てくれよというのが本音だったりする」
「えええ……それだけ綺麗な顔してて、まだ何かあるんですか?」

 別にトオンの言葉は僻みではない。だって彼には既に可愛い彼女がいる。決して僻みなんかではないったらない。

「な? だから本音を言うと、そんな調子で面倒臭いことを言って絡んでくる輩が出るから、美しく生まれた者らしく、この面の皮を徹底的に利用しようと決めたわけだ」
「「???」」

 ルシウスは持っていたライム入りのアルコールドリンクのグラスを食卓に置いて、その大きな両手で顔面を軽く撫で擦った。
 特に口元と頬の辺りを解すように念入りに。

 そして両手を外すと、ふたりに向かって、にこ、と微笑みかけた。

 それを真正面から目撃して、アイシャもトオンも真っ赤になった。

「「!!!?」」

「そうそう、その反応! この顔で薄っすら相手に笑いかけると、大抵の者はそういう反応になる。親しく付き合っている者たちならそうでもないが、大抵はこの微笑みに騙されて騙されっぱなしさ」
「騙されて」
「騙されっぱなし……」
「勝手に忖度してくれるから、あとは自分に都合の良いように、上手く相手を誘導するだけというわけだ」

 いったいどういう一族なんだろう? とアイシャもトオンも思ったが、実例を見せてもらうと、よくわかる。
 騙されてもいいかなと思えるほど、麗しく美しい微笑みだった。
 男にしておくのが実にもったいない。女性だったら城のひとつやふたつ、平気で傾けそうだ。




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普段は朗らかに笑うルシウスおじさんも、その気になれば儚げで意味深な感じに微笑むこともできるという話。
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