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第三章 カーナ王国の混迷
幕間 魔術師カズンの充実ソロキャン2 ※キャンプでスモア回
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かき卵入りのカレー雑炊で夕飯を終えたカズンは今、山中でソロキャンプ中だ。
現在地からなら、カーナ王国は行けない距離ではない。
「一度、アイシャたちの様子を見に行きたいが……ルシウス様がいるなら平気だろう」
美味しいごはん作りの偉大なお師匠様だ。
ついでにハイヒューマンの聖剣の魔法剣士で異次元的に強いお方なので、アイシャとトオンの保護者になることと、魔力使いの師匠になってもらうことを依頼してある。
「『アイシャもトオンも筋が良い』か。ふふ、ルシウス様も楽しそうで何より」
環を通して定期的にルシウスから手紙を受け取っている。
アイシャたちの状況や、いまだ混乱の残るカーナ王国の様子を伝えてもらっていた。
手紙を読み終え、簡単な返事を書いて送った後はソロキャンのお楽しみタイムである。
大きめのマシュマロを木の枝に刺して、焚き火で表面をこんがり焼いて全粒粉入りの無糖クラッカー二枚で挟む。
「おっと、板チョコを忘れていた」
慌ててチョコレートの欠片をクラッカーの間に突っ込んだ。
いわゆるスモアの完成だ。
カズンは異世界からの転生者で前世の記憶がある。
スモアは前世の世界ではアメリカという国の、キャンプなどアウトドアレジャーでお馴染みのお菓子である。
焚き火で炙ってとろけたマシュマロと、その熱でこれまた柔らかくなったチョコレートを、挟んだ全粒粉クラッカーごとぱくっと一口で。
マシュマロ本来の「ふにっ」とした感触は熱が加わって柔らかめに。
ミルクチョコレートのコクと、クラッカーのちょっと塩気のある味と軽い歯触り。
特にクラッカーは全粒粉入りがマストだ。無糖で甘くないものじゃないとダメだ。
主役のマシュマロとチョコレートがとても甘いので、表面に粗めの岩塩が振られているやつだとなお良い。
そこにブラックのコーヒーを一口。
「至福だな……」
全粒粉クラッカーは小分け包装で一袋に八枚入り。
スモアは一個につきクラッカー二枚必要だから、この至福があと三回味わえる。
「この世界でまさかインスタントコーヒーが飲めるとは」
しかも案外美味い。ドリップで入れたものには劣るが、野営でなら下手な店で飲むより味わい深いともいえた。
外で飲むことを想定し、手洗いが近くならないよう、カフェイン少なめの深煎りコーヒーに仕上がっているところも良い。チョコレートに合う。
カーナ王国で調達したインスタントコーヒーだ。
しかも瓶入りではなく一杯ずつ分包になっていて、その上、包装紙ごとカップに入れて上から熱湯を加えると溶けて、ただのコーヒーになる。
それでいて持ち運びする際の温度や湿気でべちゃっと湿気るようなこともない。
「こういうインスタント食品が最も発展してるのがカーナ王国だったな。意外なことだ」
一人で旅をしていると独り言が増える。
故郷を出奔してから、友人の剣士や後輩兄妹らに会えたが、家族や別の親友たちにはまだ一度も会えていなかった。
その後はせっせとマシュマロを炙ってはチョコレートと一緒にクラッカーで挟んで、を繰り返した。
夢中でスモアを作り、食べるを繰り返してやがてハッと我に返った。
明日はどこへ向かうか、まだ計画を立てていない。
敵はどの方向へ向かったのだったか。
「……怒りも恨みも、ずっと持ち続けるのは辛い」
カズンの仇は、アケロニア王国の前王家の末裔で、邪悪な錬金術師だった。
カズンは新王朝の王族なので、祖先が追い落とした旧王族の生き残りの子孫に狙われたのだ。
ロットハーナなる一族の青年はカズンが通う王都の学園に堂々と他国から転校してきて、当時は学級委員長だったカズンが世話役になっていた。
親友というほど親しかったわけではない。
それでも毎日顔を合わせていた同級生が、国内の数多の凶悪犯罪に関わっていたと知ったときには遅かった。
ロットハーナは黄金錬成という、人間を黄金に変える邪法の使い手だった。
対象者の魔力が大きいほど、得られる黄金の量が増える。
アケロニア王国は魔法魔術大国と呼ばれるほど、国民の魔力が高いことで知られていた。獲物として狙われたのだ。
特に、魔力を持つ者同士での結婚を繰り返している王侯貴族が狙われ、最終的にロットハーナはアケロニア王族にターゲットを絞った。
黒い瞳で、パチパチと音を立てて燃料の枝がはぜる焚き火を見つめる。
「……本当なら黄金にされていたのは僕だったんだ」
だが、その場にいた父親がカズンを庇った。
カズンの父はヴァシレウスという、大王の称号持ちの偉大な先々王陛下だ。
当時既に九十を超えた高齢者だったが、まだまだ元気で百歳を狙うと笑っていたのに。
二メートル近い巨躯で、カズンと同じ黒髪黒目、顔立ちもよく似た端正な男前だった。
父親が黄金に変えられ、消えてしまったときの絶望は、今でも生々しくカズンの胸の内を焼いていた。
けれど怒りや憎しみ、恨みは年々穏やかに鎮火しつつある。
(ロットハーナを捕まえて対峙したら、わからないけど)
現在地からなら、カーナ王国は行けない距離ではない。
「一度、アイシャたちの様子を見に行きたいが……ルシウス様がいるなら平気だろう」
美味しいごはん作りの偉大なお師匠様だ。
ついでにハイヒューマンの聖剣の魔法剣士で異次元的に強いお方なので、アイシャとトオンの保護者になることと、魔力使いの師匠になってもらうことを依頼してある。
「『アイシャもトオンも筋が良い』か。ふふ、ルシウス様も楽しそうで何より」
環を通して定期的にルシウスから手紙を受け取っている。
アイシャたちの状況や、いまだ混乱の残るカーナ王国の様子を伝えてもらっていた。
手紙を読み終え、簡単な返事を書いて送った後はソロキャンのお楽しみタイムである。
大きめのマシュマロを木の枝に刺して、焚き火で表面をこんがり焼いて全粒粉入りの無糖クラッカー二枚で挟む。
「おっと、板チョコを忘れていた」
慌ててチョコレートの欠片をクラッカーの間に突っ込んだ。
いわゆるスモアの完成だ。
カズンは異世界からの転生者で前世の記憶がある。
スモアは前世の世界ではアメリカという国の、キャンプなどアウトドアレジャーでお馴染みのお菓子である。
焚き火で炙ってとろけたマシュマロと、その熱でこれまた柔らかくなったチョコレートを、挟んだ全粒粉クラッカーごとぱくっと一口で。
マシュマロ本来の「ふにっ」とした感触は熱が加わって柔らかめに。
ミルクチョコレートのコクと、クラッカーのちょっと塩気のある味と軽い歯触り。
特にクラッカーは全粒粉入りがマストだ。無糖で甘くないものじゃないとダメだ。
主役のマシュマロとチョコレートがとても甘いので、表面に粗めの岩塩が振られているやつだとなお良い。
そこにブラックのコーヒーを一口。
「至福だな……」
全粒粉クラッカーは小分け包装で一袋に八枚入り。
スモアは一個につきクラッカー二枚必要だから、この至福があと三回味わえる。
「この世界でまさかインスタントコーヒーが飲めるとは」
しかも案外美味い。ドリップで入れたものには劣るが、野営でなら下手な店で飲むより味わい深いともいえた。
外で飲むことを想定し、手洗いが近くならないよう、カフェイン少なめの深煎りコーヒーに仕上がっているところも良い。チョコレートに合う。
カーナ王国で調達したインスタントコーヒーだ。
しかも瓶入りではなく一杯ずつ分包になっていて、その上、包装紙ごとカップに入れて上から熱湯を加えると溶けて、ただのコーヒーになる。
それでいて持ち運びする際の温度や湿気でべちゃっと湿気るようなこともない。
「こういうインスタント食品が最も発展してるのがカーナ王国だったな。意外なことだ」
一人で旅をしていると独り言が増える。
故郷を出奔してから、友人の剣士や後輩兄妹らに会えたが、家族や別の親友たちにはまだ一度も会えていなかった。
その後はせっせとマシュマロを炙ってはチョコレートと一緒にクラッカーで挟んで、を繰り返した。
夢中でスモアを作り、食べるを繰り返してやがてハッと我に返った。
明日はどこへ向かうか、まだ計画を立てていない。
敵はどの方向へ向かったのだったか。
「……怒りも恨みも、ずっと持ち続けるのは辛い」
カズンの仇は、アケロニア王国の前王家の末裔で、邪悪な錬金術師だった。
カズンは新王朝の王族なので、祖先が追い落とした旧王族の生き残りの子孫に狙われたのだ。
ロットハーナなる一族の青年はカズンが通う王都の学園に堂々と他国から転校してきて、当時は学級委員長だったカズンが世話役になっていた。
親友というほど親しかったわけではない。
それでも毎日顔を合わせていた同級生が、国内の数多の凶悪犯罪に関わっていたと知ったときには遅かった。
ロットハーナは黄金錬成という、人間を黄金に変える邪法の使い手だった。
対象者の魔力が大きいほど、得られる黄金の量が増える。
アケロニア王国は魔法魔術大国と呼ばれるほど、国民の魔力が高いことで知られていた。獲物として狙われたのだ。
特に、魔力を持つ者同士での結婚を繰り返している王侯貴族が狙われ、最終的にロットハーナはアケロニア王族にターゲットを絞った。
黒い瞳で、パチパチと音を立てて燃料の枝がはぜる焚き火を見つめる。
「……本当なら黄金にされていたのは僕だったんだ」
だが、その場にいた父親がカズンを庇った。
カズンの父はヴァシレウスという、大王の称号持ちの偉大な先々王陛下だ。
当時既に九十を超えた高齢者だったが、まだまだ元気で百歳を狙うと笑っていたのに。
二メートル近い巨躯で、カズンと同じ黒髪黒目、顔立ちもよく似た端正な男前だった。
父親が黄金に変えられ、消えてしまったときの絶望は、今でも生々しくカズンの胸の内を焼いていた。
けれど怒りや憎しみ、恨みは年々穏やかに鎮火しつつある。
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