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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
もういない雛竜たちに泣いた
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アイシャは呆然としたまま、まだ結界の中で何事かを喚いている男を見た。
怒りの形相で結界の内側を叩いている姿に、男の両足を魔法樹脂で固めて身動きを封じた。
(このまま結界内ぜんぶ、魔法樹脂で埋めちゃおうかしら)
ふと思ったが、まだ他に侵入者が潜んでいるかもしれない今、不用意に魔力を消耗はできなかった。
「あ、アイシャ?」
「トオン。ユーグレンさん。結界を解くわ。その男を拘束して」
「「了解!」」
まずユーグレンが装備する大盾ごと、結界から解放された男に体当たりして、体勢を崩させた。すぐに大剣に持ち替えて太い柄の先端で当て身を食らわせる。
あとはトオンが縄で両腕と、魔法樹脂を解いた両足首をきゅっと縛り、ついでだから猿ぐつわも噛ませておいた。
「トオン、縄が緩まぬようしっかりな」
「当然。伊達に古書店の店主はやってませんよ。毎日、古紙の束を紐で縛りまくってますからね……っと」
男は全力で抵抗していたが、今のアイシャたちに油断はない。
特にアイシャだ。芋虫のように身をくねらせる男の頬を、べしっと平手で引っ叩いた。
「!」
「大人しくしてください」
「――! ――!」
「まだ抵抗するようなら、指を一本ずつ折りますよ?」
「……!」
「私は聖女ですから、たとえ相手が犯罪者であろうとも殺害などは致しません。世界の理に不用意な殺戮はしないと誓っているので」
「………………!」
「また股間を殴られたいですか?」
アイシャはぐっと拳を握り締めて、床に転がされた男の前に突き出した。
拘束され猿ぐつわを嵌められた男は、だらだらと脂汗を流している。
(ユーグレンさんー! あれ、あれー!)
(同情して良い相手ではないが、……これ以上はさすがに哀れだな……)
見ていてわかった。アイシャは静かに切れている。
(トオン。彼女、……あまり怒らせないほうがいいぞ?)
(滅多に喧嘩なんてしませんよ! 俺たちこれでも強い絆で結ばれた仲良しカップルなんで! ……た、多分!)
ケンカなど、以前、深酒をした翌朝にルシウスと一緒にお説教を食らったときぐらいだ。
しかし、確かにあれは怖かった。あのルシウスすら頭を下げて謝ったぐらいだ。
(逆らえない圧がある……)
「えーと。睡眠の魔術……」
「面倒だ。落としてしまえ」
トオンが記憶の中から術式を思い出す前に、ユーグレンが手刀で鋭く男の首の後ろに衝撃を与えて意識を奪った。
後はこのまま、地上に戻ってから騎士団本部に引き渡せばいい。
「嘘だろ、こんなのって」
「もふもふちゃんたち」
震える手でアイシャは、酒漬けにされていた五号以外の雛竜たちを、赤い水溜まりから抱き上げた。
あんなに大きくキラキラと輝いていたガーネットの目は閉じられている。
冷たい。小さな毛玉のような身体からは、もう命の火が消えてしまっていた。
「こんなの、こんなの……」
一号、二号、三号、四号。全員いる。
中でも一番、損傷が激しいのはリーダー格の一号雄だ。背中の翼の片方は折れ、もう片方や前脚が刃物で斬られて床に散らばり落ちている。
四号雌を庇うように事切れていた。
他の雛竜は、剣で深く斬りつけられてそのまま殺されてしまったようだ。
抵抗だけはしたようで、倒れた場所に手足の形で血痕が残っている。
それから三人と一体は、五体の雛竜の亡骸と、拘束して意識を落としたままの侵入者の男を抱えて地上に戻った。
旧王城の庭園で待機していた聖者ビクトリノは、憔悴するアイシャたちと、その腕の中の雛竜たちを見てすべてを悟ったように鎮痛な面持ちで短い白髪の頭を掻いた。
「アイシャ。その仔竜たちは、もう?」
「……はい。残念ながら、全員……」
守れなかった、とアイシャは泣いた。トオンやユーグレンも涙ぐんでいる。
だが雛竜たちをこのままにしておくわけにもいかない。
亡骸を庭園のベンチにひとまず寝かせて、どこに埋葬しようかアイシャとビクトリノが話していると、ちょいちょい、と服の裾を軽く引っ張られた。ユキノだ。
「ピュイ……(アイシャちゃん。聖者様も。ボクたちにお墓はいらないよ)」
「ユキノ君?」
まだ大型化したままだったユキノは、真っ白羽毛に覆われたもふもふの前脚で、雛竜たちの亡骸をまとめて掴んだ。羽毛が血糊で汚れるのもお構いなしだった。
「ゆ、ユキノ君!?」
そのまま、ガーッとひと吠えだ。ネオンブルーの魔力の炎を口から吐いて、雛竜たちを焼いた。
見る見るうちに亡骸は燃え、ふわふわだった羽毛も血肉も骨も何もかも瞬時に炭化して灰となり、さらさらと庭園の地面に落ちて、風に吹き飛ばされて消えていった。
「ピゥ……(ベビーたちよ。もっと一緒にあそびたかった)」
その光景をアイシャたちは呆然と見ているしかできなかった。
亡骸を燃やした後、微かに光る小さな丸い球、〝魂〟が残った。
数は五つ。雛竜たちの数と同じだ。
「ビクトリノ様、これって」
「ああ。ユキノ君やお前たちに懐いてたからな。放っておいてもそのうち天に還るか、同じ種族の雌竜の元に向かうと思うぞ」
そして新たに生まれ直すだろうとのことだった。
そんな話を聞いてしまったアイシャたちはもう堪らない。
今日、ダンジョンに潜る前まであんなに元気に愛らしく飛び跳ねていた雛竜たちが、もういないだなんて。
その事実がひしひしと身に迫ってきた。
誰もが声も出ずに泣いた。
「ピュイッ(ボクはルシウスくんのとこに戻るね!)」
「あっ、ユキノ君!」
自分もガーネットの瞳から大粒の涙をこぼした後で、顔つきを引き締めてユキノはダンジョンへと再び突入していった。
間もなく、ダンジョン内からユキノの咆哮が聞こえてきた。
滅多に聞くことのないその雄叫びの悲しさに、アイシャたちはますます涙が止まらなくなってしまった。
その場に漂っていた小さな魂たちも、気づくと見えなくなっていた。
「もふもふちゃんたち……」
(守ってあげられなくて、ごめんなさい)
いつまでも泣いてばかりもいられなかった。
「ジューア様の指示通り、まずは冒険者ギルドに行きます。この庭園は外部から侵入できないよう、結界で再突入するまで一時的に封鎖します。さあ、――行きますよ!」
怒りの形相で結界の内側を叩いている姿に、男の両足を魔法樹脂で固めて身動きを封じた。
(このまま結界内ぜんぶ、魔法樹脂で埋めちゃおうかしら)
ふと思ったが、まだ他に侵入者が潜んでいるかもしれない今、不用意に魔力を消耗はできなかった。
「あ、アイシャ?」
「トオン。ユーグレンさん。結界を解くわ。その男を拘束して」
「「了解!」」
まずユーグレンが装備する大盾ごと、結界から解放された男に体当たりして、体勢を崩させた。すぐに大剣に持ち替えて太い柄の先端で当て身を食らわせる。
あとはトオンが縄で両腕と、魔法樹脂を解いた両足首をきゅっと縛り、ついでだから猿ぐつわも噛ませておいた。
「トオン、縄が緩まぬようしっかりな」
「当然。伊達に古書店の店主はやってませんよ。毎日、古紙の束を紐で縛りまくってますからね……っと」
男は全力で抵抗していたが、今のアイシャたちに油断はない。
特にアイシャだ。芋虫のように身をくねらせる男の頬を、べしっと平手で引っ叩いた。
「!」
「大人しくしてください」
「――! ――!」
「まだ抵抗するようなら、指を一本ずつ折りますよ?」
「……!」
「私は聖女ですから、たとえ相手が犯罪者であろうとも殺害などは致しません。世界の理に不用意な殺戮はしないと誓っているので」
「………………!」
「また股間を殴られたいですか?」
アイシャはぐっと拳を握り締めて、床に転がされた男の前に突き出した。
拘束され猿ぐつわを嵌められた男は、だらだらと脂汗を流している。
(ユーグレンさんー! あれ、あれー!)
(同情して良い相手ではないが、……これ以上はさすがに哀れだな……)
見ていてわかった。アイシャは静かに切れている。
(トオン。彼女、……あまり怒らせないほうがいいぞ?)
(滅多に喧嘩なんてしませんよ! 俺たちこれでも強い絆で結ばれた仲良しカップルなんで! ……た、多分!)
ケンカなど、以前、深酒をした翌朝にルシウスと一緒にお説教を食らったときぐらいだ。
しかし、確かにあれは怖かった。あのルシウスすら頭を下げて謝ったぐらいだ。
(逆らえない圧がある……)
「えーと。睡眠の魔術……」
「面倒だ。落としてしまえ」
トオンが記憶の中から術式を思い出す前に、ユーグレンが手刀で鋭く男の首の後ろに衝撃を与えて意識を奪った。
後はこのまま、地上に戻ってから騎士団本部に引き渡せばいい。
「嘘だろ、こんなのって」
「もふもふちゃんたち」
震える手でアイシャは、酒漬けにされていた五号以外の雛竜たちを、赤い水溜まりから抱き上げた。
あんなに大きくキラキラと輝いていたガーネットの目は閉じられている。
冷たい。小さな毛玉のような身体からは、もう命の火が消えてしまっていた。
「こんなの、こんなの……」
一号、二号、三号、四号。全員いる。
中でも一番、損傷が激しいのはリーダー格の一号雄だ。背中の翼の片方は折れ、もう片方や前脚が刃物で斬られて床に散らばり落ちている。
四号雌を庇うように事切れていた。
他の雛竜は、剣で深く斬りつけられてそのまま殺されてしまったようだ。
抵抗だけはしたようで、倒れた場所に手足の形で血痕が残っている。
それから三人と一体は、五体の雛竜の亡骸と、拘束して意識を落としたままの侵入者の男を抱えて地上に戻った。
旧王城の庭園で待機していた聖者ビクトリノは、憔悴するアイシャたちと、その腕の中の雛竜たちを見てすべてを悟ったように鎮痛な面持ちで短い白髪の頭を掻いた。
「アイシャ。その仔竜たちは、もう?」
「……はい。残念ながら、全員……」
守れなかった、とアイシャは泣いた。トオンやユーグレンも涙ぐんでいる。
だが雛竜たちをこのままにしておくわけにもいかない。
亡骸を庭園のベンチにひとまず寝かせて、どこに埋葬しようかアイシャとビクトリノが話していると、ちょいちょい、と服の裾を軽く引っ張られた。ユキノだ。
「ピュイ……(アイシャちゃん。聖者様も。ボクたちにお墓はいらないよ)」
「ユキノ君?」
まだ大型化したままだったユキノは、真っ白羽毛に覆われたもふもふの前脚で、雛竜たちの亡骸をまとめて掴んだ。羽毛が血糊で汚れるのもお構いなしだった。
「ゆ、ユキノ君!?」
そのまま、ガーッとひと吠えだ。ネオンブルーの魔力の炎を口から吐いて、雛竜たちを焼いた。
見る見るうちに亡骸は燃え、ふわふわだった羽毛も血肉も骨も何もかも瞬時に炭化して灰となり、さらさらと庭園の地面に落ちて、風に吹き飛ばされて消えていった。
「ピゥ……(ベビーたちよ。もっと一緒にあそびたかった)」
その光景をアイシャたちは呆然と見ているしかできなかった。
亡骸を燃やした後、微かに光る小さな丸い球、〝魂〟が残った。
数は五つ。雛竜たちの数と同じだ。
「ビクトリノ様、これって」
「ああ。ユキノ君やお前たちに懐いてたからな。放っておいてもそのうち天に還るか、同じ種族の雌竜の元に向かうと思うぞ」
そして新たに生まれ直すだろうとのことだった。
そんな話を聞いてしまったアイシャたちはもう堪らない。
今日、ダンジョンに潜る前まであんなに元気に愛らしく飛び跳ねていた雛竜たちが、もういないだなんて。
その事実がひしひしと身に迫ってきた。
誰もが声も出ずに泣いた。
「ピュイッ(ボクはルシウスくんのとこに戻るね!)」
「あっ、ユキノ君!」
自分もガーネットの瞳から大粒の涙をこぼした後で、顔つきを引き締めてユキノはダンジョンへと再び突入していった。
間もなく、ダンジョン内からユキノの咆哮が聞こえてきた。
滅多に聞くことのないその雄叫びの悲しさに、アイシャたちはますます涙が止まらなくなってしまった。
その場に漂っていた小さな魂たちも、気づくと見えなくなっていた。
「もふもふちゃんたち……」
(守ってあげられなくて、ごめんなさい)
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