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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
アドローンの聖女の悲劇
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そもそも、ジューアを始めとした永遠の国ハイヒューマンたちが、カーナ王国の聖女アイシャを気にかける理由がある。
「お前は知らないかもしれないな。『アドローンの聖女の悲劇』を聞いたことがあるか?」
「アケロニア王国で、概要だけは。円環大陸の歴史書刷新の折、貴族講習で習いました」
アドローンの聖女の悲劇は、数千年以上前、胎内の胎児ごと生贄にされた聖女の大事件だ。
円環大陸の北部で起こった、この数千年間で最大の凶事と言われている。
野心を持ったある男が、力を得るため当時の聖女を騙して誘拐し、強姦する罪を犯した。
聖なる魔力の持ち主と交わると、英雄や勇者、偉人の資格を世界から与えられると言われている。その効果を狙っての蛮行だ。
男は言い伝え通り比類なき権力を手に入れ、現在の円環大陸の北部に国を興し、王となった。
監禁された聖女はやがて身籠るが、子供を産むことを男は許さなかった。
当時、自分に聖女と交わる利益を教えた呪術師が男の耳元で囁いたのだ。
『より強大な力を得たければ、聖女を人柱にして新たな王城の礎の生贄とすればいい。聖女の孕んだ胎児ごとなら、より効果は高まるはず』
結果として、男が興した北部の国は、北部から西部にかけて存在した複数の国を吸収しながら広がる大国に成長した。僅か数年間の出来事だったと伝わる。
ただし、大躍進はそこまでだった。
王城の地下の基礎に生きたまま埋められた聖女が死後、男と建国した国、関わった複数の国々を恨んで〝魔〟と変じたのだ。
男の国は、彼が生きている間に文字通り崩壊し、本人と近親者はすべて。国民も半分以上が呪詛によって助かることなく死に絶えた。
王城があった北部の地域はその後、何百年にも渡って、魔になった聖女の怨念で汚染された穢れ地となってしまった。
「確か、アドローンの聖女の魔は、北部の大国カレイド王国に封印されていたとか」
「そう。あの国の建国王は祓いの得意な弓聖のハイエルフだったから。……だが今の女王が幼かったとき、その封印が解けかけてしまった。それを急遽抑えたのが、カーナとこの私」
「確か、今のマーゴット女王が成人された後で、魔は祓われたと聞きましたが」
その通り、とジューアは頷いた。
「ビクトリノが破邪の力で滅した。聖女のほうはな。……で、胎児だった生まれることのなかった魂はカーナが浄化して、西の方角に飛び去ったのを確認している」
「西とは……まさか!」
再びジューアは頷いた。
「今から二十年以上前になるか。そう、このカーナ王国に向けて魂は飛んでいった」
「まさか、そのアドローンの聖女の子の魂がアイシャだと?」
「誤差は数年だ、間違いない。聖女投稿事件後、永遠の国の総合鑑定スキルの持ち主が派遣されている。密かに聖女アイシャを鑑定したところ、魂の履歴にアドローンの聖女が母と書かれてあったそうだ」
該当する人物は、いま永遠の国に一人だけ。
「永遠の国の総合鑑定スキルの持ち主とは……フリーダヤか!」
ルシウスがカーナ王国に来てすぐの頃、確かにあの環創成の魔術師フリーダヤが、トオンの古書店を訪れている。
アイシャもトオンも留守だったから、すぐ帰ったとばかり思っていたら、しっかり目的を果たしていたわけだ。
「魔に変じたほどの聖女の子。その魂だから浄化されても人間を恨む傾向を持っているのではないか、と我らは危惧していた」
「……その心配はありません。そもそもアイシャは虐げられ、冤罪を吹っ掛けられても相手を恨まぬよう自己を抑制できた強い子です」
アイシャの葛藤とその経過は、新聞連載された『聖女投稿』が伝えている通りだ。
「そうだな。その危機を乗り越えて今は環に目覚めた。私もカーナも、これでようやく安心できる」
「ピュイッ」
しばらく沈黙が流れたダンジョン最奥部で、遠慮がちに鳴き声を上げたのは綿毛竜のユキノだ。
「ユキノ君。どうした、皆と一緒に地上に戻らなかったのか」
「ピゥ……(ボクはルシウスくんの随獣だからね。つらいならボクに寄りかかって)」
「ああ……助かるよ」
適当に魔法樹脂で作った台に腰掛けていたが、ユキノに遠慮なくもたれかかった。極上の羽毛に沈み込み、しっかり受け止めてもらう幸福ときたら。
落ち着いた頃、ユキノに雛竜たちが死んだことを聞かされた姉弟は。
「そう、か……」
ほとんど塞がった肩の傷口を押さえながらルシウスはユキノの胸元の羽毛にますます沈み込んだ。
いとけなく愛らしい雛竜たちに皆はメロメロだったが、一番可愛がっていたのはルシウスだ。
もう気力も何もかも無くして萎れてしまった。
(皆、卵の頃から可愛がっていたのに)
そこに鋭く待ったをかけたのはジューアだ。
「待て。雛竜たちは全部か? 私が引き取るはずだった五号も?」
「ピュイ……(うん……)」
「雛竜にはすべて認識タグを装着させていたはずだ。なのになぜ?」
「ピウウ……」
「つまりその冒険者とやらは、この神人ジューアのものを傷つけ、殺したと。生け捕りにしたのは良い判断だ。……生き延びたことを後悔させてやる」
ただでさえ最愛の弟を傷つけられ、ダンジョンに囚われまでしたことで、ジューアの機嫌は最低最悪だった。
唯一生き残った侵入者の男の未来はここで確定したも同然だった。
※マーゴットの「夢見の女王」とここでつながってくることに。あとアドローンの聖女もわりと重要人物かもです。
「お前は知らないかもしれないな。『アドローンの聖女の悲劇』を聞いたことがあるか?」
「アケロニア王国で、概要だけは。円環大陸の歴史書刷新の折、貴族講習で習いました」
アドローンの聖女の悲劇は、数千年以上前、胎内の胎児ごと生贄にされた聖女の大事件だ。
円環大陸の北部で起こった、この数千年間で最大の凶事と言われている。
野心を持ったある男が、力を得るため当時の聖女を騙して誘拐し、強姦する罪を犯した。
聖なる魔力の持ち主と交わると、英雄や勇者、偉人の資格を世界から与えられると言われている。その効果を狙っての蛮行だ。
男は言い伝え通り比類なき権力を手に入れ、現在の円環大陸の北部に国を興し、王となった。
監禁された聖女はやがて身籠るが、子供を産むことを男は許さなかった。
当時、自分に聖女と交わる利益を教えた呪術師が男の耳元で囁いたのだ。
『より強大な力を得たければ、聖女を人柱にして新たな王城の礎の生贄とすればいい。聖女の孕んだ胎児ごとなら、より効果は高まるはず』
結果として、男が興した北部の国は、北部から西部にかけて存在した複数の国を吸収しながら広がる大国に成長した。僅か数年間の出来事だったと伝わる。
ただし、大躍進はそこまでだった。
王城の地下の基礎に生きたまま埋められた聖女が死後、男と建国した国、関わった複数の国々を恨んで〝魔〟と変じたのだ。
男の国は、彼が生きている間に文字通り崩壊し、本人と近親者はすべて。国民も半分以上が呪詛によって助かることなく死に絶えた。
王城があった北部の地域はその後、何百年にも渡って、魔になった聖女の怨念で汚染された穢れ地となってしまった。
「確か、アドローンの聖女の魔は、北部の大国カレイド王国に封印されていたとか」
「そう。あの国の建国王は祓いの得意な弓聖のハイエルフだったから。……だが今の女王が幼かったとき、その封印が解けかけてしまった。それを急遽抑えたのが、カーナとこの私」
「確か、今のマーゴット女王が成人された後で、魔は祓われたと聞きましたが」
その通り、とジューアは頷いた。
「ビクトリノが破邪の力で滅した。聖女のほうはな。……で、胎児だった生まれることのなかった魂はカーナが浄化して、西の方角に飛び去ったのを確認している」
「西とは……まさか!」
再びジューアは頷いた。
「今から二十年以上前になるか。そう、このカーナ王国に向けて魂は飛んでいった」
「まさか、そのアドローンの聖女の子の魂がアイシャだと?」
「誤差は数年だ、間違いない。聖女投稿事件後、永遠の国の総合鑑定スキルの持ち主が派遣されている。密かに聖女アイシャを鑑定したところ、魂の履歴にアドローンの聖女が母と書かれてあったそうだ」
該当する人物は、いま永遠の国に一人だけ。
「永遠の国の総合鑑定スキルの持ち主とは……フリーダヤか!」
ルシウスがカーナ王国に来てすぐの頃、確かにあの環創成の魔術師フリーダヤが、トオンの古書店を訪れている。
アイシャもトオンも留守だったから、すぐ帰ったとばかり思っていたら、しっかり目的を果たしていたわけだ。
「魔に変じたほどの聖女の子。その魂だから浄化されても人間を恨む傾向を持っているのではないか、と我らは危惧していた」
「……その心配はありません。そもそもアイシャは虐げられ、冤罪を吹っ掛けられても相手を恨まぬよう自己を抑制できた強い子です」
アイシャの葛藤とその経過は、新聞連載された『聖女投稿』が伝えている通りだ。
「そうだな。その危機を乗り越えて今は環に目覚めた。私もカーナも、これでようやく安心できる」
「ピュイッ」
しばらく沈黙が流れたダンジョン最奥部で、遠慮がちに鳴き声を上げたのは綿毛竜のユキノだ。
「ユキノ君。どうした、皆と一緒に地上に戻らなかったのか」
「ピゥ……(ボクはルシウスくんの随獣だからね。つらいならボクに寄りかかって)」
「ああ……助かるよ」
適当に魔法樹脂で作った台に腰掛けていたが、ユキノに遠慮なくもたれかかった。極上の羽毛に沈み込み、しっかり受け止めてもらう幸福ときたら。
落ち着いた頃、ユキノに雛竜たちが死んだことを聞かされた姉弟は。
「そう、か……」
ほとんど塞がった肩の傷口を押さえながらルシウスはユキノの胸元の羽毛にますます沈み込んだ。
いとけなく愛らしい雛竜たちに皆はメロメロだったが、一番可愛がっていたのはルシウスだ。
もう気力も何もかも無くして萎れてしまった。
(皆、卵の頃から可愛がっていたのに)
そこに鋭く待ったをかけたのはジューアだ。
「待て。雛竜たちは全部か? 私が引き取るはずだった五号も?」
「ピュイ……(うん……)」
「雛竜にはすべて認識タグを装着させていたはずだ。なのになぜ?」
「ピウウ……」
「つまりその冒険者とやらは、この神人ジューアのものを傷つけ、殺したと。生け捕りにしたのは良い判断だ。……生き延びたことを後悔させてやる」
ただでさえ最愛の弟を傷つけられ、ダンジョンに囚われまでしたことで、ジューアの機嫌は最低最悪だった。
唯一生き残った侵入者の男の未来はここで確定したも同然だった。
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