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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
60:02 食中毒? いいえ、バッドステータスです
60:02
「ストップ、ストップ二人とも!」
この時点でダンジョン突入から一時間が経過している。
いくらなんでも戦闘時間が長過ぎた。
アイシャと鮭の人は白熱して楽しそうだったが、程々のところでトオンが声をかけて切り上げさせた。
もちろん、録画装置も一時停止だ。
「後でジューアお姉様に編集してもらわなきゃ」
「戦闘シーンだけで何十分もあったら視聴者も飽きてしまうものな」
「いや、逆に見応えがあって良いやも」
トオンたちが録画装置を調整している間、アイシャと鮭の人は手持ち無沙汰だった。
「あれ? 結局、決着がつくまでやらずにおしまい? 一度ぐらい本気で聖女様と戦ってみたかったんだけどね」
「私たち、実力拮抗らしいですからね。本気でやったらダンジョンにヒビが入っちゃう」
休憩して良いとのことで、アイシャはヨシュアが創ってくれた魔法樹脂の椅子に座って一息つくことにした。
「中ボスのオレを倒すと、この宝箱が開く仕組みになってたんです。今回はもうクリアってことで、どうぞ」
ヨシュアがこのエリアの出口付近から宝箱を抱えて持ってきた。サイズは標準的な段ボールほどで、木製である。
中に入っていたのは。
「これもブリトーですね」
「ドリンク代わりのポーションもね。適度に補給しながらアトラクション感覚で進めるダンジョンにしようかなって設計案その一で」
「これゲンジさんのポーション! 美味しいですよね、私大好きなんです!」
ということは、ラップサンドのブリトーもルシウス邸の飯ウマ料理人ゲンジの作だろう。
スタッフに確認すると、今の休憩中に軽食を取っても構わないとのこと。
これまでの宝箱からの戦利品ブリトーを食べながら二人で歓談することにした。
しかし直後。異変が起きた。
「あ、これ焼いたサバ! 香ばしくて美味しいのよね」
アイシャが焼きサバ入りのブリトーを一口齧ったとき。
「ぐ……っ、……こ、これは………………グフ……っ」
「あ、アイシャ様? アイシャ様、どうされました!?」
まさか食中毒か!? と傍にいたヨシュアが焦る。
サバは腐りやすい魚だ。痛んでいた可能性もある。
「おかしいな、宝箱の中はアイテムボックスと同じ仕様にしておいたのに」
蓋を開けるまでは時間経過が止まるようになっていたはずなのだが。
ならばと宝箱に一緒に入っていたポーションを飲ませて毒を薄めようとするが、アイシャがその場に倒れるほうが早かった。
「す、スタッフ! スタッフ、緊急事態です! 食中毒の恐れ有り!」
鬼気迫るヨシュアの声に、皆が驚いて駆けつけてくる。
「ブリトーを食べた途端にアイシャ様が苦しまれて。何か毒物が仕込まれている可能性が!」
「ああ、うん……当たってしまったのだな……」
必死のヨシュアに、カズンの反応は芳しくない。
「カズン様? 何を呑気にされてるのですか? 早く毒消しポーション持ってきてください!」
「毒消しでは効果がないと思う……」
「どういうことです!?」
よちよち、よちよち
そこへ小さな足音をたてて、サラマンダーの神人ピアディが現れた。
相変わらずの鈍足でゆっくりと、
「ぷぅ~(おお聖女よ。死んでしまうとはなさけない)」
「いや死んでないから!」
「古き良きRPG感だな……」
「それってカズンの前世の異世界のゲームだっけ? って、今はそんなこと言ってる場合じゃなくて!」
騒ぎの中、ピアディは「ぷぅっ」と一鳴きした。
半透明のベビーピンクの身体から、虹色を帯びたネオンイエローの魔力が吹き出す。その光は、冷や汗を流してお腹を押さえ倒れているアイシャの全身を覆っていく。
「ぷぅ!(ひつようなのは解毒ではない! バッドステータス解除である! めざめよ聖女よー!)」
ピアディが宣言するなり、アイシャの身体が震え出した。
「き、きもちわるい……」
「スタッフさん、バケツバケツー!」
食べたものを吐き出して水で口をすすぎ、ようやくアイシャが復活した。
「て、天国の家族が見えた気がしたわ……」
「そ、そんなに酷いバッドステータスだったの!?」
そう、バッドステータスだ。
「……今回、宝箱に入れる軽食用のブリトーを用意したの、料理人のゲンジさんでしたよね?」
静かな声で、鮭の人ヨシュアが確認してきた。
カズンは自分の幼馴染みの彼が、こういう声を出すときの怖さをよく知っている。
す、と顔を背けて逃げた。
「じゃあユーグレン様」
「えーとだな、そのー」
矛先を向けられたユーグレンの歯切れも悪い。
こちらも顔を背けた……振りをして視線を向けた相手はトオンだ。
「す、すいません! ネタで……ネタ扱いで俺が作ったやつ、一個だけ宝箱に入れてたんです!」
もはや逃げられぬ、とトオンが白状した。
「トオン君は確か、飯マズ付与持ちだったと思ったけど」
「は、はい。で、でも、宝箱は全部で二十四個あって、俺が作ったブリトーはそのうちの一個にしか入ってないはずなのに」
(いいぞ、やれやれーって発破をかけたのは僕たちでもあるが)
(ダンジョンだものな、トラップの一つや二つなくてどうする?)
「1/24の確率で……」
「当たってしまったというわけだ……」
皆が一斉に、口直しのポーションを飲んでいるアイシャを見た。
「ぷぅ?(ねえや、幸運値いくつなのだ?)」
「2です。低いですよね、そのせいで(ある意味)当たりを引き当ててしまったみたい」
口調こそ冷静だったが、アイシャの飴のような茶の瞳は半泣きで潤んでいる。
そしてクソマズの衝撃が落ち着いた頃には怒りが出てきた。
「トオンのばか! あほ! せめて事前に教えてくれてたら覚悟もできたのに!」
「ごめん! ごめんアイシャー!」
痴話喧嘩するアイシャとトオンを横目に、中ボスとスタッフたちはお話し合いだ。
「デストラップですよねえ。冒険者たちが探索中にコレに当たったら、そこでゲームオーバーでは?」
「ここに入れる高ランク冒険者ならバッドステータス耐性持ちも多そうだがな」
「……宝箱コンプリートを目指す者もいるだろうに。こんなの出てきたら心が折れるぞ?」
後に記録映像には、アイシャが倒れたときの映像と一緒に、以下のようなアイシャの注意が追加されたそうだ。
「……このようなトラップもあるので、挑戦される皆さんは気をつけてくださいね」
聖女を倒すほどのデストラップは、その後の挑戦者たちを戦慄させたとか。
( ´ཀ`)...グフッ
「ストップ、ストップ二人とも!」
この時点でダンジョン突入から一時間が経過している。
いくらなんでも戦闘時間が長過ぎた。
アイシャと鮭の人は白熱して楽しそうだったが、程々のところでトオンが声をかけて切り上げさせた。
もちろん、録画装置も一時停止だ。
「後でジューアお姉様に編集してもらわなきゃ」
「戦闘シーンだけで何十分もあったら視聴者も飽きてしまうものな」
「いや、逆に見応えがあって良いやも」
トオンたちが録画装置を調整している間、アイシャと鮭の人は手持ち無沙汰だった。
「あれ? 結局、決着がつくまでやらずにおしまい? 一度ぐらい本気で聖女様と戦ってみたかったんだけどね」
「私たち、実力拮抗らしいですからね。本気でやったらダンジョンにヒビが入っちゃう」
休憩して良いとのことで、アイシャはヨシュアが創ってくれた魔法樹脂の椅子に座って一息つくことにした。
「中ボスのオレを倒すと、この宝箱が開く仕組みになってたんです。今回はもうクリアってことで、どうぞ」
ヨシュアがこのエリアの出口付近から宝箱を抱えて持ってきた。サイズは標準的な段ボールほどで、木製である。
中に入っていたのは。
「これもブリトーですね」
「ドリンク代わりのポーションもね。適度に補給しながらアトラクション感覚で進めるダンジョンにしようかなって設計案その一で」
「これゲンジさんのポーション! 美味しいですよね、私大好きなんです!」
ということは、ラップサンドのブリトーもルシウス邸の飯ウマ料理人ゲンジの作だろう。
スタッフに確認すると、今の休憩中に軽食を取っても構わないとのこと。
これまでの宝箱からの戦利品ブリトーを食べながら二人で歓談することにした。
しかし直後。異変が起きた。
「あ、これ焼いたサバ! 香ばしくて美味しいのよね」
アイシャが焼きサバ入りのブリトーを一口齧ったとき。
「ぐ……っ、……こ、これは………………グフ……っ」
「あ、アイシャ様? アイシャ様、どうされました!?」
まさか食中毒か!? と傍にいたヨシュアが焦る。
サバは腐りやすい魚だ。痛んでいた可能性もある。
「おかしいな、宝箱の中はアイテムボックスと同じ仕様にしておいたのに」
蓋を開けるまでは時間経過が止まるようになっていたはずなのだが。
ならばと宝箱に一緒に入っていたポーションを飲ませて毒を薄めようとするが、アイシャがその場に倒れるほうが早かった。
「す、スタッフ! スタッフ、緊急事態です! 食中毒の恐れ有り!」
鬼気迫るヨシュアの声に、皆が驚いて駆けつけてくる。
「ブリトーを食べた途端にアイシャ様が苦しまれて。何か毒物が仕込まれている可能性が!」
「ああ、うん……当たってしまったのだな……」
必死のヨシュアに、カズンの反応は芳しくない。
「カズン様? 何を呑気にされてるのですか? 早く毒消しポーション持ってきてください!」
「毒消しでは効果がないと思う……」
「どういうことです!?」
よちよち、よちよち
そこへ小さな足音をたてて、サラマンダーの神人ピアディが現れた。
相変わらずの鈍足でゆっくりと、
「ぷぅ~(おお聖女よ。死んでしまうとはなさけない)」
「いや死んでないから!」
「古き良きRPG感だな……」
「それってカズンの前世の異世界のゲームだっけ? って、今はそんなこと言ってる場合じゃなくて!」
騒ぎの中、ピアディは「ぷぅっ」と一鳴きした。
半透明のベビーピンクの身体から、虹色を帯びたネオンイエローの魔力が吹き出す。その光は、冷や汗を流してお腹を押さえ倒れているアイシャの全身を覆っていく。
「ぷぅ!(ひつようなのは解毒ではない! バッドステータス解除である! めざめよ聖女よー!)」
ピアディが宣言するなり、アイシャの身体が震え出した。
「き、きもちわるい……」
「スタッフさん、バケツバケツー!」
食べたものを吐き出して水で口をすすぎ、ようやくアイシャが復活した。
「て、天国の家族が見えた気がしたわ……」
「そ、そんなに酷いバッドステータスだったの!?」
そう、バッドステータスだ。
「……今回、宝箱に入れる軽食用のブリトーを用意したの、料理人のゲンジさんでしたよね?」
静かな声で、鮭の人ヨシュアが確認してきた。
カズンは自分の幼馴染みの彼が、こういう声を出すときの怖さをよく知っている。
す、と顔を背けて逃げた。
「じゃあユーグレン様」
「えーとだな、そのー」
矛先を向けられたユーグレンの歯切れも悪い。
こちらも顔を背けた……振りをして視線を向けた相手はトオンだ。
「す、すいません! ネタで……ネタ扱いで俺が作ったやつ、一個だけ宝箱に入れてたんです!」
もはや逃げられぬ、とトオンが白状した。
「トオン君は確か、飯マズ付与持ちだったと思ったけど」
「は、はい。で、でも、宝箱は全部で二十四個あって、俺が作ったブリトーはそのうちの一個にしか入ってないはずなのに」
(いいぞ、やれやれーって発破をかけたのは僕たちでもあるが)
(ダンジョンだものな、トラップの一つや二つなくてどうする?)
「1/24の確率で……」
「当たってしまったというわけだ……」
皆が一斉に、口直しのポーションを飲んでいるアイシャを見た。
「ぷぅ?(ねえや、幸運値いくつなのだ?)」
「2です。低いですよね、そのせいで(ある意味)当たりを引き当ててしまったみたい」
口調こそ冷静だったが、アイシャの飴のような茶の瞳は半泣きで潤んでいる。
そしてクソマズの衝撃が落ち着いた頃には怒りが出てきた。
「トオンのばか! あほ! せめて事前に教えてくれてたら覚悟もできたのに!」
「ごめん! ごめんアイシャー!」
痴話喧嘩するアイシャとトオンを横目に、中ボスとスタッフたちはお話し合いだ。
「デストラップですよねえ。冒険者たちが探索中にコレに当たったら、そこでゲームオーバーでは?」
「ここに入れる高ランク冒険者ならバッドステータス耐性持ちも多そうだがな」
「……宝箱コンプリートを目指す者もいるだろうに。こんなの出てきたら心が折れるぞ?」
後に記録映像には、アイシャが倒れたときの映像と一緒に、以下のようなアイシャの注意が追加されたそうだ。
「……このようなトラップもあるので、挑戦される皆さんは気をつけてくださいね」
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