婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

激おこのピアディ

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「そんな状態でしたから、私はあの頃、いつもお腹が空いていて。毎回翌日には教会に戻れたので、自分の部屋に戻る前にこっそり教会への供物をくすねていました。熱心な信徒だった方はご存知ですね。供物用の聖餅ウエハースがあったので……一枚や二枚くすねても案外バレなかったものです」

 アイシャは小さく笑ったが、観客たちは誰も笑うどころではなかった。

 聖餅ウエハースは市販の菓子とは全然違うものだ。澱粉をぺらぺらの紙のように薄く加工した宗教儀式用の食品で、食べても味はなく腹に溜まる類のものでもない。
 それを一枚二枚食したところで、空腹は紛れない。――円環大陸の教会が使う聖餅ウエハースは一枚が硬貨程度のサイズしかないからだ。

「さて、コーヒーは酷い味だったでしょう。もう結構ですよ。飲まなくて結構です」

 そうアイシャが声をかけると、罪人たちはホッとしてカップを置いた。

「口の中の後味も悪いでしょう。浄化しましょうか。清浄魔法クリーン

 軽くアイシャが両手を振ると、白い聖衣ローブの腰回りにネオングリーンの魔力を帯びた、白い光の円環が現れた。
 リンクだ。この頃になると聖女アイシャが過酷な体験を経て、リンク使いに覚醒したことは公式発表されている。
 実際に初めて見た者が会場内のほとんどだろう。

 リンクを通じて清浄魔法クリーンを発動し、アイシャは罪人たちの口の中のコーヒーの後味をクリーニングした。

 同時に、聖女アイシャ特有の、オレンジに似た爽やかな芳香が舞台上から会場内に広がっていく。
 香りを嗅ぐと同時に、興奮していた観客たちも鎮まっていった。

 これで公開制裁は終わりだろうか?
 と期待を見せた罪人たちにやや失望しながらアイシャは続けた。

「今回、宰相ヨシュアが設けたこの公開制裁に、私は一つだけ期待することがありました。罪人となってしまったあなたがたが、反省してくれることを、です」

 言って、アイシャは飴のような茶の瞳でじっと罪人十三名を見た。
 ほとんどが聖女の視線から目を逸らした。さすがに飯マズコーヒー罰の後のため、睨み返してくる気概のある者もいなかった。

「何をどのように反省するかは、お任せします。自らの良心に訊ねると良いでしょう」

 これで終わりだ。何と聖女アイシャは罪人たちを叱責もせず、罰だったコーヒーを飲みきることすら強要しなかった。

「も、申し訳ありませんでした……」

 元侍女の一人が震える声で、アイシャに向けてその場で土下座した。
 他の罪人たちも次々と元侍女に倣って土下座していく。

 おお、と観客たちから歓声が上がる。これぞ聖女アイシャの威光だと盛り上がってくる。

 だが、しかし。



「……本気で反省している者は半分もおらぬな」

 ぽそっとルシウスが周りに聞こえない程度の声で呟いた。聞こえたのは前に立っているアイシャと、一つ席を空けた隣のユーグレンだけだ。
 ルシウスも聖者だ。聖女のアイシャと同じで、聖なる魔力の持ち主には人間の嘘は通用しない。

 そしてここにはもう一体ひとり、聖なる魔力持ちがいた。

「ぷぅ!(おのれきさまら! 反省ひとつまともにできぬとは、人の心をもたぬ愚か者どもめ!)」

 宰相の鮭の人に抱っこされた腕の中から、短い四肢を振り回して神人ピアディが大暴れしている。

「ぷぅ!(聖女ねえやをいじめた悪者どもめ! ねえやは許してもわれは激おこなのだ!)」
「ぴ、ピアディ様。どうか」

 落ち着いて、と鮭の人が焦って止めるより、ウパルパが口を大きく開くほうが早かった。

「ぷぅー!(呪われよ罪人ども! ほんとうのほんとうに反省するまで、おいしいごはんは食べられぬものと知れ!)」

 神人ピアディの半透明のボディから、虹色を帯びたネオンイエローの魔力が吹き出し、空気の抜けるような鳴き声とともに罪人たちに向けて放たれた。

「ピアディちゃん!? 呪いって何をしたのです!?」

 慌てたアイシャと一緒に、ルシウスとユーグレンも席から立って罪人たちに駆け寄った。
 神人ピアディを抱えて鮭の人と、舞台の奥からトオンとカズンも駆けつけた。

「ぷぅ(いのちまではとらぬ。そもそもわれ、祝福特化の歌聖なり。かわゆい愛されウパルパだものーちょこっときつめのおしおきに留めたのだー)」
「お仕置きって……」

 罪人十三名は神人ピアディの魔力に包まれたままだ。

 だが、皆が見ている目の前で、虹色の煌めきを帯びたネオンイエローの魔力はすぐに消えていった。

「ぷぅ(とうっ)」

 ピアディは鮭の人の腕の中から掛け声とともに飛び降り、罪人たちの飲み残しのコーヒーカップが置かれた台の上にぷにっと着地した。

「ぷぅ(きさまら、残していたコーヒーをのむのだ)」
「えっ?」
「ぷぅ!(のーむーのーだー!)」

 たしっ、たしっと短い前脚でカップを示す。
ゆる可愛い愛されウパルパとは思えないほど強い圧で、罪人たちに強要した。

 言われるままに再びコーヒーを飲んだ罪人たちのうち、五名がゴフッと吹き出すような咽せ方をして咳き込んだ。

 ところが残りの八名は何と、何事もなかったようにゴクゴクと冷めたコーヒーを飲んでいくではないか。

「これはいったいどういうことだ? ピアディよ」
「ぷぅ(マズがった者は反省した者。ふつうに飲めた者は反省しなかった愚か者。反省するまで味覚なしなのだ)」
「!?」
「ぷぅ(一度でもきちんと反省できたら解除なのだ)」
「そうか……」

 ルシウスは大きな手でぷにっとピアディの小さな身体を抱き上げ、すべすべしっとりのボディを優しく撫で撫でした。

 一度でよいのよ? とピアディはウルトラマリンの大きくつぶらな目で、聖剣の聖者様おとうたんの手の中から罪人たちを見つめた。

 ――そう。いまこの瞬間にでも反省できたなら、即時解除も可能である。










※聖餅(せいへい、聖体とも)は主にキリスト教でキリストの象徴として儀式に使われる食品。ウエハース、パンなど形態は様々だそうな。

本作では教会や神殿に供物として捧げて、後日司祭や神官のご祈祷されたものを信徒や参拝客は「お下がり」でいただけます。ごりやく!
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