271 / 306
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
7.〝しごでき〟の系譜~リースト家の男たち
しおりを挟む
新生カーナ神国の宰相に抜擢された鮭の人はとにかくフットワークの軽い男だった。
住居は叔父ルシウスの屋敷と、旧王城をそのまま転用した官邸に一室ずつ。
神人ピアディの本拠地となった海上神殿ポセイディアを中心として、小さなウーパールーパーの主な活動範囲にはそれぞれを結ぶ空間転移装置が設置されている。
その装置を利用して、設置場所である海上神殿、官邸、王都神殿、ルシウス邸、そしてトオンの古書店へと鮭の人は自由に動いていた。
しかも、足元には彼特有の群青の魔力を帯びた環を常に出しながらだ。
この国の首脳部、新宰相は環使いだぞと周知させるために。
神人ピアディの大きな目の色と同じ鮮やかなウルトラマリンカラーの軍服は、彼の青銀の髪や白い肌によく映えた。
今の首脳部でこの色をまとっているのは鮭の人だけだ。支配者ピアディの寵愛を全身で表しているともいえる。
その姿を周囲に余すことなく見せつけ、ついでに神人ピアディと主だった国内有力者たちとの面通しをどんどん進めていった。
かと思えば、トオンの古書店まで来ては一階の食堂でお茶を飲み、アイシャやカズンが作った菓子や軽食を摘む優雅な姿を見せている。
アイシャやトオンはもちろん大歓迎だった。何せ実際に会う前から好感度が上に振り切れていたぐらいなので。
「ヨシュアさん。無理してない? あまり忙しいようなら私もトオンもできる限り助けになるわ」
とアイシャが心配げに尋ねると、鮭の人は軍服のジャケットを脱いだ白いシャツ姿の両肩を軽くすくめて見せた。
「忙しそうに見えますか? アイシャ様」
「今はリラックスして見えるけど……」
何せ彼はほぼ毎日、トオンの古書店に来ている。
日によっては早朝から来て、厨房の主カズンと一緒に昼食を作っていたりする。
それどころか、夕方前に食材持参で来てはやはりカズンと一緒に皆の夕飯の手伝いをしていることも多かった。
アイシャたちが神殿やルシウス邸に赴いたときも大抵その場にいる。
もちろん官邸や騎士団を訪れたときも、気づいたらなぜかいる。
不思議そうなアイシャに、幼馴染みだというカズンは言う。
「アイシャ、そいつなら大丈夫だ。リースト家の人間は基本的に〝しごでき〟だからな。やることやって自由時間を確保するなんてのはお手の物だ」
「「しごでき!?」」
「仕事ができるの略だ」
「斬新な略し方するね……」
読書家のトオンも知らなかった略し方のようで驚いている。
「ええ、〝しごでき〟です。自分で言うのもなんですが、我がリースト家の者は本家から末端の分家まで優秀ですよ。秘密、があるんです」
秘密、のところを殊更ゆっくり声を落としてゆっくり言う鮭の人に、アイシャたちはワクワクした気分になった。
何か、ものすごい秘せられた奥義が語られる予感がする!
「ヨシュア、そこ詳しく」
鮭の人ファンクラブ会長のユーグレンがすかさず懐から手帳とペンを出してスタンバイした。
「リースト家の者たちの秘密はですね……」
住居は叔父ルシウスの屋敷と、旧王城をそのまま転用した官邸に一室ずつ。
神人ピアディの本拠地となった海上神殿ポセイディアを中心として、小さなウーパールーパーの主な活動範囲にはそれぞれを結ぶ空間転移装置が設置されている。
その装置を利用して、設置場所である海上神殿、官邸、王都神殿、ルシウス邸、そしてトオンの古書店へと鮭の人は自由に動いていた。
しかも、足元には彼特有の群青の魔力を帯びた環を常に出しながらだ。
この国の首脳部、新宰相は環使いだぞと周知させるために。
神人ピアディの大きな目の色と同じ鮮やかなウルトラマリンカラーの軍服は、彼の青銀の髪や白い肌によく映えた。
今の首脳部でこの色をまとっているのは鮭の人だけだ。支配者ピアディの寵愛を全身で表しているともいえる。
その姿を周囲に余すことなく見せつけ、ついでに神人ピアディと主だった国内有力者たちとの面通しをどんどん進めていった。
かと思えば、トオンの古書店まで来ては一階の食堂でお茶を飲み、アイシャやカズンが作った菓子や軽食を摘む優雅な姿を見せている。
アイシャやトオンはもちろん大歓迎だった。何せ実際に会う前から好感度が上に振り切れていたぐらいなので。
「ヨシュアさん。無理してない? あまり忙しいようなら私もトオンもできる限り助けになるわ」
とアイシャが心配げに尋ねると、鮭の人は軍服のジャケットを脱いだ白いシャツ姿の両肩を軽くすくめて見せた。
「忙しそうに見えますか? アイシャ様」
「今はリラックスして見えるけど……」
何せ彼はほぼ毎日、トオンの古書店に来ている。
日によっては早朝から来て、厨房の主カズンと一緒に昼食を作っていたりする。
それどころか、夕方前に食材持参で来てはやはりカズンと一緒に皆の夕飯の手伝いをしていることも多かった。
アイシャたちが神殿やルシウス邸に赴いたときも大抵その場にいる。
もちろん官邸や騎士団を訪れたときも、気づいたらなぜかいる。
不思議そうなアイシャに、幼馴染みだというカズンは言う。
「アイシャ、そいつなら大丈夫だ。リースト家の人間は基本的に〝しごでき〟だからな。やることやって自由時間を確保するなんてのはお手の物だ」
「「しごでき!?」」
「仕事ができるの略だ」
「斬新な略し方するね……」
読書家のトオンも知らなかった略し方のようで驚いている。
「ええ、〝しごでき〟です。自分で言うのもなんですが、我がリースト家の者は本家から末端の分家まで優秀ですよ。秘密、があるんです」
秘密、のところを殊更ゆっくり声を落としてゆっくり言う鮭の人に、アイシャたちはワクワクした気分になった。
何か、ものすごい秘せられた奥義が語られる予感がする!
「ヨシュア、そこ詳しく」
鮭の人ファンクラブ会長のユーグレンがすかさず懐から手帳とペンを出してスタンバイした。
「リースト家の者たちの秘密はですね……」
18
あなたにおすすめの小説
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。