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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
ユキノ最初の卵
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雛竜五号のポーションを全員で飲みきり、ようやく落ち着いた頃。
雛竜たちの墓を作ろうと話し合いを始めたアイシャたちだったが、ユキノが不要と断った。
「ピュイッピュイッ(ボクたちは人間じゃないからね。モニュメントは必要ないのさ)」
亡くなった雛竜たちの魂はぼんやり光ってはたまにユキノやアイシャたちの周りに現れ漂う。まだ天に還る様子がなかった。
「もふもふちゃんたち、ユキノ君のことが大好きだったものね」
「……くっ、俺たちだって雛たちが大好きだったよ!」
「ああ。悲しいよな……あんなに可愛く懐いてくれてたのに……私以外にはだが」
雛竜たちを思い出して涙ぐむアイシャの肩にピアディがよじよじとよじ登り、慰めるように小さなお手々で頬をぺちぺちと叩いた。
「ぷぅ(ねえやーげんきだすのだー)」
とーう! と小さなウパルパは肩からテーブルに飛び乗った。ビーン……と着地の衝撃でぷるぷる半透明のボディが震えている。
震えが収まるとピアディはアイシャを見上げた。短い四肢を踏ん張って身体を揺らすと、まだ幼体で大きなお尻がふりふりと左右に揺れた。
そのピアディに合わせて、仔犬サイズに縮んでいたユキノもお尻をふりふり。二体ともなかなかのエンターテイナー振りだ。
「ふっ、……あはは、可愛い! ピアディちゃんもユキノ君もかわいいわ!」
「ぷぅ」
「ピュイッ」
愛らしい二体のダンスを見てアイシャの胸の中の塞がりも晴れてきた。
「……守ってみせるわ。もう二度と、大切なものを傷つけさせない」
二体をそっと抱きしめてアイシャは誓った。
腰回りにはネオングリーンの魔力を帯びた白い環が現れ、光っている。
「ピュイッ(アイシャちゃん。僕とお嫁さんの卵にまた祝福くれない?)」
「あ、そうね。古書店に帰る前に寄らせてもらうわ」
「卵?」
トオンたちが顔を見合わせている。初めて聞く話だ。
「ピーピュアッ(僕とお嫁さんの最初の卵をルシウスくんに預けてあるんだ。訳アリでね……もう何年も孵化しないで卵のまんまなんだ)」
「卵自体に生きる意志はあるみたいなの。ルシウスさんや私が時折り聖なる魔力を与えて様子を見てるんだけど」
そんな話をしている間に、有能な秘書ユキレラがルシウスの部屋から話題の卵を持ってきた。
小さな取手付きのカゴの中に柔らかな綿毛竜の白い羽毛が敷かれ、サイズは大人の男の拳より一回り大きい。
白い卵の殻はうっすらと透けて、中の竜の雛が目を瞑っている様子が見えた。
「卵に環が……?」
卵には細い細い糸のような環が殻の周りに薄っすら光っていた。
人間以外に環を出現させている光景は初めて見たとユーグレンがしげしげと卵を見つめている。
「ええ。前に私が聖なる魔力を与えたときに、私の環に反応して出たみたい」
「なるほど」
「命が消えればまた新しい命が生まれてくる。……だと良いのだが」
ルシウスが麗しの顔に憂いを帯びて呟いた。雛竜たちだけでなく、この孵らない卵とも一番付き合いの長いのは彼だ。いろいろと思うところがあるのだろう。
「ぷぅ(おまえ、孵化したらわれのおとうとぞ? む? もしかしたらいもうとかも?)」
小さな手でピアディがつん、と卵を突っついた。ついでにぷぅっと一鳴きして虹色を帯びたネオンイエローの聖なる魔力を卵に向けて放射する。
半透明の白い卵は環を通じてピアディの魔力を吸収したが、残念ながらぴくりとも動かなかった。
「環が出たということは、卵に生きる意思がある証拠だ。アイシャ、ピアディ。しばらく聖なる魔力のチャージをお願いできるか?」
「もちろんです」
「ぷぅ!(われたちにまかせるのだー)」
そんな話をルシウス邸でしていた日の夜。
ピアディは兄嫁・神人カーナを訪ねた。黒髪と琥珀の瞳を持つ優美な彼、いや彼女はカーナ神国を訪れて以来、ピアディが浮上させた海上神殿に滞在中なのだ。
「ぷぅぷぅ~?(カーナたん。綿毛竜の雛たちを失ったアイシャねえやたちに、われなにかなぐさめをあたえたいのだ)」
「慰め? 例えば?」
「ぷぅ!(雛をとりもどしたら、ねえやたち喜んでくれるかも?)」
ふんす、とドヤ顔をしてみせたピアディをカーナ姫は手のひらに乗せて苦笑した。
「ピアディ。一度死んだ者を生き返らせるのは骨が折れるよ。医聖なら死者蘇生の魔法を使えるが、それも死んでから数日以内じゃないと無理だ」
「ぷぅ……(雛たち、もうユキノたんが荼毘にふしてしまったって……)」
しょんぼりしてしまった義弟あるいは義妹の柔らかな半透明ボディを撫でて宥めた。
「生き返らせることは無理だけど、夢の中で会いに行くだけならできるよ」
「ぷぅ?」
雛竜たちの墓を作ろうと話し合いを始めたアイシャたちだったが、ユキノが不要と断った。
「ピュイッピュイッ(ボクたちは人間じゃないからね。モニュメントは必要ないのさ)」
亡くなった雛竜たちの魂はぼんやり光ってはたまにユキノやアイシャたちの周りに現れ漂う。まだ天に還る様子がなかった。
「もふもふちゃんたち、ユキノ君のことが大好きだったものね」
「……くっ、俺たちだって雛たちが大好きだったよ!」
「ああ。悲しいよな……あんなに可愛く懐いてくれてたのに……私以外にはだが」
雛竜たちを思い出して涙ぐむアイシャの肩にピアディがよじよじとよじ登り、慰めるように小さなお手々で頬をぺちぺちと叩いた。
「ぷぅ(ねえやーげんきだすのだー)」
とーう! と小さなウパルパは肩からテーブルに飛び乗った。ビーン……と着地の衝撃でぷるぷる半透明のボディが震えている。
震えが収まるとピアディはアイシャを見上げた。短い四肢を踏ん張って身体を揺らすと、まだ幼体で大きなお尻がふりふりと左右に揺れた。
そのピアディに合わせて、仔犬サイズに縮んでいたユキノもお尻をふりふり。二体ともなかなかのエンターテイナー振りだ。
「ふっ、……あはは、可愛い! ピアディちゃんもユキノ君もかわいいわ!」
「ぷぅ」
「ピュイッ」
愛らしい二体のダンスを見てアイシャの胸の中の塞がりも晴れてきた。
「……守ってみせるわ。もう二度と、大切なものを傷つけさせない」
二体をそっと抱きしめてアイシャは誓った。
腰回りにはネオングリーンの魔力を帯びた白い環が現れ、光っている。
「ピュイッ(アイシャちゃん。僕とお嫁さんの卵にまた祝福くれない?)」
「あ、そうね。古書店に帰る前に寄らせてもらうわ」
「卵?」
トオンたちが顔を見合わせている。初めて聞く話だ。
「ピーピュアッ(僕とお嫁さんの最初の卵をルシウスくんに預けてあるんだ。訳アリでね……もう何年も孵化しないで卵のまんまなんだ)」
「卵自体に生きる意志はあるみたいなの。ルシウスさんや私が時折り聖なる魔力を与えて様子を見てるんだけど」
そんな話をしている間に、有能な秘書ユキレラがルシウスの部屋から話題の卵を持ってきた。
小さな取手付きのカゴの中に柔らかな綿毛竜の白い羽毛が敷かれ、サイズは大人の男の拳より一回り大きい。
白い卵の殻はうっすらと透けて、中の竜の雛が目を瞑っている様子が見えた。
「卵に環が……?」
卵には細い細い糸のような環が殻の周りに薄っすら光っていた。
人間以外に環を出現させている光景は初めて見たとユーグレンがしげしげと卵を見つめている。
「ええ。前に私が聖なる魔力を与えたときに、私の環に反応して出たみたい」
「なるほど」
「命が消えればまた新しい命が生まれてくる。……だと良いのだが」
ルシウスが麗しの顔に憂いを帯びて呟いた。雛竜たちだけでなく、この孵らない卵とも一番付き合いの長いのは彼だ。いろいろと思うところがあるのだろう。
「ぷぅ(おまえ、孵化したらわれのおとうとぞ? む? もしかしたらいもうとかも?)」
小さな手でピアディがつん、と卵を突っついた。ついでにぷぅっと一鳴きして虹色を帯びたネオンイエローの聖なる魔力を卵に向けて放射する。
半透明の白い卵は環を通じてピアディの魔力を吸収したが、残念ながらぴくりとも動かなかった。
「環が出たということは、卵に生きる意思がある証拠だ。アイシャ、ピアディ。しばらく聖なる魔力のチャージをお願いできるか?」
「もちろんです」
「ぷぅ!(われたちにまかせるのだー)」
そんな話をルシウス邸でしていた日の夜。
ピアディは兄嫁・神人カーナを訪ねた。黒髪と琥珀の瞳を持つ優美な彼、いや彼女はカーナ神国を訪れて以来、ピアディが浮上させた海上神殿に滞在中なのだ。
「ぷぅぷぅ~?(カーナたん。綿毛竜の雛たちを失ったアイシャねえやたちに、われなにかなぐさめをあたえたいのだ)」
「慰め? 例えば?」
「ぷぅ!(雛をとりもどしたら、ねえやたち喜んでくれるかも?)」
ふんす、とドヤ顔をしてみせたピアディをカーナ姫は手のひらに乗せて苦笑した。
「ピアディ。一度死んだ者を生き返らせるのは骨が折れるよ。医聖なら死者蘇生の魔法を使えるが、それも死んでから数日以内じゃないと無理だ」
「ぷぅ……(雛たち、もうユキノたんが荼毘にふしてしまったって……)」
しょんぼりしてしまった義弟あるいは義妹の柔らかな半透明ボディを撫でて宥めた。
「生き返らせることは無理だけど、夢の中で会いに行くだけならできるよ」
「ぷぅ?」
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