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第3章 磐井郡の合戦 3
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同年晩秋。磐井郡、河崎柵。
頼義率いる本陣の合流を目前に控え、柵の付近に布陣していた国府、気仙の先行部隊が俄かに慌ただしい動きを見せ始めていた。
冬季に入る前に河崎を落とし、その戦果を以て再度朝廷に援軍を要請する。そして雪解けを待つうちに増援を迎え、一気に衣川、胆沢を攻略する。
国府軍にとって、短期決戦を果たすためにはこの度の合戦は是が非でも成果を挙げなければならぬ一戦であった。
その動きを察知した安倍、磐井勢もまた、両軍合わせて千五百の兵力を以て柵の護りを堅めていた。
やがて、南の山裾を縫うように、敵の先行部隊が姿を現した。その数、一千を超えるであろう。先頭に立ち率いるのは国府軍武将、藤原経清、そして気仙郡司、金為時である。
矢倉から見下ろす良昭、為行の前に、単騎為時が進み出た。
「やあやあ、相も変わらず、吹けば飛ぶような鳥小屋よのう。一時見ぬうちに、ようもこれだけ案山子を並べて飾ったものじゃ! どうやら、磐井の田舎大工は普請の仕方も判らぬ耄碌揃いと見えるわい!」
戦名乗りを素っ飛ばし、開口一番に砦の上で仁王立ちする為行に罵声を飛ばす。どっと背後の気仙勢が大笑する。
「ハっ、この前の蚤の嚏のような攻め様では案山子も転ばぬわ! 腰抜けの泥亀共、また首を縮込めたまま甲羅干しにでも来おったか。せいぜい、室根颪に風邪引かぬうちに北上川で泡でも吐きながらとっとと気仙まで流れて帰るがよい!」
嘲笑を浮かべながら為行がやり返す。すると砦の磐井勢も「ええぞ、ええぞ!」と沸き上がる。
「言うてくれるわ、碌に弓も撃ち返せぬ臆病者はどっちじゃ! 貴様など痰壺の底で便所蟋蟀のように胡瓜の尻尾でも齧りながら尾羽根震わせて泣いておるのが似合いじゃて!」
今の兄の罵声が相当癇に障ったらしく、かっと顔中に青筋を浮かべた為行が吠え返す。
「何を抜かすか! 蟋蟀というなら、鼻たれの頃、昼寝をしていて大鼾掻いた口の中に油虫が入り込んだものを寝惚けて噛み潰し、口に足をこびりつけたまま母上にびいびい泣きついていたのは貴様ではないか!」
これを聞いた為時も真っ青になりブルブル震えながら怒鳴り返す。
「こンの野郎、儂ですら忘れていたことを蒸し返しおって! ならば貴様が寝小便たれの頃、佃煮じゃというて儂が貴様に食わしてやったものの正体が一体何であったか、今ここで教えてやろうか!」
「……おい、兄弟喧嘩でも始めるおつもりか?」
横で聞いていた良昭が呆れたように口を挟む。お互いが言い返すたびに両陣営の将兵達が一緒になって囃し立てるのを、経清勢、安倍勢の将兵達は皆置いていかれたような顔をして見守っていた。
経清もまた何か言いたげな顔で、しかし掛ける言葉が見つからぬという様子で怒り狂い吠え続ける為時の横顔を見つめている。
これより大分前。登米郡、国府軍本陣。
先行隊への合流を控え、慌ただしく準備をしていた頼義が、ちらりと東の空を見上げる。
「そろそろ先鋒の者らが動き始める頃合か」
にやりと笑いながら、陣の奥に置かれていた小脇に抱えられるほどの大きさの桶に目を遣る。
「この戦の勝利には、朝廷の支持と、我らへの援軍が掛かっておるのじゃ。何としても勝たねばならぬ。……経清も、為時も、せいぜい発奮してくれることじゃろうて。次は自分がああなるものと、しっかり肝に銘じたことであろうからのう」
傍に控えた元親も、ちらりと同じ方へ視線を向ける。
頼義の言葉に追従しながらも、内心では憤懣の余り歯軋りを堪えていた。
(いくら敵方の身内とはいえ、自分に忠誠を示していた配下に、ここまで惨い仕打ちが下せるとは。……話には聞いていたが、源氏というのは、これほどに残酷な一門であったか!)
同じく父の前に跪く義家もまた、平然としているように見えて、静かな怒りを抑えているのが伺える。
(……永衡殿の件は、明らかに言い掛かり、無実の断罪であった。これ程までの残虐に手を染めてまで、父上はこの戦に、陸奥の地に一体何を求めておいでか?)
「さて、そろそろ出立するぞ。――諸共よ、いざ参ろうぞ。いよいよこの未開の俘囚地を我ら源氏の輝かしき武勇、その新たな栄えある光明を以て日の本に照らさん!」
そう宣言し刀の柄に手をやった総大将の元に、突如他陣の兵士が息せき切って駆け込んで来た。
「伝令であります!」
血相を変えた兵士の只ならぬ様子に、一体何事かと陣内の武将達が思わず立ち上がる。
「只今物見の者より、貞任率いる陸奥勢一万余りが、多賀城へ向けて進軍しているとの知らせがありましてござる!」
「何だとっ!?」
それを聞いたその場にいる全員が総毛立った。
河崎柵攻略のため、主力の出払った国府に残っている兵力は千名程度である。一万の大軍で攻められればひとたまりもない。
留守中に国府を俘囚に攻め落とされたなどという事になれば、鬼切部の敗北など比較にならぬ前代未聞の大失態である。当然、頼義の首が飛ぶだけでは済まぬ。
「敵勢は既に大衡を抜け、利府勿来関に迫る勢い。多賀城に攻め寄せるは時間の問題でござる!」
「た、直ちに陣を撤収し、国府へ引き返す。直ぐに伝令を飛ばし、先鋒勢を呼び戻して参れ!」
頼義が決断するのは早かった。
先行の経清らの兵を合わせても四千程度。柵を落とすには十分な数だが、今から大急ぎで追いついたとしても、陸奥勢主力一万を相手に果たして勝てるかどうか。とはいえ、いずれ追いつかなければ国府は落とされ、源氏の系統はごっそり表舞台から消し去られることだろう。
伝令に皆まで言わせぬうちに命令を下し、大慌てで陣を引き払いに掛かる。
ばたばたと皆が畳み方をしている隙に、伝令の兵は段上に置かれていた桶に深く一礼すると、それをこっそり小脇に抱え、「伝令、只今立ちます!」と頼義らに敬礼を示し足早に陣を去っていった。
再び磐井郡、河崎柵。
「笑わせてくれるわ、貴様が矢倉の屋根で呆けた顔を晒しておるのを見て、
随分苔の生えた汚い瓦を拾ってきたものじゃと吹き出すところじゃったわい!」
「よう言えたものじゃその馬面で。貴様がその気仙の駄馬に乗って歩いてくるのを見つけた時は、何じゃ馬が馬の上に跨って真昼間からややこしいことでもしておるものかと笑いが止まらんかったわ!」
この罵り合い、果たしていつまで続くものかと蚊帳の外にいる安倍、国府両将兵達は両陣営の唾競り合いを呆れながら眺めていた。
「貴様、謂うに事欠いて天下に聞こえる気仙の名馬を罵倒するか! それだけは聞き捨てならんぞ!」
「面白いことを言うわい。ならばその名馬とやらと磐井の駿馬のどちらが良馬か、今ここで競ってみようか。どうじゃ!」
「……頼むから、今はやめてくだされよ」
隣で良昭が窘める。ちらりと敵勢を見やり、小声で小さく付け加えた。
「まだ早い。――まだ向こうからの合図が見えませぬ」
そこへ、二人の舌戦に割り込むように一騎の騎馬武者が息を切らして駆け込んで来た。
「経清様、為時様、直ちにお退きください!」
荒い息を整えながら、何事かと目を剥く両指揮官に告げる。
「御大将からの御命令であります。直ちに多賀城へ引き返せ、と。――国府に敵勢が大挙して向かっております!」
気仙勢が顔色を変えてどよめいた。
「敵の数は?」
厳しい顔で問う経清に伝令が息を整えながら答える。その小脇に抱える桶に、経清がちらりと視線を向けた。
「栗原の物見より、一万を優に超える大軍であると。既に国府の目前まで迫っている様子」
「い、一万っ!?」
為時が思わず息を飲む。
打って変わったように只ならぬ雰囲気に包まれた敵勢に為行の罵声が浴びせられる。
「どうした、対局の真っ最中にこそこそ内緒話なぞ始めよって! 「待った」を聞いてやった覚えはないぞ!」
「じ、事情が変わったのじゃ! この勝負、次に預けておくぞ、首を洗って待っておれ!」
「御館様!?」
「御大将の御命じゃ、逆らおうものなら儂らも永衡殿の二の舞となろうぞ! 者共、直ちに多賀城へ引き返す! 撤収じゃ!」
大慌てで馬の首を返す敵勢に、矢倉から見下ろす為行が呵々大笑する。
「やいやい、折角互いの名馬を競い合おうというのではないか、遠慮せずに向かってくるがよい!」
砦から嘲笑の雨を降らせる磐井勢に向けて経清が手を振って叫んだ。
「馬の勝負はお預けする!」
それを見て良昭が頷く。
「為行殿、今じゃ!」
「気仙よ、これが磐井の誇る駿馬の数々じゃ、その蹄の捺印を背中の土産に帰るがよい! ――かかれっ!」
号令一下、砦の門が開かれ数十騎の騎馬が雪崩打って飛び出し、気仙勢に挑みかかる。突如撤収を命じられ混乱していた気仙兵達は大いに動揺し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「為時殿、ここは某が食い止めます。先に撤収を!」
「つ、経清殿、忝い!」
這う這うの体で磐井勢に追い立てられる気仙勢を見送ると、経清率いる国府勢は雄叫び勇ましく上げながら砦の門へ馬を走らせた。最後に伝令に駆け付けた武者がそれに続き門を潜った。
――而して気仙の郡司、金為時等を遣して、頼時を攻めしむ。頼時、舎弟の僧良昭等を以て之を拒がしむ。
――是に於て、経清等、大軍の擾乱するの間に属して、私兵八百余人を将ゐて頼時に走る。
磐井郡の合戦は、陸奥側の圧勝に終わったのである。
頼義率いる本陣の合流を目前に控え、柵の付近に布陣していた国府、気仙の先行部隊が俄かに慌ただしい動きを見せ始めていた。
冬季に入る前に河崎を落とし、その戦果を以て再度朝廷に援軍を要請する。そして雪解けを待つうちに増援を迎え、一気に衣川、胆沢を攻略する。
国府軍にとって、短期決戦を果たすためにはこの度の合戦は是が非でも成果を挙げなければならぬ一戦であった。
その動きを察知した安倍、磐井勢もまた、両軍合わせて千五百の兵力を以て柵の護りを堅めていた。
やがて、南の山裾を縫うように、敵の先行部隊が姿を現した。その数、一千を超えるであろう。先頭に立ち率いるのは国府軍武将、藤原経清、そして気仙郡司、金為時である。
矢倉から見下ろす良昭、為行の前に、単騎為時が進み出た。
「やあやあ、相も変わらず、吹けば飛ぶような鳥小屋よのう。一時見ぬうちに、ようもこれだけ案山子を並べて飾ったものじゃ! どうやら、磐井の田舎大工は普請の仕方も判らぬ耄碌揃いと見えるわい!」
戦名乗りを素っ飛ばし、開口一番に砦の上で仁王立ちする為行に罵声を飛ばす。どっと背後の気仙勢が大笑する。
「ハっ、この前の蚤の嚏のような攻め様では案山子も転ばぬわ! 腰抜けの泥亀共、また首を縮込めたまま甲羅干しにでも来おったか。せいぜい、室根颪に風邪引かぬうちに北上川で泡でも吐きながらとっとと気仙まで流れて帰るがよい!」
嘲笑を浮かべながら為行がやり返す。すると砦の磐井勢も「ええぞ、ええぞ!」と沸き上がる。
「言うてくれるわ、碌に弓も撃ち返せぬ臆病者はどっちじゃ! 貴様など痰壺の底で便所蟋蟀のように胡瓜の尻尾でも齧りながら尾羽根震わせて泣いておるのが似合いじゃて!」
今の兄の罵声が相当癇に障ったらしく、かっと顔中に青筋を浮かべた為行が吠え返す。
「何を抜かすか! 蟋蟀というなら、鼻たれの頃、昼寝をしていて大鼾掻いた口の中に油虫が入り込んだものを寝惚けて噛み潰し、口に足をこびりつけたまま母上にびいびい泣きついていたのは貴様ではないか!」
これを聞いた為時も真っ青になりブルブル震えながら怒鳴り返す。
「こンの野郎、儂ですら忘れていたことを蒸し返しおって! ならば貴様が寝小便たれの頃、佃煮じゃというて儂が貴様に食わしてやったものの正体が一体何であったか、今ここで教えてやろうか!」
「……おい、兄弟喧嘩でも始めるおつもりか?」
横で聞いていた良昭が呆れたように口を挟む。お互いが言い返すたびに両陣営の将兵達が一緒になって囃し立てるのを、経清勢、安倍勢の将兵達は皆置いていかれたような顔をして見守っていた。
経清もまた何か言いたげな顔で、しかし掛ける言葉が見つからぬという様子で怒り狂い吠え続ける為時の横顔を見つめている。
これより大分前。登米郡、国府軍本陣。
先行隊への合流を控え、慌ただしく準備をしていた頼義が、ちらりと東の空を見上げる。
「そろそろ先鋒の者らが動き始める頃合か」
にやりと笑いながら、陣の奥に置かれていた小脇に抱えられるほどの大きさの桶に目を遣る。
「この戦の勝利には、朝廷の支持と、我らへの援軍が掛かっておるのじゃ。何としても勝たねばならぬ。……経清も、為時も、せいぜい発奮してくれることじゃろうて。次は自分がああなるものと、しっかり肝に銘じたことであろうからのう」
傍に控えた元親も、ちらりと同じ方へ視線を向ける。
頼義の言葉に追従しながらも、内心では憤懣の余り歯軋りを堪えていた。
(いくら敵方の身内とはいえ、自分に忠誠を示していた配下に、ここまで惨い仕打ちが下せるとは。……話には聞いていたが、源氏というのは、これほどに残酷な一門であったか!)
同じく父の前に跪く義家もまた、平然としているように見えて、静かな怒りを抑えているのが伺える。
(……永衡殿の件は、明らかに言い掛かり、無実の断罪であった。これ程までの残虐に手を染めてまで、父上はこの戦に、陸奥の地に一体何を求めておいでか?)
「さて、そろそろ出立するぞ。――諸共よ、いざ参ろうぞ。いよいよこの未開の俘囚地を我ら源氏の輝かしき武勇、その新たな栄えある光明を以て日の本に照らさん!」
そう宣言し刀の柄に手をやった総大将の元に、突如他陣の兵士が息せき切って駆け込んで来た。
「伝令であります!」
血相を変えた兵士の只ならぬ様子に、一体何事かと陣内の武将達が思わず立ち上がる。
「只今物見の者より、貞任率いる陸奥勢一万余りが、多賀城へ向けて進軍しているとの知らせがありましてござる!」
「何だとっ!?」
それを聞いたその場にいる全員が総毛立った。
河崎柵攻略のため、主力の出払った国府に残っている兵力は千名程度である。一万の大軍で攻められればひとたまりもない。
留守中に国府を俘囚に攻め落とされたなどという事になれば、鬼切部の敗北など比較にならぬ前代未聞の大失態である。当然、頼義の首が飛ぶだけでは済まぬ。
「敵勢は既に大衡を抜け、利府勿来関に迫る勢い。多賀城に攻め寄せるは時間の問題でござる!」
「た、直ちに陣を撤収し、国府へ引き返す。直ぐに伝令を飛ばし、先鋒勢を呼び戻して参れ!」
頼義が決断するのは早かった。
先行の経清らの兵を合わせても四千程度。柵を落とすには十分な数だが、今から大急ぎで追いついたとしても、陸奥勢主力一万を相手に果たして勝てるかどうか。とはいえ、いずれ追いつかなければ国府は落とされ、源氏の系統はごっそり表舞台から消し去られることだろう。
伝令に皆まで言わせぬうちに命令を下し、大慌てで陣を引き払いに掛かる。
ばたばたと皆が畳み方をしている隙に、伝令の兵は段上に置かれていた桶に深く一礼すると、それをこっそり小脇に抱え、「伝令、只今立ちます!」と頼義らに敬礼を示し足早に陣を去っていった。
再び磐井郡、河崎柵。
「笑わせてくれるわ、貴様が矢倉の屋根で呆けた顔を晒しておるのを見て、
随分苔の生えた汚い瓦を拾ってきたものじゃと吹き出すところじゃったわい!」
「よう言えたものじゃその馬面で。貴様がその気仙の駄馬に乗って歩いてくるのを見つけた時は、何じゃ馬が馬の上に跨って真昼間からややこしいことでもしておるものかと笑いが止まらんかったわ!」
この罵り合い、果たしていつまで続くものかと蚊帳の外にいる安倍、国府両将兵達は両陣営の唾競り合いを呆れながら眺めていた。
「貴様、謂うに事欠いて天下に聞こえる気仙の名馬を罵倒するか! それだけは聞き捨てならんぞ!」
「面白いことを言うわい。ならばその名馬とやらと磐井の駿馬のどちらが良馬か、今ここで競ってみようか。どうじゃ!」
「……頼むから、今はやめてくだされよ」
隣で良昭が窘める。ちらりと敵勢を見やり、小声で小さく付け加えた。
「まだ早い。――まだ向こうからの合図が見えませぬ」
そこへ、二人の舌戦に割り込むように一騎の騎馬武者が息を切らして駆け込んで来た。
「経清様、為時様、直ちにお退きください!」
荒い息を整えながら、何事かと目を剥く両指揮官に告げる。
「御大将からの御命令であります。直ちに多賀城へ引き返せ、と。――国府に敵勢が大挙して向かっております!」
気仙勢が顔色を変えてどよめいた。
「敵の数は?」
厳しい顔で問う経清に伝令が息を整えながら答える。その小脇に抱える桶に、経清がちらりと視線を向けた。
「栗原の物見より、一万を優に超える大軍であると。既に国府の目前まで迫っている様子」
「い、一万っ!?」
為時が思わず息を飲む。
打って変わったように只ならぬ雰囲気に包まれた敵勢に為行の罵声が浴びせられる。
「どうした、対局の真っ最中にこそこそ内緒話なぞ始めよって! 「待った」を聞いてやった覚えはないぞ!」
「じ、事情が変わったのじゃ! この勝負、次に預けておくぞ、首を洗って待っておれ!」
「御館様!?」
「御大将の御命じゃ、逆らおうものなら儂らも永衡殿の二の舞となろうぞ! 者共、直ちに多賀城へ引き返す! 撤収じゃ!」
大慌てで馬の首を返す敵勢に、矢倉から見下ろす為行が呵々大笑する。
「やいやい、折角互いの名馬を競い合おうというのではないか、遠慮せずに向かってくるがよい!」
砦から嘲笑の雨を降らせる磐井勢に向けて経清が手を振って叫んだ。
「馬の勝負はお預けする!」
それを見て良昭が頷く。
「為行殿、今じゃ!」
「気仙よ、これが磐井の誇る駿馬の数々じゃ、その蹄の捺印を背中の土産に帰るがよい! ――かかれっ!」
号令一下、砦の門が開かれ数十騎の騎馬が雪崩打って飛び出し、気仙勢に挑みかかる。突如撤収を命じられ混乱していた気仙兵達は大いに動揺し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「為時殿、ここは某が食い止めます。先に撤収を!」
「つ、経清殿、忝い!」
這う這うの体で磐井勢に追い立てられる気仙勢を見送ると、経清率いる国府勢は雄叫び勇ましく上げながら砦の門へ馬を走らせた。最後に伝令に駆け付けた武者がそれに続き門を潜った。
――而して気仙の郡司、金為時等を遣して、頼時を攻めしむ。頼時、舎弟の僧良昭等を以て之を拒がしむ。
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