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事件の真相

事件の真相②

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 フラーゼ侯爵家の別邸に到着した後、各々一度部屋で休憩をとる事になった。
 馬車でずっとうたた寝していたステラは、特に疲れておらず、夕陽に染まる美しい庭園を一人で散策した。きちんと手入れされた花壇の一画に咲く可愛らしい鈴蘭を見つけ、庭師に頼んで切花を貰った。

 非常に良い香りなので、エッセンシャルオイルが採れないかとスキルを使用してみたのだが、少し向かってみるくらいでは、残念ながら採取出来なかった。扱いが難しい花なのかもしれない。

 アレコレ試しているうちに夕食の時間となり、街の中で最も人気あるレストランへと出掛ける事になった。

 ステラとジョシュア、彼の従者、カントス夫人の四人で古風なレストランに入店すると、オーナーと名乗る男性に、奥の個室まで案内される。

「旬の素材を、南部風の味付けで持って来てくれる?」

「仰せの通りにいたします」

「それから、女性達二人の為に、甘い飲み物とデザートも」

「直ぐにでも」

 カントス夫人と並んで座ったステラは、ジョシュアとオーナーのやり取りを眺める。
 彼の領地にある店というだけあり、オーナーの畏まり具合がすごい。
 オーナーが足早に去った後、カントス夫人は黒いベールを脱ぎ、穏やかな微笑を浮かべた。
 初めての場所に落ち着かないステラと異なり、彼女は今この時に楽しみを見出しているようだ。

「このお店、モンスターのお肉を出してくださるのだそうね。楽しみだわ」

「ジビエ料理ってやつですね。ハンターの狩猟の成果に依存するので、今日食べれるかどうかは分かりかねます。オーナーに聞いておくべきでした」

「無くても気にしないでくださいな。フラーゼ侯爵が治める街一番のレストランだもの、何でも美味しくいただけるでしょう」

「それだと嬉しいです! ね、ステラ?」

「は? え? そうですね」

 自分に振られると思っていなかったので、ステラはしどろもどろに答える。
 
「ウフフ。シスターステラは、ポピー様の客人だと聞いていたのですけど、侯爵とも仲が宜しいのですわね。侯爵がクラリッサ嬢との縁をお切りになったのは、シスターステラと関係あるのかしら?」

 ジョシュアとカントス夫人、二人の視線がステラに固定され、居心地悪い事この上ない。

 話の中に出てきたクラリッサ嬢とはおそらくジョシュアの元婚約者だ。時折耳にするフラーゼ家の使用人達の噂話から、ジョシュアが一方的に婚約を破談にしたと知っているが、ステラに関係ないのはこの前判明している。
 自分が居ない所で話せばいいのにと思ってしまう。

「ステラはオレを嫌ってますから、今後の関わり方次第かなぁと思ってます。修道女の落とし方を誰からも教わらなかったので、四苦八苦してますよ」

(えぇ!?)

 冗談にしても、際どい事を言うのはやめてほしい。
 逃げ出したくなるのを、グッと堪え、カラトリーの本数を数えて気を紛れさせる。

「シスターステラ。フラーゼ侯爵はとても頼りになる男性ですわ。もし俗世に帰られるおつもりなら、彼と一緒になるべきよ!」

 カントス夫人の目はキラキラ輝く。こういう話題が大好きなんだろう。
 でもステラは迷惑なのだ。顔を青くさせて、首を振る。

「結婚とか、お付き合いについては考えた事ありませんので、よく分かりません! そ、それに相手だったら……フラーゼ家の研究所で働いているタイラーさんとか……。一緒にいてホッと出来る人がいいかもですね!」

 動揺しすぎて、いらない事まで口走ってしまった。
 チラリとジョシュアを見ると、いい笑顔を浮かべている。オーラが真っ黒なのは、きっと夜だから。

「へー、タイラーねぇ。王都に帰ったら、消しておくか……」

(うわぁ……、何で消すとかいう話になってるの!? 思考が良くわかんない!)

「主従で一人の女を取り合うって素敵ですわ。官能小説の題材になりそう……、アラ? 何か落ちている」

 隣に座るカントス夫人が椅子の下から何かを拾い上げた。

「鈴蘭だわ」

「あ! ごめんなさい! さっき庭師さんから貰って、ポケットに入れていたんでした!」

「そうでしたの。シスターステラのイメージにピッタリな、可愛らしい花よね」

 彼女から鈴蘭の切花を受け取ろうとしたが、近寄って来ていたジョシュアに奪い取られてしまった。

「む……。何するんですか?」

「食事の席には向かない花だよ」

「鈴蘭が?」

 彼は呼び鈴を鳴らし、給仕の者を呼ぶ。
 直ぐに駆けつけてくれたのは、栗毛色の髪を緩く結い上げた、可愛らしい顔立ちの女性だ。
 しかし……。

「何かございま__」

 給仕はカントス夫人を見るやいなや、驚愕の表情を浮かべ、言葉も出さずに口を開閉させた。
 対する夫人も、普段の彼女からは考えられない程に俊敏な動きで、給仕の女性に掴みかかった。

「アナタ! 王都から逃げたと思ったら、こんな所で暮らしていたの!」

「カ、カントス伯爵夫人!? 何故この様な場所に!?」

「何故!? アナタなんかに答える義理はないわ! 自分が何をしたか覚えているの!? アナタの所為で息子は!」

「すいません! 今すぐ貴女の目の前から消えます!」

 目の前で突然始まった口論に、ステラは震えた。
 カントス夫人の言葉から、この給仕の女性は彼女の息子の元恋人なのではないかと推察出来るのだが、ここまで殺伐としたやり取りをする程に関係が悪化していたのか。
 というか、彼女と会う為にウィローがこの街に来ているはずなのだ。二人の間でどの様なやり取りが交わされたのだろう。

 ステラの隣に立ったままだったジョシュアが嘆息する。

「カントス夫人。今は夕食時です。オレに免じて怒りを鎮めてくださいませんか? それと、君はこの鈴蘭を処分しておいて」

 彼が鈴蘭の花を給仕に差し出すと、彼女は大きく震え、「申し訳ございませんっ!」と叫んで走り去って行った。

「教育がなっていない給仕だなぁ。レイフ、鈴蘭を窓から投げ捨てて来てよ」

「え、でもこの花はステラ様がお持ちになっていましたけど。いいのですか?」

「いいよ」

 ジョシュアの従者はステラにすまなそうな表情を浮かべつつも、鈴蘭を持ってどこかへ歩き去った。
 気に入った物を理不尽に廃棄され、ステラは盛大に不貞腐れる。
 給仕や従者を巻き込んでまで、嫌がらせするなんて、性格が破綻しすぎだ。

「酷いですっ!」

「ごめんね、ステラ。鈴蘭って毒素を含んでるからさ、万が一の事を考えたんだ」

「毒素……? そうだったんですか……」

 それならそうと早めに言ってくれたらいいのにと思わなくもないが、カントス夫人も居る席で何かあったら、彼の責任になるだろうから、あまり余裕がなかったのかもしれない。
 テーブルの上で握りしめていた手がジョシュアに掴まれ、フィンガーボウルの中で洗われる。

「自分で洗えますよ」

「いいから任せて」

 無駄な程念入りな洗浄に、次第にカントス夫人の目が気になりだす。
 また変な関係だと思われたら困る。
 そう思って彼女の方を向くと、まだ怒りが冷めやらないようで、ギュッと唇をひき結んでいた。
 ステラ達の行動など、目の入っていないだろう。ホッとするやら、心配になるやら……だ。

 席に戻って来た従者に、ジョシュアは命じた。

「明日、ウチにさっきの給仕と、ウィロー嬢を連れて来い。空回りする奴ばかりだから、流石に苛ついてきたよ」
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