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道中は危険に溢れている!
道中は危険に溢れている!⑥
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ドライアドの指から注がれた金木犀のエッセンシャルオイル。
それを嗅いだステラ達の身には異変が起きていた。
まずはステラの口が勝手に動く。
「早く帝国で用を足して、王都に帰りたいです~。愛情不足でしょんぼり……うぅ……!? 今、口が変になりました! 絶対に本心ではないです!」
慌てて口を塞ぐものの、自分が何を言ったのか把握してしまっていて、変な汗が出てくる。
しかし、おかしくなったのはステラだけではなく、レイチェルやアジ・ダハーカも同様だった。
「お酒が飲みたーい!! 浴びるほど飲んでグデングデンになりたいよー!」
「全種族の美しい雌を儂のモノとしたいぞ! ドラゴンの姿でならフェロモンでイチコロなのだがな。グハハ」
彼等もまた、言い放った後に不思議そうに首を傾げた。その様子から察するに、やはり自分の意思で発したわけではないのだろう。ドライアドはケタケタと楽し気に笑い転げ、金木犀の根元で忽然と姿を消した。
それを見送ってから、口を開く。
「ドライアドさんに貰ったこの液体、大丈夫なんですかね? さっき妙な事を口走ってしまいましたが、私はあんな風になんか考えてないです!」
真っ赤になって叫ぶステラに対し、アジ・ダハーカは「そうか?」と訝し気な表情を向けた。
「儂の口から出た言葉は普段から思っている内容だぞ」
「アタシもそうだね~。運転中だから遠慮してたんだけど」
レイチェルまで頷くものだから、ただ一人否定するのが苦しくなった。
これから帝国の国境を越えるというのに、早くも王都に戻りたいとか、愛情不足でどうのこうのとか、もうじき十六になる人間が考えているのは情けない気がしてならない。元修道女としては恥ずべき事だ。
(うーん……、やっぱり偽りだとしか思えない……。でもたまに心がスカスカするような気も……)
考え込んでしまったステラの脇腹をアジ・ダハーカがちょいちょいとつつく。
「取り敢えずその液体は空き瓶にでも入れ、ステラが保管しておけ。樹木の精霊がくれたモノなのだから、何か特殊な効果があるのだろう」
「あ、じゃあアタシ、馬車からアンタの遮光瓶持ってくる!」
身軽な感じで立ち上がったレイチェルが馬車の方に駆けて行く。
それを見ながら、金木犀のエッセンシャルオイルについて考えを巡らせる。
(私達三人だけだと、確かな事は分からないかも。次の宿場街で実験してみよう!)
◇◇◇
ステラ達は金木犀の林から更に四時間程北上し、王国最北端の町にあるひなびた宿までやってきた。
当初予定していた通り、ステラは金木犀のエッセンシャルオイルを実験してみたのだが、目の前で繰り広げられる光景が酷すぎて、罪悪感を覚える。
「テメェ! 女房に気があるってどういうことだ!!」
「お前こそ、オレの土地を狙ってやがるのか!」
「ウチの畑の作物の盗人はアンタか! 許さん!」
「食い逃げの計画だと!? 逃すか!!」
食堂で大喧嘩を始めてしまったのは、この町に住むと思わしき男達だ。
誰も彼もステラが入店してから『口にすべきではない願望』を言い、しかも運悪く関係者がいたため、このような騒動に発展してしまった。
(ドライアドさんから貰ったエッセンシャルオイルは心に秘めた願望を言葉にしてしまう効果なのかも! 皆こういう騒ぎになるのが分かってたから胸の中にしまっておいてたんだ!)
取り敢えず金木犀のエッセンシャルオイルを染み込ませたハンカチを外に捨て、香りが店内に入って来ないようにカッチリと窓を閉めた。
向かい側に座るレイチェルは、ステラの方に身を乗り出し、スンッと鼻を鳴らした。
「まだちょっと香るかもー? でも、この混沌とした雰囲気も悪くなーい!」
腹を抱えて笑うレイチェルだったが、注文を取りに来た少年が彼女を見て「好みの女。キスしたい」などと口走ったため、揶揄いはじめ、ステラは大変居心地悪くなってしまった。
二人のやり取りが終わるまで判明した効果をメモする。
1.金木犀の香りを嗅いだ時点で一番強く思っている願望を言葉にする。
2.対象者はオイルの香りが届く範囲に居る人語を喋れる生き物(それ以外も影響を受けているかもしれないが、確かめようがない)
3.効果は一度のみ発動する。
この他に確かめるべきは、効果時間や、もっと変な効果があるかどうかなのだが、この“人の願望を暴露させてしまう効果”が自分にも他人にもよろしくない影響があるため、これ以上実験を続けるのは危険な気がしている。
臭いが漏れないように厳重に封をし、トランクの底に入れておくのが無難だろう。
メモをバッグの中に仕舞い込んでから、ステラは頬を膨らませる。
判明してしまった効果が自分にとって都合が良くないからだ。
(二度目にこれを嗅いだ時も、一度目と同じ事を言っちゃったんだよね。無意識にあんな恥ずかしい事を考えちゃってるのかな……。これから悪どい親に会うのに、こんなんじゃ駄目だよ! ぐぬぬ……)
自分の弱さが腹立たしくて、ステラは歯軋りした。
それを嗅いだステラ達の身には異変が起きていた。
まずはステラの口が勝手に動く。
「早く帝国で用を足して、王都に帰りたいです~。愛情不足でしょんぼり……うぅ……!? 今、口が変になりました! 絶対に本心ではないです!」
慌てて口を塞ぐものの、自分が何を言ったのか把握してしまっていて、変な汗が出てくる。
しかし、おかしくなったのはステラだけではなく、レイチェルやアジ・ダハーカも同様だった。
「お酒が飲みたーい!! 浴びるほど飲んでグデングデンになりたいよー!」
「全種族の美しい雌を儂のモノとしたいぞ! ドラゴンの姿でならフェロモンでイチコロなのだがな。グハハ」
彼等もまた、言い放った後に不思議そうに首を傾げた。その様子から察するに、やはり自分の意思で発したわけではないのだろう。ドライアドはケタケタと楽し気に笑い転げ、金木犀の根元で忽然と姿を消した。
それを見送ってから、口を開く。
「ドライアドさんに貰ったこの液体、大丈夫なんですかね? さっき妙な事を口走ってしまいましたが、私はあんな風になんか考えてないです!」
真っ赤になって叫ぶステラに対し、アジ・ダハーカは「そうか?」と訝し気な表情を向けた。
「儂の口から出た言葉は普段から思っている内容だぞ」
「アタシもそうだね~。運転中だから遠慮してたんだけど」
レイチェルまで頷くものだから、ただ一人否定するのが苦しくなった。
これから帝国の国境を越えるというのに、早くも王都に戻りたいとか、愛情不足でどうのこうのとか、もうじき十六になる人間が考えているのは情けない気がしてならない。元修道女としては恥ずべき事だ。
(うーん……、やっぱり偽りだとしか思えない……。でもたまに心がスカスカするような気も……)
考え込んでしまったステラの脇腹をアジ・ダハーカがちょいちょいとつつく。
「取り敢えずその液体は空き瓶にでも入れ、ステラが保管しておけ。樹木の精霊がくれたモノなのだから、何か特殊な効果があるのだろう」
「あ、じゃあアタシ、馬車からアンタの遮光瓶持ってくる!」
身軽な感じで立ち上がったレイチェルが馬車の方に駆けて行く。
それを見ながら、金木犀のエッセンシャルオイルについて考えを巡らせる。
(私達三人だけだと、確かな事は分からないかも。次の宿場街で実験してみよう!)
◇◇◇
ステラ達は金木犀の林から更に四時間程北上し、王国最北端の町にあるひなびた宿までやってきた。
当初予定していた通り、ステラは金木犀のエッセンシャルオイルを実験してみたのだが、目の前で繰り広げられる光景が酷すぎて、罪悪感を覚える。
「テメェ! 女房に気があるってどういうことだ!!」
「お前こそ、オレの土地を狙ってやがるのか!」
「ウチの畑の作物の盗人はアンタか! 許さん!」
「食い逃げの計画だと!? 逃すか!!」
食堂で大喧嘩を始めてしまったのは、この町に住むと思わしき男達だ。
誰も彼もステラが入店してから『口にすべきではない願望』を言い、しかも運悪く関係者がいたため、このような騒動に発展してしまった。
(ドライアドさんから貰ったエッセンシャルオイルは心に秘めた願望を言葉にしてしまう効果なのかも! 皆こういう騒ぎになるのが分かってたから胸の中にしまっておいてたんだ!)
取り敢えず金木犀のエッセンシャルオイルを染み込ませたハンカチを外に捨て、香りが店内に入って来ないようにカッチリと窓を閉めた。
向かい側に座るレイチェルは、ステラの方に身を乗り出し、スンッと鼻を鳴らした。
「まだちょっと香るかもー? でも、この混沌とした雰囲気も悪くなーい!」
腹を抱えて笑うレイチェルだったが、注文を取りに来た少年が彼女を見て「好みの女。キスしたい」などと口走ったため、揶揄いはじめ、ステラは大変居心地悪くなってしまった。
二人のやり取りが終わるまで判明した効果をメモする。
1.金木犀の香りを嗅いだ時点で一番強く思っている願望を言葉にする。
2.対象者はオイルの香りが届く範囲に居る人語を喋れる生き物(それ以外も影響を受けているかもしれないが、確かめようがない)
3.効果は一度のみ発動する。
この他に確かめるべきは、効果時間や、もっと変な効果があるかどうかなのだが、この“人の願望を暴露させてしまう効果”が自分にも他人にもよろしくない影響があるため、これ以上実験を続けるのは危険な気がしている。
臭いが漏れないように厳重に封をし、トランクの底に入れておくのが無難だろう。
メモをバッグの中に仕舞い込んでから、ステラは頬を膨らませる。
判明してしまった効果が自分にとって都合が良くないからだ。
(二度目にこれを嗅いだ時も、一度目と同じ事を言っちゃったんだよね。無意識にあんな恥ずかしい事を考えちゃってるのかな……。これから悪どい親に会うのに、こんなんじゃ駄目だよ! ぐぬぬ……)
自分の弱さが腹立たしくて、ステラは歯軋りした。
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