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皇女殿下とは別人ですので!
皇女殿下とは別人ですので!④
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ミクトラン帝国の帝都アトンにやって来たステラは、リスバイ公爵の案内でこの街一番のホテルまでやってきた。
重厚な雰囲気の入口では紳士淑女が出入りしており、何だか気遅れしてしまう。
自分が入って行ってもいい場所なのか疑問だ。それに、レイチェルの話によると、歳の離れた男女が二人でホテルに行くのは誤解のもとになるので、避けた方がいいのだとか。
アレコレ心配するステラとは裏腹に、公爵は堂々としたものだ。
「チェックインは私が済ませよう」
「いえ、私がやりますので、お気遣いなく!」
態度が変わったのは、ステラが保有するスキルを教えてからだ。
ポピーから紹介された人物なので、信用に足ると思ったけれど、早まってしまったかもしれない。
客に対して健康を配慮したり、娯楽を提供するのは普通の範疇なのだろうが、滞在費の支給の話をされてから何かがおかしいと気がついた。これは裏があるに違いない。
「レイチェルさんに、手続きのやり方を聞いてますから、一人で出来ると思いますっ」
「だがな__」
「それよりも! 私のナターリア皇女への謁見は叶いそうなんでしょうか?」
数日前に、彼が皇族との仲介を嫌がるような事を言っていたのを思い出し、念押しの為にも、話題に出してみると、キッパリと肯定される。
「ステラさんの頼みの通り、書状は出した。正直私は、謁見をやめた方がいいと思うのだが……」
「いえ。前にも言いましたが、ナターリア皇女にお会いして、私が作ったフレグランスを献上したいんです」
「それは、ナターリア皇女が君にとって特別な人間だからなのか?」
変な質問だが、答えなければ、会わせてもらえないかもしれない。
なので渋々と口を開く。
「……違います。ただ、思い知らせてあげたいんです」
「思い知らせる……?」
「はい。私はもう誰からも命の手綱を握られる存在ではないと、証明してやりたくて」
言いながらハッとする。
うっかり深読みさせる様な事を喋ってしまった。
「フレグランスで命の手綱?」と怪訝な顔をする公爵は、きっとステラをただの馬鹿だと思っただろう。
「えぇと……取り敢えず、予定が決まりましたらお伝え願いますか? 公爵様もお忙しいと思いますし、私はこの辺で」
スタスタと大股で歩くステラだったが、なおもリスバイ公爵が付いて来るので、頬を膨らませた。
(うぅぅ……、アジさんやレイチェルさんがいてくれたら、公爵の相手を頼めるのになぁ……)
師匠の行方を探す目的で帝都に来たレイチェルは危険な行動を取るつもりなのか、知人の家を転々とする予定のようだ。アジ・ダハーカも帝都を彼なりに回りたいのか、いつのまにか姿をくらませていた。
ステラはこれから皇族と会う手前、不審な行動を控えなければならないため、まともなホテルに滞在し、大人しくしてなければならなず、非常に窮屈な感覚だ。
どうやって公爵にお帰りいただこうかと考えながら回転扉を通ると、大きな観葉植物の側に立っていた男性がこちらに向かって駆け寄ってきた。
「ステラ様!! よかった!」
「え?」
何故自分の名前を知っている人がこんな所に居るのだろうか。
顔を見てギョッとする。
「レイフさん!?」
「昨日からずっとここで待っていたんです! 足の痛みに耐えた甲斐がありましたね! さぁ、案内致しますよ」
「案内とは……?」
「ジョシュア様です! 暇そうにしていますので、早くお顔を見せてさしあげてください」
「何でここに!!」
記憶が確かなら、隠し部屋に閉じ込めて来たはずだ。
それなのに、ステラの行く先を探り当て、先回りしたというのか。
あまりの衝撃に震え上がり、彼の従者から後退りする。捕まってしまったらろくな事にならないだろう。
「ステラさん? この者は誰なんだ? それにジョシュアとは……」
振り返るとリスバイ公爵が険しい表情で、ステラを見つめていた。この紳士の前で無様な真似をして、恥をかかせてしまってもいいのだろうかと、躊躇しているうちに、会いたくない人物が奥の方から歩いて来るのが見えた。
「ああ、ジョシュア様! ちょうどよかった、今ステラさんがいらっしゃったんです」
「ご苦労様」
十日振りに会う彼はフロントの周辺にいる令嬢達の視線を集めながらも、その目はしっかりとステラに合わせられている。
しかしその表情が非常に怖い。
口角が綺麗に上がりながらも、目が全く笑っていないのだ。
「ジョ……ジョ……」
「やぁ、ステラ! 相変わらず可愛いね」
「ガクガクガク」
ジョシュアは自らの従者の前に立ち、ステラと対峙した。
頬に伸ばされかけた彼の手は、触れる前に第三者から掴まれる。
「君はフラーゼ侯爵家当主のジョシュア君だったか」
「ああ、リスバイ公爵。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。ウチのステラがお世話になったようで」
「ウチのだと?」
てっきり自分が怒られると思っていたのだが、他の二人が握手しながら話し合っている。
しかも微妙に険悪な雰囲気なのは何故なのか。
「オレ達、一緒に住んでるんです!」
「ステラさん、君は確かネイック家に引き取られたと言っていたな。他の家の男と同棲を……?」
「同棲? あぁ、一緒に住むって事ですね。えぇと……、まぁ、はい。私も良く分かりませんが、その通りですよ。でも従兄同士なので__」
「許せんな」
「んん?」
「結婚もしてない男女が同じ屋根の下で暮らすだなんて、認められない!」
何故この人が怒りだすのかと、変な汗が流れる。ステラがジョシュアと住む事の何が不都合なのだろうか。
重厚な雰囲気の入口では紳士淑女が出入りしており、何だか気遅れしてしまう。
自分が入って行ってもいい場所なのか疑問だ。それに、レイチェルの話によると、歳の離れた男女が二人でホテルに行くのは誤解のもとになるので、避けた方がいいのだとか。
アレコレ心配するステラとは裏腹に、公爵は堂々としたものだ。
「チェックインは私が済ませよう」
「いえ、私がやりますので、お気遣いなく!」
態度が変わったのは、ステラが保有するスキルを教えてからだ。
ポピーから紹介された人物なので、信用に足ると思ったけれど、早まってしまったかもしれない。
客に対して健康を配慮したり、娯楽を提供するのは普通の範疇なのだろうが、滞在費の支給の話をされてから何かがおかしいと気がついた。これは裏があるに違いない。
「レイチェルさんに、手続きのやり方を聞いてますから、一人で出来ると思いますっ」
「だがな__」
「それよりも! 私のナターリア皇女への謁見は叶いそうなんでしょうか?」
数日前に、彼が皇族との仲介を嫌がるような事を言っていたのを思い出し、念押しの為にも、話題に出してみると、キッパリと肯定される。
「ステラさんの頼みの通り、書状は出した。正直私は、謁見をやめた方がいいと思うのだが……」
「いえ。前にも言いましたが、ナターリア皇女にお会いして、私が作ったフレグランスを献上したいんです」
「それは、ナターリア皇女が君にとって特別な人間だからなのか?」
変な質問だが、答えなければ、会わせてもらえないかもしれない。
なので渋々と口を開く。
「……違います。ただ、思い知らせてあげたいんです」
「思い知らせる……?」
「はい。私はもう誰からも命の手綱を握られる存在ではないと、証明してやりたくて」
言いながらハッとする。
うっかり深読みさせる様な事を喋ってしまった。
「フレグランスで命の手綱?」と怪訝な顔をする公爵は、きっとステラをただの馬鹿だと思っただろう。
「えぇと……取り敢えず、予定が決まりましたらお伝え願いますか? 公爵様もお忙しいと思いますし、私はこの辺で」
スタスタと大股で歩くステラだったが、なおもリスバイ公爵が付いて来るので、頬を膨らませた。
(うぅぅ……、アジさんやレイチェルさんがいてくれたら、公爵の相手を頼めるのになぁ……)
師匠の行方を探す目的で帝都に来たレイチェルは危険な行動を取るつもりなのか、知人の家を転々とする予定のようだ。アジ・ダハーカも帝都を彼なりに回りたいのか、いつのまにか姿をくらませていた。
ステラはこれから皇族と会う手前、不審な行動を控えなければならないため、まともなホテルに滞在し、大人しくしてなければならなず、非常に窮屈な感覚だ。
どうやって公爵にお帰りいただこうかと考えながら回転扉を通ると、大きな観葉植物の側に立っていた男性がこちらに向かって駆け寄ってきた。
「ステラ様!! よかった!」
「え?」
何故自分の名前を知っている人がこんな所に居るのだろうか。
顔を見てギョッとする。
「レイフさん!?」
「昨日からずっとここで待っていたんです! 足の痛みに耐えた甲斐がありましたね! さぁ、案内致しますよ」
「案内とは……?」
「ジョシュア様です! 暇そうにしていますので、早くお顔を見せてさしあげてください」
「何でここに!!」
記憶が確かなら、隠し部屋に閉じ込めて来たはずだ。
それなのに、ステラの行く先を探り当て、先回りしたというのか。
あまりの衝撃に震え上がり、彼の従者から後退りする。捕まってしまったらろくな事にならないだろう。
「ステラさん? この者は誰なんだ? それにジョシュアとは……」
振り返るとリスバイ公爵が険しい表情で、ステラを見つめていた。この紳士の前で無様な真似をして、恥をかかせてしまってもいいのだろうかと、躊躇しているうちに、会いたくない人物が奥の方から歩いて来るのが見えた。
「ああ、ジョシュア様! ちょうどよかった、今ステラさんがいらっしゃったんです」
「ご苦労様」
十日振りに会う彼はフロントの周辺にいる令嬢達の視線を集めながらも、その目はしっかりとステラに合わせられている。
しかしその表情が非常に怖い。
口角が綺麗に上がりながらも、目が全く笑っていないのだ。
「ジョ……ジョ……」
「やぁ、ステラ! 相変わらず可愛いね」
「ガクガクガク」
ジョシュアは自らの従者の前に立ち、ステラと対峙した。
頬に伸ばされかけた彼の手は、触れる前に第三者から掴まれる。
「君はフラーゼ侯爵家当主のジョシュア君だったか」
「ああ、リスバイ公爵。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。ウチのステラがお世話になったようで」
「ウチのだと?」
てっきり自分が怒られると思っていたのだが、他の二人が握手しながら話し合っている。
しかも微妙に険悪な雰囲気なのは何故なのか。
「オレ達、一緒に住んでるんです!」
「ステラさん、君は確かネイック家に引き取られたと言っていたな。他の家の男と同棲を……?」
「同棲? あぁ、一緒に住むって事ですね。えぇと……、まぁ、はい。私も良く分かりませんが、その通りですよ。でも従兄同士なので__」
「許せんな」
「んん?」
「結婚もしてない男女が同じ屋根の下で暮らすだなんて、認められない!」
何故この人が怒りだすのかと、変な汗が流れる。ステラがジョシュアと住む事の何が不都合なのだろうか。
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