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誘われるのはおんなのよろこび
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今年も年の瀬が近づいてきた。あたし達を包む空気は冷たかった。だけど他の季節の空気と比べてあたしはこの時期の空気が特に好きだわ。とても透き通って感じるから。特に夜はそれを一層よく感じる。
最近あたしは夕食後にひとり家の近くを散歩する習慣を身に付けた。なにか考え事をするわけではなく、この冷たい空気の中をボーッとしながら歩くのだ。意識しなくても空気は、風は優しくあたしの頭の中の雑念や不安を吹き飛ばしてくれるよう。あたしは昔から冷たい飲み物が大好きだった。牛乳とかフルーツジュースとか炭酸飲料とか。だから、この季節の風はあたしの喉にも快感を与えてくれるものなんだよね。
そんな季節のある日、あたしの周りでちょっとしたアクシデントが起こった。果歩ちゃんと美羽ちゃんが揃って風邪をひいて学校を休んだのだ。こんなことは初めて。特に果歩ちゃんなんかは、昔からなにがあっても学校に出てくる子なのに。いつか言っていた。
「わたしは学校好きだからちょっと風邪ひいたくらいじゃ休まないよ。学校に来て優江と一緒にいるのが楽しくて仕方ないんだもん。」
小学校の頃の話だ。そんな果歩ちゃんが学校に来ないとなると心配。どうしたのかなあ?よっぽど熱が出たのかな。すごく気にはなったけど、大葉先生に欠席の理由を聞くのは嫌。いつも3人でいるこの教室で一番日当たりの良い特等席は今日はあたしだけの貸し切り。こんなに退屈な学校は初めてだ。あたしだって果歩ちゃんと美羽ちゃんに会う為に学校来ているんだよ。
昼休みに特等席から外を眺めているときに後ろに人の気配を感じた。振り返るとそこには現れたのは亮君の姿。彼はあたしと目が合うと少し微笑んであたしのすぐ隣に立った。ドキドキしてちょっとしたパニックになってしまった。なにも考えられない。なにかあたしから話しかけた方がいいのかな。亮君は外を見ながら、
「今日はひとりぼっちなんだね。」
あたしは体は窓の方に向けて、視線は足元に置いたまま、
「はい。」
と小さな声で返事をした。「はい。」じゃなくて、せめて「うん。」だろ。可愛げが全然違うじゃん。彼は視線を合わせることなく続けるの。
「今日さあ。一緒に帰れないかな。昔みたいにふたりで話をしながら歩きたいな。」
今日の彼はもちろん優しい口調なのだけど、優しさ以外に甘さもあった。低い声なのだけどどこか女の子の声みたいに甘かった。あたしはもう顔が真っ赤になっていた。声を出すことさえ苦しかったの。首を絞められているのではないかと思うほど声が出なかったが、なんとかか細い声で返事をした。
「はい。」
すると彼は今まで以上に小さな声で、
「ありがとう。じゃあ放課後にね。」
と言ってその場を去った。あたしは相変わらず俯いたまま視線を上げることが出来なかった。その出来事は時間にしたら1,2分のことだったろう。だけどあたしには物凄く長い時間に感じた。そして実際に長い時間その場で俯いたまま立ち尽くしていた。どうしよう…と思いながらね。
最近あたしは夕食後にひとり家の近くを散歩する習慣を身に付けた。なにか考え事をするわけではなく、この冷たい空気の中をボーッとしながら歩くのだ。意識しなくても空気は、風は優しくあたしの頭の中の雑念や不安を吹き飛ばしてくれるよう。あたしは昔から冷たい飲み物が大好きだった。牛乳とかフルーツジュースとか炭酸飲料とか。だから、この季節の風はあたしの喉にも快感を与えてくれるものなんだよね。
そんな季節のある日、あたしの周りでちょっとしたアクシデントが起こった。果歩ちゃんと美羽ちゃんが揃って風邪をひいて学校を休んだのだ。こんなことは初めて。特に果歩ちゃんなんかは、昔からなにがあっても学校に出てくる子なのに。いつか言っていた。
「わたしは学校好きだからちょっと風邪ひいたくらいじゃ休まないよ。学校に来て優江と一緒にいるのが楽しくて仕方ないんだもん。」
小学校の頃の話だ。そんな果歩ちゃんが学校に来ないとなると心配。どうしたのかなあ?よっぽど熱が出たのかな。すごく気にはなったけど、大葉先生に欠席の理由を聞くのは嫌。いつも3人でいるこの教室で一番日当たりの良い特等席は今日はあたしだけの貸し切り。こんなに退屈な学校は初めてだ。あたしだって果歩ちゃんと美羽ちゃんに会う為に学校来ているんだよ。
昼休みに特等席から外を眺めているときに後ろに人の気配を感じた。振り返るとそこには現れたのは亮君の姿。彼はあたしと目が合うと少し微笑んであたしのすぐ隣に立った。ドキドキしてちょっとしたパニックになってしまった。なにも考えられない。なにかあたしから話しかけた方がいいのかな。亮君は外を見ながら、
「今日はひとりぼっちなんだね。」
あたしは体は窓の方に向けて、視線は足元に置いたまま、
「はい。」
と小さな声で返事をした。「はい。」じゃなくて、せめて「うん。」だろ。可愛げが全然違うじゃん。彼は視線を合わせることなく続けるの。
「今日さあ。一緒に帰れないかな。昔みたいにふたりで話をしながら歩きたいな。」
今日の彼はもちろん優しい口調なのだけど、優しさ以外に甘さもあった。低い声なのだけどどこか女の子の声みたいに甘かった。あたしはもう顔が真っ赤になっていた。声を出すことさえ苦しかったの。首を絞められているのではないかと思うほど声が出なかったが、なんとかか細い声で返事をした。
「はい。」
すると彼は今まで以上に小さな声で、
「ありがとう。じゃあ放課後にね。」
と言ってその場を去った。あたしは相変わらず俯いたまま視線を上げることが出来なかった。その出来事は時間にしたら1,2分のことだったろう。だけどあたしには物凄く長い時間に感じた。そして実際に長い時間その場で俯いたまま立ち尽くしていた。どうしよう…と思いながらね。
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