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1章目:氷の競売(こおりのきょうばい)
1話目 白い檻で出会った悪魔
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第1話 白い檻で出会った悪魔
──この氷で、俺は“親友”を殺しかけた。
だから今、俺はここにいる。
“第七収容区”──感情を封じられた者たちの檻。
息を吐くたび、空気が凍り、床に白い霜が散る。
感情が揺れるたびに、氷が生まれる。
怒りも、悲しみも、俺にとっては同じ“凶器”だった。
ここは、能力者隔離施設《第七収容区》。
外界から完全に遮断された白い部屋で、俺たちは“観察対象”として生かされている。
壁は分厚い防音材で覆われ、鉄格子の扉には魔力封じの札が何重にも貼られていた。
天井から監視カメラが俺の一挙一動を見下ろし、マイクが呼吸の音まで拾っている。
何をしても、何を考えても──全部、記録される。
ここでは、名前を呼ばれることすら特別なことだ。
俺の番号は「被験体No.019」。
たまに職員が「ヒカワ」と呼ぶことがある。
それだけで、少しだけ“人間”に戻れた気がする。
朝になると、鉄格子の前に金属のトレイが差し込まれる。
味気のない灰色の粥、ぬるい水、そして薬。
薬は感情の抑制剤──飲み忘れれば即座に警報が鳴り、電撃が流れる。
何人も、それで倒れていった。
同室の少年たちは皆、無表情で、まるで人形のようだった。
その中のひとり──「アサギ」は火の能力を持っていた。
けれどある日、眠ったまま戻らなかった。
次の日には、ベッドごと新しい“被験体”が運び込まれていた。
俺たちには、死を悲しむ権利すらない。
俺がここに入れられたのは三年前。
中学の時、感情が暴走して、親友を傷つけた。
あの日──泣き叫ぶ声、赤く染まる制服、凍りつく世界。
あの光景が、今も瞼の裏に焼きついて離れない。
家族は俺を見なかった。
母は泣いていたけれど、俺の名前を呼ばなかった。
「もう、陽じゃない」
そう呟いた口の形だけが、今も胸の奥で刺さっている。
昼になると、廊下の奥で叫び声が響く。
実験棟に連れて行かれた者は、二度と戻らない。
職員の一人──鷲尾(わしお)は淡々と言った。
「被験体の能力強度を確認中です。問題ありません」
その声は冷たく、まるで機械の音だった。
だが、一人だけ違う職員がいた。
白衣の胸元に「如月」と書かれたネームタグをつけた女性。
薬を渡す時、彼女はいつも小さく言った。
「無理、しないでね」
たったそれだけ。
それでも、その一言で俺は少しだけ救われた。
夜。
ライトが消えても、俺は眠れなかった。
冷たい床に背中を預け、指先で氷を生む。
パキ、パキ……と小さな音。
薄い氷片が指の隙間で光を反射し、まるで青い花びらのように散っていく。
──ネモフィラ。
俺の中に咲く、唯一の色。
外に出たいとは思わない。
外の世界は、俺が壊した。
だからせめて、ここで静かに凍っていよう。
そう思っていた。
けれど、その夜。
施設全体がざわめいた。
普段聞かない革靴の音が、ゆっくりと近づいてくる。
──カチャリ。
鉄扉の鍵が開く音。
入ってきたのは、見慣れない男だった。
白い長髪、整った顔立ち、そして黄金の瞳。
無機質なこの世界で、彼だけが“色”を持っていた。
「氷川陽さん、ですね」
穏やかで、しかし底の見えない声。
「君は非常に貴重な能力を持っている。本来なら、能力者の時点で即座にオークションにかけられる。
だが君は──見た目も、美しい。しかも氷。……美しい力だ」
男は微笑んだ。
「美しい君が、美しい能力を持つのは、運命なのではないかと思っているよ」
名を名乗った。
──宝華泉(ほうか・いずみ)。
“査定人”──能力者を商品として鑑定し、売る側の人間。
彼は懐から銀色の手錠を取り出した。
冷たい金属が光を弾き、俺の顔に映る。
「痛くはしないよ。これは礼儀だ。商品は、美しく梱包しないとね」
その声は、優しくて、酷く残酷だった。
カチリ、と手錠が閉じられる。
続いて足枷。
冷たさが皮膚を刺し、心の中で何かが静かに折れた。
泉は俺の顔を覗き込み、微笑む。
「君を、次の場所へ連れて行くよ──氷川陽くん」
その声が、俺の“処分”の始まりだった。
──この氷で、俺は“親友”を殺しかけた。
だから今、俺はここにいる。
“第七収容区”──感情を封じられた者たちの檻。
息を吐くたび、空気が凍り、床に白い霜が散る。
感情が揺れるたびに、氷が生まれる。
怒りも、悲しみも、俺にとっては同じ“凶器”だった。
ここは、能力者隔離施設《第七収容区》。
外界から完全に遮断された白い部屋で、俺たちは“観察対象”として生かされている。
壁は分厚い防音材で覆われ、鉄格子の扉には魔力封じの札が何重にも貼られていた。
天井から監視カメラが俺の一挙一動を見下ろし、マイクが呼吸の音まで拾っている。
何をしても、何を考えても──全部、記録される。
ここでは、名前を呼ばれることすら特別なことだ。
俺の番号は「被験体No.019」。
たまに職員が「ヒカワ」と呼ぶことがある。
それだけで、少しだけ“人間”に戻れた気がする。
朝になると、鉄格子の前に金属のトレイが差し込まれる。
味気のない灰色の粥、ぬるい水、そして薬。
薬は感情の抑制剤──飲み忘れれば即座に警報が鳴り、電撃が流れる。
何人も、それで倒れていった。
同室の少年たちは皆、無表情で、まるで人形のようだった。
その中のひとり──「アサギ」は火の能力を持っていた。
けれどある日、眠ったまま戻らなかった。
次の日には、ベッドごと新しい“被験体”が運び込まれていた。
俺たちには、死を悲しむ権利すらない。
俺がここに入れられたのは三年前。
中学の時、感情が暴走して、親友を傷つけた。
あの日──泣き叫ぶ声、赤く染まる制服、凍りつく世界。
あの光景が、今も瞼の裏に焼きついて離れない。
家族は俺を見なかった。
母は泣いていたけれど、俺の名前を呼ばなかった。
「もう、陽じゃない」
そう呟いた口の形だけが、今も胸の奥で刺さっている。
昼になると、廊下の奥で叫び声が響く。
実験棟に連れて行かれた者は、二度と戻らない。
職員の一人──鷲尾(わしお)は淡々と言った。
「被験体の能力強度を確認中です。問題ありません」
その声は冷たく、まるで機械の音だった。
だが、一人だけ違う職員がいた。
白衣の胸元に「如月」と書かれたネームタグをつけた女性。
薬を渡す時、彼女はいつも小さく言った。
「無理、しないでね」
たったそれだけ。
それでも、その一言で俺は少しだけ救われた。
夜。
ライトが消えても、俺は眠れなかった。
冷たい床に背中を預け、指先で氷を生む。
パキ、パキ……と小さな音。
薄い氷片が指の隙間で光を反射し、まるで青い花びらのように散っていく。
──ネモフィラ。
俺の中に咲く、唯一の色。
外に出たいとは思わない。
外の世界は、俺が壊した。
だからせめて、ここで静かに凍っていよう。
そう思っていた。
けれど、その夜。
施設全体がざわめいた。
普段聞かない革靴の音が、ゆっくりと近づいてくる。
──カチャリ。
鉄扉の鍵が開く音。
入ってきたのは、見慣れない男だった。
白い長髪、整った顔立ち、そして黄金の瞳。
無機質なこの世界で、彼だけが“色”を持っていた。
「氷川陽さん、ですね」
穏やかで、しかし底の見えない声。
「君は非常に貴重な能力を持っている。本来なら、能力者の時点で即座にオークションにかけられる。
だが君は──見た目も、美しい。しかも氷。……美しい力だ」
男は微笑んだ。
「美しい君が、美しい能力を持つのは、運命なのではないかと思っているよ」
名を名乗った。
──宝華泉(ほうか・いずみ)。
“査定人”──能力者を商品として鑑定し、売る側の人間。
彼は懐から銀色の手錠を取り出した。
冷たい金属が光を弾き、俺の顔に映る。
「痛くはしないよ。これは礼儀だ。商品は、美しく梱包しないとね」
その声は、優しくて、酷く残酷だった。
カチリ、と手錠が閉じられる。
続いて足枷。
冷たさが皮膚を刺し、心の中で何かが静かに折れた。
泉は俺の顔を覗き込み、微笑む。
「君を、次の場所へ連れて行くよ──氷川陽くん」
その声が、俺の“処分”の始まりだった。
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