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神天地編

第16神話   そうぞう神⑤

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「私みたいな化け物をそんな力を持っておきながら殺そうとはせずに、ただ和解しようなんていう人間、いや生物なんて生まれて初めてよ。普通なら害を為したり、命を脅かす生物を攻撃するのは生物の行動として当たり前なのに………」



 彼女ほどの力量を持つとなると、力に溺れているやつの方が恐らく大半だろう。
 そんな大量虐殺でさえ可能な力を持っているにも関わらず、自我を制御してこんな私でさえも殺そうとしない心の軸はもの凄く強靭なものだ。



「………だから?」



 女は反応を示す。この発言的に肯定と取って良いだろう。



「お前は尋常じゃ無いくらいに優しい。けどそれは裏を返せば、弱さにも繋がる。それが今日までも治らず続いてきたんでしょう?きっと今まで私みたいな化け物と出逢った時も………自分よりも権威の高い奴からの命令も…………それがどんなに恐ろしく、自身に命に危険を脅かす奴でさえも優しさが先に先行した……」



「…………」



 そして女は無言になった。この様子だとかなり思い当たる節があるのだろう。



「そこで私に提案がある。」



 私はずっと無言になっている女に一つの提案を上げる。



「私はこうして全力の一撃を放つ準備をする。その間は隙だらけ……私は絶対に動かない。」



 今言ったことを必ず実行する為により足に力を込める。



「だからあなたは優しさというものを克服するために、私は死という恐怖を克服するために…………私を殺してくれて構わない…!」

 地面からあまりの力に、メリメリと軋む音が聞こえる。



「………っ」



 この時少しだけ女の顔が動いた。
 だが細微な変化だったためなのと、何より自分の命を投げ出そうとするこの瞬間にそこまで見る余裕などないため、気づけなかった。



「お前ほどの力を持っているなら私の恐怖が盛り上がる前に一瞬で確実に殺せる。それにお前も私を殺せばより今の弱い心を乗り越えられる。等価交換ってところね。」

「……」

 少し女の構えが動いた。
 どうすれば良いか分からずあたふたしている弱い女がいるのが丸わかりだ。
 それを見て私は心を鎮めてより一層今までの感情を丹田に向けて凝縮させ、大きく声に出す。



「ほら!構えなさい!!早く私の攻撃を止めないとあなたの負けになるわよ!それでも良いの!?」



 ここしかない。今なら勢いで殺してくれるはず。このタイミングを逃したら、もう一度死の覚悟を決断するのは難しい。
 死の恐怖を覚悟する時がついに来たようだ。だがそれでも恐怖は抜けず声が震えている。



「……………」



 そう言うと女は先程よりも動揺しているのか、先ほどの構えは崩れてただ立ち止まることしか出来ていなかった。
 だが私は待ったなしで攻撃の準備を完了させる。



「この一撃を喰らいたくないなら…!今すぐ殺して、お前達人間の栄誉にしてみなさい!!」



 この短時間で与えられた数々の屈辱を晴らすために話す言葉に段々と感情が乗っていき、気づけば涙で眼球が覆われる。

 今の私の顔はきっと情けない顔だろう。それを忌々しい人間の女にさらけ出していることを考えるだけでも腹が立つ。それもこれも自分が引き起こした原因だというのに。本当に虫のいい話だ。

 

「……っ!神獣っ!!」

 

 女は来ていた白衣とTシャツ、チョッキをすべて脱ぎ捨て下着一つだけになる。どうやらあちらもついに覚悟を決めたようだ。



「うあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 私は思い切り前へと踏み込む。
 ただ真正面から女へ全力で向かう。その速度は並の生物では見えない。     
 私にとって今まであった人間の中で最悪で最高の相手。
 ヤケクソなのは分かっている。このまま行けばいかなる方法を使ったとしても防御されるのも目に見えていて、間違いなく殺される。
 だがそんな想像をしても屈辱的な感情は湧いてこなかった。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 そしてついに女の半径数メートルまでに踏み込んだ時、世界が遅く見えた。私の見える風景も、女でさえも。その世界は音が静寂に包みこまれ、何も聞こえない。

 気づけばいつの間にか視界が真っ白へと変わっていった。

 

ーーーー数秒後



(…………う)



 数秒経つと私は地面に仰向けになって倒れていた。



(……生きちゃったかぁ………此処が墓場なのも悪くは無さそうだったのに……)



 どうやら私の勝利条件は達成したが、ついに覚悟を決めたのに死ねなかったことにショックを受けてしまった。ここで終わればそれは楽になっただろうに……。

 だがこの時は自分の全力を出し切ったせいか、気力も抜けてショックはそれ程強くはなく素直に現状を受け止める事ができた。

 意識はまだ朦朧としている。全力を出し切って地面に倒れてしまい、もう体全体を動かす事はできなかったが目や手先だけはまだ動かすことが出来た。



 こっ…こっ……



 耳に鉄の地面に触れる足音が聞こえてくる。少しのエネルギーを振り絞って目線を上げると、あの女が目の前に立っていた。
 この時、女の額には少量の汗を掻いていた。相当思い詰めるものがあったのだろう。
 私を一撃で殺すことが出来なかったということは、やはりこの女も私と同じように意志を貫くことができなかった。
 女はただ私を見下ろす。殺意すら全く感じられない。



(何を……)



「……ふぅ、神獣……お前は凄い。私の想像を何回も上回ってくる。私の想像を越えたよ。お前の勝ちだ。」



 そう言って自ら敗北の宣言をする。その目には少しの輝きが灯る。



「お前が神になれた時は私なんかよりももっと良いものが作れてそうだ。」



 地面に倒れ伏している私の近くに屈む。そして私に向かって言葉を放つ。



「お前には高い価値を持っていると私は見込む。これだけは絶対に見くびらない。約束する。」



 意識を手放す寸前に女の表情は先程のやる気の無い顔から少し笑顔に変わっていた気がした。
 ネヴァンことネヴァは長きに渡る退屈な最強人生で初めて敗北を経験し、創造神ことマケは長きに渡る退屈な世界の中で情熱というものを思い出した。
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