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第十四話 不思議の森の魔女と騎士
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しおりを挟むティアの侍女マリーは泣いていた。
「ティア様あっ!どうして使用人と喧嘩するんですかっ?やめて下さいもう!わけがわかりません!」
喧嘩を止めた護衛隊と掃除婦長によって喧嘩相手と引き剥がされた。そして護衛隊に部屋に戻されて侍女マリーに引き取られた。
傷の手当てをしながらマリーが怒る。
「お姫様が取っ組み合いの喧嘩なんかしないで下さい!相手のジェンだってただではすまないのですよ?ホント勘弁して下さいよ?」
「ルウドに近づこうとするからよ。危険分子は取り払っておくのが私のやり方よ」
「……姫様…‥、誰も姫様には敵いませんから。姫様以上にルウドさんを思っている人など居ませんから。ちょっと憧れるくらい許してあげて下さいよ?」
「……ちょっとならね?でも最近何とかの会とか造って怪しげな動きしているからどうしてやろうかと思っていたのよ。あのジェンとかローラとか言うメイドがやたらと鼻につくし」
「……メイドの事なんかどうでもいいじゃありませんか?姫様以上にルウドさんに近づけはしませんよ?」
「そうかしら?」
「そうですよ、姫様付きの騎士と下働きのどこに接点があるというのです?ありえませんから気になさらないでください」
そう言われてみればそうだ。ティアは納得する。
「大体なぜ同じテーブルで争うのです?違うでしょう立場が。ティアさまが何とも思わなくても相手のメイドの立場が悪くなるのですよ?」
「同じテーブルだったんだからいいじゃない。別に姫だと言った覚えはないわよ?」
「もうとっくにばれてますよ。護衛騎士も婦長もいたのですから」
「……相手の女が処分されたら正々堂々戦った意味がなくなるわ。マリー、フォローしておいてよ?」
「…分かりました。ですがもう二度とメイドと取っ組み合いなど止めて下さい」
「悪かったわ……」
最近侍女を泣かせてばかりいるティアは素直に謝った。
侍女が出て行ってからティアは思いだす。
「そう言えばルウドを捜していたのだわ…」
騎士宿舎へ行こうとして呼び止められた。
本日休みの彼が行くところと言えばどこだろう?
「そうだ、ハリスに聞けば分かるかも」
ハリスは本日アリシア姫の警護のはずだ。アリシアは動かないので居場所を特定できて楽だ。
ティアが姉の部屋へ行くと入口にハリスが居た。
「ねえハリス、ルウドはどこにいるかしら?」
「………‥ティア様、何してるのですか?先程使用人と大喧嘩してたって報告が来てましたよ?」
「だからルウドを捜してたのよ?一体どこに行ったのかしら?」
「ええ?薔薇園か魔法使いの塔ではないですか?最近いつもそこではないですか?」
「居ないのよ」
「ではどこか街へ遊びに行ったのでしょう、ほっておいても夜には戻ってきますよ?子供ではないのですから」
「……聞きたい事があったのに。まさか逃げたのかしら?」
「逃げてどうするんです?あなたの護衛なのですからどうでも顔を合わせるのに。休みの日くらいそっとしておいてあげましょうよ?」
「気になって仕方がないのだけど、…‥まあ後でもいいわ」
件の大げんかで多少疲れたティアは魔法使いの塔へ戻ることにした。
ゾフィーに疲れのとれるお茶を入れて貰おう。
ルウドはまた懲りもせず湖に来ていた。そして幽霊に説教されていた。
どうすれば彼を成仏させることが出来るか考えていたのだが彼の話を聞かなければ分からない。だから彼の話を聞いている訳だが自分に対する説教ばかりだ。
「大体お前は女心を全く分かっていない!もっと女性に気を配るべきだ。昨日のあれはなんだ?デートだというのに気の利いた事も言えずにこんな不気味な場所で釣りなど始めおってからに!あり得ないぞ?彼女が怯えていたのを全く気付いていなかったろう?可哀そうに獣の声にいちいちビクついていたぞ?全く朴念仁なやつだ」
「……はあ、申し訳ありません」
「こんな男が好きだと言って付いてくる女性がいるとは信じられん。純粋なお姫さまだからこそともいえるか。ともかくそんな稀な人をもっと大事に扱ったらどうなのだ?しかもお姫さまだぞ?ぞんざいに扱っては罰が当たるぞ?」
「……そんな、ぞんざいだなんて。そんなつもりはないです」
「そんなつもりがなくともぞんざいなのだ。お前の周囲全てがそう言うに決まっている!」
「ゆ、幽霊殿……」
「クラディウスだ!幽霊って言うな!」
「すいません、クラディウス殿。私はルウドというもので…」
「ルウド!大体お前ははっきりしないからいかんのだ。姫の気持ちをもっと受け止めて返してやる位の事して差し上げなくてどうするんだ?愛しているならそう言うべきだ!」
「いえそれはちょっと、駄目です。姫の可能性を潰す訳には…」
「何が可能性だ。お前の姫はもう選んでいるだろうが?お前が選ばないうちに姫が消えてしまったらどうするんだ?後悔しても遅いんだぞ?」
「後悔って…。大丈夫ですから……」
「ふん、とてもそうは思えんな。お前を見ていると昔の自分を見ているようでいらいらする」
「クラディウス殿のお姫様はどんな方だったのですか?」
「うむ、とても綺麗で優しくて可愛らしい方だった。元気で、ころころと良く笑う方でな。笑顔が春の花のように可憐で……」
そんな彼女が次第に元気をなくし、笑顔が消え、削がれるように力を無くしてベットに伏し、病気になって痩せこけていき、まるで枯れ落ちるように命の火が消える。
そんな所を目の当たりにした彼はどれだけ後悔したのだろうか。どれだけ自分を責めたのだろうか。
「……す、すいません……」
「いいんだ」
ざわざわと風の音が鳴る。どこからか鳥の嘶きが聞こえる。
「辛い事だが、忘れたいことではない」
優しい思い出も沢山あるはずだ、それなのに……。
「なぜ自分で命を絶ってしまったのですか?」
「不躾な男だな。姫が亡くなってしまって私が生きていけるものか。絶望して目指す方向すら見失ってしまったのだ」
「……そうなのですか……」
それほどに姫を愛していたという事だろうか。
「ダメな人ねえ、勝手に自害したのを姫様のせいにするなんて。姫様が可哀そうよ?」
「何だと…‥?」
ルウドの後ろにロヴェリナが現れた。ルウドの前にいたクラディウスがぎろりと魔女を睨む。
「いきなりなんだお前は?最近現れた魔女か?訳もなくいきなり現世に現れおって。少しは人の迷惑を考えろ」
「あなたに言われる筋合いはないわ。私が出たのには私なりの理由があるのよ?贖罪とか言ってかっこつけて居残ってるあなたとは違うのよ」
「何だと!無礼な魔女だな!私の事だ、貴女には関係なかろう?どこかへいけ!」
「失礼な人ね?私は元々ルウドの側にいるの。消えるなら貴方が消えればいいでしょ?」
「ここは私の住処だ、出て行けなどと言われるのは筋違いだ!」
「自害した場所に居ついただけでしょ?別にあなたの土地じゃないわよ?」
「何なのだ君は?いきなり出てきてごちゃごちゃと!魔女は黙っていろ!」
「………」
騎士の幽霊と魔女が喧嘩を始めてしまった。
ルウドはぼんやりその二人を眺める。
「大体誰も自害してくれなんて頼んでもいないのに勝手に自害して勝手に森を呪いの森にして、はっきり言って迷惑よね?」
「なんだと!この森のお陰でどれだけの男女が結ばれ幸せになったのかも知らないで!勝手な事を言うな!」
「そんなの貴方の自己満足じゃない。この森のせいで結ばれるはずのない二人が結ばれて周囲が不幸になってしまった例もあるのよ?」
「くっ、何がいいたいのだ貴女は?私のしている事が無意味だとでもいいたいのか?」
「無意味とは言わないけど、べつに必要はないわね」
「……必要とされたくてやっているわけではない」
「じゃあ何の為?贖罪の為?誰もそんな事望んでないでしょ?それとも誰か望んだの?」
「私が望んだのだ」
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「……‥」
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「…………エレミア姫はこんな私に最後まで微笑んで、愛してるからどうか幸せになってくれと、そう言って亡くなったのだ。私は何も考えられず、忘れていた」
「そう……」
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