意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十五話 兄の条件 

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「……フ、フレイ殿。こんな所に姫が居る訳が……?」

「ルウドさん、しかしあの遊び人二人が行くところなど此処位しか思いつかない。しかも姫が一緒ならばそれなりに気を使って安全な高級宿にするでしょう?この界隈で一番高級な宿と言えばここしか思いつかない」

「……幾らなんでも。しかし……」

「まあ確かめてみましょう?」

 中へ入るとあでやかな姿の女性達の注目を集めた。

「まあいらっしゃいませお客様!コンボート様!」

 女性達がわらわらと二人を取り巻く。

「来て下さってとてもうれしいですわコンボート様!まあこちらのお連れ様は素敵な銀髪の方ね。どんな女性がお好みで?私でもよろしいかしら?」

「嫌あのその……ふ、フレイ殿?何で名が知れているのですか?」

「…‥いやあその、付き合いで何度か…」

「……」

「と、ともあれ主、レィスティー。ここにうちの騎士二人と他国の騎士一人と姫が来てはいないか?」

「来ていらしてますよ。先ほど。今お楽しみの最中ですね」

「………」

 女主レィスティーの言葉にルウドは困惑する。

「……このような場所でお楽しみって。お姫様ですよ?一体何を?」

 責めるように店主を見ると彼女は呆れた様子で冷たく言う。

「…心配ならどうぞ見に行って下さい。こちらも立場をわきまえていますから無茶はしませんよ?自ら娼館に来ておいて何もするなと言う方が無茶だと思いますが?」

「―――――…!姫はどこに?」

「三階南奥の特上部屋に」

 ルウドはわき目も振らずに階段を上がり目的の部屋へ向かっていった。






 ティア姫と娼婦二人は意気投合し、酒と料理を肴におしゃべりに夢中になっていた。
 同じ年頃の娘たちのおしゃべりは尽きる事がない。
 恋話に夢中の三人に居心地の悪さを感じた騎士達は部屋をそって出て、今は別々に行動している。
 館の何処かにはいるだろうがこんな所なので女性と遊んでいるのは確実である。
 ルウドに劣らず堅物のジルは誘われたが断った。
 部屋には何となく入りづらいが部屋の外で警備をする。
 通りがかりの娼婦たちに何回か必要ないと言われて誘われたがやはり頑なに断った。
 姫に唆されて警備隊と離れてしまった手前、ジルには姫を守る責任がある。隊長ルウドの分までしっかり守る義務がある。

「―――――おい」

「!」

 見ると隊長ルウドが立っていた。
 声を出す前に口を封じられ隣の空き部屋に連れ込まれた。

「た!たたたたたたたたた隊長!申し訳ありません!」

「いい。お前が姫に逆らえないのは分かっている。ティア様はあの部屋か?」

「はい、楽しんでおられます」

「…‥楽しんでって…‥大丈夫なのか?」

「ええ、女性三人でおしゃべりに夢中ですが」

「おしゃべりか…」

 ルウドは肩を落とす。
 空き部屋を出てそっと姫のいる部屋を覗くと女性三人が料理を挟んで和気あいあいとしゃべっている。多少酒も入っているようだ。

「あのう、隊長?」

「分かっている。邪魔はしない。どうせ出発は明日になるし、捕縛して説教も明日だ。私達に見つかったことは黙っていてくれよ?また逃げられたら適わん」

「はい」






 一階の女主の部屋でレグラスとリルガは正座させられていた。
 二人の前に隊長フレイが居る。

「全く緊張感がなさすぎる。何を考えているんだお前達は?他国の姫様をこんな所に連れ込んで。そもそも脱出に協力するなんてあり得ない。けしからん。城に戻ったら相応の処罰が下ると思え」

「……す、すいません」

「面目ねえ…」

 ティア姫に唆されたとは言えず、二人はいい訳も出来ずにただ謝る。
 二人がここに姫を連れ込んだのは間違いないからどうしようもない。

「フレイ殿」

 娼婦に案内されて、ルウドが現れた。

「ルウドさん、姫様はご無事で?」

「はい大丈夫です、楽しくお喋りしていますよ。その、今回の事はそもティア姫のしたことです。お二人を責めないでください」

「いやしかし、そういう訳には」

「うちでは姫の暴挙に騎士が巻き込まれるのはよくある事です。巻き込まれた騎士にはその分重荷と責任が加算されますし。脅されて従わされろくな目に遭わされないのもしょっ中で。姫に巻き込まれたものは皆被害者と見なしています。ジルなどは何の弱みを掴まされたのか全く姫に逆らえない有様で。
 ですからお二人も被害者とみなし処罰は寛大に願います。事の元凶であるティア様には後できつくお灸をすえておきますから」

 一体どんな姫だ?とロレイアの騎士一同はまず思った。
 そしてこのルウド隊長の姫様へのぞんざいぶり。ただの姫と騎士の関係とは思えない。

「……まあルウドさんがそこまで言うなら考えておきましょう」

「話は終わった?騎士さん達」

 様子を見計らって女主が傍に来た。

「はい、姫様を一晩お願いいたします」

「もちろん大切なお客の身柄の安全を保証するのも高級宿の務めさ。安心していい」

 レィスティーは微笑みそう言い、手を叩く。
 するとドアが開いてわらわらと娼婦たちが入ってきた。

「――――え、レィスティー?」

 彼女達は騎士を取り囲む。

「お姫様の事は安心していいよ。だからあなた達も気兼ねなく楽しんで行って?」

「え、そんな、私達は姫の居場所を確認して見張りに…」

「何を言っているんだい?ここをどこだとお思いよ?娼館に来て置いて娼婦を抱かないで帰るなんて馬鹿な事、言うつもりじゃないだろうね?
 ここは高級宿、娼婦を袖にする客なんて許さないよ?身ぐるみはいで褌一つで追い出すからね?」

「……‥」

 女主は笑って言うが目が本気だ。

「さあ、銀髪の騎士さま、お好きな女性を選んでくださいませ?金髪、赤毛、黒髪、沢山取り揃えていますわ。若いのも年増も、何なら男娼も居りますのよ?」

「……」

 ルウドが困って騎士達を見ると彼らは最初から決まっているように相手を選んだ。

「わたし、いつもの」

「ああ俺も例の女を」

「私も…‥」

「ちょ…!フレイ殿…!」

 女達と共に部屋を出て行ってしまった。

「………」

「さあ早く、銀髪騎士さま」

 窮地に立たされたルウドは仕方なく相手を選んだ。




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