意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十五話 兄の条件 

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 その頃ルウドはもちろん娼婦と共にいた。
 サエという二十歳位の赤毛の娘だ。彼女は取り立てて際立つ特徴もないが優しいいい子だ。

「……本当にすまない」

「いいのよ、そう何度も謝られると私が余計惨めだわ」

「私は自分が情けないよ…」

 裸の上半身に薄い上着を羽織っただけの彼女は寝台で微笑む。

「きっとあなたはホントに愛する人にしか反応しない人なのよ。身も心も真面目なのね。だから落ち込むことはないわ。愛する人を愛してあげて?居るでしょう?」

「………居る」

 上半身裸のままルウドは椅子に腰掛け、お茶を飲む。
 なんだか外が騒がしい。

「……夜中だというのにここは賑やかだな。この仕事も大変だ」

「いいえ、おかしいわね?何してるのかしら?こんな時間に騒ぐのは他のお客にも迷惑だし、あり得ないのだけど?」

「そうなのか?」

 しかしどかどかと走り回る足音と誰かが喚いている声がする。
 なんだか聞き覚えのある喚き声が次第に近づいて来て、そして部屋のドアが開いた。

「ルウドっ……!」

「……ティア様?」

「…っ、いやあああああああああああっ!ルウドが!ルウドが!私のルウドがよその女といかがわしい事してるうううううううっ!」

「なっ!何言ってるんです!そんな大声で!」

「馬鹿あああっ!不潔よっ!私と言うものがありながら何してるのよ浮気者おおおおおお!」

「やっ、やめて下さい!浮気って、誤解を招くような発言を叫ばないでください」

 ルウドは入り口で叫ぶティアを取り押さえて中へ引き入れ戸を閉めた。
 ルウドの胸の中でティアが暴れて泣き喚く。

「何よ!酷いわ!私のいるこんなすぐ傍で他の女抱くなんて!私なんか相手にもしないくせに!」

「当たり前でしょう?姫様を抱けるわけない。そもそも子供なんか相手に出来ない」

「酷っ!やっぱり胸?胸なのね?何よ子供扱いして!私だってルウドの赤ちゃん産めるんだからあああああああっ!」

「生まなくて結構です。大体何してるんですか貴女は。そんな恰好で?」

「そんな恰好?そんな恰好って言ったわね?館内のあちこちで綺麗だって散々褒められたのに!この格好のどこが気に入らないというのよ?この分からずや!」

「お姫さまが何娼婦の格好してるんですか?貴女姫の自覚ありますか?これからどこに向かっているか分かっていますか?」

「分かっているわよ馬鹿あああっ!何よ任務中に他国の女に手を出したルウドに言われたくないわよ告げ口してやるうううううっ!」

「その件を報告する際にはまず貴女が脱走した経緯を話さねばなりませんね」

「くっ、お城には歩いていくつもりだったわよ!ちょっと街で遊ぶくらいいいじゃない!」

「まさか娼館で遊ぶなんて思いませんでしたが」

「そ、それはロレイアの騎士達が!何よルウドの方が楽しんでいたくせに!」

「楽しんでないわよ?」

「えっ…・?」

 寝台の上で二人を見ていたサエが呆れたように言い、寝台から降りる。

「私がどう頑張っても彼、乗ってこないから全然ダメ。銀髪騎士のお客なんて滅多にいないのにがっかりだわ」

「す、すまない…」

「いいのよもう、私じゃ駄目ってことね。たまにいるのよそう言うお客。愛する人がいるならその人を幸せにしてあげてね?」

 そう言ってサエはとっとと出て行ってしまった。

「……ルウド、ちょっと……」

「え……?」

 ルウドの腕の中にいる姫の目が険を含んでいる。

「愛する人って誰よ?」

「え………?」

「この私を差し置いて、誰を愛しているのよ?言いなさいルウド!その女抹殺してやるわ!」

「うわっ、やめて下さい姫っ!噛みつかないでっ!そんな所をっ!うっ、わあああああああああっ!」






 ティア姫とルウドが居る部屋の隣室で、ロレイアの騎士達は思い悩んでいた。
 隣から騒いでいる二人の声が聞こえる。

「―――なあ、本当に大丈夫なのか?あの二人、皇子のとこに連れ帰っても。なんかすごいまずい気がする」

「いやしかし、皇子はすべて分かった上で姫様を呼んだのだろうし…」

「そうだ。いいかお前達、我々の仕事はあの姫を無事城に送り届けることだ。姫を無事城に届けさえすればいいのだ。他の事は感知する必要はない」

「しかし隊長。スティア皇子がさあ…」

「それは任務を終えてから考えなさい。これは王命であり国家的な密命なのだ」

「そうだな」

「そうだとも…‥」

 余りに緊張感がない他国の姫と騎士達を見ていてつい忘れていたがこれは重要な国家的任務である。一国の姫に何かあったら国家的大問題になる。
 友好国との仲にひびが入り溝が出来る。
 マルスは小国だがロレイアを含め近隣の様々な国と交友がある。敵に回したら何が起こるか分からない。
 それにあのお姫様をしっかり皇子の元に届けなければ密命を受けたスティア騎士団の名誉にもかかわる。
 スティア皇子に従う騎士団はその殆どが自分達が皇子を馬鹿にしても他人に馬鹿にされるのは我慢ならないものばかりだ。とくに他の皇子の騎士団に馬鹿にされると命がけの諍いが起こる。

「なんかすごい波乱の予感がするなあ。とても姫とは思えない姫さまだし。あの騎士も…」

「噂と言うのは怖いなあ。どれだけ尾ひれがついて他国に行き着いたんだか。確かに噂どおりの白薔薇姫だが。立っているだけなら……」

「性格がなあ………‥」

「良くあの平凡なお坊ちゃまがあの個性的な姫様に覚えて貰えたな。一体どんな奇跡を起こしたのか城へ戻ってぜひ聞いてみたいよ」

「全く……」

 騎士団の三人は一様に物思いにふける。
 隣の部屋では未だに物悲しげなルウドの叫びが続いていた。


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