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第十六話 ロレイアの騎士達
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しおりを挟む「―――姫様、ただの一時であっても貴女から目を離してしまった事。私は重々反省しております。この様に気を緩めてしまえば取り返しのつかなくなる事を私は何度も分かっておりますのに。本当に馬鹿な私をどうぞお諫め下さい」
「……ルウド」
「何度も何度も同じ間違いを。自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしてしまいます。こうなれば国元へ戻ったあかつきには報告して如何様にも処断して頂いた方がましかもしれません」
「そんな、間違いは誰にでもあるわ。その経験をバネにどう行動するかがその罪を帳消しにする手段じゃない。ルウド、まだ若いんだもの。幾らでも取り返しはつくのよ?」
「そうですね、姫にそう言っていただけると嬉しいですね。とてもやる気がでます」
「……そう、良かったわ……」
「これよりは改めて気を引き締め直し、護衛を強化します。隣国の護衛をあてにせず、私自ら先陣を切って貴方を守る所存です。けして目を離さず、腕を離さず、ひと時も貴女の傍を離れはしません」
「……ええと、それは……」
「――――――姫……」
ティア姫の後ろにいるルウドがしっかり姫を抱きしめる。
「もう二度と、何があろうと決して貴方を離したりは致しません」
「ルウド、その、嬉しいけど…。こんなとこで…。皆が見てるわ」
「構いません。これ以上私の不備のせいで誰かに迷惑がかかるのは困ります。貴女をしっかり捕まえておかなければロクな事にならない」
「…だからって何故私を縛りつけて馬に乗せるのかしら?私徒歩で行きたいのだけど?」
「貴女のせいで予定が随分狂っています。明日の昼には城に着く予定でしたのに。ともあれ城に着くまでに先に行った馬車の警備隊に合流せねばなりません」
「別に合流できなくてもいいじゃない。ゆっくり行きましょう?」
「冗談ではありません。予定通りに着かないなんて。騎士隊の名誉に関わります。うちの騎士隊だけならまだしもロレイアの騎士隊にまで」
「そんな大袈裟な。数日の遅れなんて大したことじゃないでしょう?」
「大したことです。一国の姫として王国の王にも皇子にも早々にご挨拶せねばならないのに街で遊んでいる場合ですか。ティア様、ご自分の使命を忘れているでしょう?」
「……忘れてなんかいないわよ?」
「馬車が嫌とか馬が嫌とかそんな瑣末事、言っている場合ですか?予定が狂えばロレイアの方々にご心配を掛けてしまいます。急いでこの数日の遅れを取り戻します」
「―――――えっ……ちょっと待って…」
「待ちません、しっかり掴まっていて下さい」
ロレイアとマルスの騎馬隊は容赦なく走り出す。
「いやああああああっ!止めてええええっ!」
「口を閉じていないと舌をかみますよ。大人しく捕まっていなさい」
街を出て走り出した馬は激しく揺れた。ティア姫は口を開ける事も叶わずただルウドにしがみ付いて馬を止めろと目で訴える。
しかしルウドは全く意に介さず、馬車の警備隊との合流地点に着くまで容赦なく走り続けた。
「ルウドの鬼!酷いわこんな扱い。待遇の改善を要求するわ!」
「知ったことではないですね。待遇の改善を要求するならまず、貴女の悪行をやめて頂きたいですね」
「わ、私が何したというのよっ、ちょっと脱走しただけでしょう?」
「ちょっと?冗談じゃない。護衛を振りきって逃げる姫なんて大変迷惑です」
「悪かったわよ…」
城下の街宿で無事馬車隊と合流を果たし、翌日城内入りの予定で宿で休むことにした。
しかしルウドは油断せず、姫の監視を怠らない。
「本日はお疲れ様でした。明日はもうお城に入ります。ゆっくり体を休めて下さいね。何か入り用の物があれば外の者に言えば取り寄せますから」
「………疲れてもう立てないわ。お尻が痛いし身体のあちこちも痛い。見張っていたってこんな状態じゃ動けやしないわよ?休むわ、でも明日動ける保証はないかもね」
「そうですか」
ルウドはにこやかに笑い、部屋を出た。
馬での強行は流石の姫にもこたえたようだ。
可哀そうな気もしたが警備隊も疲れがピークに達している。早く安全なお城に辿り着きたかった。
「ルウドさん、姫の様子はどうですか?」
「フレイさん、とても疲れていましたよ、無茶しましたから。まああの御様子なら脱走する気力はもうないでしょうね」
「ルウドさんも大変お疲れでしょう?少し休まれては?」
「平気です、明日お城に入ってから休ませて貰います。姫を城に入れるまではまだ安心できませんから」
「そうですね、我々もしっかり姫の護衛に努めます。城に入れば皇子も待っていますが我々一団もあなた方の歓迎の準備をして待っていますよ」
「それは楽しみですね」
―――――ティア姫が来る。もうすぐ、間もなく、いよいよ!
スティアは落ち着かない気分でその辺をうろうろと歩きまわる。
何だろうこの言いようのない不安感は?妙な胸騒ぎと訳の分からない焦躁感は?
逃げたいと駆られてしまう妙な危機感は?
スティアは勿論姫が遊びに来てくれるのはとても嬉しい。
姫とお会いし、話せる分だけ余所のライバル達よりは有利なのだ。
この城で楽しく過ごして、友人としてでも接して貰えるなら今はそれで充分だ。
「何か落ち着きませんね、情報では無事姫は城下の宿に辿り着き、明日には城内に入られるそうですよ?もうそんな不安な事はないとおもいますが?」
騎士団の一人が言う。スティアは苦笑する。
「隊長自ら姫を迎えに行ってくれてるんだ。元々護衛に不安はないよ。そういう心配はしていない」
「では何か気がかりな事が?」
「気がかり?」
スティアはじっと騎士を見る。
気がかり?少し違う。何かこうもっと、根本的な…?
「……近未来的に起こりそうな言い知れぬ不安?」
「何ですそれは?」
「うーん、分からない。何だろう?きっと起こったら分かるだろうけど」
「……それは迷信とか気の性の類でしょう?明日には麗しいお姫様と再会できるのです、もしや緊張してるのでは?あまり興奮しすぎて眠れなくなったりしない様にして下さいよ?寝不足の皇子なんてかっこ付きませんから」
「……そうだな…」
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