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第十六話 ロレイアの騎士達
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しおりを挟むロレイア第六皇子護衛騎士団はマルスの騎士達の為に宴を準備してくれていた。
友好的な関係を築くべく心から歓迎してくれている。
ロレイアのような大国の騎士達が小国の田舎騎士達と対等に接してくれるなど、正直あまり期待して居なかったのでとても喜ばしい。
「長旅お疲れ様です。ここまでくればもう姫様の身も保証されます。あなた方も十分休んで行って下さい」
「ありがとうございます」
スティア皇子専属騎士団五十数名とマルスの騎士五十名が飲み食いしながら語り合う。
今回は任務終了でもあり、酒も入っている。
姫にはスティア皇子専属の使用人と侍女、護衛も付いている。姫とて幾らなんでも初日から知らない城をうろうろは出来ない。
なのでルウドも進められて遠慮なく酒を呑んだ。二番隊の部下達も気分よく酒を飲んで語り合っている。
「ルウド隊長、お疲れ様です」
「フレイ隊長、お世話になります。本当に我々にまで良くしていただいてありがたいです」
「いやいやうちの隊はいつもこんなもんだよ?気にすることはない」
「はあ…」
「我が国には皇子の専属騎士団と言うのがあってね。その人選の選出は皇子自らが行うのだよ。だから例えばスティア皇子の騎士団には皇子が気に入った者しか入れない。そうなるからどの騎士団も各皇子の人格が反映されたような騎士団になるんだ。
だからうちの隊はこんな感じ。しかし他の皇子の騎士団はこうはいかない」
「はあ、なるほど」
「スティア皇子は第六皇子、上に五人皇子が居て、さらに下にも二人皇子が居る。各皇子に専属騎士が五十人ほど付いていて、何かと衝突が激しい」
「衝突…?なぜ?」
「皇子が決める専属騎士の質が高ければ高いほど皇子の資質も上がるからね。騎士団の優劣は騎士達にも皇子達にとってもとても関心の高い事項なんだよ」
「それは大変ですね…」
同じ騎士同士で優劣を競うなどルウドは考えた事もない。しかもどのように優劣を競うのかも想像つかない。
「まあ色々あるんだよ。うちは今王妃が三人いてね。その王妃が生んだ皇子も平等に二、三人ずついる。皇女もいるがまず重要視されるのが皇子達でね。次王継承権の決定事項に騎士の優劣も重要視されるらしいから。
王妃も皇子も沢山いるから生まれた順番で簡単に決める事は出来ないんだ」
「そうなのですか…」
マルスには皇子は一人しかいない。羨ましいのか面倒なのかよく分からない話だ。
「スティア皇子は第一王妃の次男。微妙に難しい位置に居てね。裏で命を狙われたりすることもある。あののほほん坊ちゃんぶりではとてもそうは見えないけどね」
「……そうなのですか」
大国だけあって難しい事も危険な事もあるようだ。
ルウドが難しい顔をしているとフレイが何かに気付いたように慌てた。
「―――あっ、でもうちの騎士団は精鋭ぞろいだからけして姫に危険が及ぶような事はないので。ほら皇子もあの通りのほほんとしていますし。大丈夫ですから」
「はい、その点の心配はしていません。むしろうちの姫様が周囲の人々にご迷惑をかけはしまいかとそれだけが心配で」
「随分個性的なお姫様のようで」
「ええホントに。困った姫で。目を離すと何をするか分かりませんので重々気を付けてください」
「……?」
スティア皇子はびくびくしながらティア姫のいる客室にご機嫌伺いに訪れた。
「ティア姫様、御気分はいかがですか?」
「気分?悪いわよ、最悪よ。体も痛いし疲れが取れないし」
慣れない馬と馬車の長旅に姫の身体は応えた。筋肉痛だ。
「……ええと、うちの城には温泉の通るお風呂がありまして。関節痛や疲労にとても効きますよ。すぐ近くですからぜひ使って下さい」
「温泉。そんなのがあるなんていいわね。ぜひ使わせて貰うわ」
ティア姫はソファーに横になったまま動かない。
確かにルウド隊長が言ったとおり当分は大人しそうだ。
「ティア姫、昼食はいかがですか?すぐ持って来させますよ。ご一緒してもいいでしょうか?」
「……王様との謁見は?ご挨拶に行かなきゃ」
「晩餐の時間でいいですよ。王は色々多忙ですからお会いする時間もあまりとれませんから」
「そうなの?それでいいのかしら?」
「ただの交友目的ですからそれほど難しく考えなくていいのですよ」
「そう……」
ティア姫はソファーの上で息を漏らす。
「ところでうちの護衛はどうしたのかしら?こんな目にあわせてくれた件の彼に肩でも揉ませようと思ったのに」
「今頃うちの騎士達からの歓迎会ですね。浴びるほど飲まされているかも」
「……私の護衛はどうなっているのよ?」
「それはもう当方の警備にお任せ下さい。うちの城内で滅多な事はありませんよ。お客さまに安心して過ごして頂けるだけの配備はしてあります。マルスの騎士達にもゆったり過ごして頂きたいので」
「そう…」
「彼らにはまだ、マルスへ帰る際の姫の護衛という重要任務が待っていますからここにいる間くらいは楽をさせてあげなくては疲れてしまいます」
「そうね、色々気を使ってくれているのね。ありがたいわ」
「いいえ、そのくらい当然のことです。私もマルスでは随分お世話になりましたし」
「そう、じゃあ私も羽を伸ばさせて貰うわ」
「はいごゆっくり、……姫?」
ティア姫はぎこちなく身体を起こし立ち上がる。
「……歓迎会って宴会?ずるいわ、護衛隊だけ。私は仲間はずれなわけ?」
「……騎士の歓迎会ですよ。姫や皇子が立ち入っては彼らがやりにくいでしょう?」
「へー、そう言って差別するの?私だってお客なのに一人だけ部屋に押し込めて。実は歓迎されてないのかしら?」
「違いますよ。そうではなくてですね…‥?」
「何よ、私だって参加してもいいでしょう?騎士達だけずるいわ」
「……わ、分かりました……」
やはりティア姫には逆らえない。
スティアは大人しく姫を案内した。
騎士達はすでに皆出来上がっていた。
歓迎会の部屋に入った姫は眉をしかめる。
「うわ、お酒くさっ。昼間っからいいのこれで?」
「ひ、姫様、やっぱり部屋に戻ってランチにしませんか?こんな酒臭いむさい男ばっかりの所、嫌でしょう?」
「…………」
部屋の隅で飲んだくれて転がっている男達がゴロゴロいる。それ以外はまだ飲み続けて訳の分からない話題に花を咲かせている。
「うおっ、皇子っ、何ですって?酒臭いむさい男?あはははははは!そりゃそうだあ俺らむさい汚い酒臭い騎士だあよおははははは!皇子も仲間さ、さあ遠慮なく入りなよおふへへへへへっへ!」
「うわっ、いや私は……」
酔っ払いに絡まれた皇子は中に引きずり込まれて無理やり酒瓶を口に突っ込まれた。
「ふっへへへへへへ!仲良くやろうよ皇子さまああ!」
「うっ、わああ、勘弁、やややめてっ!」
「ほおらほら、格好なんか付けてないで飲みなよお!好きだろう?」
「ひいいいいいい!」
皇子は酔っ払いの中に紛れ込み、あっという間に分からなくなった。
「………」
酷い。こんな歓迎会とは想像できなかった。
同じ騎士隊とは言ってもお国柄とか個々の性質とかでいろいろ違いが出るものなのだろう。うちの城でこんなにあからさまに呑んだくれる騎士は見た事がない。
ティア姫は困ってマルスの騎士を捜す。
もはやただの酔っ払いになってロレイアの騎士達と混ざり合っている騎士達をみつけるのは難しかった。
「……‥ル、ルウド……は…」
銀髪を捜すと部屋の奥でまだ飲んでいるのが見える。
何だか楽しそうに飲んでいるがすでに出来上がっているのが明らかに見て取れた。
「……‥」
とてもこの中に入る勇気は姫にはなかった。
この部屋が今襲撃されれば全滅は免れない。いやいっそ姫自ら襲撃して抹消してしまいたい。
「……うっ、姫……危険ですから、部屋へ戻っ…‥!」
「ひめえっ?姫様あ?うおおおおおお!お姫様あああああ!」
「うわあああああ!お姫様あああ!ロレイアへようこそおおお!うおおおおお!」
「歓迎するよおおお!美人は大好きだよおおお!」
「うおおおっ、本物の姫だああああ!綺麗だ嗚呼ああ!」
酔っ払い達が歓喜に沸き、何故か拍手を送られた。
「……‥」
「姫様!姫様!さあこちらへ!歓迎しますよっ!一緒に飲みましょう!」
「―――――姫っ、に、逃げてっ…‥あああっ!」
「何言ってるんですスティア皇子っ。さあさあさあさあ姫様っ、隊長席へっ!皆が見える奥の隊長席へどうぞっ!」
ティア姫はあっという間に部屋の奥の隊長達が居る席へ追いやられた。
「ふあははははは!いい日だ!今日はいい日だああっ!」
「美しいお姫様と飲めるなんて何たる幸運!」
「皇子っ、良くやった!本当に良くやりました!素晴しい!」
「あああああ!今晩はいい夜だ!飲み明かすぞおおお!」
異常な浮かれ具合だ。そして今はまだ昼、本当に飲み明かすつもりだろうか?
「―――――ティア様、何してるんです貴方は…」
「ルウド…‥」
真っ当な事を言っているようだが呂律が回っていない。何故か顔が笑っている。
「……大丈夫?もうやめた方が……?」
「何を言ってるんです、まだまだこれからです。まだまだいけます。姫には負けません!」
「……‥」
姫は別に酒は飲まない。張り合われても困る。
どうやらもう十分すぎるほどに酒が入り過ぎているようだ。
「さあさあ姫様も、存分にどうぞ?」
酒瓶を貰っても困る。
ティアが途方に暮れているとそれをルウドが取り上げ、一気に飲み干し始めた。
「ル、ルウド…‥」
「子供が酒なんかやめなさい。全部私が飲みます」
「……ほ、ほんとに大丈夫なの?」
「平気ですよ?平気です、ふふふあはははは、なんか楽しい夜ですね、あはははは!」
今は昼だ。
「さあ姫、こちらへいらっしゃい。食べるものもありますよ?この魚なんかどうです?」
姿の焼き魚など出されても困る。
「……いらないわ…」
「ならこの串焼き肉は?野菜も付いてますよ?」
「……」
大雑把な野戦料理と酒で騎士達は盛り上がっているようだ。
来るんじゃなかった、と姫は後悔した。
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