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第十六話 ロレイアの騎士達
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しおりを挟む「酷い目にあったわ…」
「すすす、すいません。うちの騎士達はどうも酒好きの荒くれ者が多くて。基本強くてカッコいいのですが」
「スティア、もっと早く言ってほしかったわ」
酒に呑まれた騎士達が大半いびきをかき始めた隙に逃げ出してきた。
ティアは余計に疲れてソファーでぐったりした。
「あれ、貴方が集めた騎士隊ですって?さすがあなたの騎士隊ね。のほほんぶりが主人そっくり。昼間っからあんなに飲んで今何か起こったらどうするのよ?」
「抜け駆けの罰とかで三人ほど残されてますから心配いりません。そんな城内で事件などそうそう起こりませんよ」
「ああ、廊下にいたわね。遊び人二人とうちの下僕」
「下僕って…‥…まあ腕は確かですので……」
スティアの部屋で、軽食とお茶を出されて人心地つく。
「騎士達ばっかり楽しそうでなんか納得いかないわ」
「いやそんな事は。姫はお疲れでしょう?身体を休めましょうよ?ほら温泉とか?マッサージとか?」
「……温泉」
「晩餐の時間には家族に紹介いたしますね。まあ家族と言っても父と第一王妃の私の母と兄だけですが」
「……一国の姫として王への謁見ではなくて、あなたの家族との面会?なんか聞いた話と違うわね。おかしいわね。怪しいわね」
「そんな、怪しくなんか無いですよ。私のご友人としてお会いしたいと手紙を書かせたのは父なのですから」
「期待を持たせちゃ悪いからはっきりお断りを入れておいた方がいいかしら?」
「いやその、本当にただの友人としてのお付き合いのつもりで……。姫は、あのその…‥、まだルウド隊長の事を……?」
「当然よ。諦めるわけないでしょう。簡単に忘れられるような気持ちじゃないわよ」
「そう、ですよね……」
スティアが肩を落して息を吐いた時、外からノックと声がした。
「スティア、居るのかい?取り込み中かい?入っていいかな?」
「ひ、姫…」
「いいわよ別に。どなた?」
「いとこです」
スティアが許可すると紳士風の男が入ってきた。見た所スティアより少し年上くらい。
金髪茶眼の彼はスティア皇子ににこやかに微笑みながら言う。
「スティア、お姫様到着したって?紹介してくれよ、ぜひ会わせてくれよ?どんなお姫様かなあ、すごい美人って専らの噂だけど」
「……うん、いいよ。こちらマルス国第三皇女ティア様」
ソファーで座ってお茶を飲む姫様を見て彼は目を丸くした。
「…これは失礼。まさか皇子の部屋におられるとは。私、もしかして邪魔でした?」
「昼食をとっていただけよ」
「姫様、彼は私のいとこで公爵子息フレデリック」
「フレデリック=ロレーヌと言います。フレディーとお呼び下さい」
「そう、よろしく」
特に関心もなさそうな姫にフレディーは嬉しそうに話しだす。
「早速お会いできて嬉しいです。他国の姫様に会えるなんて機会そうそうないですから。いやあ全く皇子様様だなあ。この国には姫は沢山いるのですけど簡単にはお会いできないのですよ。王族が隠してしまいますから」
「……隠す?」
「ええ、お姫様は国の利益。交渉ごとの材料ですから。自由はないのです」
「……」
「そこをいくとマルスは自由でいい。お姫様の恋愛話、創作意欲を掻き立てます。ぜひお話を聞きたいなあ」
「何それ?話?」
「ティア様、彼はこう見えてもそこそこ有名な作家なのですよ?」
「史実をもとにした創作小説を書いています。純愛から伝記まで様々なジャンルに挑戦しています」
「……へえ…」
「王族のロマンス。これほど世間受けする話はございません。ぜひ、宜しければきかせて頂きたい。もちろん実名を出したりなどいたしません。あくまで参考にする為です」
「そう、なら他の王族に聞いたらいいわ。私その手の本読まないから。それに参考にされるなんて気分のいいものじゃないわ。それ以前に作家って私いい感情持っていないから」
「……そうなので…」
フレディーの顔がひきつった。スティアはフォローに困った。
「ええと、フレディー、初対面から不躾だよ。その、姫様は今日到着したばかりで大変お疲れだから。まだ父にも会っていないし。またいずれにしなよ」
「そうか、申し訳ない、不躾でした。いきなりお会いできて浮かれてしまいました。もうすぐ王と面会ですか。それは大変ですね。それまでのお休み中にお邪魔してしまったのですね、申し訳ない。一度出直す事にします」
フレディーは肩を落として出て行った。
「ひ、姫、彼は最近売れっ子の作家なのですけど…。嫌いですか、恋愛小説とか…‥」
「姉は好きなのよ、私は眠くなるけど」
「冒険小説とかも書いているのですよ?勇者ものとか、結構面白いのですが…」
スティアは部屋の奥にある書棚から一冊本を取り出してティア姫に渡す。
「――――――…なによ、これ?」
「彼の初作です。楽しい冒険活劇ですよ?『勇者ディーンの栄光』彼のハンドルネームはフレデリック=ネオ。売れっ子作家です」
「……‥」
晩餐は粛々と行われた。
本日はティア姫様が晩餐に参加と言う事で王と第一王妃、第一皇子クライブと第六皇子スティアがそろった。
他の皇子達も同席したがったがスティアの友人として同席する彼女を王族全てに紹介するのはやり過ぎだとスティアが進言し、他の皇子達には遠慮して貰った。
晩餐の席で姫はにこやかに一家に挨拶をして、それから大人しく晩餐の席に着いた。
ティア姫は淑やかで、それでいて軽やかに受け答えをし、一家に慎ましくも美しい聡明でとても良い印象を受けた。
その証拠にセラ王妃とクライブ皇子の目が輝いて見える。
「ティア姫、うちのお城はどうかしら?何か不具合はない?」
「とても良くしていただいてますわ。勿体無いくらいに」
「そう?それならいいのだけど。スティアの気が回らない事もあるかも知れないわ。何かあったら何時でも言って下さいね?」
「まあ、王妃様にそう言っていただけるなんて嬉しい。遠慮なくお話しさせていただきますわ。有難うございます」
「うふふ、やっぱり女の子はいいわね。スティアの所に来てくれたらずっとお付き合いできるのに」
「母上、無理を言ってはいけません。こういう事は周りが口を挟めば尚更こじれるのですよ?」
「クライブ…。そうね、ごめんなさい。期待しながらそっと見守っているわ。でもお茶に誘うくらいいいわよね?折角ここまでいらして下さったお姫様なのにスティアばかりに独占させられないわ」
「まあ嬉しい。お茶に誘っていただけるのですか?では沢山お話できますね」
ティア姫はとても機嫌よくひたすら笑顔を振りまいていた。
スティアはただ黙して食事を進める。
すると三方向から痛い視線が突き刺さった。顔をあげると父と母と兄だ。
彼らの目は何らかの期待の視線を持ってスティアを見ている。
「……」
三人はとても姫が気に入ったようだ。
何とかしてこのマルスの姫を落とせと目が言っている。
しかしそれは件の騎士を倒して姫の心を奪い取るという事。
彼らには知る由もないがそんな困難を何のとりえもないただの皇子が乗り越えられる筈はない。
スティアには全く自信はなかった。ただ諦める事はしない、それだけだった。
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