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第十六話 ロレイアの騎士達
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しおりを挟む全員が王国の誇りある騎士とはいえ、彼ら一人一人に特徴とか目的がある。
そして皇子達も騎士への理想とかがあり、大抵それを元に騎士団が編成されている。
騎士達にも様々な思惑があり、利害が違えばあっさり退団する者もいる。
例えば未来の王の騎士となりたいと考える者はより優秀な皇子に着きたがるし、次々に皇子を乗り換える事も平気でする。
乗り変えられた皇子の中には自分が優秀だから仕方ないのだとその騎士を受け入れるものもいるが、簡単に乗り換える騎士は信用ならないと受け入れない皇子もいる。
そもそもそう言う騎士は良い騎士とは言えない。騎士は良い騎士ほど主への忠誠熱く、簡単に乗り換えなどしない。
広い騎士訓練場を見回したとて、誰もが欲しいと思うような良い騎士がその辺でフリーで居る訳がない。誰もがほっておく訳がないのだ。
色の持っていない騎士は新米の城兵か下っ端の警備兵だ。
ベリルの理想とする、どうしても欲しいと思うような騎士はなかなか見つからない。
広い訓練場を覗いてもあまり意味はなかった。
「ようベリル、毎日見ていて良く飽きないな。いい奴見つけたのか?」
「ルアン。……別に」
第三王妃の長男、第四皇子ルアンだ。黄色のカラーが彼の騎士だが他の皇子の騎士と比べれば落ちる。なぜなら彼の騎士は他の隊から気軽に移ってきた忠誠心が薄いものが多いから。
「大丈夫なのかそれで?来年カラーを決める頃には良い騎士も何人か辺りを付けてないと厳しいだろ?何人か分けてやろうか?」
にやにやと彼は言う。別にベリルを心配して言っているのではない事は確かだ。
「いらない。まだ時間もあるし。ゆっくり考えるよ」
「そうか?うちのが欲しかったら何時でも言えよ?」
ルアンは面白そうに訓練場へ入って行った。
べリルは剣も体術も不向きで昔から体も弱く本ばかり読んでいたので、良く母の同じ兄と弟から馬鹿にされるのだ。
しかしそんなベリルにも人を見る目はある。
黄色のカラーの騎士は別にいらないが別のカラーの騎士に欲しい人が数人いる。
揃いもそろって全員薄紫だ。
正妃の次男スティアの騎士団で、本当に困ったらかの皇子に情けを請うてでも欲しい所だがそんな事は第三妃の母のプライドが許さない。
あの皇子なら別に頼めば断らないと思うがそれが出来ないのが辛い。
それにスティア騎士団は軽くて呑気だが全員スティア皇子が好きでその忠誠が崩れることはない。
一体どうやってそんな騎士団が出来上がったのかは知らないが、密かに憧れをもって彼らを見ていた。
べリルも造るならそんな騎士団がいいと大まかな理想が出来上がっている。
少し離れた場所で薄紫の騎士がどこかの騎士と棍棒で稽古をしている。彼は強いが相手も相当強い。
棍棒の戦いなのになかなか決着がつかず激しい剣技の応酬が繰り広げられ、周囲の注目を惹いている。
べリルもそこへ近づき、戦いを観戦する。
二人が汗だくになってカラーのない騎士がよろめいた時、彼の棍棒が跳ね落とされ勝負がついた。しかしスティアの騎士も膝をついて棍棒を捨てる。
「―――――な、何だお前?強いじゃないか?」
「レグラスさん、酷い。軽くって…軽くって言ったじゃ……これ、軽いってレベルですかっ…?」
「ジルくん。ノリ!ノリだよ。若い君に強剣というものをだな。ええと、ゴホン」
「いじめ?いじめですかっ?こんなの隊長のしごきと変わらないじゃないですか!」
「……ジル君」
「……リルガさん、何棍棒持って待ってるんですか?嫌です!休ませて下さいよ!」
「折角来たのに何を言っている。まだ序盤じゃないか。私の相手もしろ。すんだら温泉連れてってやるから」
「うわああああ…‥」
ジルはリルガに引きずられていった。
「レグラス」
「おやべリル皇子」
「彼は誰だ?うちの者ではないな?」
「ああ、マルスの客人ですよ?若くて弱そうに見えたのに強いですな彼。やはり姫様の護衛隊なだけある。彼でさえあの強さなら隊長ルウドさんはどれだけ強いだろう?うちの隊長とどっちが強いですかね?」
「まさか、フレイより強い奴がいるわけない」
「いいやあ……世界は広いですからねえ」
「……」
とてもそうは思えない。見た感じただの頼りなさそうな男としか思えなかった。
マルスの騎士が引きずられていった方を見るとリルガと闘っている。
観客も増えていた。
スティア皇子はティア姫と隊長達を伴って庭園に入った。
「ティア様、見て下さい、あの柵の向こう」
柵の側まで行くと馬が放し飼いにされていた。五、六頭いる。
「…‥馬」
「あの白いのが私の馬です。それであの茶毛のがフレイの馬。綺麗でしょう?触ってみます?」
スティアが自慢げに言ったがティアは何かブツブツ言っている。
「……姫?」
「馬…馬……馬ああああああっ?」
「姫様……?」
「いやあああああああっ!」
「ええっ?なんでですか?」
「申し訳ない皇子。姫はちょっと馬に揺られ過ぎていささか錯乱気味で……」
「そうですか……」
皇子はガックリしたが気を取り直して別の場所を示す。
「姫、あちらを見て下さい。小屋があるでしょう?」
「小屋、何があるの?」
「野菜や果物を造っているのです。専門の造り師がいましてね。美味しいですよ?行ってみますか?」
「そうね……」
小屋の中に入ると様々な色の野菜や果物が生っていて姫の機嫌が直った。
「まあ美味しそう、変わった植物もあるわね」
「これをとって隣の小屋へ行くと美味しく料理して貰えるのです」
「へえ、いいわね」
騎士二人を小屋の外に残して皇子と姫は仲良く菜園で、野菜の散策を始めた。
小屋の外で待つルウドは柵の向こうでのんびり散歩する馬達をほれぼれと見ていた。
「白いのが皇子の馬、茶毛のがフレイ隊長の馬ですか。手入れも行き届いていい馬ですねえ。綺麗だし、走っても早そうで」
「早くて丈夫ですよ。競争馬ではないですが。二頭ともスティア皇子の馬だったのですが私の隊長就任の際に一頭頂きました。自慢の馬です。褒められれば嬉しいです」
「いいですねえ。うちにも馬はいますが借りものですから。自分の馬なんて買えるお金全くありませんし、よほどの功績を立てなければ貰えませんし」
「ふふふ、お世話が大変ですけどね。乗ってみますか?」
「いえそんな勿体ない。私ごときが乗りこなせる馬でもなさそうですし」
「乗ってみなければ分かりませんよ?本当は皇子が姫と乗りたかったようですが無理みたいですし」
「姫は馬は余り……準備して下さったのに申し訳ないですが…」
広い柵の向こうを見ると遠くで人を乗せて走っている黒馬が居る。馬はこちらへ走ってくる。
「うわあ、大きな黒馬ですねえ」
「あれはクライブ皇子の自慢の馬ですよ。乗っているのは皇子ですかね」
黒馬の上から皇子が明るく声をかける。
「やあフレイ?一緒に遠乗りしないかい?」
「そう言う事は女性に言って下さいよ皇子」
皇子は馬から降りて二人をみる。
「女性は馬には乗らないよ。やあ君は隣国の騎士だね」
「ルウド=ランジールと申します。クライブ皇子」
クライブ皇子は気軽にルウドと握手を交わす。
「折角来たのだから君も楽しんで行ってくれたまえ。どうだい?君も一緒に遠乗り」
「せっかくですがいまティア姫とスティア皇子の護衛中ですので」
「どこにいるんだ?」
「あちらの菜園に」
「へえ、上手くいっているようだね。それはいい。ぜひとも上手くいってほしいな」
「………」
「うちの母が特に姫を気に入ってしまってね。ぜひともうちに来てほしいとスティアに圧力を掛けていてね。姫の気持ち次第なのだから黙って見守るほかはないのにね」
「……ええ本当に」
クライブ皇子は軽やかに馬に乗って去って行った。
フレイが馬を眺めながら苦笑する。
「随分気安い皇子と思いでしょう?でもあの人スティア皇子と同じ母を持つ兄ですから。なんか納得いくでしょう?」
「そう言えばそうですね。……それにしても王妃様に気に入られたって……、一体何を……?」
「…まあそんな事もありますよ、うんあります。あまり気になさらない方がいいです」
「そ、そうですね」
ルウドは悩みを忘れる事にした。
折角来たのだから楽しまなければ損だ。
しかし必ず問題を起こす姫の防衛策くらい考えておくべきだった事を、後になってルウドは悔やむことになる。
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