115 / 200
第十八話 意地悪姫と他人事姫
1
しおりを挟むある日の暖かな午後、ロレイア第一王妃サラは悩んでいた。
先日やってきた隣国のお客人ティア姫についてである。
マルスの第三王女、白薔薇姫と呼ばれる姫はただ清楚可憐と言うだけでなく賢そうで行動力もある。
全く覇気もなく貪欲さもないカラカラの皇子スティアにあのような強い姫が付けば鬼に金棒の如く彼は才智を発揮し始めるに違いない。
スティア皇子にはあの姫が必要だ。
サラ王妃は初日から一目見てそう思った。
もともとこの話はスティア自身から始まった話である。この城に彼女を呼び込んだからには必ずこの城で縁談の話を纏めたい。
しかしマルスは相手を自ら選ぶ国、姫の気持ちがなければこの話は流れてしまう。
王妃の気ははやったがとにかく当人達の問題なので数日様子を見る事にした。こっそり侍女に見張らせて報告などもさせていた。
しかしその結果、スティアの不甲斐無さっぷりが日々露見するばかりで王妃は日に日に焦りを募らせていく。
―――――このままほっておいたら姫は調べ物だけして帰ってしまう!
皇子と姫の仲をより深めたいという本来の目的が最早どこぞの空の果てに飛んで消えてしまっていた。
「―――――もう!もう我慢できないわ!あれを温かく見守っているなんて出来ますか!このままでは何もないまま姫が帰ってしまうわ!どうするのよ!どうしたらいいのよ!クライブ!」
たまたま傍にいた第一皇子に叫ぶと皇子は困ったように母を見た。
「……母上、そうおっしゃられても。当人同士の問題ですし」
「毎日図書室で調べ物!あれをほっておいたらそれで終わりでしょ!」
「………ええと、もしかしたらあれで友好を深めているのかもしれませんし……」
「毎日本を探して積み上げる作業のどこに友好があるの?愛があるのよ!」
「うーん…ええと…、目的を同じくして達成すればそれなりの友好と愛が現れる事も…‥」
「それはいつよ?何時になるのよおおおっ!」
「ええと、まあそれは気長に待つしか…‥」
「待っていたら姫が帰ってしまうでしょお!」
「……まあその時はまた次の機会に……」
「あるものですか!」
「………‥」
王妃の剣幕にクライブ皇子はそそくさと退散していった。
「全くスティアにも困ったものだわ。自分から姫を見つけに行っておいて。不甲斐無い事!」
全く姫にアプローチしようとしないスティアにイライラが募るばかりだ。
「…‥もう待てないわ!何とかしなければ。そうよ、もうこうなったら口も手も出さなければ!」
そして王妃はとある謀略を画策した。
ギルイッド伯爵家は王家とも縁のある由緒ある貴族である。
ロレイア王の第一王妃セラがギルイッド伯爵の妻フィンネルの妹であり、ロレイア皇子クライブとスティアと、ギルイッド家の子供達とはいとこという関係になる。
しかしギルイッド伯爵家には家を継ぐべき男子が生まれず、娘ばかりが三人いる。
伯爵は娘の誰かに婿を取らせて後を継がせるしかないと考えていた。
娘達は上から二十歳、十八、十七と全員年頃であり、上の娘には既に婿養子になる婚約者がいる。二番目の娘には王族か高位貴族との縁を持たせたく、様々な社交パーティに出向かせている。
しかし三番目の娘、名をリリアナと言うが何故か奇異で難儀な性格をしており、パーティへ行く先々で何かと問題を起こし当人は面白かったと反省の色一つ見せず、問題を片付けるのに疲れた伯爵は呆れ果て、もうリリアナを放置していた。
「問題を起こす位ならパーティに参加しなくていい。参加したいならば決して問題を起こすな、大人しくしていろ」
これだけを注意してあとはもう知らぬふりを決め込んだ。
この日、その問題娘にセラ王妃から招待状が届いた。
「セラ様が遊びにいらっしゃいって。いまマルスのお姫さまが滞在なさっていらっしゃって年が近いからお話し相手にいいかもって」
「――――――お前がか?他国の姫様を怒らせて友好にひびが入るような事になったらどうするんだ?本当にお前が招待されているのか?」
「本当よ、ぜひ私にって。退屈だったし行ってもいいでしょう?何か面白い事がいっぱいありそう」
「……くれぐれも人様に迷惑をかけては行かんぞ?粛々としているのだぞ?」
「はあい」
分かっているのかいないのか、この楽観娘を見て伯爵の胃が軋んだ。
なぜ王妃はよりによってこの娘を選んだのだろうか?二番目の娘なら問題なく姫のお相手が出来るだろうに…。
数日図書室に籠って調べ物に専念したがあまり成果は上がらなかった。
「……何故なの?こんな大きな図書館なのに。何か、何かあるはず…」
「姫様、少しお休みしませんか?気晴らしに外を散歩でもしませんと疲れてしまいます」
「でも、まだこんなに本が!時間は限られているのに」
「姫様、そもそも一月程度ではすべて調べつくせる量じゃないのですよ?もっとこう、気長に調べて行かないと。うちの図書館くらい何時でも開放していますから」
「スティア、そう簡単にホイホイこの城に来れるものですか!」
「……まあ、それはそうですが」
とはいえ多少疲れたティア姫は席を立つ。
「そろそろお昼ね、少し早いけどちょっと風に当ろうかしら。庭園を散歩していくのもいいわね、少しなら」
「そうですよ、いきましょう。母上が待っていますよ?」
この所、昼食時がセラ王妃との交友時間となっていた。他の時間は全て図書室で調べ物の為、王家との交流が余りない。
時折お昼に皇子達がやってきてご挨拶する程度だ。
庭園をゆっくり散策してから王妃のいる庭へ行くとクライブ皇子と、見知らぬ女の子がいた。
「いらっしゃいティア姫、今日は紹介したい子が居るの。この子は私の姉の子でギルイッド伯爵の三女リリアナよ」
「はじめましてティア様。リリアナと申します。しばらくここに滞在しますので仲良くして下さいね?リリアナと気軽に呼んでくださいませ」
「…ええ、よろこんで」
「ふふふっ、年も一つ違いだし、いろいろ話も合うと思うの。リリアナは昔からここで遊んでいたから城内に詳しいわ。楽しい所たくさん知ってるから一緒に遊んであげて下さいね?」
「……はい……」
調べ物で忙しいから嫌だとは言えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
転生令嬢はやんちゃする
ナギ
恋愛
【完結しました!】
猫を助けてぐしゃっといって。
そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。
木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。
でも私は私、まいぺぇす。
2017年5月18日 完結しました。
わぁいながい!
お付き合いいただきありがとうございました!
でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。
いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。
【感謝】
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。
完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。
与太話、中身なくて、楽しい。
最近息子ちゃんをいじってます。
息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。
が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。
ひとくぎりがつくまでは。
崖っぷち令嬢の生き残り術
甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」
主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。
その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。
ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。
知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。
清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!?
困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。
藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」
街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。
だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!?
街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。
彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った!
未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!?
「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」
運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる