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第十八話 意地悪姫と他人事姫
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しおりを挟むギルイッド伯爵三女リリアナは退屈していた。
由緒ある貴族の淑女としては華々しく社交場に出て色々な人々と交流を図りたいのだが父がなかなか社交場へ出るのを許してくれない。
たまにしぶしぶ出る事を許されても大人しくしていろと念を押され、見張りを付けられるので自由に動けない。
これでは出会いもままならないと訴えた所で父は聞く耳を持たなかった。
父曰く、時が来たら適当な所に嫁がせるから心配いらないそうだ。
ともかく、このギルイッド家の恥になるような行動、言動を起こさぬようにと常々言われていた。
セラ王妃の招待でお城に入る前にも煩いくらいに言われてきた。
しかしここには父の放った監視はいない。
自由だ。久しぶりに好きに羽を伸ばせる。
そして今、この城には隣国のお姫さまが居るという。
リリアナはとても楽しみにしていた。
こんな幸運滅多にない。というかもう二度と来ないだろう。
退屈なリリアナの興味を引くお話が沢山聞ける。
マルス国の王族は自ら結婚相手を探して決めなければならないという。
沢山面白い話が聞けそうだ。
そうして王妃様にお会いして事情を聞いた。
この国のスティア皇子がマルスの姫に求婚しに行き、とりあえず知り合う事に成功した。
ともあれ友人から始めるようにと城に呼んだわけだが、友人としての交流すらままならないらしい。
スティア皇子とティア姫の仲を取り持ってほしいというのが今回の王妃の本題だった。
リリアナは大喜びで引き受けた。
そして王妃様に紹介されてお会いした隣国の姫様は、噂にたがわず清楚可憐な綺麗なお姫様だった。
しかし意外にお姫様然とした高貴さはなく、気さくな感じで話しやすい。
リリアナはすぐこのお姫様を気に入った。
「ティア様、外へお出かけいたしましょう?マルスには美しい花園があると聞きましたがこのお城にも綺麗な花の咲く庭園がありますのよ?
今日はとてもいいお天気ですし、お茶とおやつを持って出かけましょう?運が良ければ珍しい生き物に出会えるかもしれませんわ」
「珍しい生き物?」
「金色の鳥、白馬の一角獣、大きな羽をもつ獣」
「…………………………居るの?庭園に?」
「うふふふふ、噂ですよ。でも居ないなんて誰も言わないじゃないですか、おほほほほほほ!」
「………」
「ティア様、本ばかりに囲まれていては身体に毒です。出かけましょう、外は気持ちいいですよ。本探しなど部下に任せて」
「そうね、少しなら…」
「やったあ!じゃあさっそく!スティア皇子様も連れて!お外で楽しいお話沢山聞かせて下さいませね」
リリアナの勢いに負けてティアはスティア皇子と共に草原の向こうにある森の庭園に連れて来られてしまった。
「――――――ああ、久しぶりの自由!この開放感!とてもいいわ!堪らなく!アハハハハハハ、おホホホホホ!うふふふふふふ!」
美しい小さな花が咲く花畑でリリアナは喜びに満ち溢れ踊り狂う。
「さあ何をしようかしら!あの枷から外れる事が出来たのだから何でも出来るわ!ほほほほほほ!」
「………」
リリアナ嬢は変だ。どうしよう?
一緒についてきたスティア皇子と護衛のフレイをちらりと見ると二人とも困った様子で踊り狂う娘を見ている。
ティアはリリアナ嬢を見て何だか妙な既視感を覚えた。とても他人とは思えない。
「………リリアナさん、そんなに窮屈な生活を送っていらしたの?」
「そうなのです!聞いて下さいましティア様!酷いんですようちの父ったら。私をギルイット家の恥と言ってろくに家から出してくれませんのよ!」
リリアナはティアに詰め寄って訴える。
「私はギルイット家の三女、社交界に出て良い相手を見つけて家を出なければならないのにそのお相手を探す権利すら奪われてしまったのです。時が来たら適当な相手に嫁がせるからと父が勝手な事を!酷いと思いませんか?」
「…そ、それは君がお喋りすぎてべらべらと自家の内輪を面白おかしく他人に話した挙句、他人のあれこれを詮索しまくって推測憶測妄想でべらべらと喋りまくるからだろう。
君の事は社交デビュー初日から貴族達に激震のごとく噂になって一気にお誘いの手紙が途絶えたとか」
スティアが困ったように言う。しかしリリアナは全くへこたれない。
「全く皆後ろ暗過ぎるのか、軟弱腰抜けなのか。駄目ねえ最近の貴族の殿方は。噂の一つ二つ三つ四つくらいでうろたえるなんて。馬鹿みたい」
「…………」
「だからって普通家に閉じ込める?そんなのって酷いわ。私にだって社交界で遊ぶ権利はあるでしょう?いろんな人とお喋りしたりお友達作ったり、ダンスパーティとか行きたいわよ!」
「……た、確か最近そう主張してパーティに行ったって聞いたけど?」
「スティア様、そうよ!行ったわよ、行ったけどそれだけよ!始終見張りを付けられて誰かと喋り出すと止められるのよ!最悪よ!つまんなかったわ!」
「そ、それはつまらなかったね……」
スティアはふっと目を逸らし、呟いた。
「だから、お話だけでも聞きたいのですティア様!お国のパーティはどのようなものですの?皇子様とお姫様達の為のパーティでしょう?それはそれは華やかに違いないわ!」
リリアナは再びティアに詰め寄る。迫力に押されてティアは困惑した。
「ええと、普通の貴族のパーティと変わらないわ。まあ他国の王族や貴族が沢山来て滞在するから外交手段とか駆け引きの場になっているけど」
「他国の素敵な皇子様とかお会いしているのでしょう?お気に召した方はいらっしゃらなかったんですの?」
「……ロクな皇子が居なかったわ…」
「まあそれってスティア様も入っているので?」
「物分かりの悪い男は嫌いよ」
ちらりとスティアを睨むと彼は項垂れた。彼の横でフレイが彼に憐れみの視線を向けている。
リリアナの口が密かに引きつった。
「……そ、そうそう、そのパーティね、どこかの皇子様の為に催されたパーティだったの。
沢山の年頃の女の子達がいっぱい来ていて少しでも皇子様の目に止まろうと一生懸命詰まんない芸を披露していたわ。
半日くらいしか御屋敷にいる事を許して貰えなかったから最後まで見る事が出来なかったのだけど、あの皇子様お相手選んだのかしら?ああいう方が選ぶ女の子ってどんな子なのかしら?とても気になるわ」
「……へえ、どのような方だったの?」
「金髪緑眼のいかにも白馬の王子さまって感じの人。優しくて温厚そうで、それでいてちょっと優柔不断風ののんびりした感じの。詰まんない芸を真剣に見ていたから真面目なのかしら」
「……………‥…………リリアナさん、それってレナン伯のパーティかしら?金髪緑眼はうちの特徴なのだけど。しかもうちの兄はまさしくそんな感じだけど」
「まあ、そう言えば。とにかくパーティへ行きたいって一心でどこかの皇子さま見物をして楽しもうって腹だったからそこまで気にしていなかったわ。どうせ二度とお会いすることはないと思っていたし」
「…リ、リリアナ、失礼過ぎるよそれ。隣国のパラレウス皇子様に」
「…‥あっ、そうね。ティア様ごめんなさい。知らなかったのです」
「……いえ、いいのよ別に…………」
ティアの歯切れが幾分悪くなった。
「ええと、それで皇子様のお相手は決まったのかしら?」
「いいえ、目下捜索中で………」
「捜索中という事はお目に叶った方が現れたと言う事ですか?それは大変ですね」
「……‥ええ、未来の王妃様になるかも知れない人だから大変ね…」
「わあ、どんな方なのでしょう?とても気になりますわ!お相手が見つかったら是非私にも教えて下さいませね。ティア様」
「………ええ」
ティアの歯切れがますます悪くなった。
ティアはぐるぐると困惑する。
「……ティア様?どうかされましたか?」
「……いえ、何でもないわ。そろそろお城に戻りましょうか、いい気晴らしになったし、まだ仕事が残っているし」
「ええ?もうですか…?」
「涼しくていい場所だけどあまり長居し過ぎると体が冷えてしまうわ。また時間があったら来る事にしましょう」
「そうですね…」
がっかりしているリリアナを見つめ、ティアは困ったように苦笑う。
とても自分一人では解決できない問題が勃発してしまった。ここはやはり誰かに相談せねばならない。
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