意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
116 / 200
第十八話 意地悪姫と他人事姫

2

しおりを挟む

 ギルイッド伯爵三女リリアナは退屈していた。
 由緒ある貴族の淑女としては華々しく社交場に出て色々な人々と交流を図りたいのだが父がなかなか社交場へ出るのを許してくれない。
 たまにしぶしぶ出る事を許されても大人しくしていろと念を押され、見張りを付けられるので自由に動けない。
 これでは出会いもままならないと訴えた所で父は聞く耳を持たなかった。
 父曰く、時が来たら適当な所に嫁がせるから心配いらないそうだ。
 ともかく、このギルイッド家の恥になるような行動、言動を起こさぬようにと常々言われていた。
 セラ王妃の招待でお城に入る前にも煩いくらいに言われてきた。

 しかしここには父の放った監視はいない。
 自由だ。久しぶりに好きに羽を伸ばせる。
 そして今、この城には隣国のお姫さまが居るという。
 リリアナはとても楽しみにしていた。
 
 こんな幸運滅多にない。というかもう二度と来ないだろう。
 退屈なリリアナの興味を引くお話が沢山聞ける。
 
マルス国の王族は自ら結婚相手を探して決めなければならないという。
 沢山面白い話が聞けそうだ。
 
そうして王妃様にお会いして事情を聞いた。
 この国のスティア皇子がマルスの姫に求婚しに行き、とりあえず知り合う事に成功した。
ともあれ友人から始めるようにと城に呼んだわけだが、友人としての交流すらままならないらしい。
 
  スティア皇子とティア姫の仲を取り持ってほしいというのが今回の王妃の本題だった。
 リリアナは大喜びで引き受けた。
 そして王妃様に紹介されてお会いした隣国の姫様は、噂にたがわず清楚可憐な綺麗なお姫様だった。
 しかし意外にお姫様然とした高貴さはなく、気さくな感じで話しやすい。
 リリアナはすぐこのお姫様を気に入った。







「ティア様、外へお出かけいたしましょう?マルスには美しい花園があると聞きましたがこのお城にも綺麗な花の咲く庭園がありますのよ?
 今日はとてもいいお天気ですし、お茶とおやつを持って出かけましょう?運が良ければ珍しい生き物に出会えるかもしれませんわ」

「珍しい生き物?」

「金色の鳥、白馬の一角獣、大きな羽をもつ獣」

「…………………………居るの?庭園に?」

「うふふふふ、噂ですよ。でも居ないなんて誰も言わないじゃないですか、おほほほほほほ!」

「………」

「ティア様、本ばかりに囲まれていては身体に毒です。出かけましょう、外は気持ちいいですよ。本探しなど部下に任せて」

「そうね、少しなら…」

「やったあ!じゃあさっそく!スティア皇子様も連れて!お外で楽しいお話沢山聞かせて下さいませね」

 リリアナの勢いに負けてティアはスティア皇子と共に草原の向こうにある森の庭園に連れて来られてしまった。

「――――――ああ、久しぶりの自由!この開放感!とてもいいわ!堪らなく!アハハハハハハ、おホホホホホ!うふふふふふふ!」

 美しい小さな花が咲く花畑でリリアナは喜びに満ち溢れ踊り狂う。

「さあ何をしようかしら!あの枷から外れる事が出来たのだから何でも出来るわ!ほほほほほほ!」

「………」

 リリアナ嬢は変だ。どうしよう?
 一緒についてきたスティア皇子と護衛のフレイをちらりと見ると二人とも困った様子で踊り狂う娘を見ている。
 ティアはリリアナ嬢を見て何だか妙な既視感を覚えた。とても他人とは思えない。

「………リリアナさん、そんなに窮屈な生活を送っていらしたの?」

「そうなのです!聞いて下さいましティア様!酷いんですようちの父ったら。私をギルイット家の恥と言ってろくに家から出してくれませんのよ!」

 リリアナはティアに詰め寄って訴える。

「私はギルイット家の三女、社交界に出て良い相手を見つけて家を出なければならないのにそのお相手を探す権利すら奪われてしまったのです。時が来たら適当な相手に嫁がせるからと父が勝手な事を!酷いと思いませんか?」

「…そ、それは君がお喋りすぎてべらべらと自家の内輪を面白おかしく他人に話した挙句、他人のあれこれを詮索しまくって推測憶測妄想でべらべらと喋りまくるからだろう。
 君の事は社交デビュー初日から貴族達に激震のごとく噂になって一気にお誘いの手紙が途絶えたとか」
 
 スティアが困ったように言う。しかしリリアナは全くへこたれない。

「全く皆後ろ暗過ぎるのか、軟弱腰抜けなのか。駄目ねえ最近の貴族の殿方は。噂の一つ二つ三つ四つくらいでうろたえるなんて。馬鹿みたい」

「…………」

「だからって普通家に閉じ込める?そんなのって酷いわ。私にだって社交界で遊ぶ権利はあるでしょう?いろんな人とお喋りしたりお友達作ったり、ダンスパーティとか行きたいわよ!」

「……た、確か最近そう主張してパーティに行ったって聞いたけど?」

「スティア様、そうよ!行ったわよ、行ったけどそれだけよ!始終見張りを付けられて誰かと喋り出すと止められるのよ!最悪よ!つまんなかったわ!」

「そ、それはつまらなかったね……」

 スティアはふっと目を逸らし、呟いた。

「だから、お話だけでも聞きたいのですティア様!お国のパーティはどのようなものですの?皇子様とお姫様達の為のパーティでしょう?それはそれは華やかに違いないわ!」

 リリアナは再びティアに詰め寄る。迫力に押されてティアは困惑した。

「ええと、普通の貴族のパーティと変わらないわ。まあ他国の王族や貴族が沢山来て滞在するから外交手段とか駆け引きの場になっているけど」

「他国の素敵な皇子様とかお会いしているのでしょう?お気に召した方はいらっしゃらなかったんですの?」

「……ロクな皇子が居なかったわ…」

「まあそれってスティア様も入っているので?」

「物分かりの悪い男は嫌いよ」

 ちらりとスティアを睨むと彼は項垂れた。彼の横でフレイが彼に憐れみの視線を向けている。
 リリアナの口が密かに引きつった。

「……そ、そうそう、そのパーティね、どこかの皇子様の為に催されたパーティだったの。
 沢山の年頃の女の子達がいっぱい来ていて少しでも皇子様の目に止まろうと一生懸命詰まんない芸を披露していたわ。
 半日くらいしか御屋敷にいる事を許して貰えなかったから最後まで見る事が出来なかったのだけど、あの皇子様お相手選んだのかしら?ああいう方が選ぶ女の子ってどんな子なのかしら?とても気になるわ」

「……へえ、どのような方だったの?」

「金髪緑眼のいかにも白馬の王子さまって感じの人。優しくて温厚そうで、それでいてちょっと優柔不断風ののんびりした感じの。詰まんない芸を真剣に見ていたから真面目なのかしら」

「……………‥…………リリアナさん、それってレナン伯のパーティかしら?金髪緑眼はうちの特徴なのだけど。しかもうちの兄はまさしくそんな感じだけど」

「まあ、そう言えば。とにかくパーティへ行きたいって一心でどこかの皇子さま見物をして楽しもうって腹だったからそこまで気にしていなかったわ。どうせ二度とお会いすることはないと思っていたし」

「…リ、リリアナ、失礼過ぎるよそれ。隣国のパラレウス皇子様に」

「…‥あっ、そうね。ティア様ごめんなさい。知らなかったのです」

「……いえ、いいのよ別に…………」

 ティアの歯切れが幾分悪くなった。

「ええと、それで皇子様のお相手は決まったのかしら?」

「いいえ、目下捜索中で………」

「捜索中という事はお目に叶った方が現れたと言う事ですか?それは大変ですね」

「……‥ええ、未来の王妃様になるかも知れない人だから大変ね…」

「わあ、どんな方なのでしょう?とても気になりますわ!お相手が見つかったら是非私にも教えて下さいませね。ティア様」

「………ええ」

 ティアの歯切れがますます悪くなった。
 ティアはぐるぐると困惑する。

「……ティア様?どうかされましたか?」

「……いえ、何でもないわ。そろそろお城に戻りましょうか、いい気晴らしになったし、まだ仕事が残っているし」

「ええ?もうですか…?」

「涼しくていい場所だけどあまり長居し過ぎると体が冷えてしまうわ。また時間があったら来る事にしましょう」

「そうですね…」

 がっかりしているリリアナを見つめ、ティアは困ったように苦笑う。
 とても自分一人では解決できない問題が勃発してしまった。ここはやはり誰かに相談せねばならない。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。

藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」 街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。 だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!? 街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。 彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った! 未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!? 「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」 運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

とめどなく波が打ち寄せるように

月山 歩
恋愛
男爵令嬢のセシルは、従者と秘密の恋をしていた。彼が従者長になったら、父に打ち明けて、交際を認めてもらうつもりだった。けれども、それを知った父は嘘の罪を被せて、二人の仲を割く。数年後再会した二人は、富豪の侯爵と貧困にあえぐ男爵令嬢になっていた。そして、彼は冷たい瞳で私を見下した。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

処理中です...