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第十八話 意地悪姫と他人事姫
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しおりを挟むその頃、スティア皇子は困っていた。
自室でいとこのリリアナ嬢にさんざん嫌味を言われている。
「だいたいスティア様は積極性が中途半端なのよ。せっかくお姫様と仲良くなれてお城に呼ぶことまで出来たのにここでひいてどうするのよ?何の為にわざわざ他国まで出向いて探してきた姫様なのよ、友人どまりで満足する為?駄目駄目ね」
「……リリアナ。姫にも姫の事情があってね、そんな無茶をする気はないよ。今回はただここでの生活を楽しんでくれたらいいと思っているんだ」
「馬鹿じゃなくて?今回は?次回があると思っているの?恋人ならどんな苦労をしても何度でも会いに来るでしょうけどただの友人ならせいぜい手紙位で済まされるわよ?
そしてその内どこかの国の王子との結婚が決まったからお祝いしてくれとか言うお手紙が来るのよね。泣けてくるパターンだわね」
「………リリアナ……」
冷ややかな視線を送ってくるリリアナの言葉にスティアはぐっさり傷つく。
すごくあり得そうな話でとても嫌だ。出来るだけ考えないようにしていたのにあっさり的を突かれた。
「私は今回王妃様の依頼で招かれてここに来たの。スティア様とティア様の仲を進展させて欲しいと。でも私がどう頑張っても結局、スティア様が頑張らなきゃ姫様の心を奪えやしないでしょう!ティア様が皇子のテリトリーにいる内にいいところを見せて姫の心を繋ぎ止めなくてどうするの!周囲の者が協力出来るのはティア様がこの城にいられるうちだけよ!マルスに帰ってしまったらもう手の出しようがないの!」
「リリアナ、しかし姫には姫の事情があってね。姫の心にはまだ、私が入れる隙間なんてないと思うんだ。だから……」
「ダメね、スティア様、隙間がないなら作ればいいのよ!そしてそこへ入りこむのよ!」
「それを無茶と言うんだけど。無茶して嫌われてしまったらあっさり縁を切られてしまうよ」
「弱気ではだめよ、競争率激しすぎるのだから」
「しかし……」
「つべこべ言わずに私に任せなさい!ティア姫に皇子を見てもらえるよう尽力するから!頑張っていい所を見せるのよ!」
「……はい…」
「明日っから考えていた様々な作戦を決行するわ!絶対うまくいくから皇子はひたすらティア様にいい所を見せるのよ!」
「……」
リリアナは張り切ってスティアの部屋を出て行った。
様々な作戦とはなんだろう?
本日何故か大人しくリリアナに合わせていたティア姫は多分今リリアナが思っている程大人しい姫ではない。むしろ逆鱗に触れると恐ろしい。
スティアは大変不安になった。
おかしな作戦で姫どころか騎士まで怒らせてしまったらもはやスティアに生き残る術は無くなってしまう。
翌日朝食後、ティア姫の護衛に入ったルウドにリリアナ嬢が紹介された。
「ルウド、彼女がリリアナ=ギルイッド嬢よ」
ティア姫に紹介されたリリアナ嬢はキラキラと目を輝かせてルウドを見る。
「わあ、貴方が噂のルウド隊長ね。強いって噂の銀髪騎士さん。私銀髪の人って初めて見るわ。ティア様の国では沢山いらっしゃるのかしら?」
「いいえ、うちでも銀髪はルウドだけよ。ルウドは私が生まれる前からずっと私の城にいるのよ。それで今は私の護衛騎士よ」
「へえ、何か羨ましいですね。こんな素敵な強い騎士が傍に居たらよその皇子なんか目にも入らないかも。ティア様の理想の殿方のレベルがかなり高くても無理はないですね」
「………」
リリアナ嬢はルウドに握手を求めながらずけずけと確信を突いた。
リリアナ嬢の後ろでスティア皇子がうなだれている。
ルウドは笑みを引き攣らせつつ握手を交わす。
「出来るだけ皆様のお邪魔にならぬよう護衛しますのでどうぞお気になさらず」
「まあ気になるわ。とても目につくもの。行く先々で注目の的なのに気にならない訳はないわ。こそこそしても仕方ないわ。いっそ堂々としていてちょうだい」
「…はい」
リリアナ嬢の言う事はもっともだ。
ルウドは困ったように娘を見て、次に困惑顔のティア姫を見る。
朝食前にティア姫の相談事をルウドは聞いた。聞いたが何とも言えない。
「そ、それで今日はどこへ連れて行って下さるのかしら?あまり遠くでない方がありがたいのだけど」
「まあティア様、そんなに遠くではないですよ。城内の敷地内ですし。牧場の先へ進むと涼しい森と奥に湖がありますの。朝のうちなら美しい真っ白な鳥を見られたりするのですよ?さあ行きましょう。癒されますよ」
「それは素敵ね…」
「スティア様、何をぼんやりなさっているの?ティア様のエスコートはスティア様のお役目でしょう!先に行って下さい。私はルウド隊長と行きます!」
「……あ、ハイ」
スティア皇子はティア姫をエスコートして先を進む。ルウドは少し離れてリリアナと共について行く。
しかし何故リリアナ嬢に指示されて動いているのだろうか?
訳が分からない。ティア姫も色々悩みすぎて困惑中である。
自分の事ならまだしも、人のこととなるとどうも難しく慎重にならざるを得ない。
「何を難しい顔をなさっているの?」
「リリアナ様、ええと、私いつもこんな顔です」
「まあ、それ何の冗談ですの?ふふふ、まさかティア姫様を取られるのが嫌だとか?」
「何を、違いますよ。別件の事を考えていたのです」
「まあ、他の事考えてたの?護衛なのに余裕じゃない。よほど自信があるのねえ」
「す、すいません……」
「それとも余程にスティア皇子を信頼しているとか」
「…は?……そうですねえ、皇子はそこそこ強いのでしょう?実際見た事はありませんが自分の身を守れる程度の腕はあると聞きました」
「クライブお兄様と黒騎士様に鍛えられたと言っていました。でもスティア様は剣は向かないといって余程の事がないと剣を持たないから私も見た事がないのですけど」
「強い騎士達もついていますからね。あまり剣を持つ機会もないのですね。でも一度は見てみたいかも知れません」
「剣が使えるならスティア様も剣技大会に出ればいいのに向いていないからって出ないんですよ。いくじなしなのかしら?」
「……リリアナ様、皇子を応援したいんですか、批判したいんですか、どっちです?」
「もちろん応援したいのよ。ティア様と上手くいくように。その為に来たのだから」
「そうなのですか……」
「王妃様がとてもティア様を気に入ったみたい。私も気に入ったからうまく行ってほしいわ。ティア様がこの国に来てくれればずっとおつきあい出来るもの」
「なるほど……」
「ルウドさんも応援してくれますか?スティア様とティア様との仲を取り持つ協力してくださいます?」
「…それは当人同士の問題で他人がどうこう言うことではないのでは」
「そんな事を言っていたら何も始まらないのです!皇子ったら本当に押しが弱くて。肝心なとこで強く出なくては捕まる者も捕まらないわ!それでどうすると言うのよ!」
「それもそうですね……」
ルウドが諦めたように息を吐くとリリアナ嬢は嬉しそうに笑う。
「じゃあ決まりね、よろしくね」
スティア皇子の手助け。微妙だ。
まんまとリリアナ嬢に言い負かされてしまったルウドは更に困った。
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