意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十八話 意地悪姫と他人事姫

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 朝の湖は涼しくて静かで空気が心地いい。どこからか鳥の鳴く声は聞こえたが、姿は見えなかった。

「いいところでしょう?たしかに休憩するにはいい場所ですよ。広い場所なので城の者達の憩いの場ですし、恋人や家族なども使うのですよ」

「ええそうね、うちにも森はあるけど変な噂があるいわくつきの森とか危険な湖とか、気持ち的に休まらないとこばかりだから。憩いの場っていいわね」

「お昼くらいになれば人が集まってきます。昼食をとったりお昼寝をしたり、魚釣りも出来ます」

「不気味な声のしないこんな綺麗な湖でなら幾らでもゆっくり出来るわね。鳥の声も不気味じゃなくて癒されるわね」

「普通の何も無い森なんですが。むしろいわくつきの不気味な森の方が興味あります」

 湖のほとりに座り、スティアは持たされたバスケットからお茶を出して姫に入れて差し出した。

「有難う。ところでリリアナとうちの護衛はどうしたのかしら?姿が見えないけれど?」

「近くにいるでしょう。私達の邪魔をしない様に気を使っているのでは?」

「なぜそんな気を使われなければならないのよ?リリアナが連れて来たのに」

「いえその、リリアナの目的は私達の仲を取り持つことのようで。うちの母からの依頼でして……。母はティアさまが気に入ったらしくて」

 苦笑う皇子を横目にティアは困って溜息を吐く。

「………ティア様、ここにきて後悔などしてませんよね…?」

「困る事もあるけど必要な情報が色々手に入ったから後悔はしていないわ。ただハッキリしない問題が多々あってねえ……このままってわけにはいかないわ」

「そんなに沢山あるのですか?私に解決出来ることはありますか?」

「あるわよ、手っ取り早くはっきりしてほしい問題が」

 ティアが真っすぐスティアを見ると、スティアはびくりと慄いた。

「……あの、それは、その、まさか……」

「言うまでもなく分かっているならはっきりして頂戴」

「い、いい嫌です……」

「ふざけないで、何で嫌なのよ?私には心に決めた人が居るから諦めるってはっきり家族に宣言して頂戴!」

「それだけは出来ません!嫌です!」

「なぜその位の事が出来ないのよ?往生際の悪い人ねえ」

「悪いです、往生際!私はティア様を諦めたりはしません。でなければわざわざあなたの国へ赴いて何か月も捜し回ったりしなかったでしょう」

「私の事なんか知りもしないで何か月も勝手に捜し回って。噂どおりでない姫に用はないでしょう?なのに未だに何なのよ?」

「噂どおりでないなんてそんな事思っていませんよ。それに恋愛結婚に憧れてマルスを訪ねたのですが、実は姫に出会った後の事は考えていませんでした。
 それで運良く姫に出会えてお話できて、姫の状況を知って、それで貴女を諦めないと決めたのは私の意思です。誰にも止める事は出来ません」

「……私は決して変わらないわ」

「それでもまだ私に望みがあるうちは諦めません。それにしても良かった」

「何が?」

「私が求婚者である事、忘れられておりませんでしたね」

「忘れてたわよ。覚えてるものですか」

「そうですか…」

 スティアは何故だかニコニコ笑っている。
 ティアは何だか面白くない。







 リリアナ嬢は満足そうだったがルウドは不満だった。
 何故こんな木陰でこそこそと覗き見などせねばならないんだ?
 護衛なんだからこんなこそこそする必要はないだろうに。

「……リリアナ様」

「ダメよいい雰囲気なんだから。邪魔しちゃダメ」

「覗きは嫌です」

「覗きじゃないわ、作戦よ。二人きりにしてお話しして分かり合うのは大事な事よ」

「……‥」

 しかしティア姫が辺りを見回しルウドを呼んでいる。

「ルウド!何で隠れるのよ!居るんでしょう?出てきなさいよ!」

 姫がイライラし出した。スティアが宥めているがとても抑えられない。

「護衛なのに隠れんじゃないわよ!出てこないなら考えがあるわよ!」

 考え。怖い。
 ルウドは姫の傍に出ようとするがリリアナがそれを留める。

「ルウドさん、駄目よ。まだ演出があるのだから。あなたが出たら大無しよ」

「演出、ですか……?」







 ティア姫がイライラしながら辺りを見回していると突然茂みの中から大きな熊がぬっと現れた。

「く、熊?なんでこの森に?ひひひひひ姫様、危ない!」

 熊が近づいてきて、スティアはティア姫の前に立ち護身用に持ってきた剣を抜く。

「姫様、お逃げ下さい!」

「何言ってるの?熊ごときでいちいち慌てるんじゃないわよ!それよりルウドは何してんのよ!もう!」

 ティア姫は水鉄砲をクマに向けて放った。クマの口に謎の液体が入りこみ、瞬間熊は白眼を向いてその場に倒れた。
 スティアは呆気に取られ倒れた熊をまじまじと見た。

「……姫様、それ、何の薬品で?」

「ただの猛毒よ、でも分量は微量だから死んじゃいないわ」

「姫様、危険じゃないですか。そんな物を人に撃ったら」

「ちゃんと考えているわよ。人にそんなもの使わないわよ」

「……そうですか…」

 スティアはがっくり肩を下ろす。姫にいい所を見てもらう機会すらない。
 そしてようやく呆れた様子のルウド隊長とリリアナ嬢が木陰から現れた。



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