意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
121 / 200
第十八話 意地悪姫と他人事姫

7

しおりを挟む


 昼食後、王妃に呼ばれて部屋に赴くと開口一番に言われた。

「スティア、剣技大会に出て優勝なさい」

「突然何を言うのです母上。無理に決まっているでしょう?」

「もうすでに大会の参加届を出しています。負けてはなりませんよ」

「そんな勝手な!何故そんな無茶を言うのです?」

 王妃はカッと目を見開き、皇子を叱りつける。

「ティア姫の心を繋ぎとめるにはこれしかないでしょう!他にどんな方法があると言うのです!この機会を逃したらあなたなんか完全に忘れられてしまいます!どうするのですか!」

「………」

 皇子は言葉に詰まった。
 事実だ。それは紛れもない事実なのだ。いくら知らぬふりをしても目の前に立ちはだかる事実は変えられない。

「……だ、だからって優勝なんて……」

「何としても勝ちなさい!奇跡でも何でも起こしなさい!死ぬ気でやるのです!」

「赤騎士や黒騎士になんて死ぬ気で百回向かっても勝てませんよ」

「そんな意気地のない事で姫の心をつかめますか!姫の為に何としても勝ちなさい!少しは必死で何かをつかもうとする姿を見せなさい!」

「……はい」

 スティアは王妃の部屋を出てよろよろと騎士団の宿舎へ向かう。
 騎士団宿舎の食堂は相変わらず賑やかだ。

「おや、皇子、顔色悪いですな、腹でも下したので?」

「ち、ちがう。皆聞いてくれ。大変な事になってしまった……」

「……大変な事?」

 顔を真っ青にした皇子の大変な事と聞いて騒いでいた騎士達は静かになった。
 客人のマルスの騎士達も何事かと皇子に注目する。

「わ、私が剣技大会に出場して優勝せねばならぬ事になってしまった…‥…」

「……スティア様が…?」

「……‥そう、私が……」

「冗談ですか?ブラックですな」

「本気だよ、奇跡でも何でも起こして優勝しろと……」

「何故また、何のメリットがあって?」

「ティア姫の心をつかむために。少しでも記憶の片隅にでも置いて貰う為に…」

「…‥大変ですな、皇子様も…‥」

「そんな難儀な事をしなくとも普通に女一人口説けんのですか?」

「うちの母は気が短いんだよ。それなりの成果を示さないと気が済まないらしいんだ。友人としての付き合いだと言っているのに何としても姫の気持ちをこちらに向けさせろと」

「剣技大会優勝なんてそんな途方もない無茶話する位なら普通に口説いた方がよっぽど現実的ですが」

「何も姫の為にそこまでする必要はないでしょう」

 騎士達は呆れ、食堂は笑いに包まれる。

「皇子、女の口説き方なら幾らでも教えて差し上げますよ?」

「そう言う事じゃない。とにかくもう勝手に出場届を出されてしまった。
 出るからにはどちらにしろ勝たないとダメだろう?いくら騎士が強くても皇子が脆弱ではほかの兄弟達にも笑われてしまう。笑われるだけならいいが一部の人達に怒り狂われ殺される!」

 再び食堂が静まりかえった。誰かがごくりと唾を飲み込む音がする。

「……それはそうかも……」

「皇子が出て負けるなんて、スティア騎士団の沽券にかかわるか」

「しかも王妃直々の命だろう?簡単に負けていい訳がない」

「王妃様はスティア皇子が優勝できると思っているのか?それは買い被り過ぎだな。しかし頂上付近にはいかないとまずいよな。王妃の顔まで潰す事になる」

「それだけじゃない。うちの兄やその騎士にまで怒り狂われる。負けてただでは済まない」

「スティア様、大変ですな。皇子が死んだらまたみんな解雇されて野良犬稼業に逆戻りかなあ?」

「それはいやだ。ここは給金よし、酒飲み放題のいい職場なのに!」

「お前達、私が死んでからの話はいいからとりあえず協力してくれ。腕の立つ騎士なのだから」

「おお、秘密特訓ですか?二、三日頑張った所で余り変わらないでしょうが」

「やらないよりましだ。付け焼刃でも何とかしないと騎士団丸ごと大恥をかくことになるぞ?」

「それはいやです、ではやりましょう」

「うん、ありがとう、では明日から……」

「馬鹿言っちゃあいけませんよ皇子。今からやるんです!もう日がないのですから徹夜で休みなく行きますよ。さあ地下特訓場へ降りなさい!」

「ええええええ?」

「騎士団の名誉までかかっているなら手加減なしです。何としても優勝してもらいますよ?」

「……」

 皇子は地下特訓場へ運び込まれ、それから三日間寝る間も惜しんで訓練に励む羽目になった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

崖っぷち令嬢の生き残り術

甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」 主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。 その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。 ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。 知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。 清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!? 困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。

藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」 街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。 だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!? 街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。 彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った! 未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!? 「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」 運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

契約結婚のススメ

文月 蓮
恋愛
 研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。

処理中です...