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第二十五話 姫の心と秋晴れの空
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しおりを挟む一度通った道をそのままひたすら戻り、湖に出た。
湖には先程のお爺さんが居た。
釣り針を垂らしたまま居眠りしている。
「あの、すいません…」
「ん?さっき通った二人か。何してるんだ?戻ってきたのか?」
「クロード様には会えました。今捜しているのはミザリー様なのですが?」
「ミザリー‥?」
「あの、金髪の十八歳位のエプロン姿の娘で…」
「ああ、あの子か、そんな名前だったか」
「…森に入ったようなのですが知りませんか?」
「今日は見てないぞ」
「どこか心当たりはありませんか?」
「目的が分からねばどうしようもない。屋敷で待っておれば帰ってくるのではないか?」
「それが、荷物を持ってどこかへ行ってしまったらしく」
「それは困ったのう。荷物を持ってなら山籠りかも知れん。その場合数日は戻ってこないな」
「そんな場合が…?困ります。我々姫様を迎えに来たのです。手ぶらでは帰れません」
「そうか、では娘がこもれそうな住処でも案内するか。この森には小屋が何箇所か立ててあってな。広い森で迷っても困らないよう住民の安全を守る為にな」
「安全って。ここのは凶暴な獣が沢山いると聞きましたよ?大丈夫なのですか?」
「ああ大丈夫だよ。凶暴と言ってもクロード邸の敷地の獣は全て訓練されておる。侵入者でなければ襲ったりしない」
お爺さんは釣り道具をしまい歩きだす。
「ついてきなさい」
「あの、どうやって不審者と客人を見分けるのですか?」
「匂いじゃよ。客人なら家主の匂いを付けているはずだから」
「へえ…」
たしかにもう動物達が追ってくる気配はない。
「まあそれでも追ってくる獣は倒しても構わんよ、食材だから」
「……へえ…」
木々の隙間へ入って行くお爺さんの後に続きながら言いようのない不安と焦りを感じる。
食材って何だ?
「そ、それにしてもミザリー様は城へ帰りたくないのかな?お客様も来ているし、ティア姫だって帰ってきたって連絡したはずなのに。なあルウド?」
「ますます城が騒がしく、面白おかしくなっているからね。嫌なはずはない」
「クロード公とどこまで行っているのかな。それによって状況が変わってくるな」
「ともかく一度城へ戻っていただかないと困る」
「そうだな、私達の為にも…」
茂みの中を歩き続けてほどなくして小さな小屋に行き着いた。
特に何も無い、屋根があるだけの木造りの小屋である。小屋の中の道具箱には毛布や救急箱、キャンプセットが常備されている。
「残念だな、ここは外れだったようだ。心当たりと言えばあと二、三か所あるが、どうする?」
「もちろん行きます」
げっそりとしたが行くしかない。
しかしその後、お爺さんの心当たり数か所を回ったが結局どこにも居なかった。
「何でだろなあ…」
「手のうち読まれてたんじゃないか?」
「……そこまで必死に逃げることでもないと思うが…」
ミザリー姫のいる場所を見失ってしまった。
二人は途方に暮れる。
「どうする?」
「どうしよう?」
正直もう帰りたい。
「とりあえず湖に戻るか」
お爺さんは疲れた様子もなく方向転換する。
「…‥待て」
近くの茂みが動いた、ザクザクと音がする。
「何だ?」
黒いものが飛び出してきた。
「わ、イノシシ!」
「何じゃ、食材か」
「……」
「待ちなさいよーっ!食材が逃げるんじゃないわよおおお!」
イノシシに続いてミザリー姫が出てきた。
「…‥姫…」
「絶対逃すものですかあああああ!美味しいイノシシ肉を夕食に出すのよおおお!」
ハリスはミザリー姫を捕まえた。
「くっ、離しなさいハリス!」
「嫌です。夕食などどうでもいいでしょう?あなたはすぐ帰るのですから」
「帰らないわよっ!イノシシ食べるんだから――――――!」
「……ルウド、私はイノシシを捕まえてくるから姫を屋敷に連行しておいてくれ」
「分かった」
ハリスはしぶしぶイノシシを狩るべく後を追った。
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