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第五話 幻の秘薬と奇跡の姫
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しおりを挟む西の小国マルスは山と湖に囲まれた地であり、他国からの侵略や脅威からも高い山と広い湖によって守られている。
大昔始祖がこの地に入り土地を開拓しここに城を造った。この城を中心として近隣に街を造り村が出来、小国が出来上がった。
山では時折温泉が掘り当てられ他国に目を掛けられるほどに有名となった。
さらに山の食材と湖の魚が大変おいしく、マルスは保養地として最適の国だと言われるようになった。
だがいくら山に守られていると言ってもこの田舎に目をつけ手に入れたいと思う国もある。手に入れようと思えは簡単に侵略できそうな国なのだ。
実際過去何度か侵略目的で兵を連れて山を越えようとしたもの達がいた。今までは山を越えてこの国へ到達する前に冬が来て兵は山越えを断念した。
運が良かった。今まではそうやって山に守られてきた。
だが他国の脅威は消えたわけではない。
王族はいつも国の為に周囲の国の情勢に目を配っている。他国に情報屋を派遣したり、国兵達の腕を磨いたり、国内外警戒は怠らない。
他国人を招いて交流を図る事も大切だ。
その中に紛れ込んでいたスパイ、彼女の所在はいまだ不明だった。
第一皇子パラレウスは昼食の席で吐息を吐く。
様々な方向から調べは進めているがあまり成果はない。
先日訪れたティア姫目当ての他国の皇子達と交流を図ろうとしたがその前にティア姫のせいで国へと逃げ帰ってしまった。
ティア姫は他国の皇子にも容赦がない。困ったものだと皇子は常づね思っている。
そのティア姫を見ると彼女はふっと溜息を吐き呟いた。
「街って、どんなのかしら…‥」
「……‥」
姫の呟きを聞いてしまった一家は戦慄した。
今まで街に興味など示さなかった姫がなぜ突然そんな事を言い出すのだ?
「ひ、姫、いきなりどうして街を気にするのだ?」
動揺しながら問う王にティア姫で無くミザリー姫が答える。
「城内だけでは飽き足らずとうとう外にも破壊と混乱を起こしたくなったのよね。ティアの悪名を広めるためには外にもでなきゃダメよね」
「ミザリーったら。そんなわけないでしょ?ティアもルウドが見てないからって危ない事をしてはダメよ?」
アリシアがにこやかに窘める。兄の不安は増大した。
「ティア……」
「何よちょっと呟いてみただけじゃない。大げさね。午前中にゾフィーの所に街の子供が訪ねてきたのよ」
「街の子供?何の用で?」
「母親の病気を治してほしいって。それはお医者の仕事だからお断りして帰って貰ったけど」
「………」
そんな個人的要件で城に入り込んで魔法使いに会えるわけがない。それを問いただすのはティアにではなく警備責任者にであるのでパラレウスはそれ以上突っ込まなかった。
「…子供の件は仕方ないと思うの。お医者は街にも沢山いるはずだし。でもゾフィーでなければどうしても助けられない場合は?ゾフィーは国専魔法使いだから街の人達は助けてはいけないの?」
「それが王家との誓約なのだよ。そしてその誓約が魔法使いの身柄を守っているのだ。国が保護しているからこそ他国人や悪しき者達も迂闊に手が出せない。どんな事でも可能な魔法使いはどんな悪しき事にも利用可能だからな。そんな事にならぬように誓約はあるのだよ。だが私が許せば彼は街人を助ける事も出来る。姫が心配しなくともよいのだよ」
「そうですか…」
ティア姫は納得し、食事を早めに切り上げる。
「……ティア?何故そんなに急いでるんだい?」
「お兄様、ルウドの様子を見てくるのよ。もう治ったかしら?」
「ああ姫や、病気の男に余り近付くとうつされるぞ」
「気を付けるわ、お父様。じゃあお先に」
慌ただしく部屋を退出していった。
「……またルウドか……」
王の苦々しい呟きが静かな昼食の席に虚しく響いた。
王家は庶民に優しくない。当然だ、身分はおろか生活基準が違う。
彼らのような高貴な者達には労働者階級の貧民層の苦悩など知る由もない。当たり前の様に搾取するだけだ。
だから最初から期待などしていない。でも魔法使いに直接懇願すれば何とかなると思っていた。
「くそう、やっぱり簡単にはいかねえ…」
分かっていた。だけど諦める気はない。何回でも魔法使いの塔に行く。
城門の真正面からは当然入れて貰えないが実は森から城内へ入れる抜け道がある。
子供一人が入れる位の小さな抜け道だが子供のパティーには十分抜けれる。
パティーは再び魔法使いに会う為に塔へと向かう。
ティアは兵舎のルウドの部屋まで見舞に行った。だが部屋の入口で護衛達に止められた。
「いけません、病気が移ったらどうするのです。それにお姫様が兵の部屋に入るなどとんでもない。駄目です。隊長からも言い含められております」
「……兵って、ルウドじゃない。ちょっと様子を見るだけよ?悪さなんてしないわ」
「とにかく駄目です。伝言だけ伝えておきますから」
「………」
結局姿を見る事も出来ずに追い払われた。
ティアはしぶしぶ引き下がり、進路を魔法使いの塔に変えた。
「つまんないわ」
護衛を五人ほど後ろに引き連れて塔に着くと魔法使いはまだ留守だった。
「……暇だわ」
とりあえず護衛はその場に置いてティアは鍵を開けて塔へ入る。いつでも自由に部屋に出入りできるようにと鍵を貰っていた。
「姫様……」
「邪魔しないで頂戴」
護衛は部屋の中にまでは付いてこない。塔に入って一人になってようやく息が吐ける。
護衛はいらないと言っても誰も聞いてくれない。どこに行っても見られているし口うるさいし、ティアは少々嫌気がさしていた。
誰の目も届かないどこかで自由に羽を伸ばしたい。窮屈な生活を強いられているとその願望が強くなる。
「全く何とかならないものかしら…」
城内で好き放題する分には寛容な魔法使いも外へ出るとなると途端に態度が変わる。
ルウド張りに頑強に反対する。
なぜそんなに反対するのか街に出た事がないティアにはさっぱり分からない。
廊下を歩いて調剤室のドアを開けようとしたとき、二階からガタリと物音がした。
「……」
二階は物置とゾフィーの寝室である。誰もいない筈の二階から物音がする訳がない。
「……」
ネズミにしてもちょっと大きい音の気がする。
ティアは怖いもの見たさで階段を上がる。二階に上がると物置の部屋の方からギシギシと音がする。
ティアはゆっくりと入口を開ける。滅多に開けないドアはギイイイイ、と不気味な音を立てて開いた。
「………あ」
「………ゲッ、ねえちゃ…いえお姫様…」
例の子供が何故かいた。
「あなたどこから……まさか窓?」
「そうだよ、木を伝って登って来たんだ」
「危ないわね。残念だけどゾフィーは留守よ?」
「待つよ、ずっと」
「待っても無理だと思うわ。規則だから」
「なんでだよ。王族だからって魔法使い独り占めかよ。国民の為に使ったっていいだろう?」
「そう言って国民全員が魔法使いを利用したらどうなると思うの?悪い事に使おうとする者もいるかもしれない。だから王家が保護しているのよ」
「わざわざここまで来て頼んでるんだよ。ちょっと助けてくれてもいいだろ?」
「そう言う例外を造るとまたそう言う者が現れるわ。大体あなた、なぜ魔法使いに頼むのよ?」
「…魔法使いは何でも出来るんだろう?母ちゃんの病気だって一瞬で直せるんだろう?」
「知らないけど、聞いた事ないわ。そんな風に直しているところも見た事ないし」
「魔法使いなんだから出来るはずだ!」
「そんな風にゾフィーを見た事はないわ。魔法使いだからって何でも出来るわけじゃないと思うわ」
「……じゃあどうしろって言うんだよ」
「街のお医者を呼べばいいんじゃない?」
「それが出来ないから魔法使いに頼んでるんだ」
「どう言う事?」
「街の医者は高い金を取るんだよ。貧乏人は見てくれないの!うちは母ちゃんと二人暮らしだから毎日食ってくだけで精一杯なんだよ。今は母ちゃんも寝こんじまって働けないし俺一人じゃどうにもならねえ。死んでいくのをただ見てる位なら出来る事はしたいじゃないか!」
「……」
ティアは何と言っていいか分からない。
そもそも生まれてこの方お金に触ったこともない姫様にはお金がないと医者に診てもらえないという現実も理解できない。貧民層の暮らしなど全く想像も出来ない。
「まあお姫様には分かんないだろうけどさ。分かって欲しいとも思わないし。でも俺必死なんだよ、このままじゃ俺一人になっちまう。だから助けて欲しいんだ」
ティアも勿論勉強はしている。国の地理、歴史、労働者階級の暮らしなど知識として学んではいる。
だが実際見た事はない。街の人達の暮らしなど話に聞くだけだ。
「……」
いくら知識を詰め込まれてもティアは実情をまるで知らない。
まるで自分が世間知らずの空っぽな姫様の様な気がしてティアは何だか悔しくなった。
「何よ馬鹿にして!私だって街に降りれば現状の把握ぐらいできるわよ」
「お姫様はいいんだよ、何が出来るわけでもないんだから。俺は魔法使いに頼んでるんだ」
「私だって多少の薬は造れるわよ。調剤だってしてるんだから!」
「でも医者じゃないだろ?訳わかんない病なんか治せるもんか!」
「そんなの見てみなきゃ分からないじゃない!簡単に決めつけないでよ、失礼な子ね!」
「お姫様に何も出来るもんか!見るだけ無駄だ」
「偏見だわ!何よ子供のくせに頭固いのね!」
「そんなに言うなら街へ降りて見てみるかよ!絶対不可能だって理解すればいいんだ」
「―――行くわよ、私にだって出来る事はあるはずだわ!」
「出来ないって分かったら早々に引き下がって魔法使いに頼んでくれよな」
「―――いいわ、私から魔法使いを動かすようお父様に頼んであげる!」
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