意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第五話 幻の秘薬と奇跡の姫

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 『ティアが城外に興味を示してしまった。くれぐれも外になど出さぬようにしっかり見張っていてくれよ』

 早々に呼び出されて不安げな皇子に釘を刺された。姫が外に興味を持ったのはそもそも子供の侵入を許した警備のミス。つまり隊長ハリスのミスになる。

 ハリスは汚名返上の為に警備強化を部下に命じ、警備の穴を捜しがてらティア姫の様子を見に行く。
 姫はルウドの宿舎から追い払われて魔法使いの塔へ行ったという。
 塔の入り口に辿り着くと姫の護衛が五人、入口に立っている。

「姫は中にいるのか?」

「はい、ゾフィー殿はまだですが」

「そうか」

 ということは塔にいるのは姫一人。
 中を覗いても物音一つしないのでハリスは何だか不安になった。

「……ティア様?」

 物音どころか気配すらしない。本当に姫はいるのか?

「――――おやどうしましたハリスさん?」

「……ゾフィー殿」

 背中に荷物を抱えてゾフィーがようやく帰ってきた。
 入口に集まっている警備隊を眺めて首を傾げる。

「ティア様が居られるはずなのですが気配がなくて…」

「おや、そうですか?」

 ゾフィーは入り口に荷物を置いて中に入る。

「姫様?居られますか?ティア様―――?」

 客室と調剤部屋を覗いて入り口に戻ってくる。

「居りませんね」

「――――――え…?」

「どこかへお出かけになったのでは?」

「そんな馬鹿な!ずっとここで張っていたのに!」

「出口など他にどこにも………?」

 警備隊が焦り出す。一体どこへ消えたのか、全く見当がつかない。

「出口など二階の窓しかないですしねえ……」

「姫様一人でそんなところからの脱出は無理だ!これは本当に誘拐じゃ…?」

 警備隊の男六人がおろおろと動きまわる。しかし当てが全くない。
 ハリスは蒼白になった。このルウドがいない時にこんな事態が起こるとは!王家にもルウドにも顔向けが出来ない……!

「……ゾ…ゾフィーどの………」

「ハリスさん……落ち着いて下さい…‥。調べてみますから……、近くにいるなら分かりますから……」

「ホントに?さ、さすが魔法使い…!」

 ハリスは笑うが顔はこわばる。このところのストレスは半端ないものがある。

「さ、中へどうぞ。気分を落ち着かせるお茶など入れて差しあげましょう」

「有難うございます」

 魔法使いの優しい気遣いにハリスはほろりと泣きたくなった。




 ゾフィーは警備隊にお茶を出してから隣室へ行き、水晶を出して探し物をする。
 ティア姫の持ち物であるハンカチを水晶の前に置き、集中して丸い球を覗くとなぜかそこには雑踏が映った。

「………?」

 沢山の人が行きかう雑踏。市場があり、商人がいて、宿屋もある。
 そこは街の中だ。城の外のある街である。

「………?」

 ゾフィーは渋い顔になった。
 ティア姫が一人で街になど行くはずがない。やはり何者かに誘拐されたのかもしれない。
 これは由々しき事態だ。
 ゾフィーは即座に隣室へ戻り警備隊に報告する。

「ティア姫は街です。やはり何者かに誘拐されたのかもしれません。急がねば姫を見つけられなくなる」

「なんですと!」

「急いで下さい!市場や商人が見えました。あれは中心部の広場あたりだと思います」

「分かった!有難うゾフィーどの!姫は必ず見つけ出します!」

 ハリスと部下達が意気込んでバタバタと出て行った。

「……」

 水晶には街が見えた。だから街に行ったと報告したがゾフィーはどうも得心がいかない。
 この塔に堂々と侵入者が入り込み、姫を誘拐するなどとは。
 曲がりなりにも魔法使いの住処であるこの塔には防犯設備が整っている。
 侵入者が現れればゾフィーにすぐ分かるようになっている。
 そしてこの塔の鍵を持っているのはティア姫とゾフィーのみ。
 ゾフィーは階段を上がり二階へ行く。二階はゾフィーの部屋以外全く使われていない物置だ。その使われていない部屋を開けると埃が舞う。
 窓付きのその部屋の窓が開いているせいで床の埃が舞い上がる。

「……」

 開けた覚えもない窓の下、埃だらけの白い床には足跡がくっきり残っていた。
 一つはティア姫だろう。だがもう一つティア姫より小さな足跡がある。

「……」

 ゾフィーはとても嫌な予感がした。







 街は広い。そして色々な恰好をした人たちが沢山いる。

「わあ……果物が一杯、あれは何をしているの?」

「売ってんだよ、見た事ないのねえちゃん?」

「聞いた事はあるけど見た事はないわ、まああんな魚まで?どこから取ってくるのかしら?」

「海か湖だろ。あのでかいのは海かな」

「海ってみた事ないわ。湖はあるけど」

「超箱入りだなねえちゃん。それでよく医者の真似が出来るなんていったな」

「お医者の真似は出来ないわよ。でも見てみないと分からないじゃない」

「負けん気だけは一人前だな」

「あなたに言われると腹立つわ」

 パティーはくすくす笑いながらも足早に先へ進む。ティアもあちこち物珍しげに見まわしながらパティーの後に付いていく。
 とりあえずフード付きマントで顔を隠しているもののティアはとにかく目立つ。
 街ではあり得ない艶やかな金髪も白い肌も見られればどこぞの男達から足止めを食らう。
 分かっているから顔を隠させているのだがそれでも目立つのか振り返る者がちらほらいた。
 二人は足早に広場を通り抜け細い路地に入る。路地を過ぎて家ばかりが立ち並ぶどこか寂しげな雰囲気の道に入れば人影すらも疎らになる。

「……パティー、まだ先なの?」

「そうだよ、家は貧民街のぼろ家だよ。この通りのアパートの住民より貧乏なんだ。この辺はまだ学生やら単身者やらが暮らす地域だよ。そんなに不穏じゃない」

「……」

 何だか不安を見透かされた気がしてティアは押し黙ってパティーの後に続く。
 しばらく黙って歩いていると声を掛けられた。

「おや、パティーじゃないか?何やってんだこんなとこで?」

 学生だろうか?二十歳前後の男がからかう様ににやにや笑いながら寄ってきた。
 パティーは男を睨みつける。

「通りかかっただけだろ、わざわざ声かけんなよ。急いでるんだ」

「へえ、連れがいるから?何そいつ?女?お探しの医者か?」

「違うよ、関係ない!絡むなよ!」

 男はにやにや笑いながらティアに近づき手を掴み、じろじろ眺める。

「何するの!離しなさいよ!」

「へえ、気が強そうだ。それになんかすげえ手え綺麗だな」

「離して!」

「離せよ馬鹿!やめろよ!」

「へへへ、どんな顔してんだ。フードとれよ」

「ちょっ…!」

 男はティアのフードを外して固まった。息を呑んでまじまじとティアを見つめる。
 あまりに驚いて掴んでいた手が離れた。
 パティーが前に出てティアを庇う。

「……す、すげえ美人、あり得ねえ。どこから連れて来たんだパティー?」

「お前なんかが触ったらすぐさま首が飛ぶとこからだ!」

「へ、へへ?なんだそれ?まあいいや、お姉さん、折角ここで会った縁だ。ちょっと付き合ってよ」

「い、いやよ!」

「つれないこと言うなよ?」

 男が再びティアの腕を掴もうとした時、恐怖に瞬くティアの目の前でいきなり男の顔が真横に吹っ飛んだ。

「……?」

 男は壁に激突して気絶した。
 そしてティアの目の前には黒髪の男。腰に剣を下げている。
 彼は何故だか下を向いて激しく息を切らしていた。

「…‥っ、はあっ、冗談じゃない。全く冗談じゃないですよもう!」

「あ、有難う……」

「何だってこんな目に………全然笑えませんよ…」

「…‥…ええと‥?」

 なんだろうこの人?とじろじろ見ていると男に腕を掴まれた。

「ちょっと、あなた?」

「目立ちますからフードを被って顔を隠して。何故こんな所に来たのですか?ほんと冗談ではありませんよティア様」

 顔を上げた彼の顔は明らかに怒っている。

「……あ、あら久しぶりね、コール。そう言えば街警備に飛ばされてたのよね?」

「……自ら志願したのです。ほっておいて下さい」

 彼は王宮警備隊五番隊隊長コール=メイスン。故あって現在街警備に配属されている。

「何故ここにいるのかしら?」

「王宮から速報が届いたんですよ。ティア姫が街にいるから即座に捕まえてくれと」

「……素早い対応ね」

「誘拐ですか?見たとこ自分から出てきたようですね?またルウド隊長の雷が落ちますよ?さ、今なら黙っていて差し上げますから帰りましょう?」

「まだ目的地へ着いていないわ。ここで引き返したら出てきた意味がないでしょう?」

「何なのですか?」

「この子の家まで行くのよ。病気のお母様がいるのですって」

 コールはパティーを見て眉をひそめる。

「意味が分かりませんが?お見舞に?」

「私だって出来る事があるかも知れないでしょう?」

「ホントは魔法使いに見て欲しかったんだよ」

「………姫様、おやめ下さい。移ったらどうするのです?」

「移る病気じゃないと思うわ。だってこの子は元気でしょう?」

「姫様が行って何ができますか?」

「行ってみなきゃ分からないわよ?」

「………」

「………」

 二人は火花を散らしにらみ合う。
 無駄だと言ってもティア姫は聞かないので結局コールが折れた。
 パティーの後に着いて二人は足早に歩きだす。

「用事を済ませたらすぐに帰るのですよ?街にいられて何かあっても私責任取れません。と言うかあなたに何かあったら私もう城に帰れないじゃないですか。全く冗談じゃないですよ?」

「分かったわよ、うるさいわね」

「それからこの件はもう黙ってて差し上げません、ルウド隊長に包み隠さず報告します。黙ってお叱りを受けて下さい。私は知りません」

「…いいわよ別に。ルウドの病気が治ったら報告しても。今報告すると高熱でも駆けつけてきそうだからやめて欲しいけど」

「隊長、そんな状態なのに。こんな事して。姫様…‥」

 非難の視線を受けてティアは厭そうに顔を背ける。

「お見舞い行ってもうつるから駄目だって会わせても貰えないのよ?どうしろって言うのよ」

「……ああなるほど…‥」

「何それ?どう言う意味よ?なんか癇に障るわね?」

「病気の時くらい安静が必要ですものね」

「それって私が邪魔って事?失礼ね!」

「大人しくご自分の部屋で隊長の回復を願ってお祈りでもしていればいいものを」

「祈って病気が回復するなら誰だって祈るわよ」

「ちょっと愛が足らなさすぎませんかね?」

「―――――っ!余計な御世話よもう黙んなさいっ!」

 コールは黙った。黙ったが目と口が笑っていた。
 ティアは大変不愉快になった。






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