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第十一話 姉の条件
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しおりを挟む「……‥」
ルウドはエリックの部屋の前に来ていた。だが中に入るのは躊躇われた。
中には姫とエリックの二人きり。ただの護衛が中に踏み込んで邪魔は出来ない。
警護ならばドアの外で十分なのだ。
何か中で騒いでいるようだが余程の事がなければ踏み込むのは躊躇われた。
が――――――、
「ルウド、ルウド、大変。ティアが襲われているわよ?」
「ロヴェリナ様、一緒に来てたのですか…」
「私はずっとティアと一緒よ?それより早く助けないと」
「……」
「あの人ティアを強引にベットに運んで組伏せているわよ?ティア、泣きわめきながらルウドを呼んでいるわよ?」
「………‥」
「ルウド!大切なお姫様がボロボロにされてもいいの?早くしないと」
「……‥‥‥っ…」
ルウドはドアを開けようとするが鍵がしっかりかかっていた。やむなくルウドはドアを思い切り蹴破った。
ドアが壊れ、部屋の中が見える。
部屋の奥のベットで男に組伏せられて泣いているティアを見てすっと血が冷える。
「無礼だなたかが護衛が!お楽しみの邪魔をするな!」
「うちの大切な姫様に非道な行為を。無礼は貴方だ、許せない」
ルウドはエリックの襟首を掴んでベットから落してティアから剥がし、姫を男から解放した。ベッドの下に落とされ尻もちをついたエリックは食ってかかる。
「なっ!何なんだお前は?ただの騎士のくせに!何の権利があって!」
「あなたこそ何の権利があってこんな事をするのだ?私の大切な姫に」
冷やかな視線でルウドに睨まれ、エリックは息をのむ。
「――――――ティア様」
「……ル……ド…」
ティアはすかさずルウドに飛びつく。
ルウドはしっかりティアを抱きかかえて、エリックを睨む。
「非道な事を。貴方のような人に姫は任せられない。二度と姫に会う事はないと思え」
ルウドに縋りつくティアの身体が震えている。
ルウドは優しく髪を撫で、背を摩る。
「なっ!お前に決められる筋合いはなかろう。これは姫と私の問題だぞ!」
「ふざけるな。勝手に私のティアを所有化するな。勘違いも甚だしい。皇子の頼みだから仕方なく貸し出しただけだ。それを勘違いしてどこまでも。
二度と私の姫に近づかないで貰おう。次に見えた時は命の保証は出来かねる。
愛しい恋人に近づく悪漢として対処させて貰う」
「――――――!」
ルウドはエリックに冷ややかな怒りの視線をもって一蹴してから姫を抱えて部屋を出た。
部屋を出るとすぐ気まずい顔のエルフィード殿下に会った。
「ルウド……その、あの、済まない…‥」
「あとでお話があります、殿下」
「…‥ハイ、ごめんなさい…。ティア姫、その、ごめん」
「……」
ティア姫はルウドにしがみついたまま動かない。
怒りのルウドは黙って姫を抱えたまま姫の部屋へと向かった。
エルフィードが冷たい汗をかきながらエリックの部屋へ入ると彼は放心していた。
「エリック、馬鹿な事を」
エルフィードの声を聞いて我に返ったエリックは彼に詰め寄る。
「エルフィード!話が違うじゃないか!どうなっているんだ?」
「何が違うんだ?言ったとおりだろう?」
「姫には恋人がいないから落せるはずだろう。銀髪騎士が恋人なんて聞いていないぞ!」
「そんなこと言った覚えはないし、姫が落ちるなんて誰が言った?君が勝手に勘違いしただけだろう?大体性急過ぎる、手が早すぎる」
「早いに越したことはないだろう。ただでさえ遠方でなかなか会えない姉妹だ。お前だって運命にかこつけて手を出しただろうが!」
「末姫様とアリシアは全く違うよ。性質も趣味も。だからとても無理だ、諦めろ」
「くそう、あの銀髪騎士さえ倒せれば…‥」
「頼むからこれ以上私の顔を潰さないでくれ。無茶するなら強制送還するぞ?」
「……どうしたらいいんだ?私は?」
くう、と視線を下に落とす。だがすぐに顔をあげた。
「末姫が無理なら二番目の姫が居る!どんな姫だ?会わせろ!」
「………」
立ち直りが早すぎる。全く懲りないのが彼の特性である。
部屋に辿り着いてもティア姫はルウドから離れなかった。
ソファーに腰をおろしても、しがみ付いて離さない。
「姫様、怖い思いをさせてしまって申し訳ない。私が目を離したりしなければこんな事には」
「―――――…怖かった…‥」
ルウドは震える姫を抱きしめ、髪を撫でる。
「ルウドに見捨てられたかと思ったわ……」
「すみません、ほんとに」
ティア姫は顔を上げ、潤んだ瞳でルウドを見つめる。
「私、あの人にキスされたの、いろんな所、触られたの。気持ち悪くて、怖かった」
「……ティア様…」
「ルウド、私ルウドじゃなきゃいやよ。キスされるのも、触られるのも、愛されるのも………」
ティア姫の潤んだ瞳がルウドに懇願していた。
「―――ルウド、ね、お願い……」
「ティア様…‥」
傷ついて震える姫の懇願を振り払う事など出来ない。
そっと姫を抱きしめると、愛しさが込み上げて堪らなくなって姫を締め付ける。愛しい姫を傷付けた男に心底憎しみを覚える。
「ルウド、痛い…」
「済みません…‥」
そっと姫の頬に手を添えて、軽く唇を重ねると姫の頬が嬉しそうに緩む。
「……ルウド、愛しい恋人って言ったわよね?」
「……‥さあ…?」
「しっかり聞いたわ、間違いなく聞いたわ」
「…どうでしたかね…?」
「とぼけないで。嘘ついても分かるんだから」
「まあ、あの場はああ言わねば収まりませんでしたから」
ルウドは姫の頬を優しく撫で、髪を梳き、にが笑う。
「ここにあのような者がいる以上、ここにいる間だけはその方がいいかもしれません。でも姫様に本当のお相手が出来た場合、私は用なしですね」
「そんな事にはならないから、安心して当分私の恋人でいて?」
「……あくまで形ばかりですので」
「構わないわ、ただの一時でも嬉しいもの」
ティアはルウドの首に腕を回し、口づける。
「―――――姫…‥」
「いいじゃない、恋人でしょう?」
「形だけです、本当である必要はない」
「キスも駄目なの?私、ルウドのせいで怖い目にあったのに。ちゃんと責任とってよ、ルウド」
「………‥今後このような事がないようにしっかり守りますから」
「済んだ事は取り消せないの。私、あの人に穢されたのよ。ルウドのせいよ?」
「……穢れ……そんな事はありません」
「ルウドが愛してくれないから。しっかり守ってくれないから」
可愛らしく拗ねているティアは未だにルウドから離れようとしない。
愛が足りないと責められている気がしてルウドは憮然とした。
「……愛していますよ、だからきっちり守っているじゃないですか…」
「――――――なんですって?」
じっと凝視してくるティア姫から目を逸らす。
「それより姫様、そろそろ落ち着いたでしょう?私から離れて着替えませんか?疲れたでしょう?もうお休みになっては?手伝いにマリーを呼びましょうか?」
「…‥嫌。ルウド、離れないで。ずっと傍にいて」
「……・ティア様……」
ティア姫はルウドの胸に顔を埋めて抱きついたまま離れない。
「私はルウドのものよ。ずっとルウドのもので居たい。けして、離れたくなんか無いの」
「……‥」
「――――私が一生愛するのは貴方だけよ。ルウド…‥」
姫に真っすぐに見つめられて切ない声で囁かれて、ルウドの理性はぐらぐら揺れた。
「……困ります……」
慌てて視線を外して衝動を堪えると、姫に悲しそうな顔をされた。
しかしぴったり姫に寄り添われてこれ以上理性がとても保てそうにないのでルウドは姫を抱き上げベットに運ぶ。
「…‥ル、ルウド…?」
「……いい子だからもうお休みなさい。部屋の外にしっかり護衛は残しておきますから誰も中に入れません。安心していいですから」
「子供扱い?」
ルウドはティアに毛布を被せて宥めるように額にキスをする。
ティアが怒りを含んだ目でルウドを見つめる。
「……恋人なら傍にいてよ。私を慰めてよ。いっぱい愛してよ」
「私はただの護衛です。そこまで出来ません」
「――――――馬鹿!嘘つき!愛してるって言ったじゃない!」
「………」
ティアの叫びを背にしてルウドはとっとと部屋を出た。
あの状態で一晩ももつ訳ない。あれだけ口説かれて理性がまともに保てるものか。
だがルウド自身の手で、幾らでも幸せを手に出来る愛しい姫の未来を摘み取ってしまうのだけは絶対避けたかった。
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