意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十二話 噓と真実の饗宴

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「―――――うっ、く、くるしい!」

「えっ、大変!」

「大丈夫ですよグレイス婦人。落ち着いて下さい」

「え、でも……」

 朝の食卓でいきなり苦しみだした二番目の姫をみて、その兄姉妹は冷静に判断を下した。

「食べすぎですよ?」

「そうよね、食べ過ぎよ」

「当たり前だわ、あんなに食べて」

 皆ミザリーを見る目が冷たい。
 昨日の所業を思えば無理もなかった。

「え、えと、胃薬を用意させますわね……?」

 侍女を呼ぼうとする婦人をミザリーは止める。

「違うわ、苦しいのは胃腸じゃなくて胸!」

「えっ、それは大変ですわ!すぐお医者を呼ばなくては!」

「婦人、ご心配無用ですから。このミザリーお姉さまに限って御病気なんてあり得ないわ。昨日あれだけ踊って食べてたのだから。きっと頭の御病気なのね」

「失礼ねティア!貴方にはこの胸の苦しみが分からないのね?全くお子様なんだから!そんなんだからルウドにも相手にされないのよ!」

「なっ!そんな事ないわよ!ルウドは恋人になってくれたのよ!私に愛してるって言ってくれたんだからっ!」

「―――…‥な?嘘…?」

 ティアの爆弾発言にその場の皆が思い思いにあっけに取られてティアを見た。

「嘘?」

「戯れではないか?騙されてるとか?」

「理由はある筈よ、考えられないわ…」

「――――本当よっ、失礼な人たちね」

 ティア姫は憤慨し、姉妹は咳払いで誤魔化した。

「……それで一体ミザリーは何がいいたいのかしら?」

 ニッコリとアリシア姫が質問するとミザリーが脹れる。

「もういいわよ、何でもないわよ」

「そう?おかしな子ね。ところでレナン伯、予定では一応お昼に帰る予定なのですが私もう少しここに居たいの。夜まで居ても宜しいかしら?」

「はい、それは勿論喜んで。お好きなだけ滞在なさってください」

「有難う」

 そのアリシアの申し出に他三人が反応した。

「…アリシアが残るなら私も残ろう。姫一人残す訳にはいかないからね?」

「まあお兄様、私婚約者がいるから平気ですよ?」

「まあそれはそれだ。あはははは」

「……‥」

「お二人が居るなら私もいるわ。ここ過ごしやすいし」

「まあミザリー様、それは嬉しいこと」

「じゃあ私も。帰りは皆で帰った方が面倒がないもの」

「……それはそうね…」

 レナン伯と婦人は喜んだ。

「ここでの暮しを気に入ってもらえてうれしいですわ」

「……ええ、そうね」

 四兄姉妹が全員何か含む物をもっている事が分かり、食卓に微妙な空気が流れた。









 その頃エルフィードの部屋へルウドは訪れていた。

「何を考えているのですか?仮にも一国の姫君をあのような者に会わせて」

「す、すみません。断れなくて。あれでも家と交流のある貴族の子息でね。若いからそれなりに女遊びはすごいけど悪気はないんだよ」

「私の大切な姫を一体何だと思っているのです?あんな男との交際を私が許すと思ったのですか?」

「す、済まない。交際だなんてそんなつもりではなかったんだ。ただ一目会わせればそれでいいのだろうと」

「思い出しても腹立たしい、貴方にそんなつもりはなくとも最初からあの男はそのつもり満々のようでしたよ?馴れ馴れしく触ってましたからねえ」

「うっ…す、済まない。ちゃんと言い含めていたんだが」

「ああいう輩は言い含めるだけでは聞きはしませんよ。とにかくもう二度とそのような伝手でおかしな者を紹介するのはやめて頂きたい」

「す……すみません。もう二度としません…」

 もはや彼が皇子だという事実もアリシア姫の婚約者だという事実すら忘れルウドは遠慮なく苦情を入れた。
 皇子の面目丸潰れだが頭に血が上っているルウドにはそんな事どうでもいい。

「……何だあんたすごい嫉妬深いな?あの程度の事で。あんまりエルフィードを責めてくれるなよ?」

「―――――まだいたのか…」

 ルウドの目が鋭く光る。

「あっ、その、エリックは、もう姫には近づかせないから!」

「当然です、今度近づいたら必ず切り刻みます」

 そう言うルウドはすでに腰の剣を握っている。

「…それとも今すぐ刻んだ方がいいか?あの程度だと?姫は傷付いて泣いていたんだぞ。ふざけるな!」

 のこのこ部屋の陰から出てきたエリックは呆れたように両手を上げる。

「……銀髪の騎士か。そんなに恋人が大切ならそもそも男に会わせようなんてしなきゃいいだろ?言わせてもらうが私は男のいる女には近づかないんだぞ。後が怖いから」

「………」

「大体あの姫、全く男なれしてないじゃないか。恋人って本当か?その割には全く手を付けてなさそうだが?」

「あ、当たり前だ!大事な姫様に結婚前から手を付けるなんて無礼な真似が出来るか!」

「へ―――――」

 エリックがちらりと隣を見るとエルフィードが気まずそうに下を向いた。

「か、彼は難物なんだ」

「ふーん」

 エリックは何故かじろじろとルウドを眺める。

「ともかく俺は知らなかったんだから悪くない。というか面白くないな。という事でエルフィード、二番目の姫、早く会わせてくれよ?」

「……いやそれは…‥」

「……お姫様を何だと思っているのです貴方は?やはり今ここで刻んでおきますか?」

「な、なんでだよ!折角ここまで来たのだから一目会うぐらいいいだろ?」

 ルウドの目が殺気を含み、じりじりとエリックに近づく。

「ル、ルウド、彼はボンボンだが悪気はないんだ。頼むよ、命だけは…」

「もう一目は見たはずだから、とっとと帰りなさい。二度と姫達の前に現れないでくれ」

「えええ、そんな、折角来たのに少しも遊べないなんて。勘弁してくれよー」

「ふざけるな」

 剣を抜くルウドとお気楽なエリックの間にエルフィードが慌てて割って入る。

「ルルルルル、ルウド!彼はこれでもそれなりに目的をもってここに来たのだよ?遊びに来たのじゃないんだ!任務があるんだよ!」

「言うなよ、エルフィード」

「何の任務だかは知らないがこんな遠方まで足を運んだのは何も姫様達に会いたいだけというわけではないんだ!だから勘弁してやってくれ!」

「……」

 ルウドは仕方なく剣を鞘に収める。

「では仕事だけ済ませてとっとと帰られるといいだろう」

「予定ではあんた達の方が先に帰るだろうが。姫様達に見えるのは今日で最後か、あんたとはもう話したくないな」

「……こっちのセリフだ…」

「そうだ、最後だから一つ聞いておこう。銀髪の騎士。あんた、世界の王が欲しがる物凄い宝の鍵を持っているって噂は本当なのか?」

「……‥なんだそれは?」

「裏業界で有名な噂で、この国の王が必死で他国から隠し立てしようとする理由がそれだって話なんだがな?」

「いい加減な噂を。大体隠されているつもりなどない。宝の鍵なんかあったらぜひ私が宝を捜しに行きたい。あるなら分けてくれ」

「ル、ルウド……」

「まあ噂だ噂。それを信じてつけ狙う輩もいるかもしれないが」

「不本意だ。迷惑だ」

 憮然とするルウドを見てエリックは肩透かしを食らったように息を吐く。

「……まあそんな事だと思ってたけど。まああんたは災難も自分で勝手に振り払えるだろ?せいぜいお姫様を巻き込まないよう気を付けるんだな」

「………」

 何なんだそれは……?
 話は終わりと言わんばかりにとっとと部屋を出て行ってしまったエリックの代わりに返答を求めるべくエルフィードを見る。
 エルフィードは困ったように苦笑し首を横に振る。


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