意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十二話 噓と真実の饗宴

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 それは約束された時間。とてもとても幸せな、待ち望んだ時。
 ―――――来る!もうすぐ、もうすぐ、間もなく!
 長くその時を待ち続けた彼女は、その時を思い最早興奮が最高潮まで達していた。

「ああっ、じっとしてなんかいられない!どうしよううっ?そうだ!ドレスを選ばなきゃ!化粧直しをしなきゃ!イヤリングを選ばなきゃ!それからっ、ダンスの練習をしなきゃ!」

 この彼女の訳の分からない行動全てに周囲の侍従、侍女、護衛、警備、彼女と縁を持とうとする殿方達、兄姉妹まで、皆が振り回され迷惑を被った。

「ちょっと、ミザリーお姉さま。いい加減にしてよ」

「――――ああっ、胸が!胸が苦しいいいっ。はちきれそおおお!」

「馬鹿じゃなくて?はち切れるほどないでしょう?人に迷惑かけるのやめなさいよ」

「ティア、失礼ね!あなたよりはあるわよ?そんな胸じゃルウドは誘惑出来ないわよ」

「悪かったわね!どうせお子様よっ!何よ皆馬鹿にしてえええっ!悔しいいいっ!そうよ城に帰ってゾフィーに胸の大きくなる薬を作らせるわ!それでルウドもイチコロよっ!」

「そ、それ出来たら私にも分けてよね」

 ミザリー姫の部屋でティアまでもが暴れ出し、周囲の侍従や護衛が困った。

「…‥な、何を暴れているのですティア様…‥?」

 疲れた顔でルウドが現れるとティアの機嫌は一気に良くなった。
 しっかりルウドに抱きついて嬉しそうに顔を擦り寄せている。

「帰宅は夜に変更になったわ。今日一日ルウドは私の恋人としてずっと一緒よ?心行くまでいちゃいちゃしましょう?アリシアお姉さまのように」

「………‥」

 ルウドが笑ってごまかした。

「―――あ、そうか。恋人同士はここに居る間だけってことね。いわゆる虫よけね。なるほど、変だと思ったのよ。そうでなきゃルウドが承知する筈ないものねえ?」

「――――――っ!ななななな何よ恋人もいない人が偉そうに!ルウドは私の事愛してるって言ってくれたのよ?大切だっていつも言ってくれるのよ!本当の恋人にだってすぐなれるんだからああああっ!」

「へ――――。でもそう思っているのは貴女だけかもね?」

「そ、そんな事ないわよ!何を言うのよ!お姉さまの馬鹿あああああっ!」

 ティアは叫びながら部屋を飛び出て行った。

「……テ、ティア様……」

「ルウド」

 ティアを追おうとするルウドを引き止め、ミザリーは冷ややかな視線で彼を見る。

「ちゃんと責任取りなさいよね?」

「…………ハイ」

 あの二人がどうなっているかなど知らない。
 だがルウドのあの優柔不断な態度、あれではティアが不憫でならない。
 ミザリーにはルウドがティアの気持ちに付け込み弄んでいるようにしか見えないのだ。





 



 不思議の国の皇子様、エルフィードはとある任務で世界各地を回っている。
 そのせいで中々会える事はないし、結婚も難しい。

「婚約者様に会えないのは寂しいけど、まだやむを得ない状況だから」

「私は待っているわ、だから何時でも会いに来て?私が貴方を忘れない程度に来ないと忘れて他に恋人を作ってしまうわよ?」

「それはいやだな。頑張って会いに行くよ」

 国情が難しい、と彼は言う。
 何分遠い北の国の話なので情報もままならないし、余り詳しく分からない。
 しかも彼は皇子でありながら国元でさえ余り名が知れていないという。
 深い訳は余り聞いていない。何時か話してくれるとアリシアは信じていた。
 そうでないと幾らなんでも国王たる父とて許可する訳がない。
 エルフィードは栗色の目を緩ませて、愛しい恋人を見つめる。

「こうして会えた時くらい、君だけを見て居たいよ」

「……それだけが目的ではなかったわけね。貴方も…‥」

 柔らかく笑う彼をアリシアは呆れたように見上げる。
 答える変わりに何度も口付けをアリシアに落す。

「……たまには仕事でなく君に会いたい時もあるよ」

「会いに来ないじゃない」

「うーん…‥…」

 状況がそうさせる。仕方ないと頭では納得しても感情は寂しいと感じる。

「ごめんよ、アリシア」

「時々ティアとルウドがとても羨ましいわ。青春真っ盛りって感じで」

「……私達って老成してる?」

「初々しさがなくて嫌ね」

「……そうだけど、そんなこと言わずに愛を深めようよ?」

 エルフィードは腕の中に居るアリシアの髪を撫で、顔や首筋にキスを落していく。
 彼の首にまわされたアリシアの手が優しく彼の髪を撫でる。

「エルフィー……」

 べットの上で何度もアリシアの体が跳ねる。
 エルフィードは止まらない愛情をこめてアリシアに口づけ、情愛を交わす。

「愛しているよ、アリシア…」

「エルフィー、愛しているわ」

 なのに共にいる事が出来ない。
 運命とはなんだろう?運命の糸とは一体何なのか?
 分からない。
 遠い国から来た旅の皇子と小国の姫は奇跡的に出会った。
 出会ったのが運命ならば、アリシアの元まで彼が辿り着いたのが運命という名の糸が手繰り寄せた結果なのか?
 ではこの先は?共にいる事が出来ないこの状態は?
 どれだけ肌を重ねても、いつか消えてしまいそうな予感をずっと持ち続けるこの不安定感は?
 この終末が別れならば、そんな運命は欲しくない。


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