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第十三話 ルウドと世界一の宝の鍵
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しおりを挟む本日の魔術師の塔には珍しいお客様が来ていた。
護衛数人を伴ってやってきたのは皇子パラレウスだ。
彼は何故か塔の前で随分な時間うろうろと挙動不審に動き回った挙句に仕方なく塔から出てきたゾフィーに招き入れられて客室に落ち着いた。
しかし未だにそわそわと落ち着きなくお茶を飲みつつ挙動不審である。
ゾフィーは何度も壁側に控える皇子の護衛達に目で訴えたが軽くスルーされた。
皇子や陛下、王妃の護衛を管轄する一番隊騎士は無愛想でどうも苦手だ。
ゾフィーは仕方なく皇子に話を切り出す。
「どうかなさいましたかパラレウス様、私で出来る事でしたら何でもいたしますよ。
ああ、体調不良でお悩みでしたらお薬を処方いたしましょう。最近陛下も御所望の栄養剤などはいかがでしょう?」
「栄養剤…‥あの父にすごく好評の……。いや、それはいいんだ、別に体調は悪くない、たぶん」
「では何かお悩みですか?何でもお聞きしますが」
「そうだな…‥いや悩みなんてそんな大層なモノは…。ちょっと散歩に来たついでに寄ってみただけだよ、うんそうだ。今日もいい天気だなあ…」
「……」
皇子がおかしい。先に聞いてはいたが確かにいつもの皇子ではない。
ゾフィーは不安になって護衛の方を見る。何故か首を横に振られた。
「皇子、やはりお疲れなのでは?栄養剤をお試しになりますか?」
「うん、そうだな、少し疲れているような気もするし………………………………………………………………時にゾフィー、君は人捜しとかもできるのか?」
「は、はい、ですが知らない人を捜す事は出来ません」
「……………それはそうだな、知らない人を捜せるわけがないな、当然だな、あははははははは……」
皇子の力ない笑いにゾフィーは何故か焦りを感じる。なんだか嫌な緊張感が辺りを支配している。
「お、皇子、しかしなにか手掛かりとかがあればそこから見つけ出せることもあります。最初から諦めてしまわず捜してみましょう?」
「……いや、いいんだ。私も知らないし…‥」
「え、しかし……‥」
「―――ゾフィー!やっぱりこのままではいけないわ!魅力が十倍上がる薬作ってよ!」
突然バンという物音と共にティア姫が現れた。
「あらお兄様?」
「ティア……また何をする気だい?魅力が上がる薬?」
「お兄様こそどうなさったの?あ、何かお悩み?私席を外した方がいいかしら?」
「いや、いいんだよ?私の事は……」
力なく立ち上がる皇子を見てゾフィーが慌てる。
「皇子、そんな事を言わず!なんでも言ってみてください!」
「ゾフィー、あらなんなの?」
「ティア様、パラレウス様は人を捜したいのだそうです!協力いたしましょう!」
「いいわよ?どんな人?お兄様?」
「……‥いやいいんだよほんとに?」
「何を遠慮しているのよ?お会いしたい人がいるなら捜せばいいじゃない!おかしなお兄様ね?」
「…………」
皇子が黙る。さらにティアとゾフィーも黙する。
微妙な空気で辺りが静まる。
「……‥お兄様……」
「……‥何かなティア…?」
「それってまさか先日のレナン伯のパーティで…‥?」
「一瞬だったけどね……」
「――――――!」
ティアはカッと目を見開き立ち上がり、兄の胸倉をつかんだ。
「ティア、何するんだ?」
「何でもっと早く言わないのよこの朴念仁!いいなさい!どんな事でもいいから全て吐きなさい!あらゆる方向から草の根を分けてどんな事をしても捜し出して見せるわ!お兄様の前に絶対必ず何としてもそのお兄様の目に適った娘を差し出して見せるわ!」
「…いやそんな無茶をしなくても…」
「するわよ!するに決まってるでしょう?未来の后妃よ!何が何でも捜すわよ!国の情報屋に世界中走り回らせても捜させるわ!知り合いの貴族、王族、大臣、皆に捜し回らせるわよ!幾ら積んでも見つかるまで捜し続けるわ!」
「ティア、落ち着いて。隣町の貴族の屋敷にお招きされる娘だよ?そんな遠くから来るわけないだろう?」
「分からないわよ、他国からのお客様も来ていたんだから」
「ティア様、とりあえずレナン伯にお願いしてお客様名簿を調べて貰いましょう。そこから当たれば結構早く見つかりますよ?」
「そうね、お兄様は待っていて。すぐに見つかるわよきっと」
「……そうかい…」
皇子は微妙に微笑み、幾つか娘の特徴を言ってからそそくさと塔を出て行った。
ゾフィーはとりあえずほっと息を着く。
「姫様、助かりました。何か助けを求めに来られたのだと分かってもどうしていいのか分からないのでは私ただの役立たずですから。少しは皇子の気が紛れたなら良かった」
「ゾフィーのせいではないわよ。お兄様が酷い鈍感なだけでしょう?全くとんでもないわ。
なにが御病気よ、ただの恋わずらいじゃないの。とにかく早く捜し出して引き摺り出さないとこの機会を逃したらあのお兄様の事だもの、この次何時になるか分からないわ」
「……」
確かに皇子はもう二十歳。遅い春はもう来ないかも知れない。
ティア姫は自分の用件も忘れて兄の用事をただちに片付け始め、ゾフィーはとりあえず安堵した。
何だか城内が騒がしい。何やら兵や召使たちがばらばらと走り回っている。
その元凶を捜してみるとやはりティア姫だった。
「どうかされましたか?姫様」
「あっ、ルウド、聞いてよ!大変な事が判明したのよ!」
「大変な事?」
「お兄様よ!どこかの娘に心を奪われていたのよ。だからあの状態、恋わずらいよ。早くお相手を捜して差し上げないと大変だわ!」
「そ、それは大変ですね」
「レナン家のパーティに来ていた令嬢だもの。身分は確かな筈よ!さっそく婦人に連絡とって調べて貰う事にしたの。どんな子かしら?凄い気になるわ」
ティア姫はあちこちに指示を出してその辺をうろうろする。
「未来の皇妃になるかも知れない子よ?アリシアお姉さまの時より気になるわ」
「それは気になりますね?」
ルウドはにこやかに微笑み姫を眺める。
「……なにかしら?その笑みは?」
「次はあなたもお相手を見つけなければなりませんね?」
「私はルウドでなきゃ結婚しないって何度も言ってるのだけど?」
「ただの騎士と姫が結婚できるわけないでしょう?身分があるのです」
「この国の王族はもともと自ら相手を捜して結婚する訳だけど、一々身分まで考えていたら好きな人とは結ばれないわ。その辺どうなっているのかしら?」
「王族は王族ですよ?幾ら好きな相手と言ってもやはり身分の釣り合う相手でなければ誰も了承しません。王家の権威の問題ですから」
「ルウドなんて素性も分からないでしょう?お父様は何も言わないし。ああ、それじゃあお父様の許可があればきっと大丈夫だわ!許されるわ!」
「私は了承した覚えは全くありません」
「………………」
目的の方向へ進むルウドの後を肩を落としたティア姫がなぜか着いて来る。
「ルウド、どこへ行くの?」
「庭師の家へ、ちょっと捜し物をしに」
「捜し物?」
「宝の鍵を」
「え?そんなの持ってるの?すごいルウド。見つけたら見せてね?ルウドの宝物、すごい興味あるわ」
「……‥」
ルウドはふっとティア姫を見る。
宝の鍵?とりあえず捜してはいるもののあまり興味はない。
もし鍵を見つけて宝を手に入れたとしても恐らく現金にして周囲の友人知人と楽しく使いそうだ。それに姫様へのプレゼントももっと値の張った物が買えるだろう。
何だか実も蓋もないがささやかながらに幸せな夢を見てルウドは笑みを漏らす。
「もし宝が見つかったら、姫様にも何か買って差し上げますね?何がいいか考えておいて下さいね?」
ティア姫の喜ぶ顔以上の宝などルウドには思いつかない。
「…ル、ルウド。本当に宝があると思っているの?」
「もしもの話ですよ?」
「そう……?」
何だか不安げな顔をしてルウドを見ていたティア姫は昼食へ行く為に城内へと入って行った。
ルウドは一人、庭師の家へ行って倉庫を捜す。
長年触りもしなかった父と母の荷物をふと開けてみた。
やはり思ったとおり、荷物には何も無かった。
彼らは自分の秘密を墓場に持っていき、息子に何一つ教えることはなく、結局なにも残さなかった。
今現在その理由を知っているのはリーン王だけなのだがその彼もまた秘密を墓場に持っていくつもりのようだ。
―――それでいいのか?
彼らがいいと決めてしている事に異論はないが、それは本当にルウドが知らなくていい事なのだろうか?
どうも足もとが不安定と思うのはそんな不安が常に付きまとっているせいだと思う。
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