意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十三話 ルウドと世界一の宝の鍵

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 ティアは入って間もない使用人という事でハンデを要求した。つまり完璧な仕事をする為の指示係りである。係りには姫の侍女マリーを要求した。
 これを知ったマリーは驚愕して何とかやめさせようと説得したが無駄だった。

「止めるなんて出来ないわ!これはルウドをかけた戦いなのよ!何としても勝たなければならないわ!勝つために力を貸して頂戴マリー!絶対勝つわ!」

 マリーは泣く泣く協力するしかなかった。





「それで結局どうなったの?」

「勝ったわよもちろん」

 晩餐の席で、してやったりとティアは報告する。
 使用人の仕事の件は何と言ってもマリーの功績が高い。
 流石は姫付き侍女だけあって指示だけであっても姫が仕事をしやすいようにこまごまと的確に言ってくれた。お陰でティアは言われた通りの事をしているだけで軽々勝てた。
 この時初めて自分の侍女の凄さをティアは痛感した。
 しかし当のマリーは泣いていた。

「もう二度と!お願いですからこのような事はやめて下さい!お姫様が掃除なんかしちゃいけません!こんな事がもし総管理長の耳にでも入れば関係者全員クビですよ!知らなかったなんて通りません!勘弁して下さい!」

「……ごめんなさい……」

 侍女がクビになるのは嫌なので、ティアは謝った。

「それで?お宝は?貰ったの?」

 キラキラと何かを期待しながら姉二人がティアを見る。

「お宝って何?貰ってないし」

「ルウドのお宝が欲しくて戦っていたのでしょう?」

「ルウドとのデート権を争っていたのよ。全く冗談ではないわ。使用人ごときにルウドを取られてなるものですか。ルウドファンなんていう人達にハリスが協力してデート権なんてものを差し出してくれたおかげでとんでもない苦労をしたわ」

「……‥」

 ルウド守り隊。はっきり言ってティアには目障りな邪魔ものでしかないただの敵だ。
 今までは外の女から守るだけで良かったルウドがこれからは内部の女の手からも守らねばならなくなった事実にティアはウンザリする。

「ルウド狙いがあんなにいたなんて初めて知ったわ。ずっと潜んでいてくれればよかったのに、なぜ表に出てきたのかしら。面倒ね」

 他人事なら面白い。だが当人にしたら深刻な事態だ。





 


 某日朝、ハリスの紹介で女性とのデートをする事になった。
 休みを貰い、結構前日から楽しみにして城門前で待っていたのだが――――。

「ルウド、この方は下働きのディアさんだ。今日一日よろしく」

「………………………」

「よろしくお願いしますわ」

 纏め上げた金髪に帽子を被り、薄紅色のワンピースを着た可愛らしい感じの若い女性である。眼鏡を掛けてにこやかに笑っているその瞳の色は緑。
 ルウドは何だか気が抜けた。

「……ハリス、ちょっと来い」

「な、何かな…?」

 女性から幾分離れてハリスに苦言する。

「何のつもりだ一体?」

「え、何がだ?」

「とぼけるな、私の目があんな変装で誤魔化せると思ったのか?何が使用人だ、ふざけるな」

「………いやあその…‥」

「街でデート?冗談じゃない。外へ連れ出せるわけないだろう?どんな女性が来るかと楽しみにしていたのに全く」

「……す、すまない。予定では城内使用人の誰かだったんだが、結果的にこうなってしまったんだ」

「女性達をテストして一人に絞るなんてやりかたをするからだ。そんな派手な事をすれば姫には筒抜け、阻止されるに決まっている」

「……知っていたか。でも今回は正面から戦って掴み取った権利だからそこは譲歩して差し上げようよ?」

「デートか、仕方ない。しかし街ではひと時も気が抜けない。参ったな…」

 しかし城内にも良い場所は幾らでもある。むしろ城内の方がいい。

「……下働きのディアさんか。なら文句は言わないな…」

「ル、ルウド?」

「なら城内の名所を案内する事にしよう」

 ルウドは朗らかに言った。





 街でのデートを想定していたティアは、ルウドに何故か朗らかに城内名所案内をするといわれて意表を突かれた。
 不満ではあったがそんな事は言えない。正体を明かして不満を訴える事は簡単だがその場合折角のデートが中止になる恐れがある。

「さ、こっちだよディアさん」

 親しげに呼ばれると嬉しくなるがルウドが他の女性にもこうなのかと思うと微妙だ。
 薔薇園に連れていかれて、何故か鎌やスコップなどを持たされた。
 にこやかに薔薇の枝の下に手招きされる。

「さあ早くおいで。薔薇の世話体験だよ。この辺りの伸びた草を刈ろうよ」

「……」

 ふざけるな、といいたい所を姫はこらえた。仕方なくルウドの傍で手伝いをする。

「あ、なかなか手付きがいいね」

 褒められても全く嬉しくない。
 それから昼近くまで草刈をしてから、昼食を摂りに行った。
 兵舎の食堂にである。

「………」

 食事の味は別に悪くないが暑苦しい兵ばかりいる食堂に女性を連れていくことはないと思う。せめて使用人の食堂にして欲しかった。
 お陰で皆の注目の的である。

「わあルウド隊長。彼女ですか?いいなあ。美人じゃないですかあ」

「こらあんまりじろじろ見るな。彼女に失礼だろう?」

 ティアは苦笑いしつつひたすら食事を進めた。ルウドは何故か自慢げで嬉しそうだが、ティアの様子には全く気付いていなかった。
 それからルウドはおやつと釣り道具を持ってティアと共に森へ行く。
 城の四方に森はあるがよりにもよって幽霊が出ると評判の魔法使いの塔がある傍の森である。いつも欝蒼として時折不気味な声が聞こえるとかで誰もが怖がり近づかない場所である。

「…………」

 湖に着いてルウドが釣り糸を水に垂らす頃には、これはもしや何かの嫌がらせではないかと疑い始めた。

「ディアさん、君の分の釣竿だよ。釣り糸を垂らしたからしっかり見ていて」

「…ええ、でも、この湖魚なんているの?」

「うんいるよ。よく見かけるし」

「……良く来るのですか?この森に」

「うん、最近特にね。この冷たい空気が心地よくてねえ」

 不気味といわれるのが大半で心地いいというのは稀だ。

「け、獣の声とかしませんか?」

「するね。鳥とか獣の鳴き声とか。安らぐよねえ」

「………」

 あの不気味な声が休まるのか。
 もしかするとルウドはとても疲れているのだろうか?
 普段から休みなくルウドを振り回す元凶ティアは少しばかり反省した。
 これからはもっとルウドに休む隙間を入れてあげよう。

「…お茶にしましょう」

 ティアはバスケットから茶器を出してお茶を入れ、ルウドに差し出す。

「ああ、ありがと、ディアさん」

 なんだか夫婦の様だと感じてティアは嬉しくなる。

「あの……ルウドさん、私にさん付けなどいらないです。どうぞ呼び捨てて下さい」

「うん、ディア?じゃあ私の事もルウドで。君にさん付けされるとなんか無…いやその身近な者達はみんな呼び捨てだから」

「はい」

 不気味な森にも関わらず、暖かな空気が周囲を漂う。
 優しいルウドの笑顔がもっと見たくてティアは邪魔な眼鏡を外した。

「そうだ、君にプレゼントがあるんだ。じつは古巣から見つかった物だけどね」

「まあ、宝物ですか?」

「そんな大層なものじゃないよ。ただの白い石だよ、中に何かの模様が書いてあってね、綺麗でしょう?」

 ルウドは鎖をつけた石を見せる。丸く白い石の中に黒い模様が見える。

「綺麗……」

「君にあげるよ」

「でも……」

「私が持っていても仕方がない。だから君に持っていてほしいんだ」

 鎖を首に掛けられ、優しい眼差しで見つめられる。

「とても綺麗だ、良く似合うよディア」

「ルウド……」

 濁点はいらないがティアはとても幸せになった。
 夢見心地で長い間ルウドと見つめ合っていると、ルウドの手がそっとティアの頬に触れる。

「本当に君は綺麗で可愛い人だ……」

「恥ずかしいわ、あまり見ないで」

「君を恋人に出来たら、どんなに幸せだろう」

「まあ嬉しい、恋人にして下さいますの?」

「……しかし……」

「私を愛しているなら恋人にして下さい。私は貴方を愛しています、とても」

 ルウドの胸元に顔を寄せてティアは甘えるように懇願する。
 ルウドはふっと唇に笑みを乗せて、ティアに顔を寄せる。

「私も君を愛しているよ、ティア。私の一番の宝は君だ」

 ルウドに唇を重ねられる。
 まるで夢のような出来事にティアの意識はふっと揺らいだ。





 


 朝、目覚めると部屋のベットの上だった。
 ベットの上でティアは思い悩む。
 
 昨日のあれは夢?幻?いやそんな筈はない。
 しかし昨日あれからどうやって部屋に戻ったのか全く覚えていない。

「あら、おはようございますティア様、どうかされましたか?」

 マリーがやってきてお茶を淹れてくれた。ベットで暖かいお茶を飲む。

「ねえマリー、私昨日いつここに戻ったかしら」

「ええ?夕方には戻られていましたよ?お疲れのようで眠っていらしたので、お着替えだけ私がして差し上げましたが」

「眠ってた…‥?」

 眠った記憶すらない。おかしい。
 ここは最後に一緒にいたルウドに聞いてみなくては。








「―――…え、何のことです?」

「昨日私を愛してるって言ってキスしてくれたじゃない!」

 ルウドが困ったようにティアを見る。

「またおかしな妄想を。やめて下さい」

「湖で私を口説いてたのは?」

「何で私がそんな事を?」

「……‥あっ、待って、この石は?ルウドのプレゼントでしょう?」

「ああそれは、そうですよ。何処かで失くしたのかと思っていたのですが貴女の手元にあったなら良かった」

「………有難う……でも……?」

 昨日何があったのかさっぱり覚えてない。

「ルウド……」

「ほらもう朝食の時間でしょう?さあみんなお待ちですよ、早くお行きなさい」

「………」

 なんだか誤魔化された。
 ティアは納得できない気分でしぶしぶ朝食へ向かった。


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