婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ

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 謁見の間に静寂が満ちた。

 王は私をじっと見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「エリザベート・オルディス。貴様の事業の成長は、確かに目覚ましい。王家の目を引くのも当然のことだ。しかし……」

 その声は低く、威厳に満ちていた。

「貴様がこのまま力を持ち続けることは、王家にとって危険だ」

「危険?」

 私は冷静に聞き返した。

「貴様の商売はすでに貴族社会にまで影響を及ぼしている。王家を通さずに金と権力が動くというのは、この国の秩序を揺るがしかねないのだ」

 確かに、私の事業は短期間で急成長し、多くの貴族や商人が私の製品に依存し始めていた。王家としては、このまま私が力をつけ続けるのは面白くないだろう。

 しかし、それは私にとっても好都合だった。

(つまり、王家は本気で私を警戒している……ならば、交渉の余地はある)

「王よ、ではその“取引”とは何でしょうか?」

 私の問いに、王はゆっくりと頷いた。

「貴様の商売を王家の管理下に置くのだ。その代わり、王家が保護し、国を挙げて支援する」

 つまり、私の事業を国営化するということ。

(予想通りね……)

 確かに、これが表向きの“保護”であるなら、私にとって悪い話ではない。だが、実際には王家の監視下に置かれ、自由な経営はできなくなるだろう。

(そんな申し出、受け入れられるわけがない)

 私は微笑んだ。

「申し訳ありませんが、その申し出はお断りします」

 王宮の空気が一瞬で凍りつく。

 アルベルトが席を立ち、怒りをあらわにした。

「何だと!? 王家の申し出を拒否するというのか!」

「ええ。当然です」

 私は静かに答えた。

「私は私の意志で事業を始めました。そして、それを他者の手に委ねるつもりはありません」

「……分かっているのか? それは王家に対する反逆とも取れるぞ」

 王の声が重く響く。

 私はその言葉に、にっこりと微笑んだ。

「私の力を、王家にとって利用価値のあるものにすればいいだけです」

「何?」

「王家にとって、私の事業は脅威であると同時に、大きな利益をもたらすものです。ならば、完全に手放さずとも、私と協力関係を築く方が賢明では?」

 私は王の目をまっすぐに見つめた。

「……なるほど」

 王はしばらく黙って考え込んだ。

 その間、アルベルトは私を睨みつけたままだった。

「父上! こいつの言葉に惑わされてはいけません! 今ここで排除すべきです!」

「黙れ、アルベルト」

「……っ!」

 王は静かに息をつき、私を見据えた。

「ならば、こちらからも条件を出そう」

「聞きましょう」

「貴様の事業の一部を、王家の管理する商会と共同で運営すること。それが条件だ」

 なるほど、完全に奪うのではなく、共同運営という形で管理下に置くということか。

(それなら、交渉の余地はあるわね)

「分かりました。ですが、いくつか条件があります」

「言ってみろ」

「私の商会が主導権を持つこと。王家の商会はあくまでパートナーとして関与すること」

 王は少し考え、頷いた。

「よかろう」

「そして、王家は私の事業の売上には関与しないこと。王家の支援は受け入れますが、商業的な決定権は私にあります」

「……」

 王はじっと私を見つめた。

「貴様、なかなかの交渉術を持っているな」

「ありがとうございます」

「……その条件、受け入れよう」

 王の言葉に、アルベルトが驚愕の表情を浮かべた。

「父上!?」

「アルベルト、お前もよく見ておけ。商売というものは、力で奪うだけではうまくいかぬのだ」

 王は立ち上がり、私を見下ろした。

「エリザベート・オルディス。これからは王家の商会と協力して、国に貢献せよ」

「ええ、もちろん」

 私は優雅に一礼した。

 これで、私の事業は王家の保護を得ることになった。

(でも……これはあくまで表向きの話)

 私はこのまま、王家に従うつもりはない。

(次の一手を考えないとね)





 王宮を出た私は、すぐにディアスと落ち合った。

「ふうん、王家と協力関係ねえ」

 ディアスはワインを片手に笑う。

「つまり、王家を利用できるってことだな?」

「ええ。その通り」

 私たちはすでに次の計画を立てていた。

「王家の商会を利用して、私たちの流通網をさらに拡大させます。そして、王家が関与できない部分を私たちの独自ルートで広げるんです」

「なるほどな。うまくやれば、王家よりも強い影響力を持てるぞ」

「ええ。そのためには、もっと多くの貴族を味方につける必要があります」

「それなら、俺の商会が動こう。貴族たちは王家だけでなく、俺たち商人にも弱みを握られているからな」

「ふふ、頼りにしていますよ」

 こうして、私は王家を利用しながらも、自分の力をさらに強める計画を始動させた。

(王家を手のひらの上で転がしながら、真の影響力を手に入れる……)

 私の逆襲は、ここからが本番だった。
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