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現在、お昼を少し過ぎた時間帯。
新しい魔法の研究途中だったが、キリが良い所まできた為、手軽に食べれるサンドを持って休憩に来ていた。
場所は3階にある研究室から出た廊下の窓。最近は決まった時間帯に現れる男女二人組を上から眺めるのが日課となっている。

「それにしてもまさか禁断の恋だったなんてね」

最初はとても初々しかった距離感。それがいつしかグッと近づいた時は小さく拍手したものだ。けれど暫くしてギスギスした空気を纏い、縮まった距離が開いたのを見て絶望したのを覚えている。

「此処に居たんだなリアナ」
「ケイト、久しぶりね」

手にしてたサンドが無くなり、観察していた二人が居なくなった頃合いを見ていたのか、上質な服を着こなし近付いてくる男に小さなざわつきが起きる。

「次期当主と正式に発表されてから忙しそうね」
「お陰様で。それにしてもあの方は人使いが荒い。もう少しリアナに会いに行ける時間を貰ってもいいと思うんだが」
「あちらも良い性格されてるから無理でしょう」

卒業してから半年で正式に王太子殿下の部下となり、エンプレス家の次期当主として地盤を固めているケイトは忙しく暗躍している。

「それにしても持続して認識してるのね」
「そういうモノだからな」

改めて権限魔法の威力を知ったのは卒業後の周囲のケイトへの【認識】だった。誰もが口を揃えて【男子生徒】と答えた。その上で私とケイトの関係は男女間でも友情は成立している珍しいタイプと認識されていた。
そう"されていた"だ。

「今日の研究が終わった後どうかな?」

周りからどの様に見られているのか分かってる上でケイトは私を誘ってくる。半年も返事を保留してるからこそケイトは行動を起こしに時間を作っては私に会いに来ている。周りの目が突き刺さり思わず頬が引き攣るのが分かる。

「…多分、大丈夫だと思うけど」
「分かった。終わり頃に迎えにくるよ」
「ケイトを待たせるのは申し訳ないのだけど…」
「好きな人を待つ時間も楽しいから私は問題ないよ」

はっきりと言葉にしたケイトに周囲から黄色い声が出る。中には野太い声も混ざってることからかなり注目されているようだ。ほぼ研究仲間からだけども。

「意地が悪いわね」
「これくらいしておかないと心配なんだよ」
「私は婚約破棄した側の令嬢よ?貴方だけが特殊であって他は躊躇するわよ」

経緯はどうであれ【婚約破棄】は大きい。
初めはどうしても周りとの距離があったものだ。今は微塵も感じさせない程、研究や議論をしている。

「まあ、ケイトに心配されるのは悪くないと思うわ」
「リアナ?」
「今日、待ってるから。また後でっ」

流石に恥ずかしい事を言った自覚はある。言い逃げして、急いで研究室へ戻るとニヤついてる研究仲間達と目が合った。

「さあ皆さん、今日はリアナさんの為に張り切りましょうかね」

その宣言通り、ケイトを待たせる事なく時間ぴったりに送り出された私の心の内はただ一つ。

「…もの凄く恥ずかしい」

恐らく次にケイトが来た時に返事しようと待ち侘びていたのを気付かれていた。更にはその返事がどんな内容であるのかも。顔の熱を誤魔化すように手で扇ぐ。

「随分と早く終わったんだな」
「…お疲れ様、ケイト」
「リアナもお疲れ様。行こうか」

変わりなく、それが当たり前だとばかりに差し伸べられるケイトの手。

「リアナ?」

普段なら片手を重ねるだけ。けれど、今回初めて両手でケイトの手を包んだ。

「ありがとうケイト。私、ケイトが居たから私が私で居られる。本当、この手に何度も助けられたよね」

学生の時に何度も伸ばしてくれたケイトの手。気に留めていなかったけど、よく見ると男の手をしていた。
私の言動で固まっている珍しい彼を見て嬉しいと感じる。滅多に動じないケイトが私に動じてるのだ。これが嬉しくない筈がない。

「返事が遅くなりました。ケイト・エンプレス様」

一つ深呼吸して、

「私は貴方を愛しています」

素直に想いを告げた。
私の言葉に驚いたケイトが徐々に顔を赤らめていくのを見て、胸が温かくなる。

「私、ケイトと一緒に人生を歩みたい」
「っ、私もだ。ありがとう、ありがとうリアナ」

感極まったケイトに抱き締められて、私も負けずと抱き締め返した。少し息苦しい抱擁だけども、それが嬉しくて幸せで私達は思い切り笑い合った。
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