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16.ダンス
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ダンスホールの中央。きらびやかなシャンデリアの光を浴びて、いちばん目立っているのがダリオン殿下とロザリモンド・バルタイン公爵令嬢の二人のダンスである。
美しい二人が並ぶだけでも一幅の絵画のような完成された美しさである。
その上、プロのダンサー顔負けの技術が加わるのだから、みな踊るのも忘れて見惚れるのも当然である。必然的に広い空間が彼らのために開かれていった。
さすが王族ね、ダンスが本当に上手だわ。安定感のあるリードに身を任せる。
ロザリモンドはこの日のためにダリオンがダンスを復習したことを知らない。
過労死寸前のマナー講師の血尿のお陰で完璧令嬢ロザリモンドも感心する完璧なダンスを手に入れたのだ。ダリオンはやれば出来る子なのである。
ロザリモンドは、そういえば『ツクヨミ』の映像でコリンヌ相手に楽しげに踊っていたわよね、と思い出した。
庶民育ちのコリンヌと楽しく踊るそこそこのダンスと百戦錬磨の完璧令嬢を唸らせるダンスは全く違うのだが、ロザリモンドは気づいていない。
それほど自然な流れるようなリードだったのだ。
やる気がなく元々のポテンシャルだけでそこそこやっていた男、ダリオンは覚醒した。
本人は今までロザリモンドが大嫌いだと主張を変えなかった。しかし初めて会って以来驚くほど変わったのは明らかだった。
ダリオンと踊るなんて微塵も期待していなかったロザリモンドは浮かれていた。
『推し』と踊れるなんて、夢なのかしら。それにたとえ完璧令嬢の異名を欲しいままにしようとも、 彼女のうっすら残った乙女心が揺れ動くのだ。
『ツクヨミ』に現実をまざまざと見せつけられて打ち砕かれた初恋がむくむくと起き上がろうとするのを力ずくで取り押さえながらこれは『推し活よ』と言い聞かせて優雅に微笑む。
しかし、ダリオンの着痩せして見えるが厚い胸板をちゃっかり堪能していたロザリモンドは至近距離でのダリオンによる微笑み攻撃に仕留められた。
甘い、甘過ぎる。こんなん嫌ってる婚約者にやったら本気であかんやつ。ダリオン、これは立派な詐欺罪よ。
取り繕うことも出来なくなったロザリモンドの顔も身体も一気に薔薇色に染まる。
触れ合う身体が熱い。
ホール中央
二人のダンスは極めて正統的なワルツ。適切な距離感で模範的に踊っているはずなのに、なぜだか煽情的にすら見えて令嬢たちは顔を赤らめるのだった。
「ローザ、疲れただろう。何か飲もう。」
ダリオンの掠れた声に正気に返ったロザリモンドは、あともう一曲踊っていたら自分が魔王になってダリオンをかっ攫うところだったと胸を撫で下ろした。
「ええそうね。疲れたみたい。」
赤くなった顔を恥ずかしげに扇子で隠しながら、ロザリモンドはダリオンの手を取った。そのうぶな仕草は男の劣情を刺激する。
ダリオンの頭の中にはもう、『私のローザが可愛すぎる』がいっぱいになって、いつもの『ロザリモンドの事は好きじゃない』という強がりがすっかり消し飛んでいってしまっていた。
かと言って、長年自分の一部のように持ち続けたロザリモンドコンプレックスが消え失せるようなやわなものではない。
ゆえにダリオンの強烈なコンプレックスは180度方向を変えて成長していくのだった。
ロザリモンドの細い腰を引き寄せてその身体で彼女を周囲の視線から隠すようにホールの端へと移動するダリオンはこじらせていた。
誰にも渡したくない。誰とも踊らせたくない。でも、自分の色をまとったローザを見せびらかしたい。
独占欲でどす黒い思いを抱えた男はロザリモンドと今まで踊ってきたであろう男たちに嫉妬した。
もっと早く婚約して入れば、後悔の念で押しつぶされそうになる。
そんなダリオンの葛藤をわかるはずのないロザリモンドは、ダンス中に真っ赤になるという失態を取り戻そうと必死だった。
「兄以外の同世代の方と踊るのは初めてなので、恥ずかしくなってしまいましたわ。」
そう。淡い初恋ゆえ照れてしまったのではない。年齢が近いから照れただけなのだと苦しい言い訳をするロザリモンドはなんとか誤魔化せたと胸を撫で下ろした。
「ローザのそういうところ、すごく可愛い。」
一方、強烈な独占欲が解放された喜びにダリオンは思わず本音がこぼれる。アズランお兄様ありがとう。君のシスコンのおかげでローザは守られたんだ。
その満面の笑顔にロザリモンドはノックアウトされる。胸が痛い。
だれか、ダリオンをロマンス詐欺で逮捕して、さもないと惚れてまうやろーーーー。
ロザリモンドの心の中の叫びは誰にも届くことなく。二人は表面上は爽やかに微笑みあったのだった。
美しい二人が並ぶだけでも一幅の絵画のような完成された美しさである。
その上、プロのダンサー顔負けの技術が加わるのだから、みな踊るのも忘れて見惚れるのも当然である。必然的に広い空間が彼らのために開かれていった。
さすが王族ね、ダンスが本当に上手だわ。安定感のあるリードに身を任せる。
ロザリモンドはこの日のためにダリオンがダンスを復習したことを知らない。
過労死寸前のマナー講師の血尿のお陰で完璧令嬢ロザリモンドも感心する完璧なダンスを手に入れたのだ。ダリオンはやれば出来る子なのである。
ロザリモンドは、そういえば『ツクヨミ』の映像でコリンヌ相手に楽しげに踊っていたわよね、と思い出した。
庶民育ちのコリンヌと楽しく踊るそこそこのダンスと百戦錬磨の完璧令嬢を唸らせるダンスは全く違うのだが、ロザリモンドは気づいていない。
それほど自然な流れるようなリードだったのだ。
やる気がなく元々のポテンシャルだけでそこそこやっていた男、ダリオンは覚醒した。
本人は今までロザリモンドが大嫌いだと主張を変えなかった。しかし初めて会って以来驚くほど変わったのは明らかだった。
ダリオンと踊るなんて微塵も期待していなかったロザリモンドは浮かれていた。
『推し』と踊れるなんて、夢なのかしら。それにたとえ完璧令嬢の異名を欲しいままにしようとも、 彼女のうっすら残った乙女心が揺れ動くのだ。
『ツクヨミ』に現実をまざまざと見せつけられて打ち砕かれた初恋がむくむくと起き上がろうとするのを力ずくで取り押さえながらこれは『推し活よ』と言い聞かせて優雅に微笑む。
しかし、ダリオンの着痩せして見えるが厚い胸板をちゃっかり堪能していたロザリモンドは至近距離でのダリオンによる微笑み攻撃に仕留められた。
甘い、甘過ぎる。こんなん嫌ってる婚約者にやったら本気であかんやつ。ダリオン、これは立派な詐欺罪よ。
取り繕うことも出来なくなったロザリモンドの顔も身体も一気に薔薇色に染まる。
触れ合う身体が熱い。
ホール中央
二人のダンスは極めて正統的なワルツ。適切な距離感で模範的に踊っているはずなのに、なぜだか煽情的にすら見えて令嬢たちは顔を赤らめるのだった。
「ローザ、疲れただろう。何か飲もう。」
ダリオンの掠れた声に正気に返ったロザリモンドは、あともう一曲踊っていたら自分が魔王になってダリオンをかっ攫うところだったと胸を撫で下ろした。
「ええそうね。疲れたみたい。」
赤くなった顔を恥ずかしげに扇子で隠しながら、ロザリモンドはダリオンの手を取った。そのうぶな仕草は男の劣情を刺激する。
ダリオンの頭の中にはもう、『私のローザが可愛すぎる』がいっぱいになって、いつもの『ロザリモンドの事は好きじゃない』という強がりがすっかり消し飛んでいってしまっていた。
かと言って、長年自分の一部のように持ち続けたロザリモンドコンプレックスが消え失せるようなやわなものではない。
ゆえにダリオンの強烈なコンプレックスは180度方向を変えて成長していくのだった。
ロザリモンドの細い腰を引き寄せてその身体で彼女を周囲の視線から隠すようにホールの端へと移動するダリオンはこじらせていた。
誰にも渡したくない。誰とも踊らせたくない。でも、自分の色をまとったローザを見せびらかしたい。
独占欲でどす黒い思いを抱えた男はロザリモンドと今まで踊ってきたであろう男たちに嫉妬した。
もっと早く婚約して入れば、後悔の念で押しつぶされそうになる。
そんなダリオンの葛藤をわかるはずのないロザリモンドは、ダンス中に真っ赤になるという失態を取り戻そうと必死だった。
「兄以外の同世代の方と踊るのは初めてなので、恥ずかしくなってしまいましたわ。」
そう。淡い初恋ゆえ照れてしまったのではない。年齢が近いから照れただけなのだと苦しい言い訳をするロザリモンドはなんとか誤魔化せたと胸を撫で下ろした。
「ローザのそういうところ、すごく可愛い。」
一方、強烈な独占欲が解放された喜びにダリオンは思わず本音がこぼれる。アズランお兄様ありがとう。君のシスコンのおかげでローザは守られたんだ。
その満面の笑顔にロザリモンドはノックアウトされる。胸が痛い。
だれか、ダリオンをロマンス詐欺で逮捕して、さもないと惚れてまうやろーーーー。
ロザリモンドの心の中の叫びは誰にも届くことなく。二人は表面上は爽やかに微笑みあったのだった。
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