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始まり
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高校三年生の初めのころ、大学受験だ高校最後の公式戦だ、と慌ただしい教室を、僕は隅のほうで眺めていた。
余裕があるわけではなく、友人がいないわけでもない。
いや、友人はそんなに多くもないけれど、ボッチなわけではない。
ただなんだかみんな、やばいやばいと言いつつも、
その青春じみた雰囲気を楽しんでいるんだろうな、と思うとやけに白けてしまって。
そういう人達がきっと、物語では主人公で。
僕はきっと、モブキャラですらない、教室の背景くらいのものなんだろうな、などと考えていた。
そんな陰湿なことばかり考えていたからだろう。
大学受験に大敗し、結局進路も決まらぬまま卒業。
晴れて浪人生である。
季節は巡り、僕の浪人生生活が始まってしまったわけなのだが、どうにも家にいたら集中できない。
近くに何があるわけでもないので、ダメもとで高校の図書室を使わせてほしい、と図書室の先生に頼み込んだところ、
なんとOKが出た。
ただし条件付きで、だが。
司書のお手伝いという形で、学校側には内緒。
なので図書の管理や図書室内の清掃などを手伝うこと。
それ以外の時間は自由に使ってよいものとする。
「お給料はジュース代程度しか上げられないけど、そこは我慢してねぇ」
僕は二つ返事で快諾した。
「本を返したいのだけれど」
8月、お手伝いの仕事もだいぶ板についてきて、一人であらかたの業務をこなせるようになっていたある日。
凛とした声で、カウンターに本を置く女子高校生が、そこにはいた。
まるでおかしなものでもいたかのように言ってしまったが、この高校は共学なので女子高校生の一人や二人、いて当たり前だ。
「あー、はい。返却ですねー。やっとくんで置いといてもらっていいですよ」
夏休み中なので生徒は来ないと思っていたので多少面食らったが、なんのことはない。
僕は僕の仕事をするだけ。
「見ない顔だね。新入りかい?」
その女子生徒は物珍しそうに僕を見ながらそう言う。
その言い方がなんとも活字たらしく、いたたたた、と感じた。
「僕はあれですよ、司書さんのお手伝いみたいな」
「ふふふ、ワトソン君かね」
「…ワトソン君はホームズのお手伝いさんじゃないでしょ」
にん!と彼女は眼を輝かせ、
「読んだことがあるのかい!?」
詰め寄ってきた。
あまりの迫力に僕は後ずさり、「あぁ、うん、まあ少しだけ」と言って目線をそらした。
童貞でして、詰め寄られるとどうにもいかんせんという感じなのである。
背の丈は160あるかないか、細身で長い黒髪、凛とした美人でいい匂いもした。
活字喋りさえなければモテそうなものを、もったいない、と思った。
「ふふふ、君は面白いね。また来るよ、本を借りに」
今借りてけばいいのに、二度手間にならないのに、と思ったのが見透かされたのか、ドアの前で彼女は振り返り、続けた。
「近いうちにまた来るさ、君とまた、ゆっくりお話しできるときにでもね。ふふふ」
鈴の音のような声を残して、図書室から出ていった。
余裕があるわけではなく、友人がいないわけでもない。
いや、友人はそんなに多くもないけれど、ボッチなわけではない。
ただなんだかみんな、やばいやばいと言いつつも、
その青春じみた雰囲気を楽しんでいるんだろうな、と思うとやけに白けてしまって。
そういう人達がきっと、物語では主人公で。
僕はきっと、モブキャラですらない、教室の背景くらいのものなんだろうな、などと考えていた。
そんな陰湿なことばかり考えていたからだろう。
大学受験に大敗し、結局進路も決まらぬまま卒業。
晴れて浪人生である。
季節は巡り、僕の浪人生生活が始まってしまったわけなのだが、どうにも家にいたら集中できない。
近くに何があるわけでもないので、ダメもとで高校の図書室を使わせてほしい、と図書室の先生に頼み込んだところ、
なんとOKが出た。
ただし条件付きで、だが。
司書のお手伝いという形で、学校側には内緒。
なので図書の管理や図書室内の清掃などを手伝うこと。
それ以外の時間は自由に使ってよいものとする。
「お給料はジュース代程度しか上げられないけど、そこは我慢してねぇ」
僕は二つ返事で快諾した。
「本を返したいのだけれど」
8月、お手伝いの仕事もだいぶ板についてきて、一人であらかたの業務をこなせるようになっていたある日。
凛とした声で、カウンターに本を置く女子高校生が、そこにはいた。
まるでおかしなものでもいたかのように言ってしまったが、この高校は共学なので女子高校生の一人や二人、いて当たり前だ。
「あー、はい。返却ですねー。やっとくんで置いといてもらっていいですよ」
夏休み中なので生徒は来ないと思っていたので多少面食らったが、なんのことはない。
僕は僕の仕事をするだけ。
「見ない顔だね。新入りかい?」
その女子生徒は物珍しそうに僕を見ながらそう言う。
その言い方がなんとも活字たらしく、いたたたた、と感じた。
「僕はあれですよ、司書さんのお手伝いみたいな」
「ふふふ、ワトソン君かね」
「…ワトソン君はホームズのお手伝いさんじゃないでしょ」
にん!と彼女は眼を輝かせ、
「読んだことがあるのかい!?」
詰め寄ってきた。
あまりの迫力に僕は後ずさり、「あぁ、うん、まあ少しだけ」と言って目線をそらした。
童貞でして、詰め寄られるとどうにもいかんせんという感じなのである。
背の丈は160あるかないか、細身で長い黒髪、凛とした美人でいい匂いもした。
活字喋りさえなければモテそうなものを、もったいない、と思った。
「ふふふ、君は面白いね。また来るよ、本を借りに」
今借りてけばいいのに、二度手間にならないのに、と思ったのが見透かされたのか、ドアの前で彼女は振り返り、続けた。
「近いうちにまた来るさ、君とまた、ゆっくりお話しできるときにでもね。ふふふ」
鈴の音のような声を残して、図書室から出ていった。
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