【完結】君と創る世界

くみた柑

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【第二章】彼女だけがいない世界

再び色づく世界

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 同窓会がお開きになり、居酒屋の前で口々に別れの挨拶をする。窪が「またこっちに戻ってきた時は飲もうぜ!」と肩を組んできた。

「もちろん!」

 僕は窪とハイタッチをしようと手を上げた――その時。

「ああ~、もう終わっちゃった! 間に合わなかったか!」

 懐かしい声が背後から聞こえた。

 息を弾ませながら、僕たちの輪に飛び込んできた声。
 その瞬間、僕の全身は電流が走ったように痺れ、そして胸が熱くなった。
 窪は、僕が上げた手にハイタッチをしてから、その声に駆け寄った。

時安ときやす、遅い! さっきお開きになったとこだよ~。そうだ、二次会! 俺んちのラーメン屋でやろうぜ! なぁ、洵! お前も一緒に来るだろ?」

 時安――その名前が耳に入った瞬間、記憶の扉が一気に開かれるようだった。
 僕は恐る恐る振り向いた。
 そこには、彼女がいた。

「ハチ! 久しぶり。元気にしてた?」

 彼女は、懐かしい笑顔を浮かべ、僕のことをまっすぐ見つめていた。

 時安ときやす可琳かりん
 その名前が、頭の中に鮮明に響いた。

 そうだ、彼女は――一年から五年の夏までずっと同じクラスだった時安可琳に間違いなかった。
 彼女は軽く握った手を口元にあて、あの頃と同じように微笑んだ。
 でも、待て。僕はなぜ、今まで彼女のことを思い出せなかったんだ?
 いやそれよりも、彼女は、僕が作り出した妄想だったんじゃなかったのか?

 可琳は少し首をかしげ、微笑んだ。

「どうしたの? もしかして私のこと、忘れちゃった?」

 その仕草は、記憶の中の彼女と寸分違わず、懐かしさと喜びが一気に溢れた。
 彼女が僕の顔を覗き込む。上目遣いが可愛くてドキドキしてしまう。
 あの頃と変わらない、好奇心に満ちた大きな瞳に見つめられ、顔が火照って熱くなる。
 頭の中は混乱しているのに、目の前に可琳が、本物の可琳がいることで、あの夏の日々の断片が再び色を取り戻していく。
 彼女の零れ落ちそうな笑顔に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。

「いや……忘れるわけないだろ」

 僕はなんとか答えたが、その声は少しだけかすれてしまった。
 彼女を見ていると、頭の中がぐるぐる渦巻く。様々な感情が、洪水のように溢れる。
 けれど、その懐かしい微笑みの奥に、ほんの僅かに違和感を覚えた――まるで僕の混乱を、彼女は全て知っているかのような……。

 僕のクラスメイトは男女合わせて二十三人。その全員の顔と名前を、同窓会が始まる時点ではっきり思い出していた。
 その中に「時安可琳」はいなかったはずなのに――今、彼女は幼馴染として僕の目の前にいる。

「おいおい、洵どうしたんだよ。時安があんまり美人になってるからって見とれてるのか?」

 窪のからかうような声が耳に入る。でも、その言葉はどこか遠く感じた。
 それよりも、僕の中で「時安可琳」という存在が処理しきれない。
 一年生の頃から僕と同じクラスだった彼女は、五年生の夏に親の都合で転校していった――そのはずだ。
 五年間ずっと一緒にいた時安可琳と、五年生の夏に過ごした時安可琳は同一人物であるはずなのに、何かがおかしい。でも、何がおかしいのかわからない。
 頭の中で「違和感」が鐘のように鳴り響いている。

「時安可琳……君は……」

 僕が震える声で彼女の名前を呼ぶと、可琳は柔らかな笑みを浮かべたまま、人差し指を立て、ふっくらとした唇にそっと当てた。

『二人だけの秘密』

 まるで、そう囁くかのような仕草だった。
 僕が口を開く前に、彼女は首を傾げて、あの頃と変わらない無邪気な笑顔で言った。

「ハチ。また一緒に遊ぼう!」

 その一言は、あまりにも軽やかで、夏の空のように鮮やかだった。
 胸の奥から熱い思いが込み上げてきたが、それを言葉にすることはできなかった。
 どれだけ考えを巡らせても、彼女の笑顔が全てを包み込んでしまう。
 彼女が目の前にいて、笑っている。それだけで充分だった。
 それだけで、世界は確かに輝いていた。
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