【完結】君と創る世界

くみた柑

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【第八章】あなたと色づく世界

期待しちゃうよ?

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「可琳は? 今、何やってるの?」
「部署は違うけど、ママと同じ会社で働いてる。……ハチのお父さんと同じ会社。ハチのお父さん、昔ママと一緒に働いてたんだよ」
「へぇ、そうなんだ……」

 ハチの眉毛がぴくりと動いて、その表情が少し気になったけれど、私は続けた。

「凄い人だったって、ママが言ってたよ」

 ハチのお父さんは実際に凄い。〈MAHORA〉の開発チームの最前線にいた。けれど、目を伏せたハチの表情がさらに曇るのを感じ、私は言葉を詰まらせた。

「父さんの話はいいよ」

 ハチは視線を落としたまま、乾いた声で遮った。その声のトーンに込められた拒絶感が、心にぐっと突き刺さる。

「そっか……ごめん」

 慌ててハチに謝りながら、自分の軽率さを呪った。ハチの気持ちを考えずに、ただ「凄い人だった」と伝えれば喜ぶと思っていた。でも、それはハチにとって、触れてほしくない傷口だったのかもしれない。
 頭の中で、以前ハチのお父さんが言っていた言葉が蘇る。

『僕はハチに嫌われているからね……』

 でも、どうして? 誰がどう見ても、ハチのお父さんはハチのことを心から愛していた。お父さんがこの世界を作り上げた理由は、ハチへの深い愛情からだってこと、私は知っている。それでも、この事実をハチに伝えることはできない。それがとても歯がゆかった。
 そして、ふと思った。どうしてハチのお父さんは、この世界に自分を作らなかったんだろう。ハチに嫌われてるから?

 いくら私が考えたって、お父さんの気持ちはわからない。
 ハチの両親は離婚している。私の親もそうだったからわかる。きっと、いろいろあったんだよね……。
 ハチの心に触れるには、もっと時間が必要だと思った。

「ハチはいつまでこっちにいるの?」
「明後日の朝、東京に戻る予定」
「じゃあ明日はまだこっちにいる?」
「うん」
「そしたらさ、明日、二人だけで遊ばない?」

 その瞬間、ハチの顔が一気に赤く染まる。
 やだ、だからそんなわかりやすいリアクションされると、こっちまで照れる!

「い、いいよ」

 ハチは真っ赤になりながら答えた。

「やった!」

 私も思わず嬉しくて、ガッツポーズをしてしまう。
 ハチが耳を赤くしたまま、視線を彷徨わせているのが目に入ると、なんだか胸がくすぐったい。
 ハチが東京に帰ってしまったら、こんなふうに気軽に会える機会はきっとなくなる。
 さすがに東京まで会いに行くのは……彼女でもないのに変だよね。
 でも……。
 こんな顔されたら、期待、しちゃうよ? もしかしたらハチは、私のことを――。

「ラーメンおまたせ!」

 窪くんの声が、頭の中でぐるぐるしていた私の思考を吹き飛ばした。

「それから生ビールな。なんだ、ふたりとも顔が赤いな! 時安はまだ呑んでないだろ?」

 窪くんは私たちの顔をじろじろと交互に見て、ニヤニヤし始める。そして、おもむろに大声で叫んだ。

「お前らもう付き合っちゃえよ!」

 うわああ! ドラマとか漫画でよく聞くセリフ!
 まさか、自分が言われる日が来るなんて思ってもいなかった!

 ハチは「は、はあ?」なんてとぼけた声を出してるけど、顔はますます真っ赤で目が泳いでいる。そんなハチを横目で見ながら、私も自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
 でも、ここで私は逃げないと決めた。窪くんのキラーパスを、しっかり受け止めることにする。

「付き合えたらいいけどねー。でもハチ、東京だからー」
「はあああああ?」

 さらりと冗談っぽく言ってみたけど、私の心臓はバクバクと跳ねる。
 ハチの顔は、いよいよゆでダコみたいになって、声も裏返っていた。
 そんなハチの反応を見て、窪くんが笑いを堪えながら、さらに追い打ちをかける。

「だってどう考えたってお前ら両思いだろ。せっかく時安もこっちに戻ってきたんだからさ。遠距離でもなんでも、一度付き合ってみればいい」

 これはもう、攻めるべき? それとも慎重にいくべき?
 窪くんの言葉でハチが赤くなっているのは、ただ恥ずかしいってだけかもしれない。でも、どうなの? この状態で一歩踏み込むのは、正解? それとも早すぎる?
 私は迷いながらも、ぽつりと呟く。

「でもさ、東京に彼女いるかもしれないし」
「いないよ!」

 即答だった。その瞬間、胸がふっと温かくなり、同時に鼓動が早くなる。

――ねぇ、これって。
 一つだけ確かなのは、少なくとも私は嫌われてはいない。
 そして、たぶん……どちらかといえば好かれてる。
 そう思ってもいいよね?
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