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第二章 奪い合う世界
20話 森の王者①
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ステーションの襲撃から一夜が明けた。
その場に居た憲兵達に、重症者、死者は無く、被害の程は思いの外小さなものであった。しかし、魔法陣を破壊された者達は、大事を取って一時的に現場を離れる事となった。
そして、その場に居合わせていたローリもまた治療の為に、フォーリアムの館を離れている。奇しくも、この騒動の最大の被害者は憲兵ではない彼女一人に留まったのである。
その日の昼過ぎの事。
復興機関員のミリアム・ブレアが、フォーリアムの館を後にする様に主庭の中を歩いて行く。ゴブリンの捕獲計画が実行に移され、それが滞りなく進む今となっては、調査目的の為にイバラ領へ来ていた彼らの役目も終わりを迎えつつあった。今は事後の報告と領主の娘であるフェンネルへの挨拶を終えた所だった。
彼女の事を見送る様にマウロが杖を突きつつその後に続いて行った。
「フェンネル様のあのご様子。よっぽど、長岐日々喜に入れ込んでおいでだったのでしょうね」
ブレアは前庭の美しい景色を楽しみつつ、館内で話し合いを行ったフェンネルの印象をマウロに話し始めた。
「お嬢様は特別な立場の方です。その心情をお察しする事は、近しい者ほど恐れ多いい事。この国の人間では無い日々喜の様な立場だからこそ、何の柵も無く、お嬢様もお気持ちをあかす事が出来たのでしょう」
マウロは、一人部屋に閉じこもりながら、打ち明ける事の出来ない悩みを抱え続けて来たフェンネルの事を思いながらそう言った。
心情を察する事すら恐れ多いい。口ではそう言いながらも、フェンネルが気弱になる度に激しく動揺していた。同世代の見習い達を呼び寄せたのも、そんなフェンネルの心労を少しでも軽くしたいと言う思いがあったからだ。
フォーリアムの館に仕える自分とは違う。特別な友人として、見習い達にはフェンネルの力に成ってほしい。そのように期待していたのである。
「魔導士たればこそ、日夜己の研究に邁進するもの。研究が行き詰まれば、行き詰るほど、魔導士は精神を摩耗させ、この世ならざる者にさえ、救いを求めたくなるものです。倒錯とは、我々にとって職業病の様な物なのでしょう。厄介な病ですよね」
自分の主人の病名を口にされ、ブレアを見つめるマウロの表情が少し険しい物へと変わった。
「ああ、ご心配なくアンドルフィ導士。これは、ゴッドフレイ機関長より、それとなく伺った事でございます。復興機関内においても、事実を知る者は私を含めて数名程度。滅多に口にする事は決してございません」
「復興機関には、お嬢様がお世話になった経緯がある事を知っている。このイバラ領で起きた問題に対しても、貴方方はいち早く駆けつけて来てくれた。……俺はこれまで、そんな復興機関に対して敬意を払ってきたつもりだった。だが正直な所、貴方を個人的には信用していない」
ストレートな物言いにもかかわらず、ブレアは落ち着いて笑みを返した。
「察しておりました。……後学の為、理由を窺ってもよろしいでしょうか?」
「ブレアさん。貴方は俺達の事を軽視している。以前の会談の席でさえ、その様子が窺えた。もちろん助けを請う立場である以上、俺達の方もわきまえなくてはならないだろう。しかし、それ以前に、ここはイバラ領だ。俺達イバラの魔導士を蔑にするのは軽率に過ぎる。改めるべきだった」
「これは、失礼を……。私としたことが、とんだ無作法を働いていたようですね……」
ブレアはマウロの言葉を噛み締め、小さく一礼して見せる。
「ですが、私共復興機関は、あくまでイクリル方面部長殿の意向に沿う形で活動しております。これは、イバラ領の行く末、延いてはイスカリの裾野に広がる東部全域の行く末を案じればこそ。そして、私はそれのみを達成する為の従順なる奴隷に過ぎないのです。どうか、その点につてはご理解の程をお願いする他ありません」
「イスカリに比べれば、イバラは小さい領域。そう言いたいのだろ? 分かっているさ。しかし、ここにはお嬢様が居らっしゃる。無粋な真似をするようなら、俺達が許さない」
マウロはそう言い放つと、ブレアを急かす様に外庭に向かって歩き始めた。その様子に、ブレアはやれやれと言った感じに溜息を着いた。
「そう言えば昨晩、ステーションの方で騒動があったそうですね? 多数の憲兵が怪我を負ったとか」
マウロは足を止めた。
「メイヤー導士は、たまたまその場に居合わせていたそうですが、大丈夫でしたでしょうか? 襲撃した者は、ただのマジックブレイカーではなかったと聞いておりますが」
「何故、それを……?」
不意に振られた話の中に、どこか含みがある様にマウロは感じた。
「これは無作法な質問とお取りにならないでください。私は心配しているだけなのです。我々が去った後のこのイバラ領の事を。憲兵隊の体たらくを見れば、賢者会がフェンネル様の事をどれだけぞんざいに扱っているか、火を見るよりも明らかな事ですから」
ブレアは、イバラ領内の脆弱さを指摘した。
「今後、どのような災厄がこのイバラに押し寄せて来るともしれません。フォーリアム一門の皆様、特にアンドルフィ導士、貴方にはフェンネル様の為にも賢明なる判断をしていただきたい。私はそう考えているのですよ」
「お嬢様は、容易く挫ける方ではない……」
マウロはブレアから目を逸らす様に、視線を落としてそう答えた。
「……ええ、もちろんその通りです。私もこれ以上、お嬢様の双肩に、重しが乗らぬ事を祈っております」
視線を外すマウロの事を見据えながら、ブレアはそう言った。そして、そのままマウロの視線の先を追う様に、その足下を見つめた。
「古傷が痛まれますか? 震えていますよ」
「いや、これは……」
マウロは震える右足を隠す様に下げた。
「馬車は外に待たせておりますので、お見送りはここまで結構です、アンドルフィ導士。それでは、色よいご返事をお待ちしております」
ブレアは笑みを浮かべつつそう言うと、颯爽と外庭を歩いて行ってしまった。
「大丈夫……。大丈夫だ。お嬢様は誰にも、デーモンにだって負けはしない」
ブレアの事を見送り続けたマウロ。その姿が見えなくなった時、震える膝を抑える様に手を添えて、そう呟いた。
「俺は、お嬢様のそばにさえいれば……、ここに居れば安全なんだ」
震えの収まらない膝を無理やり抑えつける様に、マウロの手には自然に力が入って行った。
「マウロ、大丈夫? 酷い顔色よ」
「オレガノ!?」
何時の間にか、そんなマウロの下に近づいて来ていたオレガノ達が、心配げに様子を窺っていた。
「ああ、大丈夫。平気だよ」
「本当に?」
「本当に平気だよ。すまなかったな、心配かけて」
マウロは安心させるように、笑顔を作ってそう答えた。
「さっきの奴、復興機関の人間だろ? 日々喜の件で来てたのか?」
外庭に通じる道筋を見つめながらキリアンが尋ねた。
「いや……。実はこれまで協力してくれていた復興機関の人達が、イスカリに呼び戻される事になったんだ」
「呼び戻される? イバラの問題は解決して無いのに?」
「今までイクリル東部方面部長殿の力で、多数の復興機関員達を招聘出来ていたのだけど、向こうでそれが問題になってしまったらしいんだ」
マウロの答えに、キリアンは納得した。
「どうして問題になるの? 皆イバラの為に頑張ってくれていたのに」
二人の会話の意味が良く分からなかったオレガノが、キリアンに尋ねた。
「組織的な軋轢があったんだろ。それなのに、友人の娘可愛さに、賢者会傘下の方面部長が、賢者会を飛び越えて復興機関に助けを求めた。そりゃ、問題になるさ」
「え、どう言う事?」
「だから! イクリル方面部長は頼む相手を間違えたって事だよ」
キリアンは怒鳴るような声を上げる。マウロは宥める様に口を挟んだ。
「概ねはキリアンの言う通りだと思う。ただ少しイスカリでは深刻な事態になっているようでね。近々調査の為に、このイバラにも国家警察が来る事になったんだ」
「国家警察!?」
「って、何だっけ?」
驚くキリアンと対照的に、オレガノはキョトンとしながら呟いた。
「忘れたんですかオレガノ? 駐在の憲兵さんと同じく、国内の犯罪を取り締まる人達ですよ。王都やイスカリ領の様な国内の主要領地を管轄にしている。学院に居た時、見ているはずですよ」
「そうだっけ、リグラ? そう言えば少し制服が違ったような気もする」
オレガノは東部の学院に所属していた時に、イスカリの街中で警邏に当たる魔導士達の姿を思い起こした。
「そんな事より、警察が動いてるって事は、イスカリで犯罪が起きたって事だろ? 大丈夫なのかよ。知らぬ間に犯罪に巻き込まれたんじゃ」
「心配しなくていいんだキリアン。巻き込まれたとかそう言う事じゃない。ただ、今はお嬢様も気が動転している。落ち着けば必ず、彼女の口から説明して下さるはずだから、それまで待ってくれないか」
「お嬢様は、大丈夫なのマウロ」
オレガノは警察の事よりもフェンネルの事を心配している様子だ。
「少し落ち込まれている。だが、直ぐに元気を取り戻されるはずだ。今は気苦労をおかけしない様に、俺達は俺達で、取り乱さない様にしなくちゃいけないよな」
マウロはオレガノを落ち着かせるようにそう答えた。しかし、その表情は明るい物ではなく。まるで、自分に言い聞かせているかの様に、見習い達には聞こえた。
「キリアン」
リグラが小さく耳打ちをした。
「ああ、分かってるよ。少なくとも、俺達フォーリム一門は関係ない。国家警察の連中にも、俺達は何も知らないと言っておけばいいんだな」
「すまないな、キリアン」
自分に気を使うリグラとキリアンに対し、マウロは苦笑を浮かべた。
「それで、オレガノ。俺に何か用だったんじゃないのか?」
「あ……、うん」
「どうした?」
「私達も考えたのよ。お嬢様が何か元気になれないかなって。それで、お嬢様と過ごす時間を増やしたくて、良ければ私達の研究会にご一緒してもらえないかって」
「まあ、俺はお嬢の事何て端から気にして無いんだけどさ、あいつの才能は本物だし、俺達にとってもプラスになる事が多いって思ったから」
「研究だけではありませんよ。魔導士として未熟な私達だからこそ、お嬢様から多くの事を学びたいと考えたんです」
オレガノの言葉に続く様にして、キリアン、リグラが自分の意見を答えた。
「お前達……、そうだな、俺達にも何かできる事があるよな。お嬢様には折を見て話して見よう。きっと前向きに考えて下さるはずだ。……ありがとうな。オレガノ、リグラ、キリアン」
礼を言うマウロの表情に、漸く安堵の色が現れた。見習い達もそれを見て安心した。
「ところで、マウロ。日々喜はいつ戻って来るの?」
オレガノはそこで漸く聞きたかったことを尋ねた。
「日々喜……」
「復興機関の人が来てたのに、日々喜は一緒に戻って来なかったの?」
「ああ、日々喜はもう、ここには戻ってこない」
マウロの言葉に見習い達は驚いた。
「え……、え!? どうして?」
「復興機関は日々喜の事を調べていたらしい。その結果、彼はトウワ国から来た訳ではなく、復興機関の更生施設から抜け出した者だと分かったんだ」
「更生施設? 一体何の?」
「倒錯の、治療の為の施設だ」
オレガノは言葉を失った。
「復興機関は、日々喜の事をデーモンの森周辺で発見したと話していた。どうやら、日々喜はデーモンの手によって、どこかから攫われて来た人間らしい」
その場に居た憲兵達に、重症者、死者は無く、被害の程は思いの外小さなものであった。しかし、魔法陣を破壊された者達は、大事を取って一時的に現場を離れる事となった。
そして、その場に居合わせていたローリもまた治療の為に、フォーリアムの館を離れている。奇しくも、この騒動の最大の被害者は憲兵ではない彼女一人に留まったのである。
その日の昼過ぎの事。
復興機関員のミリアム・ブレアが、フォーリアムの館を後にする様に主庭の中を歩いて行く。ゴブリンの捕獲計画が実行に移され、それが滞りなく進む今となっては、調査目的の為にイバラ領へ来ていた彼らの役目も終わりを迎えつつあった。今は事後の報告と領主の娘であるフェンネルへの挨拶を終えた所だった。
彼女の事を見送る様にマウロが杖を突きつつその後に続いて行った。
「フェンネル様のあのご様子。よっぽど、長岐日々喜に入れ込んでおいでだったのでしょうね」
ブレアは前庭の美しい景色を楽しみつつ、館内で話し合いを行ったフェンネルの印象をマウロに話し始めた。
「お嬢様は特別な立場の方です。その心情をお察しする事は、近しい者ほど恐れ多いい事。この国の人間では無い日々喜の様な立場だからこそ、何の柵も無く、お嬢様もお気持ちをあかす事が出来たのでしょう」
マウロは、一人部屋に閉じこもりながら、打ち明ける事の出来ない悩みを抱え続けて来たフェンネルの事を思いながらそう言った。
心情を察する事すら恐れ多いい。口ではそう言いながらも、フェンネルが気弱になる度に激しく動揺していた。同世代の見習い達を呼び寄せたのも、そんなフェンネルの心労を少しでも軽くしたいと言う思いがあったからだ。
フォーリアムの館に仕える自分とは違う。特別な友人として、見習い達にはフェンネルの力に成ってほしい。そのように期待していたのである。
「魔導士たればこそ、日夜己の研究に邁進するもの。研究が行き詰まれば、行き詰るほど、魔導士は精神を摩耗させ、この世ならざる者にさえ、救いを求めたくなるものです。倒錯とは、我々にとって職業病の様な物なのでしょう。厄介な病ですよね」
自分の主人の病名を口にされ、ブレアを見つめるマウロの表情が少し険しい物へと変わった。
「ああ、ご心配なくアンドルフィ導士。これは、ゴッドフレイ機関長より、それとなく伺った事でございます。復興機関内においても、事実を知る者は私を含めて数名程度。滅多に口にする事は決してございません」
「復興機関には、お嬢様がお世話になった経緯がある事を知っている。このイバラ領で起きた問題に対しても、貴方方はいち早く駆けつけて来てくれた。……俺はこれまで、そんな復興機関に対して敬意を払ってきたつもりだった。だが正直な所、貴方を個人的には信用していない」
ストレートな物言いにもかかわらず、ブレアは落ち着いて笑みを返した。
「察しておりました。……後学の為、理由を窺ってもよろしいでしょうか?」
「ブレアさん。貴方は俺達の事を軽視している。以前の会談の席でさえ、その様子が窺えた。もちろん助けを請う立場である以上、俺達の方もわきまえなくてはならないだろう。しかし、それ以前に、ここはイバラ領だ。俺達イバラの魔導士を蔑にするのは軽率に過ぎる。改めるべきだった」
「これは、失礼を……。私としたことが、とんだ無作法を働いていたようですね……」
ブレアはマウロの言葉を噛み締め、小さく一礼して見せる。
「ですが、私共復興機関は、あくまでイクリル方面部長殿の意向に沿う形で活動しております。これは、イバラ領の行く末、延いてはイスカリの裾野に広がる東部全域の行く末を案じればこそ。そして、私はそれのみを達成する為の従順なる奴隷に過ぎないのです。どうか、その点につてはご理解の程をお願いする他ありません」
「イスカリに比べれば、イバラは小さい領域。そう言いたいのだろ? 分かっているさ。しかし、ここにはお嬢様が居らっしゃる。無粋な真似をするようなら、俺達が許さない」
マウロはそう言い放つと、ブレアを急かす様に外庭に向かって歩き始めた。その様子に、ブレアはやれやれと言った感じに溜息を着いた。
「そう言えば昨晩、ステーションの方で騒動があったそうですね? 多数の憲兵が怪我を負ったとか」
マウロは足を止めた。
「メイヤー導士は、たまたまその場に居合わせていたそうですが、大丈夫でしたでしょうか? 襲撃した者は、ただのマジックブレイカーではなかったと聞いておりますが」
「何故、それを……?」
不意に振られた話の中に、どこか含みがある様にマウロは感じた。
「これは無作法な質問とお取りにならないでください。私は心配しているだけなのです。我々が去った後のこのイバラ領の事を。憲兵隊の体たらくを見れば、賢者会がフェンネル様の事をどれだけぞんざいに扱っているか、火を見るよりも明らかな事ですから」
ブレアは、イバラ領内の脆弱さを指摘した。
「今後、どのような災厄がこのイバラに押し寄せて来るともしれません。フォーリアム一門の皆様、特にアンドルフィ導士、貴方にはフェンネル様の為にも賢明なる判断をしていただきたい。私はそう考えているのですよ」
「お嬢様は、容易く挫ける方ではない……」
マウロはブレアから目を逸らす様に、視線を落としてそう答えた。
「……ええ、もちろんその通りです。私もこれ以上、お嬢様の双肩に、重しが乗らぬ事を祈っております」
視線を外すマウロの事を見据えながら、ブレアはそう言った。そして、そのままマウロの視線の先を追う様に、その足下を見つめた。
「古傷が痛まれますか? 震えていますよ」
「いや、これは……」
マウロは震える右足を隠す様に下げた。
「馬車は外に待たせておりますので、お見送りはここまで結構です、アンドルフィ導士。それでは、色よいご返事をお待ちしております」
ブレアは笑みを浮かべつつそう言うと、颯爽と外庭を歩いて行ってしまった。
「大丈夫……。大丈夫だ。お嬢様は誰にも、デーモンにだって負けはしない」
ブレアの事を見送り続けたマウロ。その姿が見えなくなった時、震える膝を抑える様に手を添えて、そう呟いた。
「俺は、お嬢様のそばにさえいれば……、ここに居れば安全なんだ」
震えの収まらない膝を無理やり抑えつける様に、マウロの手には自然に力が入って行った。
「マウロ、大丈夫? 酷い顔色よ」
「オレガノ!?」
何時の間にか、そんなマウロの下に近づいて来ていたオレガノ達が、心配げに様子を窺っていた。
「ああ、大丈夫。平気だよ」
「本当に?」
「本当に平気だよ。すまなかったな、心配かけて」
マウロは安心させるように、笑顔を作ってそう答えた。
「さっきの奴、復興機関の人間だろ? 日々喜の件で来てたのか?」
外庭に通じる道筋を見つめながらキリアンが尋ねた。
「いや……。実はこれまで協力してくれていた復興機関の人達が、イスカリに呼び戻される事になったんだ」
「呼び戻される? イバラの問題は解決して無いのに?」
「今までイクリル東部方面部長殿の力で、多数の復興機関員達を招聘出来ていたのだけど、向こうでそれが問題になってしまったらしいんだ」
マウロの答えに、キリアンは納得した。
「どうして問題になるの? 皆イバラの為に頑張ってくれていたのに」
二人の会話の意味が良く分からなかったオレガノが、キリアンに尋ねた。
「組織的な軋轢があったんだろ。それなのに、友人の娘可愛さに、賢者会傘下の方面部長が、賢者会を飛び越えて復興機関に助けを求めた。そりゃ、問題になるさ」
「え、どう言う事?」
「だから! イクリル方面部長は頼む相手を間違えたって事だよ」
キリアンは怒鳴るような声を上げる。マウロは宥める様に口を挟んだ。
「概ねはキリアンの言う通りだと思う。ただ少しイスカリでは深刻な事態になっているようでね。近々調査の為に、このイバラにも国家警察が来る事になったんだ」
「国家警察!?」
「って、何だっけ?」
驚くキリアンと対照的に、オレガノはキョトンとしながら呟いた。
「忘れたんですかオレガノ? 駐在の憲兵さんと同じく、国内の犯罪を取り締まる人達ですよ。王都やイスカリ領の様な国内の主要領地を管轄にしている。学院に居た時、見ているはずですよ」
「そうだっけ、リグラ? そう言えば少し制服が違ったような気もする」
オレガノは東部の学院に所属していた時に、イスカリの街中で警邏に当たる魔導士達の姿を思い起こした。
「そんな事より、警察が動いてるって事は、イスカリで犯罪が起きたって事だろ? 大丈夫なのかよ。知らぬ間に犯罪に巻き込まれたんじゃ」
「心配しなくていいんだキリアン。巻き込まれたとかそう言う事じゃない。ただ、今はお嬢様も気が動転している。落ち着けば必ず、彼女の口から説明して下さるはずだから、それまで待ってくれないか」
「お嬢様は、大丈夫なのマウロ」
オレガノは警察の事よりもフェンネルの事を心配している様子だ。
「少し落ち込まれている。だが、直ぐに元気を取り戻されるはずだ。今は気苦労をおかけしない様に、俺達は俺達で、取り乱さない様にしなくちゃいけないよな」
マウロはオレガノを落ち着かせるようにそう答えた。しかし、その表情は明るい物ではなく。まるで、自分に言い聞かせているかの様に、見習い達には聞こえた。
「キリアン」
リグラが小さく耳打ちをした。
「ああ、分かってるよ。少なくとも、俺達フォーリム一門は関係ない。国家警察の連中にも、俺達は何も知らないと言っておけばいいんだな」
「すまないな、キリアン」
自分に気を使うリグラとキリアンに対し、マウロは苦笑を浮かべた。
「それで、オレガノ。俺に何か用だったんじゃないのか?」
「あ……、うん」
「どうした?」
「私達も考えたのよ。お嬢様が何か元気になれないかなって。それで、お嬢様と過ごす時間を増やしたくて、良ければ私達の研究会にご一緒してもらえないかって」
「まあ、俺はお嬢の事何て端から気にして無いんだけどさ、あいつの才能は本物だし、俺達にとってもプラスになる事が多いって思ったから」
「研究だけではありませんよ。魔導士として未熟な私達だからこそ、お嬢様から多くの事を学びたいと考えたんです」
オレガノの言葉に続く様にして、キリアン、リグラが自分の意見を答えた。
「お前達……、そうだな、俺達にも何かできる事があるよな。お嬢様には折を見て話して見よう。きっと前向きに考えて下さるはずだ。……ありがとうな。オレガノ、リグラ、キリアン」
礼を言うマウロの表情に、漸く安堵の色が現れた。見習い達もそれを見て安心した。
「ところで、マウロ。日々喜はいつ戻って来るの?」
オレガノはそこで漸く聞きたかったことを尋ねた。
「日々喜……」
「復興機関の人が来てたのに、日々喜は一緒に戻って来なかったの?」
「ああ、日々喜はもう、ここには戻ってこない」
マウロの言葉に見習い達は驚いた。
「え……、え!? どうして?」
「復興機関は日々喜の事を調べていたらしい。その結果、彼はトウワ国から来た訳ではなく、復興機関の更生施設から抜け出した者だと分かったんだ」
「更生施設? 一体何の?」
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